海の底、森の奥

- EXOの二次創作とオリジナルのBL小説を中心としたブログです。R18表現あり。お気軽にどうぞ。

20170710

嵐を飲み込む 3(リクエスト企画・EXO・リアル短編)
三.あなたのように

もう少し背が高かったならと思うことがしょっちゅうある。腕と脚の長い、長身になれたなら。
それに声。もっと深みのある、低いものも出せるそれならともよく思う。
イーシンは今日、何故組まされたのがチャニョルなのだろうかと不思議だった。
いやだとかそういうことでは決してない。
むしろ嬉しい。それを見透かされているような気がして複雑だった。そんなことはあるはずがないのに。
きっとスケジュールが合った者同士を組み合わせ、順に撮っているのだなとイーシンは冷静さを取り戻し考えた。今日までに既にこの仕事を終えているのは確かミンソクとジョンインであることも、頭をよぎった。
ぼさぼさの頭にセットされたふたりは、普段の衣装の中ではかなりカジュアルでカラフルなそれを身にまとっており、互いを見ると、何か別人と相対しているような気分になって思わず笑みが零れた。
林を背負ったような人口の少ない村に来て、撮影を行っていた。グループごとにロケ先が違い、今日はここだというだけで、明日以降の二、三人はまたどこか、見も知らぬ土地へ車で連れて行かれるのだろう。
天気は上々と言ってよかった。雨の気配のまったくない、不定形な白い穴がところどころに開いた、だいぶ薄さのなくなった青が、上空を覆っている。
重ね着をしていることで少し暑かった。イーシンは団扇をスタッフから借り、待ち時間中、みずから扇いで過ごしていた。
ロケということで照明機材はスタジオほど多くないが、微妙な調整に凝るカメラマンで、かなり時間を食っていた。汗で多少落ちかけるメイクを、進行が中断するごとに直されている。
またストップがかけられた。
カメラマンの元に、散らばったスタッフが集合し、皆腕組みをしながら相談を始める。
そのさまを一瞥して嘆息したあと、だいぶ奥の方まで続いている木々の間を見通すように眺めながら、イーシンはこの中は涼しそうだなと思った。おそらく求めるイメージとは違うので分け入りはしないだろうが、涼しく撮影は進むだろうと想像し、また手首を振りながら体を逆に向けた。
そちらは村側で、平日の昼であっても、話を聞きつけた人々がちらほらと見に来ていた。子供や犬を連れた主婦や年配の男女が基本で、大きな声を出すなどの騒ぎにはならず、来ている全員がほっとしていた。
耳の底でぼわぼわと響くとような声が聴こえた気がした。
気のせいではなかった。大きな、毛の長い犬を引いた比較的若い女性にチャニョルが近寄り、声を掛けている。すうっと、息を飲む声を相手が出したのも気に留めず、しゃがみながら、どうやら触ってもいいかと彼女に尋ねているらしい。
チャニョルのあの大きなまなこにさらされ、相手の目もまるで魔力を得たようにらんらんとしたのをイーシンは呆気に取られ、見つめた。こくこく何度も頷く相手に、ありがとうございますーと、あの特有の声音で答え、大きな男らしい手を彼は犬に差し出した。
やはり暑いのか、犬はピンクの見事な舌を出したまま、お座りをしており、チャニョルは両手でその子の首の下あたりに触れた。ふわりと包むように長い白と灰の毛を押さえ、何度も何度も撫で擦る。大きな体はまるで小さくなっており、イーシンは服が皺になることを心配し、思わずそこまで近寄った。
 きゃあっ、と、彼が近付いたことに気付いた飼い主と、その周りの主婦連中が小さな悲鳴に似た声を出した。それによってしゃがみこんだままのチャニョルが顔を振り仰いだ。
「兄さん」
 獣のにおいがかすかに漂う。絶え間のない、荒い息遣い。
 上目のまなざしはイーシンにはむしろ辛いものだった。何をしに来たのだったか突然すっかり忘れてしまう。かたちのいい唇をふわふわと動かすと、眩しげに細めたような、しかし実のところいつもそうである、だがほんとうは真実チャニョルがまばゆいことによってほとんど眠いのだろうと思われる目をこしらえて、イーシンは言葉を発した。
「チャニョル」
 なんだっけかともう一度自身に問う。しゃがんでいる…小さいチャニョル…いつもは大きい…奇妙な低音…広い掌…瞳が光る…目尻に皺…皺…皺…。
「兄さん?」
 イーシンは視線の高さをチャニョルと同じになるよう、さっとみずからの膝を折った。顔がすぐそこにあると、途端イーシンはまた声を失った。だが言わねばならない。たとえ白目や鼻の頭や唇が全部艶めく果実のようだからと言って、幻惑され無言になどなっていられない。
 唇を耳に寄せた。
「服、皺になるから」
 人前でチャニョルに恥をかかせるつもりはなかった。それだけだった。なのにイーシンはまるで自分がそうしたいと願ったかのように人から思われるのではないかと、知らぬうちに赤面した。
「ああ、そうだった」
 目を見合いながらチャニョルはそう呟き、ごめん兄さん、と言ってにょっきりと立ち上がった。しゃがんだ格好のまま見上げると、まるでさっき覗き込んでいた林の中の木のように、彼のことを思った。幼子が、僕これくらい大きくなる、と宣言するような対象のように、イーシンには思え、どうしてか苦しくなった。
我に返って体を伸ばすと、まだそこに立ったままのチャニョルが手を犬の頭に置いていた。親指で頭骸骨の真ん中を擦るの続けている。にんまりと弧を描く唇。これが自分のものならば。
「…可愛いね」
 つぶらな黒い目をしておとなしく撫でられ、時折飼い主を見遣る犬を、イーシンはうらやましく思いながらそう感じ、涼やかな声でぽつりと告げた。
「ほんとに、可愛いです」
 視線を飼い主に投げ、目尻を垂らし、えくぼを乗せてそう、再度言う。真っ赤になった部屋着のような姿の女性は、はにかみながら繰り返し礼を述べた。
「この子、オールドイングリッシュシープドッグですよね?」
 口角を切れ込ませるように上に上げ、チャニョルも嬉しそうに女性に高いところから聞き始めた。
「はい、そうです」
「雄ですか?」
「はい」
「なんて名前ですか?」
「ピグルム、です」
「へえ!」
 目を丸くしたチャニョルとイーシンが、同時に声を上げ、ふふふ、と無意識に笑った。
「今日は違うな」
 ぽんぽん、とチャニョルは再びその頭を優しく叩く。上向く彼は、まるでそうだと言わんばかりにぺろりと舌で自分の口の周りを舐めた。
「ちょっと暑いかもしれませんね。帰られるか、日陰にいた方がいいですよ。水を持って来るとか」
 じっと下を向き、彼と見つめ合い続けることで、それは女性のためでなく犬のために言っているのだと誰もが分かった。
イーシンもアスファルトの近くではっはっと息を吐き出す彼を、青年らしい手で撫でられている彼を見ながら、水を飲ませてやりたいと思った。これはまるで自分のようだ。
いや、もし、こんなふうに甘やかにこの手に撫でられていたら、呼吸が速くなるだけではきっと済まない。いったいどうなってしまうだろう。考えただけでも怖いとイーシンは身震いしそうになる。死ぬほど願いながら、絶対に叶って欲しくない。
 光の抜けた瞳でそんなことを考えていたイーシンは、チャニョルが最後に、何歳ですか?と聞くのを耳にした。
 四歳です、という飼い主の返事を受け、まだ若いね、と、また犬に向かって呟くと、唇を一瞬結び、じゃあ、水あげてください、とにこにこしながら笑顔で再度飼い主を見た。それはそうしなければならないという雰囲気を作り出し、はい、と返した女性は、後ろ歩きを少しすると、おいで、と言い、雨を降らせる存在の名を付けられたその犬を連れ、その場を離れた。食い入るようにその光景を見守っていたギャラリーのうち、ペットや幼児を連れて来ていた女性陣は、チャニョルが目線を横に流すように彼女らに向けると、そそくさと帰って行った。チャニョルは残った年配の野次馬に、わずかに声を張って言った。
「熱中症に気を付けてください、皆さん」
 いっとき沈黙が支配したが、おー、あー、分かってるよ、という返答がそこかしこから上がり、すみませんーとチャニョルは笑みを声に乗せて応じた。
 何も言わず、ただそのようすを見ていたイーシンに、チャニョルがぱっと向くと、
「戻ろうか兄さん」
と言った。
 陰を作るようなその背の高さに、見惚れるように顔を上げたイーシンは黙り、だがすぐにうん、と答えた。
「偉いな」
 背中を人々に向けてスタッフの方に戻りながら、イーシンは言った。
「え?」
「あんなふうに言って」
「えー?だって兄さんがあんなふうでしょ」
「え?」
「そうじゃん。兄さんていつもああだよ」
「そう?」
「うん。学んだんだよ」
 丸い頬を太陽が照らす。
これは自分の地元の人間にはないものだと、イーシンは見るたび思う。
「兄さんそういうとこ、すごく偉いからさ」
 なんでこんなふうに声が出せるのだろう。そして何故、人に柔らかな日陰を作り出せるほどに、大きくなれたのだろう。
イーシンは瞬きをしながら俯いた。
「照れないでよ」
 笑いながらそう言うチャニョルの声がイーシンに降り、首を、あの犬のようにするりと手で撫ぜられた。



つづく



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