海の底、森の奥

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20170208

潮騒を聴きながら(リアル短編・バレンタイン企画6)
あの日。
その、夏の日の昼下がりのことを考えると、まずいちばん最初に思い浮かぶのは、電車の中、よだれを垂らして眠る兄さんの、寝息の音だ。
突然、午後の予定がすべてキャンセルになった、平日の昼。
マネージャーからその旨を伝えられると、撮影や何かが入っている、いないメンバーを除くみんなは、大歓声を上げた。男どもの地鳴りのような大声に、俺は軽く耳をふさいだ。もちろん、俺だって嬉しかった。にやける顔をそのままにして、どうしようかなと頭を巡らせた。
日々の仕事で疲労困憊であっても、二十代半ばの、体力ある青年の集まりであるグループを表し、意気揚々と出掛ける準備を始める兄ばかりだった。ベッキョン兄さんなんか、いえーい、ほうー!とか言って、スキップしたりしていた。ばーか、と、チャニョル兄さんに背中を軽く蹴られても、まったく落ち着く気配はなかった。
デート行くのかな、でも平日だしな、と俺は勝手な妄想を額で弄び、事務所の窓から空を見上げた。
真夏の、思わず目がくらんでしまうような青ばかりが続く空。申し訳程度の、綿ぼこりのような雲がちょこちょこと乗っていた。
いったんマンションに戻るメンバーは車で送ってもらえることになったが、俺はうちに帰りたくなんかなかった。椅子に腰掛けたまま相変わらず空を仰いで、隣にいる兄のひとりが、自分と同じことをしているのを全身で感じていた。
「兄さん」
 ジュンミョン兄さんが、こちらを向いた。
疲れた、色の抜けた顔をして(もともと大変色が薄いのに)、ほとんど閉じたような目で俺の顔を見た。ん?と返し、唇は歯が垣間見えるくらいに開いたままにしていた。
「海、行こうよ」


 青春ぽいな、と俺は思った。
俺の青春はだいたいが仕事で過ぎていったから、こういうことに対する憧れが結構強い自覚がある。
それでも、急にこんなことを言い出して、それを実際聞いてもらえると、嬉しいのと同時に、まじで?という気持ちが湧き、申し訳なささえ感じた。もう少しで、やっぱりいい、と言い出しそうだった。
でも、兄さんは気の抜けた笑顔をこしらえ、俺に言った。
「うん、行こうか。こんなことめったにないし」
 そして再び夏空を見上げ、すっげー天気いいし、と続けた。
駅まで車で送ってもらえた。そのあと、着のみ着のままで、海に向かう電車に乗った。
スマートフォンで行き方を調べてくれた兄さんは、あんまかかんないよ、と言った。
「近くはないけどさ。腹減ったか?」
「まだ平気」
 さっき、買ってきてもらったサンドイッチを食べたばかりだった。それに、お菓子をいくつか鞄に入れていた。
「俺もまだ大丈夫だな。じゃあとりあえず海まで行くか」
 電車に乗ること自体、久しぶりだった。
夏休みが始まる直前で、真っ昼間の車内は空いていた。安堵はしたが、俺はサングラスとキャップを、兄さんはマスクとハットを身に付け続け、心持ち俯きさえした。遊びに出た大学生と思われますように、と祈った。
実際、格好はかなりラフだった。
今日は衣装を着る予定が入っていたし(撮影所のトラブルっていったい何があったのだろうと俺はぼんやり考えた)、そのあともしリハーサルを詰め込まれたら、持ち歩いているトレーニングウエアに着替えるしで、私服にあまり意味はなかったからだ。それでも、俺も兄さんもみっともなくはなかった。もともとすっきりとした体型であるし、そういうことに気を使う方であったから。
実はかなり値の張る服を双方着てはいたけれど、ぱっと見そうとは分からない感じだろうと俺は見当を付け、ほうと溜め息をついた。
地下を走る車内は薄暗く、電車の揺れも、眠りを誘った。
瞬きしながら首をふにゃふにゃさせていると、レールと車輪の擦れの合間に、くう、くう、と、不思議な音が小さく聴こえた。
見ると隣の兄さんが、腕を組み、頭を前に垂らし、完全に眠りこけていた。俺からは長いまつげがびっしり並ぶさまだけが視界に入った。電車に合わせ、体がかしぎ、また戻る。
どこで降りるんだろう、と思ったが、話からするとまだまだ降車駅は先だろうと、しばらく寝かせておくことにした。
ちらほらとシートを埋める、他の乗客たちの多くも、夢の中に旅立っていた。
当然俺も睡魔に襲われ続けたが、もったいない、という思いと、乗り過ごしそうな予感から、半目のまま、腕と脚を組んでただ電車そのものを満喫した。


 さすがにもうそろそろまずいだろう、というところで兄さんを揺り起こすと、まさに次の駅が目的地だった。
よだれを拭った兄さんを押して慌てて降り、バスを待った。
海水浴客と思しき家族連れが二組ほどいて、俺たちは帽子を目深に被り、顔の中の肌の範囲をできる限り狭めた。
窓から差し込む日差しはすさまじかった。白い斜線となって乗客を照らし、冷房の効いた車内でも、その熱からは逃れられなかった。じりじりと皮膚が焦げるのが分かり、仕事のことがちらりとよぎった。
でも兄さんは何も言わなかった。一応日焼け止めは朝しっかり塗ってあったが、こういうとき、絶対おせっかい焼きをしてくるのに、珍しいなと俺は訝った。やたらぼうっとしている印象に、かすかな心配が頭をもたげた。話し掛けると、弱い笑みを浮かべて、声にも笑いを含んでいるのが分かり、兄さんも楽しんでいることが伺えた。単に疲れているだけなのだろう、俺はそう結論付け、久しぶりの緩やかな時間の流れに身を浸した。
しばらくすると海の音とその姿が俺たちを迎え、休日だという実感が血の流れに乗ってくるくると俺の中を遊んだ。
バスが止まった。


まずコンビニを探し、どうにか一軒見つけ、そこでいろいろ買い込んだ。
ビール、つまみ、お菓子、ごはんもの、サンダル、敷物。
どっさり詰まったビニール袋を携え、店を出ると、早速海へと向かった。
さすがに日焼けがまずいことになりそうなのと(撮影は延期になっただけで、すぐまた予定に入る)、水着がないことで、泳ぐのはやめようと話し合った。
もともと、足を漬けられればいいなと思っていたくらいで、海を見て、波の音を聴けるだけでも十分だった。それも、兄さんと。お酒を飲みながらなら、なおいい。
パラソルの貸し出しが始まっていたため、俺たちは一本巨大なそれを借りた。適当な砂浜に差し、シートを広げ、食事の支度をした。買ったサンダルに履き替え、熱せられた砂を肌で感じながら。
缶ビールを開け、かんぱーい、とぶつけ合う。
マスクを下ろした兄さんの頬が、既に赤味がかっているのを目にしながら、俺は喉を鳴らして中身を飲んだ。
冷えた、泡立つアルコールが体の管を降りていった。ぷぷぷぷぷ、と汗が浮く。
「うまーい」
 はあーと、盛大に息を吐き出すと、はははと兄さんが笑った。
「よかったなあ」
 食べ物をつまんで、もぐもぐと咀嚼しているようすを右半身で味わった。兄さんが食事をすると、小動物に似た風情があり、俺はいつも自動的に、満ち足りた気持ちになった。
かなり薄着な俺たちであったが、すっかり汗でびっしょりだった。ビールを飲んでいることが拍車を掛けた。しかしそれが不快じゃない。どんどん飲んで、どんどん汗にした。溶けて消えていくようだった。
遠く、水平線と空が混じる。
高い声でかもめが鳴く。
女性や子供の、甘い嬌声が空気に潜む。
ハーフパンツから伸びた自分の脛に、俺は日焼け止めを塗り直した。ついでに顔や腕にも。
「偉い偉い」
 破顔する兄さんに視線を向け、手を差し出した。
「余ったの塗ったげる」
 サンキューと答えられると、短い丈から飛び出たくるぶしや、足の甲に指を這わせた。すべらかな肌は、クリームの手伝いもあって俺の手に吸い付いた。
日焼け止めを付け足して、こっち向いて、と告げた。
「マスク取ってよ」
 言われたとおり取り払うと、傘の下で薄墨に染まった兄さんが、まっすぐに俺を見た。
まず、手。そこから上っていく。腕。
首。
顔。
両の掌で包み込むように頬を優しく挟んだ。
整った顔の、つぶらなふたつの目は、少し赤らんでいた。
「セフン」
 何、と、空気でしかないような声が俺の喉から漏れた。
「お前の手、…こんな、熱かったっけ」
 囁くように、兄さんは言った。
黒目がふるふると白目の上で浮いている。
帽子のつば同士がぶつかった。
兄さんの唇を、奪った。
互いの口が、その小ささがこのためだったかのように、ぴったりのサイズだなと、俺は頭の隅で思った。
兄さんが反射で顔を引いたけれど、手で押さえ、逃がさなかった。
数回啄ばみ、唇を離した。
 動いたら鼻先が擦れる位置で、互いの顔を固定する。
「…いやだった?」
 光る黒目から目を逸らさず、これほど近付いていなければ決して聴こえない大きさで、俺は尋ねた。
 兄さんは、浅い呼吸を繰り返した。ぱちぱちと幾度もまぶたを下ろして。
「いやなら、言って」
「あ…」
「ん?」
「…あつい…」
 そして目を閉じた。誘うように、上唇と下唇の間を作ったまま。
吐息ごと俺は兄さんを食べた。
二回目のキスは、ビールと海苔と、スナック菓子の味の、惑う舌を追った。


今、散らかり放題の部屋の中、俺たちは開けた窓から雪を眺めている。
真っ黒な空、そこにちらちらと白い小さなかけらが舞う。灯りを受け、黒を背景に色を際立たせるその姿。
冷気が兄さんと俺を襲うが、暖房と運動で火照った体には、むしろ心地がよかった。
兄さんの裸は、驚くほどに色がなくて、夜になると浮かび上がる。この雪のように。
そう告げると、お前なんて、俺より白いよ、と笑われる。そうかな、と思うが、よく分からない。確かに白いけど、兄さんの方が、と胸の中だけでなんとなく反駁する。
口元をほころばせて雪を見つめる横顔に、さすがに寒くはないかと、手を伸ばした。
耳から続く、顔の線、顎の骨のかたちを、確かめる。
掌を顔で受け止めながら、兄さんはこちらを振り向き、初めてくちづけをしたときのように、目をその白いまぶたで隠した。
「…あつい」
 手の上に頬を乗せるようにして、そう呟いた。
ここは、あの海岸。
いつでも何度でも、あそこに舞い戻る。
昼は夜に、かもめは雪に、砂浜はシーツに。
海は、俺と兄さんの体の内に。寄せたり引いたりを繰り返し、兄さんがまた、熱い、と零すのを、俺は貪るように聴く。



おわり





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trackback (0) | comment (2) | 短編〈リアル〉
殺伐とした世の中でございますので | 自分というもの

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2017/02/09 Thu 06:18:39
Re: ありがとうございました! : ミス・レモン @-
鍵コメH様

こんにちは!
お返事がほんとーーーーーーーーーーーに遅れてしまい、申し訳ございません!!!
書いてすぐ、ご感想をお寄せくださり、それに非常に幸せにしていただけたのにもかかわらず、今日にまでお返しを延ばす羽目になってしまったこと、返す返すも情けなく、謝罪の気持ちで一杯です。
すみませんでした;;

気に入っていただけた旨お聞きでき、心底嬉しく、よかったよかったと胸を撫で下ろしておりました^^
書きましたとおり、セフンとスホのカップルはこれまでにも書いたことがあったので、自分自身でも、また他の読者様にとっても、新鮮さというものを、カップリングのフレッシュさや意外性以外で出していかなければならないなと思っておりまして、そこに注意して書いたつもりでおります。
また、なれそめ、とのことでしたので、それなりの長さとしつこさが必要になり、焦らず書くことに注力いたしました。
これまで書いてきたこのカップルにおけるセフン(というかものすごく受けっぽい雰囲気のある真面目な人を相手にした攻めのセフン)は、いたずらっ子っぽいと言いますか、いわゆるモテ男的な雰囲気を醸し出しているタイプでして、それを抑えた、また違う一面を、このお話で見せられたらいいなと思いながら書き上げましたので、そのことが少しでも、H様、ひいては読まれたすべての方々に感じていただけることを切に願っております。

素敵な言葉をちりばめて拙ブログの小説をお褒めくださり、恐縮です><
恥ずかしさを感じてしまうほどのきらきらとした内容のご感想でございました。
まことに、ありがとうございました。

いくつかのご指示に関し、迷惑したとかそういったことはございませんので、お気にされないでくださいませ^^
もともと、そういうリクエストをいただいてみたいなと思っていたところがございますのです。

セフンとスホは、同室についての話を聞いたり、ふたりの会話を聞いたりしても、とてもいっしょにいやすいふたりなのだろうなと私もよく思っておりますので、H様のおっしゃるとおりの部分があるのかもしれませんですね。
私自身は、セフンは見た目のよさからストレートに大変モテますけれど、グループ内では実際はかなり普通の青年なのではないかという印象です。
兄たちのことを、変なの、といっつも面白がっているような気がしており、それを私はたびたびお話の中に盛り込んでいるように思います。
スホもそんな変な兄のひとりですが、きっとこの天然の気もあるリーダーの気苦労をよく分かっているでしょうから、さりげなく彼を気遣うことも多々あるのではないでしょうか。

それでは、このたびは、リクエストをしてくださり、こうしてご感想もお送りくださり、ほんとうにありがとうございました。
遊びに来てくださること自体、とてもとても嬉しいです。
いつでもまた、お越しくださいませ。お待ちしております。

※食器へのお言葉、ありがとうございます!
料理までお褒めいただいて^^
私も食器を集めるの、とても好きでして、骨董市やリサイクルショップやアンティークショップやフリーマーケットやインターネットでよく手頃なものを物色しております。
H様もお好きとは!
気が合いますね~^^
最近のお気に入りは、ネットで買った益子焼のミルクピッチャーです!
大きめのそれは、猫舌の私は湯冷ましとして使っております♪


フェリシティ檸檬
2017/02/21 Tue 00:11:54 URL

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