海の底、森の奥

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20170530

Monochrome des résidents(「ボナペティ」番外編・人気投票御礼企画11)
 空と雲が互いをくっきりと分けだす季節が訪れようとしていた。
お買徳で買い物を済ませ、リーボックに包んだ足を目的地に向けると、爽やかな風が抜けた。
チャニョルは思わずキャップを取って被り直す。
髪の間を数秒だけ通っていった涼風は、彼の鼻の中をまだくすぐっていた。濃い緑の香り。ここらへんは駅から距離があり、畑や田んぼ、庭の大きい家が点在し、首を回せばすぐに地球をはたから見たときにこの星はこういう星だという印象を決定付ける何色かの内のひとつが目に入った。
チャニョルは植物が好きだった。動物も。
自然が作り出したものはなんとも言えぬ魔力があると常に考えていた。自宅に帰れば顔を合わせる人間以外の種類の生き物たちすべて、見るたびすばらしいものだと思った。人工交配でそうしたかたちになったとしても、体内まで人間の手が及んだわけではない。彼らの美しさは絶えずチャニョルを魅了し、たまらない気持ちにさせた。
だが都市というものや、人工物にもまた同様に惹かれた。
歩きながら頭の中であるフレーズや、旋律が回転をし始める。
きらびやかな装飾や、人が作ったあらゆる娯楽にチャニョルはしょっちゅう感銘を受けた。こうしたことを自分もしてみたいという欲求は、かなり幼い頃から胸の内に湧いた。
獣医か、バンドマンになりたい。
彼はぼんやりとそんな夢を中学に上がる頃には抱いていた。どちらも無謀とは言えない気がした。文集に書いたこともあった。読んだ両親はそれはがんばらないといけないね、とだけ言い、賛成も反対もしなかった。きっとそうだろうと思っていた。チャニョルの父も母も、彼を押さえつけるということが皆無な人たちであったから。唯一多少押さえつけてくる―――彼女の愛情表現の一環ではあったが―――のは姉だけで、だがしかしチャニョルは彼女の聡明さや美しさを内心ひどく誇りにしていたことで、何を言われてもいったんは怒るが、あとあと投げ掛けられた言葉をひとりでぐるぐると考えた。
音を基本とした何かが、どこからか勝手にやってきてはチャニョルを占領した。それを姉は勘付いていたらしく、「それ、なんとか付き合っていかないといけないね」と視線を違う方向に向けて言われたことがある。そうしたことは他人はあまりないのだとそのとき初めてはっきりと知り、付き合うとはどういうことだろうと夜、布団の中で思った。
アパートの階段を登るチャニョルの体内を流れる音たちは、彼にとって自然物なのか人工物なのか判然としなかった。その中間のもの―――と言うか、それこそが生物の創作というものなのかもしれないと、なんとなく考えていた。かたちをしっかりと成さないままのそれを放って、呼び鈴を押した。
餃子を作るとギョンスが携帯に送ってきたことで、今日、ふたりはキッチンに並んで皮をこねることと、具をこねることをしていた。
にちゃにちゃとチャニョルは大きな手でよく肉の粘り気を出そうと努めた。工作の時間、粘土をこねることに夢中になったことが鮮明に思い出される。唇には無意識ながら微笑みすら浮かんでいた。
皮を揉みこむギョンスは、いつもどおりのほぼ無表情であった。白い生地に白い手が埋まる。チャニョルは横目でそのさまを見下ろし、もういいんじゃね、と言った。
「もう少しだな」
「そっか」
 窓は全開、扇風機が首を回し、ふたりの服をひらひらと撫でた。
しばらくしてから、ギョンスが皮を丸く形成すると、その中に豚挽き肉にしょうが、にんにく、葱、キムチ、オイスターソース、醤油、塩、砂糖、ダシダを混ぜたものを包む、という作業をチャニョルがし始めた。
双方手先は器用な方で、相当できばえよくトレイの上に大きめな餃子がごろごろと並んでいった。
「こりゃうまいな」
「まちがいねーよ」
 すべて出来上がると早速焼いた。
ごま油の香りが部屋中に溢れる。
ぱりぱりに焼いたそれをどんどん皿に乗せ、買ってきたサンチュとビールをお供にテーブルに向かって食べ出した。
「うめー」
「やばいな」
 油に照る青年たちの唇は汚れが取り去られることはなかった。
まだ明るい光が世界をしっかりと見せているのに、彼らは美食とアルコールですっかりいい心地になった。
 チャニョルが嘆息しながら、テレビ下にある黒く四角い箱のような機械に目を留めた。
「これまさか」
 と言いつつ巨大な目を凝らすと、やはり、という表情をこしらえ振り向き言った。
「ビデオデッキじゃん」
「うん」
「見れんのか」
「そりゃ見れるよ」
「なんでこんなの持って来てんだよ」
「ビデオって結構あるだろ」
 何言ってるんだ、とまったく動じずギョンスは答える。
「あると便利なんだ」
「DVDプレーヤーは買わないのかよ」
「そのうちな」
 グラスに残ったビールを飲み干すギョンスから視線を離し、デッキ横に並べられたビデオのタイトルをチャニョルは眺めた。
「なんだよこれ」
「講演とか、いろいろだよ」
 数本あるひとつを手に取ったチャニョルは、その見慣れない文字を追った。
「なんだ、…タ…カラ…ヅカ…?」
「うん、宝塚。宝塚歌劇団花組公演」
「は?」
「日本の劇団だよ。その舞台」
「なんでこんなの持ってんだよ」
「親戚が日本にいるんだよ。その中のひとりがすごいファンなんだ。母親がその人からもらった」
「へえー」
「ミュージカルみたいなものだよ」
「お前がなんで持ってるんだよ」
「結構面白いんだ」
 ぱくりとまたひとつ、餃子を口に放り込むギョンスに断りもせず、チャニョルはビデオをデッキに差し込んだ。
 ウィー、と、奥に入っていくそれに目をやり、ギョンスは見るのか、と聞く。
「ちょっと興味ある」
 そして始まった。
買って来たビールはあらかた空になっていた。
完全に酔ったふたりは、夕暮れに染まり始めた外の日を浴びながら小さな画面に釘付けだった。
「なあ」
「あ?」
「これみんな女?」
「今頃かよ、お前」
 ずっと、違和感はあった。だがそれよりも化粧に気を取られ、そしてストーリーにのめり込み、どこか聞くタイミングを逃していた。
「すごいな」
 あらゆる感想すべてをまとめてチャニョルは呟いた。
 エリザベートがいよいよ美しくなり、人々を幻惑させていく姿を見つめながら、ギョンスは言った。
「お前みたいな顔してるよな」
「は!?」
 勢いよくチャニョルは横を向く。
そこにある顔は夕焼けを受けてオレンジ色に輝いていたが、目にした者には何故か陰影のみで映った。
「なんだよ」
「俺みたい?」
「そうだよ」
 交互に視線をテレビ、ギョンスとやりながら、なおも問うた。人差し指で自分を指しながら。
「俺がこの人みたいだって?」
「うん。お前鏡見たことないの?」
 片眉を心持ち曲げてそう聞き返すギョンスは、やはり白と黒と灰で構成された、絵や何かの中にいる人物のようにチャニョルに見えた。時折確かに、そうなった。
 反対に、チャニョルはどんどん色を増した。ビールと脂肪でかっかとした体がおかしなふうにその感覚を増幅させ、息が若干荒くなった。
「俺、こんな顔じゃねー」
「こんな顔だよ」
「どんなだよ」
「目がでかくて、その中がきらきらしてて、鼻と口もきれいで、目立つ。遠くから見たって、すぐチャニョルって分かる」
 化粧してなくても、とギョンスは続けてサンチュをかじった。
灯りを灯さない、テレビの中からの光だけになった、日の落ちた室内は、チャニョルが顔をゆでだこみたいにしているのをなんとか隠した。ふい、と顔を背け、劇に意識を再び集中させようと試みた。
「…お前はこういう化粧、似合いそう」
 仕返しではないが、正直な気持ちもあいまって小さく告げた。
「そうか?」
 驚いた顔をして今度はギョンスがチャニョルを見た。
 そんなふうな反応と予想していたわけではなかったチャニョルは、かすかに慌てて言葉を返した。
「うん、そう思う」
「そうかな、結構俺、男っぽい顔だと思うけど」
「男っぽいだけじゃないよ。なんか、どっちつかずな感じある」
「そうか?」
「うん」
「初めて言われたな」
 会話しながら、チャニョルは話していることが自分の口から出ているということに言い知れぬむずがゆさを覚えた。自身、そういうことを思っていると、そのとき自覚したのだった。
「高校の」
「ん?」
「高校の同級生で、化粧がめっちゃくちゃ似合うやついたよ」
 ことさら声を張って笑っているようにチャニョルは言った。
悲劇―――それはえてして甘美な幸福にも満ちている―――はふたりの前でひたすら進み、チャニョルはまるでオペラ観劇に来たイタリア貴族の若者であるかのような感覚に浸りながら説明した。
「イベントとかで冗談で化粧したりすんじゃん。それがすっげー似合って、名物化してたんだよ」
「へえ」
「歌うまくて、いっしょにライブやったりしたな」
「お前のバンドのメンバーだった人?」
「いや、あいつもまた別に組んでた。たまにいっしょにやってただけ」
「いいな、楽しそうだ」
「うん、楽しかったし、あの顔は見ものだった」
 少し前の記憶が蘇り、チャニョルの脳内の友人と出演者のさまが被った。
舞台上で満場の拍手の中スターたちが頭を下げているのを見守ると、伸びをしたギョンスが尋ねた。
「どうする?帰るか?」
「うーん。とりあえずなんか飲み物買いにいきてーな」
「お茶でなくてか?」
「うん、炭酸入った、酒じゃないやつ」
「分かった、俺も外の空気吸う」
 連れ立って外に出た。
少しだけ肌寒い気温が皮膚に嬉しく、ふたりは深く息をした。
ざり、ざり、とサンダルの底がアスファルトと触れ合う音が大きく響き、夜を迎えたことを強く意識する。
「…草のにおい」
 口を突いて出た言葉に、ギョンスが返した。
「そうだな。ここ、それもあって選んだんだ」
 ギョンスは決して、言われたことをただの冗談や小さなこととして捉えない。必ずまっすぐ、真剣に、取り合った。そしてそのことがチャニョルはひどく嬉しかった。
 お買徳が見えてくる。
その看板の白い灯りがギョンスをぼうっと浮かび上がらせた。
高いところから連れを俯瞰し、その気配に気付いた相手が自分を見上げ、目が合った。
「どうした」
 毛と、目の丸は黒。目の残りは白。肌も、少し灰がかった白。
ギョンスはキャンバスに木炭で描かれた少年のようだと、チャニョルは改めて思う。静かな世界。その中にいる彼の賢明さと誠実さは、一目見ればすぐに分かる。
初めて顔を合わせたときから、知っていた。
「炭酸買うんだろ」
 自動ドアが招くように開いている。
ただ、帰りたくないとチャニョルは願う。
泊まってもいいかといつ言おうかと、来るたび考えることをまた、考えながら店に入った。



おわり




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