海の底、森の奥

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20170202

ステップ・バイ・ステップ(リアル・グループミックス短編・バレンタイン企画2)
会議室の大きな白いテーブルに腕を伸ばして突っ伏すと、頬や掌がひやりとし、一瞬体が強張った。
ミーティングを終え、もう帰ってもいいというのに何をしているんだかと思いながら、俺はその体勢のまま目と口を開けじっとしていた。丸い、シルバーフレームの伊達眼鏡が邪魔だったが、放っておいた。歪んだガラス越しの世界は、今の気分に合っている気もしたのだ。
背後の窓からは、まだ明るい空が覗いていることを知っていた。薄い青に、筆で擦ったようにかすれた雲が乗っているのも。
たとえそんな快い天気が外に出たら俺を迎えてくれると分かっていても、このあとの約束を思うとまったく気は晴れなかった。
会いたい。
会いたくない。
会いたい。
会いたくない。
会いた。
花びらで行う占いのような文言を、頭の中でくるくると繰り返した。
乙女か!と自分に突っ込みを入れつつも、それをやめることはなかった。まっさらな本音であったから、ハムスターの運動よろしく車輪がひたすら回転するさまに似た言葉の弄びを、ただ続けた。味気ないテーブルの冷えた感触が、俺の鈍った思考を少しだけ冴えさせる役目を果たした。
立て。
行くんだ。
そして、言え。
前髪が眼鏡のレンズにかかり、歪んでいるどころか視界は遮られた。腹の底から息を吐き出す。無意識のうちになじみの曲のステップを爪先だけで踏んでいた。踊りたいなと漠然と、しかし強く思う。踊って踊って汗を流し、何もかも忘れて眠ってしまいたい。
ぴーぴー、と、鳥の鳴く声がかすかに部屋の中まで届いた。まるで俺のステップに合わせたかのようなタイミングに、ふふ、と軽く笑いが漏れた。
ごっ、がちゃ、と、頭の上から派手な音が降って来て、俺は慌てて体を起こした。
ドアを開けた格好の、後輩グループのセンターを務める若い男が、そこに立っていた。
「ジョンイン」
 あれー、兄さん、こんにちは!とその独特のたわんだ声で言いながら、無邪気な笑顔を浮かべてぺこっと頭を下げ、後輩は近付いてきた。
「どうしたんですか?ここ、もしかしてまだ使ってます?」
 背の高い、スタイルのいいジョンインが立った姿で俺を見下ろす。相変わらず飾り気のない服装をしているが、ほんとうに何を着ても似合う男だと、改めて俺は嘆息した。心の中だけで。
「いや、終わってんだよ。俺が勝手に居残ってるだけ」
「あ、そうなんですか。打ち合わせここだって言われてたんで、来たんですけど。俺ちょっと早く来すぎちゃって」
 被っていた帽子を取り、くしゃくしゃと髪をかき混ぜるさますらひどく見惚れるものがあった。俺は見上げて、さぞ呆けた表情だろうと自分でも推測できる顔をこしらえ、そっか、と応じた。
「座れよ。俺もう、すぐ行くから」
 椅子の背に手を置き、ジョンインを促す。
照れたような顔つきで、その言葉に素直に従い、長い脚を折りたたむようにして俺の隣に座った。
「久しぶりですね」
 決して社交的とは言いがたいジョンインは、やはりシャイな印象を拭えない視線やしぐさで俺に向かった。こんなに体が大きく、セクシーで、ステージではあんなであるのに、話し出すと世慣れない高校生のようだった。そこが俺は気に入っていた。いっしょにいると、ひどく自分が大人になったような気になった。実際もう、若いとは言えない年齢になってきているのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、年というのは重ねても、簡単にそれに追いつける感じがしないのはいったいどうしてなのだろう。
「おう、会ってなかったなあ」
「…ダンス教えて欲しいのに」
へへ、と唇の端で笑ってジョンインは横目で俺を見る。広い肩をすくめ、鼻を指先で掻く。ほんとうに、高校の部活の後輩に接しているような心地に、俺はいっとき酔った。
「教えることなんてねーだろ」
「そんなことないですよ。ほんとに、教えて欲しいんです」
 俯いて唇をきゅっと結ぶと、かかとと爪先でとんとんとステップらしきものをジョンインは踏んだ。そう、こういうタイプだ。じっとしていられない。気付くと音を追っている。
 リュックサックの中を漁り、ペットボトルを取り出すと、スポーツドリンクらしきものを含み、口を締め、ジョンインは俺をまたちらりと見た。
「兄さんとか、…イーシン兄さんとかのダンス見てると、焦ること多くって」
 そのすばらしい肉体をそっけない服で隠し、それどころか体を縮こまらせるようにして俺の前に腰を下ろしている後輩は、俺の求めてやまないものをすべて持っていた。初めて会ったときから、そうだった。
「何言ってんだよ」
 つやつやとオリーヴ色に光る、線の入ったまぶた、鼻の頭、閉じた唇に俺は目を走らせた。
視線が俺のそれと絡む。
上目になると若干三白眼の気味があり、それがこいつの持ち味だなと俺はよく思っていた。おれ自身は斜め横、左から映したときが一番映えると自覚している。そういうふうに、自分の見せ方を心得るのはこの仕事において欠かせないことのひとつだ。どれだけ同様の試行錯誤を行ってきたか、もうすべては思い出せないほど、長い年月、心血を注ぎ続けた。
「どれだけお前が恵まれてるか、分かってんのか?」
 ふっと微笑み、ジョンインの肩を掴んで軽く揺らした。
そんな、と零す相手をまっすぐ見つめると、同じようにさまざまな恵みを一身に授けられた、約束の場所でもう待っているかもしれない仕事仲間が思い出された。
整った目鼻立ち。特に笑うと目尻の垂れる、誰もが憧れてやまない双眼。犬のような、愛嬌の溢れる口元。均整の取れた全身、それは何かに操られているかのようによく動く。声だって。甘く、女に囁くには完璧だ。
そういう男であるのに、時折、女でなく、俺に囁く。何を囁くって、愛をだ。あの、顔と体と、声で。
女と別れては、思い出したように俺の元へやってくる。ふざけて、しかし五回のうち一回は本気で、俺に告げる。近寄る。触れる。くちづける。
もちろん俺は拒む。なんだと思っているのだと。俺は男だ。俺は女が好きだし、お前に構うわけがないと。絡んだりなんだりはすべて仕事で、本気にするなんて馬鹿じゃないかと。
よく俺たちは含みを持ったパフォーマンスを舞台で行う。それは客へのサービスだ。そういう、倒錯した、セックスアピール。
だが何度も何度も、大勢の前で、スポットライトを浴びて、子供のようなときから共に過ごす、家族より濃密な関係の俺に対しそういう行為を行うことで、あいつの何かが狂ったらしい。女と寝るくせに、いつだって、俺のことを好きだと言う。しかたないからさ、などと。お前がうんって言わないからと。
何も考えていないようなぼんやりした顔をして、なのにいつの間にかしなやかな体で俺と張るダンスを踊り、そうしながら豊かな声で歌い、光るまなこで流し目を見る者に送る。信じられない、なんなんだこいつ。練習に練習を重ねた、研究し尽くした動きを行いながら、俺はそいつと密着する。嫉妬と焦燥が体を焦がすようになる。けれどそれが得も言われぬ快感だ。溶けるかもとすら危ぶむ。
 戸惑ったジョンインが、ペットボトルの蓋を開けようと、ひねった瞬間手からボトルを滑らせた。
俺が思わず手を出すと、受け止めたはいいがジョンインの手に中身が少しかかった。
「あっ、わりい」
 慌てて謝ると、ジョンインこそ焦って返す。
「いや、そんな、ごめんなさい、取ってくれて助かりました」
 きれいな指から緩くにごった液体が滴る。中指の、シルバーのリングが濡れて光った。
 ポケットを探り、ハンカチを取り出し、ジョンインの手を取った。さっさっ、とぬぐい、水分を吸う。
「汚れちゃいます、いいです」
「いいって。とりあえずふかないとあちこち零れるから。あとで手、洗えよ。これべとつくぞ多分」
「…すみません…」
 おとなしくされるがままになったジョンインは、しょんぼりと自分の手と俺の手を俯瞰した。
「…珍しいな、指輪なんかして」
 笑みを含んだ声で俺は言った。汚れたそれも丁寧に布で拭きながら。
「…そ、ですね」
 詰まったような声で答えてくるものだから、俺は下げていた視線を上げた。ぱちぱちと目をしばたかせるジョンインは、口角を下げて押し黙った。
これは。
そういうことかと勘付くと、からかいたい衝動が俺を襲った。が、複雑な表情を浮かべるジョンインを目にするとまるで自分自身のようで、顔に笑みを溢れさせるにとどめ、十分きれいにした手から手を離した。
「ほら、おわり」
「ありがとうございます、…ほんとにごめんなさい」
 かたちのいい頭を下げるとなめらかなうなじが見えた。はらりと落ちる前髪の流れも、まるで踊りの一部のようだ。そういうふうに感じさせられる人間など、この世にどれだけいることか。
「大丈夫だって。このブランドのハンカチ山ほど持ってんだよ。まじで気にすんな」
「え、洗って返しますよ、もしくは弁償…」
「いーから!へーきなの。こんくらいなんてことない」
 困った子犬のような風情をたたえ、ジョンインは俺を見てくる。また、あいつが頭に浮かぶ。
眼鏡を外し、目を擦る。
あいつのまなざし。声の高さ。唇の温度。舌の味。
好きだ。
ねえ、どうしたらいい。
こっち見ろって。
手首を掴む力の強さ。皮膚の感触。香水のかおり。吐息の色。
逃げていた。振り向きながら、まだ付いてきていることを確かめながら、ずっと、逃げて、逃げて、逃げ続けていた。いつかきっと足を止める、そう予測し、期待し、願い、恐れて、ここまで来た。
今日、俺は、再び逃げるのか。
視界にジョンインを入れると、不思議そうなようすでこちらを覗いていた。
「…どうか、しました?」
「ジョンイン」
「はい」
「それ、おそろい?」
 目で指にはまった先刻の銀の輪を指す。
視線を落としたジョンインは、数秒してから俺を向いた。
「……はい」
 頬の上にほうっと赤味を乗せて、ジョンインは笑った。どこか子供っぽい笑顔。幸福の露見。
そのようすになぜか心打たれた俺は、また脳内の回る車の音が、からから、からからと響いてくるのを、黙したまま感じていた。
会いたい。
会いたくない。
会いたい。
会いたくない。
会いたい。
会いた。
「い」
「い?」
 ぽかんとしたジョンインの目前で、俺は勢いよく立ち上がった。
「俺、行くわ」
 鞄を引っつかみ、ドアへと向かう。
まだ陽は白い。葉のない木が、枝を存分に頭上へ向け、あちこちに鳥を乗せている。
取っ手を掴むと、声が追ってきた。
「ヒョクチェ兄さん」
 振り向くと、長い腕が俺の方に伸び、手の中で眼鏡と指輪が銀に輝いていた。
「さんきゅ」
 受け取ると、きっちり、曲がらないよう、耳にかけた。
立ったジョンインに笑いかけ、
「今度ドンヘと、お前踊るとこ、見てやる」
と告げると、ぴい!と鳴いた鳥が、さっと枝から飛び立つのが、ジョンインの背後の空の中、俺の目に映った。



おわり




 


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2017/02/07 Tue 00:07:51
Re: さらに零時になりました : ミス・レモン @-
鍵コメT様

こんにちは!
こちらのお言葉に、お返しができる喜び…うう…;;

とにかく遅れまくってしまい、申し訳ございませんでした!
コメントいただけたときはすっごく嬉しくて、いそいそと読みましたです。
疲れも吹っ飛ぶ勢いでした。

わたくし、T様がおっしゃるそのウニョク氏の発言、存じませんでした。
読ませていただき、すごく彼らしいなあと思いました。
私自身、ウニョク氏やスーパージュニアのことに関して、まったく詳しくなく、むしろ友人の専門分野なのですが、書いてみたいな、という衝動はいつも抱いているという感じでございます。
それでこれまで、ちょこちょこと書いてきたわけですが、T様からまさかリクエストをスジュの中からいただけるとは夢にも思わず、そして驚きながら、T様が私の気持ちを察してくれたような気が勝手にいたしまして、喜びに浸りました。
今回の企画の中で、書く前にもっとも悩んだ一作となりました。
そして書いてみて、このカップル、もう少し書いてみたいなと思いました、やはり。
きちんとは登場していないドンヘ氏が、よく受けなようなのですが、私としては彼はどちらかというと、どころではなく完璧な攻めなように思えます。まあ、リバーシブルでもいいというか、受けでもいいのですけれど、基本的な心構えが攻め、という感じです。ディオにも思いますが。おそらくこちらから窺える性格から、そう読み取っているのでしょう。

先の返信にても書きましたが、カイを出す、ということを決めるまでも時間がかかりまして、それはカイとウニョクだと恋愛するとなるとめちゃくちゃ大変だ、とちょっと想像するだけでも分かるからでございます。短編じゃ間に合いません。それにカイがウニョクを好きになるということが考えづらすぎまして。
だいたい、恋愛を絡めるのか否か?ということもありまして。
T様はどちらでも構わないだろうけれど、せっかく初めて出すのだから、ウニョク氏の恋バナがしたいなという気持ちもあり、あらゆるメンバーを思い浮かべ、結果ドンヘ氏になったのです。
S様へのご返信でも言いましたが、ドンヘ氏の攻めを想像するととても萌えます。
彼はハンターだと思うんですよね。すごく本能的な方なので。
それに、彼に狙われたら終わりな気もするんです。
そんな恵まれたドンヘ氏とカイ、あまり恵まれていないところも多いかもしれないウニョク氏(相対的なことですが)。
しかし世間で言われているように、私はウニョク氏を不細工だとは思いません。魅力的な、珍しい顔立ちですよね。
彼は自分をそうだと思うというより、多くの人がそう思っているということへの自覚が強いタイプだと思います。ベッキョンにある種似ています。努力家なところも。
私はそういう人、とても好きですし、今回書いて、これまで以上にウニョク氏を好きになりました。書くと、そうなるんですよね。

お忙しかったT様(ほんとうに、ほんとうにお疲れ様です…!私がお手伝いできることなど、こんなことしかなく、悲しい限りです)に、少しでも憩いのお時間を作る手助けができていたならいいですが…。
ウニョク氏がひんやりしたテーブルに顔を付け、少し頭がすっきりしたような効能が、T様にとってこのお話にあったなら、私はもう、これより嬉しいことなどございません。

ちょっとぼろぼろになりかけた私でございますが、こうしてお声をお聞かせくださる方がいらっしゃって、すぐのお返しが難しく心苦しくはあったのですが、ほんとうに励まされました。
ありがとうございました。

羽で織ったすてきな銀白の衣にはなれなくとも、私の好きな肌触りと通気性のいい(笑)綿の色とりどりの布にでも、この企画の物語群がなれていたらと思います。
きっとご家族とすてきなバレンタインデーを過ごされたT様。
すばらしいリクエスト、ほんとうにありがとうございました。

パンはなかなかにおいしかったです!^^

フェリシティ檸檬



2017/02/16 Thu 15:51:48 URL

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