海の底、森の奥

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20170424

ごちそうと待ち合わせ(東方神起・兵役終了企画・リアル短編)
唇の表面の水分はどこかに消えていた。
季節柄しかたのないことである。冬はもう、恐ろしく深まりつつある。
だがそれだけではないのだ。空気の中から湿ったものが抜けたことだけで、チャンミンの膨らんだ、並んだ虫のような部位の皮膚が割れそうなわけではなかった。
風呂に入ろうかと考えた。湯を浴槽に張り、長い手足をなるたけ伸ばしてその中で時間を過ごそうかと。干からびた肌も再生を果たすことだろう。
ほわりほわりと自分を包む温かく白い湯気を思い浮かべて、チャンミンはいっときただ立ち尽くした。自分の部屋の、リビングの、フローリングの上で。暖房をつけず、靴下も履かずに。とても冷えた床に裸足の足の裏を貼り付け、ローテーブルを見つめていた。
暑がりのチャンミンは本来シャワーで十分だった。風呂につかる想像をしながらぼうっとするなど、らしくないことこの上ない。
チャンミンは電話を待っていた。
かかってくるのを。
 あるいは、自分がかける決意が固まるのを。
テーブルの上には大鉢に盛られた、濃い黄色の山があった。それは出来上がってからだいぶ時間が経っており、もうもうとにおいと共に立ち上っていた温度を表す靄もとうに姿を消していた。
もう一度温めればいい。そしたらまたあの甘い香りと快い高温が、簡単に戻る。
それでもそうなってしまうほどに逡巡した自分をチャンミンは恥じた。
ずっと、スマートフォンを握り締めたままだった。
チャンミンの手の中ですっかりそれは湿っていた。熱も持っている。電話をしないなら、今は置いておけばいい。それなのに置いていない。手から離せない。
視線を上げ、壁にかかった時計を見た。十一時四十七分。もう、昼になってしまう。
だいたい、この時期に昼間、オフだなんて(もっとも、夕刻から仕事だが)奇跡のようなことなのだ。こんなときを、こんなふうに無駄に使うだなんてありえないとチャンミンは苛立つ気持ちがあんなに冷えた木の板に触れた足の先から頭の方に沸き立ってくる。馬鹿なんじゃないか。だけどすべてはおのれのせいだ。手にその通信手段を持った状態で、ただ無為に時計の針が時を進めるのを放置してきたせいなのだ。
閉めたままのカーテンは、間からどんどんと光の強さが増しているのを伝えていた。今日の太陽は冬をものともしていないようだった。白い壁は皿の中の野菜のようにひどく濃い黄色に染まった。
甘いものでつるだなんて、女相手だったらそんなこと絶対にしないとチャンミンは再び自分の行動の不恰好さに吐き気をも覚えた。甘いものと言ったって、これはお菓子ですらないのだ。れっきとしたご飯のおかず。日本に来てから初めて食べたけれど、チャンミン自身はそこそことしか思わない。もっと辛く、酒に合うように味付ればいいのにと口に入れるたび不満が募る。
だけど彼には好評だ。最初、どこで食べたのかは忘れてしまった。何せまだ十代だった。ほんの、子供だった。
しかしひとくち口に含んだリーダーが、これおいしい、と満面の笑みを浮かべた記憶は鮮明だ。きっと定食屋だろう。何かの打ち上げに違いない。地方を回ったとき、個人経営の店に入って、日本のスタッフが頼んだのだ。
これはいちばん日の短い日に食べるものだとそのとき店の、白髪の奥さんが教えてくれた。チャンミンたちの姿のよさに、顔が赤らんでいるのがよく分かった。日本の年配の女性は自分たちの顔や体が大変好きだ。そういうとき、心からの実感として彼らは知った。歌うような高い声で彼女は言った。
あまくておいしいから、たくさんたべて。
そう、言えばいいのだ。
チャンミンはてっぺんを過ぎた長針に再度視線を投げて、掌を上にして腕を上げた。
親指を動かす。
通話のマークに触れる瞬間、指の先が震えた。それが分かった。だが気付かなかった振りをし、自分をだました。耳に電話を持っていく。
呼び出し音は繰り返す。とぅるるるる。とぅるるるる。待たされるということはなんと辛いことなのだろう。切って電話を放り投げたい。あの山をすべて自分の腹に収めて、なかったことにしてしまいたい。
何回コールはされたのか。
チャンミンは安堵と落胆が同量ずつ胸を占めていくのを感じた。諦めという言葉の甘美さにめまいがしそうだった。
ブツッ。
「はい」
 耳慣れた声が穴の中からチャンミンの鼓膜を揺らした。
勢いよくチャンミンは口を開いた。乾いたところがぴっと切れたのを放って。けれど何も言えなかった。たっぷり二秒。金魚のように口をぱくぱくさせ、大きな瞳を右左と動かした。
「…チャンミン?」
 かすれた、囁き声だった。
「はい」
 出た。よかった。チャンミンは喉を押さえる。飛び出た部分をおまじないのように撫で擦る。
「…兄さん、あの」
「…どうした?」
 寝起きなのかもしれない。そうだ、きっとそうだろう。それにしたってひどく甘やかな響きがあるように感じるのは、自分の期待のせいだろうか。
 けほ、と小さな咳をひとつして、チャンミンは言葉を発した。
「あの、…今日、うち、来れませんか」
 音楽やテレビやラジオで数え切れぬほど聞いた自身の声が、こんな声だったろうかとチャンミンは訝った。もっとましな声だと思っていたが。こんなんじゃ売り物にならない。
 肺と肺の間で、ばっ、ばっ、ばっ、という大きな音が鳴っていた。スタッカートがすさまじい。
「…これから?」
「…はい」
「チャンミン…ひとり?」
「はい」
「今日…完全オフだっけ?」
「いえ、夕方にはまた出ます」
「俺は夜からある」
「知ってる」
 口がわななきそうなのを無理矢理に、あ、とチャンミンは言った。
「甘い南瓜があるんです」
 遠くで鳥が鳴いたように思った。気のせいかもしれない。だが確かに、部屋の中はほのかに明るさが強まった。
そのときふたり共が、あの味わいに全身で浸ったようになっているのがチャンミンに分かった。
沈黙が破られた。
「…分かった。行くよ」
 喉からせり出そうとする心臓をチャンミンは唾を飲み込むことで押しとどめた。
「…ほんとに」
「うん」
「…分かった」
「待ってて」
「はい」
 いつの間にか電話を切っていた。
ぶらりと腕を下に下ろし、また、時計に目をやった。
準備の早い兄だから、一時間も経たぬうちにおそらくやってくるだろう。
テーブルに視線を送る。
邪魔するものを押しのけて侵入してきた陽光が、てんこもりの南瓜の断面を驚くほどに光らせていた。
スマートフォンを置き、皿を両手ですくうように持った。
キッチンに向かいながら、ユノに温かなごちそうと、この間のいいわけを準備しなければと、チャンミンは舌で唇を舐めた。



おわり




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