海の底、森の奥

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20170517

sparkling radiance(「慈雨、降りそそぐ」番外編・人気投票御礼企画1)
 クッションの中に詰まった綿のような雲が、もこもこと頭の上を埋めていた。
車から降りたチャニョルは、先に立って店に入ろうとするジョンインの後ろで一瞬立ち止まり、上向きながら、雨になるかな、と考えた。天気予報は事前に見なかった。どうせ車だし、と。
背の高いふたりの向かう先は、ほとんどが木で作られた小さな建物だった。
引き戸をジョンインが開ける。小声で、日本に来たみたい、と振り返りながらチャニョルに告げる。目と唇は既に引きつるような独特な笑みを作る準備をしている。
そうだな、と腹のいちばん底から響いて上ってきたような声で囁き返すと、ふふ、とジョンインは想像通り、笑った。いらっしゃいませー、という、女性の高い声が木で編まれた室内を渡る。
畳が敷かれた、ほんとうに日本家屋のような店の作りに、ふたりは少なからず驚いた。
まるでツアー中のようだと、チャニョルは思い、おそらくジョンインもそう感じているだろうと、靴を脱ぎながら横目で見た。相変わらずジョンインは微笑んでいた。驚きと喜びで、目の周りに浮かぶ皺が消えることがない。
靴下で、少し高くなった畳の上に立ち、いっとききょろきょろと見回したあと、揃って座布団の上に腰を下ろした。
向かい合わせに座ったふたりは、品書きを手に取った。ジョンインが顔を突き出すようにしてチャニョルに近付く。
「すごいね」
 ふふふ、と、やはり言葉に笑いが混じる。
品書きの紙に隠れ、目が面白いくらい反っているのだけがチャニョルに映る。どうぞ、という声と共に、そっと水の張ったグラスが置かれた。
天ざる蕎麦をふたつ、注文した。
違うものにしてもよかったが、ジョンインは好きなものだけ大量に食べたがる癖がある。天ぷらをことのほか彼が好んでいることを当然チャニョルは知っており、追加すら頼む心積もりで、まあいいかとそう決めた。
「よくこんなとこ見付けたね」
 運転があるためチャニョルは飲むわけにいかず、ジョンインも飲酒を昼からしたいタイプではないことから、ただ供されたひやをふたりで口に運びながら、会話をした。
「海外ロケにいっしょに行った照明の子がさ、教えてくれたんだよ」
 被っていたキャップをチャニョルは取り、わしゃわしゃと髪を混ぜた。
「辺鄙なとこにあるからそんなにいつも混んではないけど、すごいうまいって」
「その人日本人?」
「いや、ハーフ。行ったり来たりしながら育ったらしいから、味はきっと期待できんぞ」
「へー」
 今は平日の真っ昼間、それもいちばん早い昼食の時間帯だった。念のために開店と同時に訪れたのだが、心配は杞憂であった。彼ら以外、客は誰もいない。来る気配もまだなかった。
こんなふうに、ふたりで出かけるなどということはほとんどないと言ってよかった。
スケジュールが合うことが少ないという事情もあったが、ふたりでいられるならできたら家の方がいいというのが、特にチャニョルの心情として強くあった。出掛けるときはセフンを連れた。
ふたりで、部屋の中に閉じこもり、あらゆることに精を出すのをどちらもが愛していた。
ジョンインはすばらしい肉体を持っていた。
そんなことはとっくに知っていたはずだったのに、それだからこそ彼に惹かれたはずだったのに、チャニョルは体を合わせるたびに心の底から驚いた。人間だなどとは信じられないと。
いつの季節も、うっすらとジョンインの体は色付いている。南の、花の咲き誇る、果実の熟れる、そういう国で生まれたかのような薫る肌を輝かせ、どこまでも肉はしなった。外も、また、中も。チャニョルはジョンインの骨と筋の作りを飽くことなく眺め、彼の中を数限りない方法で押し入った。軟体動物のようなジョンインは、刻々とその姿を変形し、あくまでもチャニョルを翻弄した。
「お待ちどうさまです」
 大きな盆に盛られた注文の品が、女性の両手に乗ってやってきた。海苔と、醤油の香が青年たちの鼻を抜ける。
「山葵、どうぞ擦って、お好みの量をお入れください」
 まだだいぶ若い女将さんと思しき女性は、おそらく日本人だろうと推察できたが、韓国語の発音に強い好感を抱かせる何かがあった。それは心の中のものが表に現れる例のひとつで、チャニョルは食べる前からここはとてもいいところだ、とぼんやり思った。
窓辺に置かれたミヤコワスレの生けられた日本の手仕事らしき花瓶を一瞥すると、チャニョルはジョンインが、うわーお、と歓声を上げて箸を手に取る方に視線を動かした。
 早速蕎麦を啜り出すジョンインの前で、チャニョルは山葵を擦った。初めての経験だった。
「それ、確かワタナベさんがやってくれたよね」
 頬を膨らませたジョンインが、上目でチャニョルの顔と手元を見ながら話す。
「うん。実家が名産地なんだよ確か」
「コンビニで買った蕎麦に入れてくれたっけね」
 笑うジョンインは天ぷらをつゆに浸して齧り付く。かりりと、黄色い衣が欠ける。
「うまー」
 食べたそのときにジョンインは言った。
「なんだ?それ」
「んー、茄子」
「ああ、そうだな」
 濃い紫が透けていた。
擦り終えたチャニョルは、よし、と呟くと小さなおろし器から蕎麦猪口にかなりたっぷりと山葵を空けた。
「多くない?」
「うん、でも、いっぱい入れてみたい」
「だいじょぶー?」
 箸で小さく丸まった蕎麦のひとかたまりを取る。葱も入った赤黒い汁の中に、どぼりとつけるときれいな口を開け、入れた。
 額にかけて、においと味と、感じたことのない何かがいっしょに駆け抜け、チャニョルは咀嚼しながら目の上にふわりと膜が張った。
「…へーき?」
 覗き込むようにして、ジョンインは兄を窺った。
 飲み下すまでしばらくかかった。
ようやく顔を上げると、チャニョルの顔は薄い桃色になっており、くっきりした黒目と白目は、目薬を打ったように光っていた。
はー、と息をつくチャニョルは水を取った。喉を鳴らしてほぼ飲み干し、唇を拭う。瞬きを繰り返す。
「…辛かったんでしょ」
 何も言わないチャニョルに、ジョンインは意地悪そうに告げた。
「うん」
「すごく」
「うん」
「だから言ったのに」
「ごめんなさいね」
 気付くと水を満たしながら店員の女性が横で話しかけていた。
「これ、まだ新鮮ではある方なんだけど、どうしてもとりたてとは違って」
 もしほんとうに取ったばかりだと、辛いって感じはほとんどしないんですよ、と言葉は続けられ、冷えた水がグラスにまんまんと溢れるように入った。
「いえ、僕が悪いんです」
「気を付けてくださいね」
 申し訳なさそうに頭を下げ、女性が下がると、ふふふ、と音が聴こえた。
「心配されちゃって」
「うるせー」
 蕎麦をまた取り食べると、今度はただ、おいしいという感覚だけが口内に広がった。手が止まらなくなり、どんどんと灰色がかった麺は消えた。
「これさ」
 鼻を啜り、口の中から食べ物の消えないジョンインは言った。
「うん?」
「いつも思うんだけど、キムチも合うんじゃない?」
「そう――だな、悪くないかも」
「ね」
 見つめてくるまなざしを感じ、チャニョルは大きな瞳を蕎麦を吸い込みながらジョンインに向けた。
「兄さん、目がさ、あれみたいだよね」
「あれって?」
「中国のさ、古い焼き物のさ、なんか、宇宙みたいな、ドット柄の器」
「なんだそれ」
「知らない?夜空みたいなとこに、ふわあーって、浮いてんの、丸が」
「…知らねー…」
「怖いくらいきれいなの。ずるずる吸い込まれる感じ。兄さんの目も、そんな感じ」
 まだ緩く涙の浮かんだ目は、弱い照明を受けてゆらゆらと表面がたゆたっていた。
 ふふ、という声と、
「きれー」
という漏らしが、ジョンインの唇から零れる。
 視線を落として天ぷらを取った。
「あ、それ食べんの」
「海老食いたいのか」
「うん」
「しょーがねえな」
 わーい。
子供のようなジョンインを前に、チャニョルは苦笑するしかない。幸福にはちきれんばかりの胸を抱えて。
「兄さん運転うまいよね」
 海老天を齧りながらそんなことを続けた。
「言うほどじゃねーだろ」
「うまいよ。俺車運転したいとかあんまないけど、あれは乗りたいな、動かしてみたい」
「何」
「なんか荷物とか運ぶやつ」
「空港とかにあるやつか?」
「そういうやつ。工事んとことか。面白そうじゃない?」
「確かに乗ってみてーな」
「ねー」
 言いながらなんとなく窓の外、車の方を見ると、水滴の跡が目に入った。
「わ、雨だ」
「え」
 首を横向けるジョンインが、ほんとだー、と返した。
「やっぱ降ってきたか」
「そうだね」
「どうする」
「帰ろうよ」
「いいのか?」
「うん」
 獲物を貪るように食事をするジョンインは、テーブルから目を離さず、言った。
「セフンうらやましーなと思ってたけど、こうしてると、部屋でいろいろしたくなる」
 突然、チャニョルは喉が詰まったようになる。
思わずまた、グラスに手を伸ばした。
「その前にもう一皿天ぷら食べたい」
 こちらを向いたジョンインの唇は、何かをあえて塗ったかのようにぴかりと照った。



おわり




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2017/05/17 Wed 13:39:05

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