海の底、森の奥

- EXOの二次創作とオリジナルのBL小説を中心としたブログです。R18表現あり。お気軽にどうぞ。

20170825

嵐を飲み込む 4・終(リクエスト企画・EXO・リアル短編)
四.滋養たっぷり
朝だというのに部屋は薄暗く、再び眠りの世界へといざなわれているような心地がそこにいる全員にした。
だが空間を満たす香りは人を我に返させる効果のあるもので、ダイニングテーブルに斜向かいに着いたふたりは頬杖を付いたり寝そべるようになったりしながらも、鼻を通っていく刺激で夢に落ちることはなかった。
鼻歌が時折においと共に舞った。
決して、イーシンはキッチンを向かなかった。
料理をするチャニョルの、横から見える白目や、鼻梁が上の方で盛り上がっているのや、閉じたり開いたりしながら豊かで穏やかな低音を唇が漏らすさまを頭に描くだけで、眉と目と口の端が下に垂れた。人が見ればひどく悲しげにそのときの彼は映った。確かにイーシンは悲しかった。キッチンに立つチャニョルをひたすら見守るようなことをする勇気のないことも、これからその手料理を食べることも、ふたりきりではないことも。何もかもが悲しみの原因となった。セフンを邪魔者のように思う心もまた、そうだった。
 振り向いた、微笑を浮かべたチャニョルがやはり何かのメロディーを口ずさみながら盛り付けの済んだ食器を手を伸ばして渡そうとしつつ言った。
「これセフン」
 受け取りながら、イーシンははい、と斜め前に皿を差し出す。起き上がったセフンは半分閉じた目を湯気の立つ器だけに投げ、二の腕をぽりぽり掻きながら片手でそれを持った。
「これ兄さん」
 両手で皿を抱えたイーシンは、黄色がかったとろみのある茶色い液が、白米にたっぷり掛かっているさまを真上から眺め、テーブルに置いた。
 足音を立てて、チャニョルは自分の分と人数分のグラスとスプーンとサラダを盆に乗せ、ミネラルウォーターを抱えてテーブルへとやって来た。これはなかなかうまくできた、と上機嫌だった。だが席に着き目の前のセフンを見ると、自分のかつてのリクエストの品に今、ほとんど興味をそそられないらしいのがすぐに分かった。そのためかなりがっくり来たが、なんとか気を取り直して笑みを意識的に顔に広げた。食べよう、と腹から声を出す。
「おいしそうだよ、チャニョル」
 頬の下にささやかな穴を作って疲れた顔のイーシンは言った。隣の彼にチャニョルは嬉しそうに目をやり、たぶんうまいよ、と答える。
「ほら、食え」
 スプーンを手渡すと、うん、とセフンは言われるままに食べ始めた。上目でチャニョルはグラスを満たしてやりながら彼のようすを窺った。咀嚼し、飲み込むと、うまい、と呟くのが聴こえた。
「だろ?」
 にやあと笑いが零れるのが止められない。イーシンの分と自分の分と、流れるように水を注ぐと、みずからも食事を始めた。
「ほんとにおいしいよ」
 朝からこうしたものを食べたいという欲求はイーシンには正直なかった。それにそういう思いを我慢するということも通常であればまずなかった。だがチャニョルの作ったカレーなら、無理をしてでも食べたかった。そんな自分をどう消化すればいいのか、今だイーシンには手探りで、その方法など見つかる気はほんとうのところしなかった。
自分でも口に運ぶと、想像以上に美味だったため、何がよかったのだろうとチャニョルは考えた。ミンソクのコーヒーを拝借して入れてみたことであろうか。あとで謝らなければならないけれどと、どんどん皿の上を空にしながら長兄に感謝した。
外の色をセフンは顔に映し、その白さがキャンバスとして機能し、彼は姿全体が青味がかって光っていた。熱く、辛い、このような食事を摂っても、多少頬が色を持ったかなという程度で、無言のままにただ機械的にスプーンを皿と口に行ったり来たりさせるだけだった。
セフンは知っていた。
斜め前にいる兄が、真正面にいる兄のことを、特別に思っているということを。
だからセフンはこの三人でいっしょにいるということが、恐ろしく苦痛だった。どちらのことも、まったく違うふうにすさまじく愛していた。なのに嫉妬心と猜疑心と独占欲で頭の中がごちゃ混ぜになり、身動きが取れなくなって口を開くのも難しかった。うきうきと手製のカレーに舌鼓を打つチャニョルを睨み付けたくなったり、寝癖の残る、首周りがだるだるになったシャツを着たイーシンがかつんかつんとスプーンを咥えるたび歯をそれに当てているのを盗み見したくてたまらなくなったりするだけで、味などほとんど分からなかった。
「もう一杯食お」
 立ったチャニョルがどすどすとキッチンに戻る。
「ふたりはー?」
 と大声で問い掛けると、ううん、という声と、要らない、という声が返った。
 冷蔵庫を開け、卵を取ろうとしたとき、チャニョルは再び声を発した。
「これお前のだっけ?なんかピンクの飴」
 がさりという音に、セフンはばっと顔を上げた。開いた口から強い声が出そうになり、自分を抑えて、
「そうだよ、名前書いてあるでしょ。それ食べないでよ。戻して」
と、滑舌を気にしながらはっきりと言った。イーシンがあの飴のことなど気にも留めないことは分かっているのに、言いながら近くにいる思い人の存在を意識し、スパイスを含んだときよりもずっとその発した言葉の意味によってセフンは顔を赤くした。
「食べねーけど。この漢字、桜だっけ?」
 冷蔵庫を閉める音がし、安堵したセフンが、それでも答えたくないという感情を必死に押さえ込みながら、うん、とだけ答えた。
「あれ中国のじゃないよな?パッケージの感じだと。ひらがなだし、日本…わっ!」
「何?」
 がたっと、椅子を倒しそうになりながらイーシンは立ってカウンター越しにいるチャニョルを見た。そろそろとこちらを向くチャニョルの手に、何かが優しく握られている。
「これ、すげー」
 長い指を開くと、そこには丸く、白い玉があった。
「…これ、卵?」
「そう!!」
「ほんとに?鶏の卵?」
「そうなんだよ!すっげー丸い!!」
 ころころと、ほとんど完全な球体を成したそれを、ふたりは目を見開いて凝視した。さすがにセフンも立ってその身長を生かし、チャニョルの掌に視線を送った。
「うわ、ほんとだ」
「こんなの初めて見た」
「俺も」
「やべー。写真撮っとこ」
 カウンターに置いてあるスマートフォンを取って、何枚も続けてチャニョルはシャッターマークを押した。撮った画面に見入り、また笑顔がその目や頬や唇で作られた。
「すげーな」
「あれに似てるなー」
 台の上の玉を、イーシンは指の先でつつき、言った。
「何?ゾウガメの卵?」
「あはは、ううん、そうなの?」
「うん、ゾウガメの卵はこんな感じ、確か。すっげー可愛いの、赤ちゃん」
「そっか。俺が思ったのは、炭団」
「たどん?」
 既に椅子に腰を下ろし、カレーを食べ続けていたセフンも再び顔を上げ、ふたりが卵を見下ろしながら会話するさまを、ぐしゃぐしゃになっていく胸を抱きつつ眺めた。
「おじいちゃんちにあったんだよ。炭やなんかをいろいろ混ぜて練って作る団子みたいなもののことだよ。丸くて、真っ黒なの。これの黒いバージョンだよ」
「へえ」
「見たことない?」
「ないなあ。お前ある?」
 ふるふると首を、セフンは横に振った。チャニョルが人差し指と親指でその卵を見せ付けるように挟み、持っている。
「これは取っとくかな」
「そう?」
「うん。みんなにも見せよ。カレーには別のを乗っける」
 がぽんと扉を開け、卵ケースのいちばん奥に、チャニョルは隠すようにそれを置いた。
「さーて」
 ひとつ普通のかたちの卵を取り、フライパンを熱して手早く緩い目玉焼きをこしらえる。
「できたー」
 またたっぷり一杯分を盛った皿にそれを乗せ、意気揚々とチャニョルはテーブルの前の椅子に体を収めた。
 セフンもイーシンも、カレーライスを食べ終え、サラダをちょびちょびと摘んだり、水で口を湿したりしていた。どちらもチャニョルのカレー、それにお日様のように浮かんだ卵の黄色と白を見ていた。
 チャニョルは窓の向こうをその大きな瞳で見遣り、ひとりごとのように言った。
「あの子元気かなあ」
「え?」
 聞き返すイーシンにチャニョルが口角を上げて顔を向け、その近さにどきりとセフン、そしてイーシンの心臓が鳴った。
「あの子だよーロケ先にいた、オールドイングリッシュシープドッグ」
「…あー!」
「な、なに」
 きょときょととふたりの兄の上、セフンは視線をさまよわせる。
「ほら、こないだふたりとか三人とかであっちこっち連れてかれて撮影した仕事あったろ。あれで俺とイーシン兄さんが行った村で、ピグルムって雄犬がいたんだよ」
「白とグレーの混じった大きな子だったね」
「今空を埋めてるのは正にあの子だな」
 いっとき、渦巻く灰色の雲がぎっしりと空を覆い尽くしている光景を見つめると、チャニョルは前に向き直り、卵とカレーとご飯を混ぜてぱくぱくと食べ出した。
俯いたイーシンは、すぐ横にある肩がひっきりなしに動くのを感じながらひとり微笑んだ。
 黒が火を内包するなら。
あの白い方は、水分を。
イーシンは、この思慕をどうにかできる日など来ないと知っている。実際、解決を望んですらいなかった。ずっと体の内で、水しぶきがそこらじゅうを濡らし、風に何もかもを引っくり返されたりされながら、それを何かの糧にして生きていくしかすべはない。スコールが襲う、木々の鬱蒼と繁る蒸し暑い土地のように。そもそも芸術とはそういうもので、それに身を捧げて生きていくと決めたのだから、何も迷うことなど本来ありはしないのだ。ただ正気を保つのに、もがき苦しむだけである。
立ち上がって食器を片付け出すイーシンを目の隅で追いながら、セフンは彼が今チャニョルのことばかりを考えていることを知っていた。なんとうらやましいことであろう。あんなふうにあの人に思われている。それなのにこの人はそのことに気付く気配すらない。
俺が兄さんなら。
そう思いながらチャニョルをじっと見ていると、黒くて巨大な目の中心がセフンをまるごとつるりと映した。
「…遅くなって、ごめんな」
 スプーンを挟んだ唇からそう、漏らす。
瞬間、目を泳がせてしまうが、セフンは思わず噴き出した。
「いいよ、作ってくれてありがと」
 笑って言った。
よかった。
鼻から息を抜くようにまた笑顔になって、チャニョルは幸福に浸りながら残りのカレーを綺麗に掬った。



おわり




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せつないだけの片思いではない : みむ子(ゆうりんち) @-
レモンさん、こんばんは~♪

ご無沙汰しております!
このお話、とても気になっていました^m^
なので続きを公開していただけて、とっても嬉しいです♪

三人三様の片思いですね。
切なく心苦しい思いを抱えていることは同様ですが、相手を思う気持ち、それをどのように消化(昇華)させるかは、それぞれ。

そして自分の思い人が誰を思っているのかに気づいているのはセフンだけ。
それはやはり末っ子だからでしょうか?
というか、チャニョルとレイは、そこはあまり気にならないのかな?
自分が思っていればいい、それだけでいい、という感じなのかなとも思いました。
逆を言えば、セフンは欲しいものは欲しい、と自分の感情に素直なのかな。
まぁ、言葉に出してはいないし、行動にも出してはいないけれど。
しかもセフンがチャニョルを本当の兄以上に思っているのもわかり、なんだかせつなさを増しているようにも思うのですが、でもそんなセフンをチャニョルは好きで…、ただ切ないですね、とは終われないお話で、メビウスの輪のような三人の片思いに、いつか決着はつくのかな、いや、つかない方が幸せかも、などとも思ったりいたしました。

しかし朝からセフンの為に(というか、好きな子の為に)カレーを作るチャニョルにキュンといたしました^m^
そしてそのカレーを食べるイーシン…(;_;)
やはりこの片思い三角関係に決着はいらないかもしれません~><

こうしてまたレモンさんのお話が読めましたこと、とっても嬉しかったです♪
ありがとうございました(#^.^#)

ここ数日暑い日が続いていますね。
体調など崩してはおりませんか?
9月に入りますと、EXOのリパケ活動が始まりるようなので、また楽しみですね。
その頃には少し暑さも和らぐと良いですね。

では、また伺います!
2017/08/25 Fri 21:49:52 URL

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