海の底、森の奥

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20170601

È amore un ladroncello(「心中の道連れ」番外編・人気投票御礼企画13)
 我慢できない、という心境になることは男にはよくある。例に漏れず、俺だってそうだ。
なんだってこんな思いをするんだというような焦燥感と欠乏感が、腹の底から湧いて毒素の回るように体中に満ちていく。
楽器やパソコンなんかが集めて置いてある一室に、俺とベッキョンはいた。
広くも狭くもない部屋だが、物がたくさんあるのでカーペットに座るとひどく自分たちが小さく思えた。
遠くから高い、ババロアがふるふると身を揺らすような声が聴こえ、俺はそれに導かれてここまでやって来ていた。ドアに錠は下りてなく、そっと開けると胡坐をかいたベッキョンが向こうを向いて音楽に聴き入っていた。
声を張って名を呼ぶとこちらを振り向き、何故か照れたように笑った。俺だけに向けられたその表情に、感情と体が完全に一致した反応を示した。何も言わずに部屋に入り、ノブの下のつまみをひねった。その俺のようすを見て、ベッキョンが顔から笑みをなくしてまた前に向き直ったのを知っていた。
俺はやつの真後ろに腰を下ろし、落とした細く長い首を、肩の張った割合広い背中を見ながら、低く言った。
「何してんだ」
 その間も、ずっと女の歌声は溢れていた。部屋から零れていくほどに。
「聴いてんの」
 こちらを向きも、見もせずベッキョンは言う。俺は体をずり、ベッキョンの腰を自分の脚の間に入れた。
肩に顔を置くと、ベッキョンの熱を、そしてわずかに体に力が入ったのを感じ、俺は首筋に鼻をこすりつけてからやつの手前にあるものに目を落とした。
「ラジカセ?」
「うん」
 ほんのり湿っていくベッキョンの肌に俺は頬を貼り付けた。そしてそのまま声を発した。
「どうしたんだこれ」
「チャニョルが実家からとーちゃんの持ってきたんだ」
「あいつのか」
「うん。それでこれ聴いてんの」
「これお前の?テープ?」
「そうだよ」
「オペラだよな?」
「うん。コジ・ファン・トゥッテ」
「モーツァルトか」
「知ってるか?」
「いや、よくは知らない」
「これ、ドラベッラのアリア」
 こんな声が、どうして。
そういう気持ちになる歌声を持つ人間がこの世にはいるものだ。今俺が腕や脚で囲い込んでいるこいつだって、その中のひとりと言える。
「お前こういうの聴くのか」
「あー。親父の趣味」
 はは、と笑うその顔は見えないが、きっと恥ずかしそうにしているのだと声色で分かる。
「お父さんといっしょに聴いてたのか」
「だいたいが子供のときな」
 薄い腹に回した腕を組み、自分の腹をぴったりとその背に当てた。耳を肩辺りに添えると、音がした。どくん、どくん、どくん。早い脈。頬から伝わる高い体温。よくつけているベッキョンのトワレの香り。
「…なんて、歌ってるんだ」
 まぶたを下ろし、骨と骨の間に顔を埋めるようにして俺は尋ねる。
「…恋は」
 ベッキョン特有のハスキーな声が、とまどったように喉の奥でからまった。一拍置いて、もう一度、というようにほのかに大きくした声を発する。
「恋は、可愛い泥棒だって」
 肩甲骨の隙間、服の上から俺は歯を立てた。
いっ、という声が届く。
曲が終わり、ベッキョンは巻き戻した。カセットテープ独特の、きゅるきゅるきゅる、という音色を聴きながら、俺は体を解いてベッキョンを振り向かせた、
尖った肩を掴み、膝立ちした俺はベッキョンを見下ろした。垂れた細い目の中で、ささやかな黒目が浮かび上がるように俺を向いている。目とよく似たかたちの唇も、呼吸のしかたを忘れたように力なく間を空けていた。
「…もっかい、言ってみろよ」
「…なにを」
「…恋は?」
 腰をゆっくりとベッキョンの前に下ろした。胡坐をかいたやつの脚を跨ぎ、両肩に腕を置く。顔の前に顔を寄せて、小首を傾げて瞬くことなくただ待った。
 困惑しているのがよく顔に表れていた。ベッキョンは俺といるとしょっちゅうそういう表情をする。戸惑い、焦り、しょぼくれる。
小さな三角から言葉が落ちた。
「恋は、可愛い、泥棒」
 ささやきとはこういうことを言うのだというような、声だった。
俺から視線を逸らしていた。すぐ、鼻がぶつかりそうなほど近くにいるのに。
「…もっかい」
 髪の間にキスをする。眉間に、こめかみに、鼻の頭に。
 ベッキョンは目をつむっている。甘い息を吐きながら。
「…恋は…」
 その息はなんとか声になろうと努力していた。俺は思わず笑ってしまう。
「恋は?」
 細い顎を、俺とまったく違うそこを指の先で持ち上げると、おそるおそるといったふうにベッキョンは目を開いた。濡れたようになったその中を見て、俺は、ああ、もう堪えられないと悟る。
「可愛い…」
 どろぼう、は、俺の口の中に消えた。
ベッキョンの唇の味はキスをしないと忘れてしまう。こいつとこうしたことをするのに、慣れることが何故かない。ジョンデと歌うのはリラックスするのに、ベッキョンとは毎回初回のような気になるのと、同じだった。
ただ、唇だけでキスをした。ふわふわと空気の混ざる髪の毛にぐしゃぐしゃと指を入れ、薄く目を開いたままくちづけた。ベッキョンのまぶたを見ていた。ぴくぴくと、ときどきうごめく、はかない線。これは初めてのキスだ。そう思ってしまう。そんなことは全然ないのに。
 動きを止め、顔を離した。
再び瞳は顔を出す。苦しげな眉の下、疑問を乗せて。
「久しぶりだな」
 そんなことを言ってみる。もぞもぞと肩を縮こめるようにしてベッキョンは首肯する。
「そうだな」
「そんな愛想ないと、俺だって悲しくなるぞ」
 ほんとうはそれほどでもないのだが、意地悪をしたくなり言った。すると想像通り顔をすぐ上げ、ベッキョンは答える。
「だっ…」
「なんだよ」
「…なんか、久しぶりだから」
 首の後ろをなまめかしい爪のついた指先で掻く。
「そうだな」
「俺だって…」
 唇を突き出すようにしてベッキョンはやはり目をこちらにやらない。
 覗きこむ格好で俺は上目でやつの視線の先を捉えた。
 揺らぐ黒い丸は、しかたなくといった態で俺のそれと出会う。
「なんだよ」
 更に声を落として俺は問うた。
「…ずっと、…我慢してたし」
 消え入るような声でほとんど閉じそうな目をしてベッキョンは言った。
 相好を崩した俺は笑いながら、
「そうか」
と応じた。
 拗ねたような顔を作ってベッキョンは声を大きくする。
「そうだよ。俺だって男だし。してーよそりゃ」
「それってもしかして、俺に入れたいって意味を含んでるか?」
 ベッキョンは十代の頃から彼女が途切れたことはほぼなかったといつも言っているし、実際そうだろうと思う。だけど俺といると、時折やつがむしろ少女のような態度になるときがある。今もそうだ。花のように色付いて、ベッキョンは押し黙った。
「そうなのか?」
 構わず俺は問い詰める。唇の片端が上がっている自覚がある。
「そうだよ。わりーかよ」
 吐き捨てるようにベッキョンは小声で言った。
 まだベッキョンは俺とセックスをしたいと思ってしまう自分を持て余すところがあるようだった。それはそうだろう。先述したように、完全なヘテロで、しかも旺盛な性欲の持ち主なのだから。女はより取り見取りなのに、どうしてこんな、女にはとても見えない俺のような男に懸想してしまうのか、自分を見失ったような気になるのは当然のことだ。
俺だって似たようなものだ。
いったいどうして、ベッキョンなのだろう。
好みの顔というのとも違う、嫌いな顔ではないけれど。だいたい、男なのに。
いっしょに長くいた―――そして共に歌っている、ということが、何か大きく関係しているということはなんとなく理解している。だが、いつの間にかその姿自体にも囚われてしまっていた。そう、盗まれていた。心も体も。
きっとおそらく、ベッキョンもそうなのだろう。
恋は可愛い泥棒。
くすりと俺は笑い、ベッキョン、と耳に吹き込んだ。
「いいよ」
 息を吸い込む音が耳元でした。
「…まじで」
 目と目を合わせ、俺は微笑をこしらえたまま頷いた。
「俺がしてからな」
 もうほんとうに、全身が目の前のものを欲して欲してしかたなかった。内から燃えて、消えてなくなっていくようだ。
「うん」
 目を伏せるベッキョンはことのほか美しい、と俺は思う。
再生ボタンを押しながら、俺はやつを後ろに倒した。
これから、俺がやつの背後に回り、そしてやつが俺の背後に回るだろう。ふたり乗りの自転車を漕ぐように、前後を変えて、いつまでも、どこまでも走るだろう。
 アリアが響き渡る中、だんだんと俺の中から毒素は抜けた。
プリマドンナたちの歌声以上に、ベッキョンの漏らす音すべてが俺を満たし、また、奪った。



おわり






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2017/06/01 Thu 17:15:21

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