海の底、森の奥

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20171008

うららかな彼ら(チェン、レイ誕生日企画・リアル短編)
 着込んできたのは間違いだったかもしれない。
寒さも厳しくなってきたと思い、出掛ける際防寒具をこれまでよりも身にまとい家を後にしたが、あちこちで仕事を片付けながら自分が結局ほとんどそれらを手に持ったままにしていることに当然だがイーシンは気付いていた。
これではただのお荷物だ。
判断を誤ったなと考えながら、それでも車を出るときやはりそれらを携えて事務所の練習室へと向かった。帰りに冷え込みが強まることに賭けたのだ。
どっさり衣類を脇に抱えたイーシンはむしろ軽く汗を噴いた体を馴染みの部屋の前に運んだ。そして足を止めずにドアを躊躇なく開いた。
誰もいないだろうと予想したのは、音が何も聞こえなかったからだ。
しかし、いた。
ふたり。
昼下がりの明るい部屋の中に、立っている男の影がふたつあった、ひとつかと見紛うようすで。
グランドピアノの前、黒く曲線を描くその木の波間に、ジョンデが背を預け、その進路を塞ぐようにしてひどく脚の長い長身の青年が、背を丸めて立っていた。
向こうを向く男がジョンインだというのはその体つきで分かった。その素晴らしく発達した肩の奥に、ジョンデの笑う顔が覗いた。イーシンが入ってきた瞬間にジョンデは彼と目を合わせ、魅入られるような笑顔をただ唇の端が上がっただけの表情へと変えていた。
扉は勝手に背後で閉まった。と同時にジョンインが自分を振り向いたのをイーシンは受けた。
「イーシン兄さん」
 意識して作ったと分かる笑顔を向け、ジョンデは遊戯の如く喉で転がすようにして出す例の声を用いイーシンを呼んだ。兄さん、とジョンインも続けて呟いた。後ずさりながら。
瞬きをしつつ、イーシンも頬を上げてえくぼの位置を確認するかのように歯を見せ、応じた。
「ごめん、使ってると思わなくて」
 足を前に進めるのが躊躇われたがそうしないわけにもいかず、のろのろと端に寄って化繊と毛の塊を床に置いた。そのまま鞄を、ほんとうは用もないのに漁った。
 そうしている間、ジョンデの声がイーシンを訪れた。
「いいんですよ、ジョンインが俺のダンスチェックしてくれてただけなんで」
 飲み物やタオルを引っ張り出しながら、ジョンインがジョンデから離れ、おそらく自分の荷物のところまで移動した音もイーシンは聞いていた。
「兄さん、俺もう行くよ」
 鞄を肩に掛けたジョンインがそう言うと、イーシンとジョンデは揃って彼の方を見た。
「ああ、悪かったな、すげー助かった」
「ううん。じゃあイーシン兄さん、あんま無理しないで」
 ジョンインはイーシンにその小さな、色の薄い瞳を一瞬だけ見せた。がすぐ下を向き、帽子で更にそれを完全に隠すと、うん、ありがとと答えるイーシンの横を通って、あっという間にふたりを残し、姿を消した。
 閉まった戸を見つめていると、ジョンデの声が鼓膜を揺らした。
「兄さん、俺このピアノ少し使いたいんですけど、いい?」
 首を捻るとジョンデが既に鍵盤前に佇んでいた。
手に持っていたペットボトルの蓋を開けつつ、イーシンは返した。
「うん、すごくかかる?」
 ぱかと木の覆いが開けられる音が鳴った。
「ううん、ちょっと生のピアノの音聴いときたいだけだから」
 ピアノの上に置かれた楽譜らしき白いばらばらの紙をジョンデは集めて鍵盤の前に並べ、椅子に腰を下ろした。
 ポーン、と、シの♭が宙に舞う。
 それを追って、ジョンデのシの♭も響いた。
 開け放った窓から風が入っていた。
冷気がイーシンの頬を打ち、カーテンがばたばたと身を震わせる。
中身を少し減らしたペットボトルの口をきゅっと強く締めると、イーシンは歩き出しながら尋ねた。
「窓閉めてもいい?」
 今度はファの♯。
「あ、ごめん。寒かったですね」
 声がすぐ、変化する。ファの♯はそれだけで歌であった。
 冷えた窓を引くと、密室になった室内にピアノとジョンデの音はこだました。顎を心持ち上げて喉を震わせるジョンデの後ろに、イーシンは立った。
 楽譜を覗く。あ、と思い口を開いた。
「これ知ってる」
「ほんとに?」
 さっと顔を見上げてくるジョンデに頷いてイーシンは答える。
「うん。多分弾けるよ」
「まじで、兄さん。もしかして…」
「いいよ。弾こうか?」
「やったー。お願いお願い」
 腰をずらして横に長い椅子にイーシンの場所を作ったジョンデは、にこにこしながら彼を待った。座ったイーシンは白く、ひんやりとした鍵盤に指の先を置いた。
ぱらぱらと音は散った。
まだ、雪は降っていない。
だが初雪の訪れのように、その部屋には冷ややかで儚く、甘い音の粒が積もるように落ちた。
ジョンデは雪の中で歌った。足元を埋める雪が溶けるような声で、口角を上げ、眉尻を下げて楽器として旋律を奏でた。
ほとんどつっかえることなく、イーシンはその音の迸りにただ酔った。終わるのが惜しいということだけを思っていた。
だが終わった。ジョンデの声は水面の揺れが凪いでいくように消えた。
「すごくいいね」
 イーシンは顔の中を崩すように笑って隣のジョンデを向いた。
照れを含んだ笑顔をジョンデも返し、応じる。
「ほんと?やった」
 や、まだまだだけどさ、と続けて。
イーシンはこうしたジョンデの貪欲さに触れると、いつも少しだけ肌の表面が粟立った。何か鏡を見ているかのような気にさせられ、どこか恐ろしいとどうしてか思った。
「だけどやっぱ兄さんはすごいですね。ほんと羨ましいですよ。練習したってわけじゃないんでしょう」
 楽譜を整えながらジョンデは聞いた。
「うん。でもこれはそんなに難しくないよ、ピアノは」
「そんなことないですよ。とにかくありがとう兄さん。すごく助かりました」
 口を突き出すようにして再び顔を向けたジョンデと、イーシンはすぐ目の前で相対していた。
「ううん。俺もすごい楽しかった。これなんかでやるの?」
「そう。仕事でね。上手くできるといいんですけど」
 手元の楽譜に目を落としたジョンデの長い睫毛にイーシンは見入った。音符を追うまなこのせいで、まぶたが痙攣しているかのようにぴくぴくと絶えず動いていた。
「ジョンインは」
 その名前を出した途端、ジョンデの体にさっと力が篭ったのに肉体に鋭敏なイーシンは気が付いていた。だがそれに無関心なさまで構わず問うた。
「最近元気なの?俺、あんま喋ってないんだけど」
 かまを掛けるようなことを言って、とイーシンはみずからをたしなめた。けれどもう口に出していた。笑みを広げながらもイーシンを向かずに白い紙に黒いインクの走っているのを見下ろしたまま、ジョンデは言った。
「兄さんは忙しいから誰ともほとんど喋ってないじゃん」ふざけた調子でそう言うと、付け足した。「元気ですよ。夏からちょっと変なとこあったけど、でもそれはみんなそうだったし。活動で疲れてたんだと思いますよ。今はもうだいぶ元に戻りました」
「そうなの?ほんとに平気?」
「はい。兄さん、俺らのこと心配するより自分のこと心配してくださいよ。仕事ぶりを聞くたびはらはらしてますよ、みんな」
 ようやくジョンデはイーシンをまっすぐに見た。その目尻の皺を見つめてイーシンは言った。
「ありがと。だけど大丈夫だよ」
「ほんとに気を付けてくださいね」
 紙のがさりがさりという音と共にジョンデは腰を上げた。
「じゃあ俺ももう行きます。邪魔してごめんね」
 仰いだイーシンはううん、と呆けた表情を呈し答えた。
 足音を鳴らして荷物をまとめにかかるジョンデの後ろ姿を、座った格好のままイーシンは眺めた。そしてジョンデの指にジョンインが自分のそれを絡めていたのを反芻した、彼の青年らしい、筋肉の乗った肩や腕や尻を見ながら。
 振り返ったジョンデと視線がかち合い、我知らずイーシンは慌てた。
 にやっと笑うとジョンデは言った。
「じゃあ兄さん、根詰めないでね」
 その靴の裏で高い音を残しながら部屋を横切り、家でねー、と告げたジョンデがドアの向こうへとその体を消した。
イーシンは今日、それほど疲労を感じていたわけではなかった。だが何故か立ち上がることもできず、ジョンデが横にいたときと同じように隣を空けたまま、しばらくピアノの前に腰掛けていた。
春を呼ぶようなあの歌声を、ただひとりのためだけに捧げることがきっとあるのだ。
イーシンはそれを聴きながら体を揺らす相手を思い、もう一度一足早く、部屋の中だけにたったひとりで雪を降らした。



おわり



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comment

何とも言えない空気 : roiniy(ooba) @-
レイさんお誕生日おめでとうございます企画でしょうか。

そういえばレイさん去年は日本公演時倒れてましたね。

今年も忙しく突っ走っておりますが。

そんな中レイさんのつかの間の休息時間にも思えました。

ピアノを弾くレイはきっと美しいのでしょうね。

少し怖いと思ったのです。

イーシンが入ってきた瞬間にジョンデは彼と目を合わせ、魅入られるような笑顔をただ唇の端が上がっただけの表情へと変えていた。←引用

という部分です。

それで…レイは気が付いたのでしょうけれど。

カイの子供っぽさが少しにじみ出る描写もあって。

ああ、キムカイだと妙に納得したのでした。

そしてレイさんの…エロい視線。

ああ、これは私が個人的に感じたので通常ではないかも知れません。

リアルでありながら幻想的なお話だとも思うのでした。
2017/10/09 Mon 11:49:56 URL

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