海の底、森の奥

- EXOの二次創作とオリジナルのBL小説を中心としたブログです。R18表現あり。お気軽にどうぞ。

20170207

ないものねだり(リアル短編・バレンタイン企画5)
待ち合わせ時刻に遅れそうになっていることに、セフンは少し焦っていた。
と言って、相手は多少待たされても怒ったりはしないこともよく承知していたため、走るなどの具体的な努力はしなかった。深い夜のような、暗い海底のような色の、カシミアのマフラーに唇まで埋まり、長く、細い脚をさっさと進めるだけだった。目の下、頬のもっとも高いところに触れる空気の冷たさに目が知らず細まった。黒縁の、長方形型の伊達眼鏡を掛けていたが、どんどんと内に潜んだ目から潤いが奪われていくのを感じた。
紐で編まれたブーツの底と道路が触れ合い、かっかっと、高い音が響く。
マフラーと同系色のコートは軽く、大きく、とても暖かい。セフンは腕組みをしたまま、大股で街をすり抜けていた。


大型デパートの一角、高級靴を揃えた、たたずまいも非常にクラシカルなシューズショップの店頭に、チャニョルが立っていた。
こんな店に来るにはカジュアルすぎるようにも感じる格好―――キャップに分厚いジャンパー、よく履いているデニム地のパンツ、リーボックのスニーカー、基本色はすべて黒―――で、並んだ靴を凝視している。巨大な目の、黒目横の白目が、こうこうと光る蛍光灯を照り返し、セフンの目を射した。
こんなに見つけやすい人間もいないな、と毎回姿を目にするたび思うことをまた思いながら、セフンはつかつかと兄の元へと歩み寄った。
「お待たせ」
 足音に気付きセフンを向いていたチャニョルは、その言葉にほとんど被せるように、おお、来たな、と呟いた。
「実際、待った?ちょっと遅れたかも」
 腕にはめられたロレックスを、チャニョルは気のないふうに確かめる。
「うん、まあちょっとな。でも全然気付かなかったし」
 腕を戻すと同時に、すぐその視線はきらきらと光る皮の、黒から茶のグラデーションを展開する靴の波に落とされた。俯いたためにマフラーで口元が隠れたチャニョルは、らんらんと輝く目だけがセフンに映った。
「ならよかったけど。ごめんね」
 言いながらセフンも並んで靴を見下ろした。
魅惑的な職人の手仕事の成果が、彼らふたりを手招きしていた。どれもこれも、女たちが幻惑されるとりどりの色彩の宝石のように、全身を輝かせて若者たちを誘う。
 店員が、客の素性になんとなく勘付き、声を掛けようかどうしようか迷っているのがセフンに伝わって来た。おそらくチャニョルも感じているはずだとセフンは思った。だがチャニョルはあまりそういったことに頓着しない。用があればどんどん話しかけ、なければ自分の目的に没頭する。セフンはチャニョルといると、周囲への対応に兄以上に頭を巡らせることが往々にしてあった。ひどく気を使うとかいうことではなく、ただ、面倒なことにならないといいな、という程度の、ちょっとした配慮だった。
少しずつ足を横に動かし、チャニョルは品を吟味している。
こちらをちらちら伺っている視線を意識しつつ、セフンはチャニョルの目の先にあるものを共に見つめた。
フォーマルな靴、新調したいとチャニョルがゲームをしながら漏らしたのは数日前だ。
テレビ画面から目を離さず、お前付き合えよ、という言葉を投げ掛けられ、セフンはソファに長くなって雑誌をぱらぱらとめくりながら、うん、いいよと答えた。
この兄と過ごす時間は年を経るごとに増えてきている。
いっしょに暮らすようになったくらいの年頃は、それほどでもなかった。だがセフンが成長し、大人びてくると、その独特な姿勢や態度がチャニョルと妙に相性がいいらしいことを、双方が感じるようになった。
磨かれた白い床の上で、またセフンの靴の裏が、耳心地のいい音を立てる。チャニョルの動きに合わせたり、合わせなかったりしながら、棚に置かれたたくさんの靴に目を留めていく。ふたりでこうしていると、否応なく楽しさが腹の底から湧いてくるようなところが、どちらにもあった。
チャニョルはセフンがたまに、本気で笑って、呆れるくらい、直情的な性格だった。子供っぽいと言ってしまっても差支えがないほど、その好みやふるまいは率直過ぎた。無論、きちんとした、世慣れた大人ではある。同い年くらいの青年と比べて、むしろ老成している箇所もあるだろう。だがそうした部分の印象をすべて拭い去ってしまう、笑ったり、泣いたり、叫んだり、怒ったりの感情の発露を頻繁に、全身で行った。目にすると、セフンはどれであっても反射的に微笑んだ。そういうところが自分にはないせいで、ある種慣れることがなかった。自身と違うもの、それは顔立ちから何から、すべてに言えたが、その結晶とも言うべき存在がチャニョルであった。だから時間を共有するとわくわくした。とにかく、期待が胸に渦巻く。
焦げ茶のひとつを、チャニョルがぱっと手に取った。
それを察した店員が、出番とばかりに体が前のめりになったのをセフンは目の隅で捉えた。
「すいません、試したいんですけど」
 かしこまりました、と慇懃に応じる男性店員のあとについて、チャニョルは試着用の椅子に腰掛けた。セフンもそれに続き、立ったままふたりのようすを眺める。
素早い、プロの手つきで紐を解き、チャニョルの足をその靴で覆っていく。体を表し大きな足は、大きな靴の中にすっぽりと納まった。
「かっけー」
 紐を蝶結びにされ、両足共に装着すると、爪先を上げ下げして艶を楽しみ、さっと立ち上がって歩き出した。
「うん、ちょうどいい」
 さようですか、と片膝をついたまま、笑顔で店員が言い、大変お似合いです、と付け足した。
「ど?」
 くるりとセフンを振り向き、唇の両端を上げてチャニョルは尋ねた。
うーん、とセフンは口元に指を置き、
「もうちょっと全体におっきめの方が兄さんぽいかも」
と答えた。
「そっか?」
「うん、似合ってるけど」
「ふーん。まあ、他のも試そう」
 すいません、ありがとうございました、と言うと、早速脱ぎにかかる。
粛々と手を貸す店員の手元を見つめるチャニョルをそのままに、セフンは店内を物色し、兄に似合いそうな靴を選び出そうとしていた。


エスカレーターに乗ったふたりは上がセフン、下がチャニョルだ。
靴屋はデパートの上階にあるが、エレベーターなど使うと何が起こるか分からないため、のんびりエスカレーターで、ぐるぐる下まで降りる途中だった。チャニョルの手から大きな紙袋がぶら下がっている。
「思ったより早く決めたね」
「いっつもそんなにはかかんないだろ」
「かかるときはかかるでしょ。靴って試着必須だし」
「まーな。結局ふたつとも買っちまったし」
 すっからかんだよ、と嬉しいんだか悲しいんだかという顔でチャニョルは零し、持っている紙袋をぶらぶら揺らした。
「似合ってたよ。どっちもいいと思う」
 そんな兄のさまを見て、セフンは微笑を浮かべて告げる。
「お前面白がってんな」
「うん、面白い。まじでどっちも買うなんて」
「お前な」
「似合ってんのはほんとだよ」
 ゆるゆると下るエスカレーターが到着し、その次の階へと降りる、動く足元にセフンが爪先を掛けると、後ろから若い女性たちのにぎやかな声がし、ぞろりと並ぶのが分かった。
セフンは乗っていた段よりひとつ下に足を下ろし、チャニョルとくっつくような格好で顔を隠した。チャニョルも横を向き、マフラーをずり上げる。
ふたりは目だけで会話した。
兄の目尻の皺、弟の根菜を半分に切ったようなまなこのかたち。
数秒、チャニョルの目がセフンのそれから下に下りた。
不思議に思ったセフンは小首を軽く傾げたが、相手からは何の反応もなく、また次の階へと着いた。
おしゃべりを続けるグループは、幸いふたりの正体に気付かぬまま、婦人服売り場へと消えていった。
ほっと胸を撫で下ろし、最後のエスカレーターに足を進めながら、セフンはチャニョルのおい、という声を聞いた。
「ん?」
 ひとつ間を空けて足を着いたセフンに、たん、と段を上がってチャニョルは近付いた。
 唇を至近距離でじっと見つめられ、セフンは眼鏡の奥から、人とはまったく違うふたつの目の上の瞬きを見て、兄の次の言葉を待った。
「やっぱな」
 チャニョルの大きな親指が、セフンの唇に乗った。ぐいぐいと表面を擦られ、セフンは思わず目を瞑る。
「なっ、何」
 唇だけでなく、その周りも入念に擦られ、かすかな痛みすら感じてセフンはのけぞった。
「何すんの」
 ようやく手を離されると、一階に着いていた。
歩きながら、セフンはマフラーをきっちりと口まで巻いた。
「ほら」
 横に立つセフンに、出口に向かいながらチャニョルは親指を見せる。
そこは拇印を押したときのように、指紋が浮き出ていた。薔薇のような色で。
いやらしい笑みを広げてチャニョルはセフンを覗き込む。
顔を背け、隠したばかりの唇をセフンは手の甲で拭った。もう、ほとんど色はない。
「気ーつけろよー」
 くくくく、と笑って兄は言う。雑な動きで肩を組む。
「うるさいなあ」
「はっはっは」
 重たい扉の向こうに出ると、ぴりぴりと冷えた空気がふたりを迎えた。
「なんか食って帰ろーぜ」
 ポケットに手を突っ込んでチャニョルは誘い、セフンはその白い顔に心持ち色を乗せて、兄の歩調に自分のそれを合わせる。
冬の街は夜に備え、太陽に頼らず、そこここで光を発し始めていた。



おわり



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ EXO RANKING ⊿⊿
FC2BLOGRANKING
( korea boys rank ) Kiss&Hug.
にほんブログ村テーマ BLラブへ
BLラブ
trackback (0) | comment (2) | 短編〈リアル〉
自分というもの | むしろ皆様の書かれたお話が読みたいものです、ほんとに

comment

管理人のみ閲覧できます : @
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2017/02/08 Wed 11:39:26
Re: ありがとうございます<m(__)m> : ミス・レモン @-
鍵コメY様

おはようございます!
そして、お返事、本当に遅くなってしまい申し訳ございませんでした!!
初めて拝読したときも、その後読み返したときも、今またもう一度読ませていただいても、ほんとうに嬉しい、ありがたいお言葉に心が震えました。
ありがとうございました!!

わたくし、受験とお聞きし、ほんとうにどきどきいたしました!
息子様、きっと今までも、受験当日も頑張られたことでしょうね…!
Y様も大変でらしたでしょう><
お疲れ様でございました!!
何か労いになることができればいいのですが…。
企画が少しでもそうした役割を果たしていればいいなと、心底願っております。

それにまた、ブログの方でもお教えいただきましたが、お仕事もお忙しいとのことで…!
お疲れ様でございます!!(__)
きっとくたくたになってらっしゃることも多いでしょうに、私の元に足を運んでくださり、誠に感謝にたえません。
今日はお休みでしょうか?違うかな?
ご無理はなさらず、美味しいご飯やおやつを食べたり、眠れるときにたっぷり眠ったりして、体を休めてくださいませね。

拙ブログのお話、もちろんどんな風に読んでいただいても結構でございますよ!^^
ベッドに寝っ転がりながら、読みながら寝てしまわれるとか、私すごく嬉しいです。
はっと目を覚ましてとりあえずぼんやり読んでみる、なども。
何かそういう、生活の一部になっている情景というのは、私の願うところですので、聴くと心が温まります。
それに、Y様にこのお話を楽しんでいただけたと知れて、大変嬉しかったです!!
やはり、ほんとうにBLをお好みになる方や、メンバーに彼女ができることをつらく思われる方などは、こういう含みを持ったお話、あまり好まれないようでございまして…。
Y様がどのようなものでもOKとおっしゃってくださったことに甘え、自分の思い通りに書きすぎたのではないかなと、アップしてからかなり不安になったのです。自分としては、特に冬の情景として、何かとても気に入っていたのですが。
それをすぐさま、広いお心で世界を堪能してくださった旨のコメントをお寄せくださることで払拭してくださって、改めてY様というお人の素晴らしさに思いを馳せた次第でございます。
まことにY様は、私をいつも救ってくださいます。

Y様が私の話を読んでくださり、その最中や読後に、あれこれ想像したりされているということをお聴きするたび、これこそ読んでいただく醍醐味であるよなあと実感いたします。
背の高いふたりがのろのろエレベーターに乗っているようす…、そう、それを思い浮かべていただきたいなあと思っておったのです。
チャニョルのO脚!!(笑)
そうなんですよね〜!さすがY様と思いました!^^

セフンの唇についていたのはいったいなんだったのか…!?
それほどの謎というわけでなく(笑)、シンプルに考えていただいてもまったく構わないのですが、Y様のように想像や妄想を膨らませていただくと、また違ったふうに楽しめまして、物語が広がるだろうなと思います。そんな風にお読みくださって、ありがとうございます!^^
もし口紅だとしても、相手は女性とは限りませんしね!
仕事後に…取り損ねていたのを…とかね!

Y様…ご兄姉間でご苦労をされてきたんですね><
それはそれは、大変な思いをされたことでしょう…!
はらはらしてお兄様やお姉様を見守るY様を思うと、胸を締め付けられるようです。
Y様のおっしゃる通り、きっとセフンも似たような気持ち、いだいていたでしょうね。
あのような性格を持った彼だからこそ末っ子として配置されたのでしょうが、それでも、辛いことが多かったのは想像に難くありませんよね。
そんな彼が、リラックスして、ほんとうの兄のように楽しく一緒の時間を過ごせるチャニョルと、ショッピングしている…そんな様を描けて、わたくし大変楽しく、幸せでした。
スタイリッシュな彼が風を切って速足で街を抜け、デパートで靴を見、友人であり、家族である兄と並んでまた、冬の街へ繰り出す。
ほんの一瞬のできごとと言ってもいいようなものではありますが、実際もこういうことが行われているのではないか、というような気分に浸っていただけるお話になっているといいなと、心から思います。

「ないものねだり」とは、本来若干ネガティブなニュアンスを含んでいる言葉で、正しい使い方ではないのですが、この話ではいい意味、と言うか、ちょっと捻った意味合いでつけてみたタイトルでございます。
それを汲み取っていただけて、幸せです^^

他の作品もすべて読んでいただけているとは…嬉しい!!;;
以前同様、グループミックスもお楽しみいただけて…!
そう、正確にはヘウンというんでしょうか?ドンへ×ウニョクですね〜。
受けにされがちらしいドンへ氏ですが、私はリバでもいいのですが、とにかく攻めって感じがいたしまして。彼。
ウニョク氏のコンプレックス、きっとその関係性の中でもいかんなく発揮されることだろうと思います。
フンミンの方は人気がありまして、やっぱりなあと思ったり。
ニョルカイ、あのあと評価が盛り返した感があります(笑)
そしてベッキョンとシウミンのお話、ベクデレ期継続中のY様のお気に召したものになっておりましたでしょうか?そうであるといいなあ。
もしまた何かこんなことも思ったよ、というようなことがございましたら、お気軽に、簡単にでも結構ですので、お気が向いたときにお寄せくださいませ^^

いつもいつも、ほんとうにありがとうございます。
少し、暖かくなった気がいたしますが、きっとそれも三寒四温という感じでしょうから、お忙しくもしてらっしゃいますし、体調、十分お気をつけ下さいませ。

心からの感謝を込めながら、返信とさせていただきます^^

また、お待ちしております♪


フェリシティ檸檬



2017/02/18 Sat 07:12:34 URL

コメントを送る。

URL:
Comment:
Pass:
Secret: 管理者にだけ表示を許可する
 

trackback

この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
  • ミス・レモン
ようこそお越しくださいました。
EXOのメンバーを登場人物にした二次創作BL小説や、オリジナルのBL小説、好き勝手なことを綴った雑記などを置くブログでございます。
内容を読んでのコメント、メッセージなど、いつでも心よりお待ちしております。
よろしくお願い致します。

最新記事

人気投票 1

人気投票 2

人気投票 3

人気投票 4

人気投票 5

ブログ村

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 韓流二次BL小説へ

人気ブログランキング

アクセスカウンター

有料アダルト動画月額アダルト動画裏DVD美人フェラポルノ動画フェラ動画美人フェラ無修正アダルト動画フェラチオ動画無修正フェラ
アクセスカウンター高画質アダルト動画無修正フェラ動画アダルト動画無修正アニメ動画海外アダルト動画
無料カウンター無修正DVDクレジットカード
無料アクセスカウンターウォーターサーバーアダルトグッズランジェリー無修正盗撮動画AV女優名教えて
ブログカウンター