海の底、森の奥

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20170201

群青(リアル短編・バレンタイン企画1)
染みひとつなかった白いクロスには、今や点々と模様が描かれていた。意識して、そうしようとして落としたわけではない、ジョンインの飛ばした飛沫によって。
照明は半透明のざらついた質感のガラスの中で輝くことで、周りに柔らかく光を投げていた。そしてテーブルの上のあらゆる皿に、もうあまり何も乗っていないのを照らした。
気に入りの黒い革靴は、変わらずしっかりセフンの足を覆っている。自身にも、もちろん目の前に座る相手にも見えるわけがなかったが、それを履いているということで少しだけセフンの心に平穏が訪れ、同時に自信も持ち得た。
セフンはほとんど満腹で、長い腕で頬杖を付き、正面の男を笑みを含んだ独特の目元で見つめることをただしていた。白い鼻梁や頬、顔を包む指が、灯りに染まってオレンジに近く見えた。
彼の視線をたまに上目でジョンインは受けた。残り少なくなった料理を、目に留まった順に片付けることに余念がなかった。分厚い、芋虫に似た唇から油が取りさらわれている時間は皆無と言ってよい。弱い光源であるはずが、橙の灯火がそれを捉えると油は化粧のようにぬらぬらとよく光った。セフンはなるたけ、そこに目をやらないよう気を使った。見たいという願望と、見た際の自身の妄想の暴走への懸念を天秤にかけると、懸念がいつも勝った。ふいに視界に入ったら、さっと黒目をスライドさせた。ひと呼吸を置き、またジョンインを見る。脚を組み、きゅっと縛られた靴紐を意識する。
 ワインはあと少し、残っていた。グラスはセフンの方は底に少量溜まっており、ジョンインの方は空だった。ボトルを取り、向こうのグラスにセフンは注いだ。濃い赤紫が小さい口から吐き出される。これでおしまい、と呟くようにセフンは言った。
「サンキュー」
 ようやくジョンインはナプキンで口を拭った。ぷる、と揺れて現れた唇は、もう表面が誘うように濡れてはいなかった。妙に強い目線になっているだろうと自分で思いながら、セフンはみずからにそこを見つめることを許した。もう目にしても大丈夫だという確信を持つためだった。しかしいささかの集中を持って注視するそこは、儚げな縦皺が入った、閉じていようが開いていようが生命の詰まった魅惑的な部位であり、慌ててまた目を逸らした。
 かつん、と、ジョンインがフォークを皿に当てた音が鳴る。
メインの、鶏肉をローストして独特の甘辛いたれをかけた料理のかすと、彼は格闘していた。ひどく気に入ったようで、ひとくち含んでおお、うまい、と感嘆すると、あっという間にだいたいひとりで平らげた。
空になった皿を見渡し、ふうーと嘆息すると、ジョンインは顔を上げ、言った。
「デザートそろそろ来るかな」
 言うや否や、音もなく店員がセフンの背後に現れ、失礼します、と声を掛けた。
フランス料理と言ってもそこまで格式ばった雰囲気のない、創作フレンチと言った方が正しいこの店では、ジョンインはコースでなく適当に食べたいものをオーダーした。ベッキョンに教えられ、時間があるときふたりで訪れているらしいが、気に入ったジョンインはこうして彼以外とも顔を出し、好きなように食べた。味がよく、量が多く、個室に近い作りの席が多くあるため、重宝しないわけがなかった。その上店内のしつらえや店員の働きの質も高いのだ。端的に言えば、デートやちょっとしたお祝いに最適だった。
だが今日のこれはデートではない。お祝いでも。そんなことはセフンにとってどうでもよかった。
ジョンインからこの店のことを聞き、俺も行きたいとセフンはねだった。そんなにいい店なら、行ってみたい。おいしいご飯食べたい。にこにこしながらジョンインに言った。たいていセフンがそうすれば、嫌だと言える兄はいなかった。少し押しただけで、誰も彼もが彼の要望の前に折れた。そのこつを、いつの間にかセフンは体得していた。どうしたらそうできるのかなど、人に説明できるものではなかったが。
隙のない、今一番彼が自分に似合うと思っているシャツにジャケット、パンツに身を包んだ格好で、セフンは仕上げにぴかぴかに磨いた黒く輝く靴を履いた。対してジョンインは、シャツにセーター、よく履いているパンツというカジュアルさだった。それでも確かに彼は誰よりも目を引く美しさだった。ほんとうに人間とは不公平だということを思い知らされつつ、それとはまた別にセフンは少しだけ、ほんの少しだけ心に傷を付けながらジョンインがおー、かっこいいなーお前、と破顔するのに微笑で応じた。変装も兼ねてふたりとも伊達眼鏡をかけた。セフンは自分たちがどれだけ姿がよいか分かっており、そういうふたりであることに慰めを見出した。ジョンインももちろん自覚がないではなかったが、そういうことをそれほど意識しないのが彼であった。
きびきびとした滑らかな動作で皿がそれぞれの前に置かれた。
セフンにはチョコレートケーキと果物、ジョンインにはラズベリータルトとバニラアイスクリームが、魔法のように盛り付けられていた。
「きれーだなー」
 見惚れたようすでジョンインは零した。
甘味はひとつひとつが星屑のごとく白いプレートの上で瞬いていた。
「すごい色だな」
 きれいすぎる、とジョンインは言いながらフォークで濃いピンクの乗ったタルトを刺した。
「なんか、チャニョル兄さんっぽい色だなあ」
 ジョンインがフォークの先を口の中に運ぶのを、自分への戒めを忘れて眺め、セフンは言った。
紅を塗ったようにまた、ジョンインの唇はより活気付く。そのうちに見事な羽を持つ蝶になるために、せっせと腹を満たす巨大な青虫。
「チャニョル兄さん?」
 もぐもぐ頬を膨らませ、ジョンインは聞き返した。
「うん」もう、セフンはジョンインの唇を見るのをやめることをしなかった。「なんか情熱的な感じ」
「へー」
 しずしずとコーヒーと紅茶が運ばれてくる。温かな、優しい湯気。茶色い、丸い、砂糖の塊。どこまでも白いミルク。
セフンはコーヒーにミルクを、ジョンインは紅茶にミルクと砂糖をふたつ、入れた。スプーンが縁に触れ、ちり、ちり、と鳴いた。
ラズベリーがころりと、シロップと共に皿に落ちる。
ずっと以前から、ベッキョンとジョンインが寝ていることを、セフンは知っていた。
ふたりがふざけ合いながらも、ダンス練習を深夜までしていた頃からであったろうかとセフンはよく思い返す。におい、だったろうか。シャワーを浴びずに帰って来たふたりから、汗と、香水と、それ以外の何かがほのかに混じった同じにおいが近くに寄ると漂った。ベッキョンの首筋が、赤く腫れていることもあった。目を凝らすとうっすら歯の跡が付いていた。強いショックがセフンを揺さぶったが、何も、誰にも、言わなかった。
たぶん彼を含めた数人が、素知らぬふりをしながらも勘付いているだろう、という状況が長く続いた。おそらく最初は、ただ体を(冗談半分と言ってもいいくらいに)重ねていただけだったのが、どうやら本気で付き合うことにまで発展したらしいとセフンが気付いてから、実はさほど時間はまだ、経っていない。何故なら互いに、彼女を持つこともよくあったためだ。特にベッキョンは。
「じゃあ、俺は?」
 苦味と甘みを舌の上で転がしていると、ジョンインが口を開いた。
「俺は何色?」
 コーヒーを手に取り、目玉だけでジョンインを向くと、セフンは自分への視線を受け止めることとなった。邪気のない笑顔。咀嚼する顎。かすかに赤く染まった唇。
 ほわほわと顔の前を白いもやが流れる。
 中身をすすり、飲み込み、カップをソーサーに戻すと、目を斜め下に落としてセフンは答えた。
「…色が、ない感じ」
 ちらりと一瞥を投げる。
はは、と笑ったジョンインが、なんだよそれ、と返してくる。
「白って言うか…なんか、ただの光って感じ」
 言いながら、ケーキをぷすりとフォークで切り分ける。
「…それ、いいこと?」
 小首をかしげたジョンインが、あと少しになった、アイスとタルトのゆるゆるに混ざったデザートを掻き集めながら、尋ねた。
「……うん、たぶん」
「…ふーん」
 なら、いいけど、と口を尖らせて漏らすジョンインに、セフンは下を向いたまま口元だけで弱く笑った。
「チャニョル兄さんはラズベリー色で」
 皿の上。ぶどうやクランベリー、ブルーベリーがチョコレートと遊んでいる。
「…じゃあ、ベッキョン兄さんは何色だと思う?」
 口を閉じ、ゆっくり、セフンは顔を上げた。
投げられた問いがジョンインを浸すのをじっと見つめて、顔に笑みを広げていった。
瞬きを繰り返し、フォークを握り締めたジョンインは、くふん、とかすかな咳をひとつした。
「……ベッキョン兄さんは…、……き、いろ、かな」
 先刻のセフンのように、ジョンインは相手を見なかった。斜め下、まぶたを伏せてそう言った。
「黄色?」
「うん」
「…なんで?」
「……太陽とか、…ひまわりとか、そういう…明るくて、まぶしくて、あったかい…イメージだ、から?」
 かしゃかしゃ、とフォークのへりでうす桃色の絵をジョンインは描いた。
腹から胸のあたりに、鉛筆でぐるぐるとめちゃくちゃな殴り書きをされたような感覚を覚え、セフンは思わずコーヒーを取った。
ふっくらとしたまぶたの上に光を乗せて、ジョンインはまだセフンを見ない。
丁寧に淹れられたコーヒーを吸いながら、セフンは頻繁に想像する、ジョンインとベッキョンのセックスを今また思い描いていた。
そう、ベッキョンは温かい。体温が高いのだ。触れ合うことの多いメンバーであれば、誰もが知っている。
しかしジョンインの言うその言葉は、まったく違った含みがあった。きっと、肌と肌を直接、そうしなければ触れ合わない行為をしている箇所さえも、感じているからこその、温かみ。
のしかかるジョンイン。ベッキョンの細い首に噛み付き、背中に胸をくっつける。腰を振るジョンインの下で、ベッキョンはあの大きな口を開け、豊かな声をあげる。髪が揺れる。汗をかいたジョンインの誰とも違う肌の色。
頭で精緻にその場面を浮かべて、よくセフンは自慰をした。こちらを向いたジョンインの尻を犯したいと自分が切望していることに気付くまで、時間は大してかからなかった。そんなことを欲する自分に慣れた頃、ふたりが交際しているのを知った。
ふたりきりで出掛けたり、そろいのアクセサリーを持ったり、彼女を作らず、そういう話に乗らなくなったりした双方を見、セフンはそう確信し、ひっそりと絶望した。時間をかけて、自分を見るようにジョンインを篭絡させていく、つもりだった。
けれど。
自分をおそろしく可愛がってくれるベッキョンから、あの、そう、太陽のようなベッキョンから、ジョンインを奪うということができようなどとは、どうしてセフンに思えただろう。
瞳の表面にゆるく涙が張りそうになり、セフンはなんとかコーヒーと共にそれを身内に流し込んだ。
「お前はねえ」
 からん。フォークを置き、紅茶を飲み干したジョンインがにやにやとした笑みをこしらえ、もう、セフンを見ていた。
「濃い、青。群青、って言うの?」
 そういう色。
固まったセフンは、ジョンインの目を自分のそれでしっかり捉えた。
「……ほんと?」
「うん。すげー、きれーな色」
 照れたようにまた笑うジョンインに、セフンは再び膜が張りつつあるまなこを向け、口を開けて黙った。
たとえば。
太陽が見えないとき。
夜が明けるまで。日が沈んだあと。
そういうときの空。
秘密を混ぜた、暗い、広い、覆い被さってくる、ビロードのような頭上。夜に包まるブランケット。
そんなものに、俺はなれないだろうか。
優しい光にセフンの双眸はひたすらきらめき、テーブルの下では、す、と、静かにその足の先が、ジョンインの方に、近寄った。



おわり








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2017/02/02 Thu 03:15:01
Re: 感動の感想で激しく迷走中 : ミス・レモン @-
鍵コメD様

こんばんは!
コメントとっても遅くなってしまい、誠に申し訳ございません!!
拍手コメントと、普通のコメント、あわせての返信をこちらでさせていただきたいと思います^^

拍手コメントは文字数制限があるのですよね~!;;
ご存じないまま書かれて、驚かれましたよね!申し訳ございませんでした。
私も初めて書いたときはとてもびっくりしました記憶がございます。

それにしても、こんなに情熱的な感想をお寄せくださって、ほんとうに嬉しく思いました!
この喜び、どうお伝えすればよいか…。
朝、起きて、D様からこうしてふたつコメントが入っているのを見まして、うわあ~と感嘆してそのまま布団の中で読みました(笑)
セクシャルな内容だ!と力強くおっしゃっていただき、なんだか安心すると共に、喜びが胸に広がりました。
私自身、あまり性的なお話にならなかったと書きましたが、それは具体的な接触を現在進行形で描かなかったことを指しておりまして、本心では、私らしいエロスが詰まったところのあるお話になったのではないかなと思っております。
それに、その印象を、D様の豊かな感性で、素敵なお言葉でつづってくださっていて、私のお話そのものよりもすぐれたものだという印象を抱いたくらいでございます。
そう、食事というのは、大変セクシャルな瞬間でございますよね。私も常々そう感じておりますし、D様がそのように考えてくださっているということを知れて、感動いたしました。

セフンを拙ブログの写真と重ね合わせてくださって、光栄です。
わたくし、本日上げたお話でも彼にそういう色をまとわせておりますけれど、EXO's show timeで確かセフンがそういうピーコートのようなものを着ていたのが印象深く、そこからも、彼にその色をあてがったと言えます。
セフンに似合いますし、やはり彼は、どうしても寒色の人、それも淡い色でないそれ、というイメージなのですね。
私はこの色自体すごく好きでして、よく食器や、服、アクセサリーなど、購入してしまいます。
セフンのものすごいファンか、と言いますとそういうわけではないのですが^^;、彼は彼にしかないセクシーさがあるなあと思う、それにとても書きやすさのある、物語に出したいと思わせられる、そんな存在でございます。

ベッキョンはほんとうに、人を魅了したいという気持ちが全身に満ちている人間でございますよね。そのある種の勤勉さに私はいつも、胸打たれます。
彼がセンターを取ったり、ソロをやったりすることに、何も意外性を感じません。
彼はそういう、選ばれし人間、と言ってもいいようなメンバーでございますね。
カイとベッキョンのふたりのようすに関しては、あまりきちんと見られたわけではないのですが、あの、昨年全員で出たバラエティーで、ベッキョンのダンスが面白くって、と話して盛り上がっていたカイとベッキョンの感じを参考にいたしました。
ころころと笑うカイを見て、ベッキョンなどといるとずっとそんなふうに楽しくって仕方がない、となるのではないかなと思いましたもので。

続きが見たい、とおっしゃってくださり、ありがとうございます。
そうですね、何か、機会がございましたら、もしかしましたら…。
それまで、D様の脳内(それも、私などが描くよりももっと美しく、魅力的なものになっている気がします)で、三人の行く末を描いていてくださればなと思います。

私の言葉をそんなふうに表現してくださるなんて…、言い過ぎでございますよ!><
これは、お話の中の、という意味でございますよね?
恥ずかしくなってしまうような、もったいないお言葉でございまして、今読み返させていただきましても、体がむずむずといたします。
このお言葉に見合うように、何とかこれからもがんばっていきたいと思います。

今回、リクエストをくださって誠にありがとうございました。
第一弾であったわけですが、それがD様でほんとうによかったなあと、心から思いました。
このあともさまざまにコメントをくださって、そのたび歓喜に溢れております。
なかなかすぐ返信ができず、心苦しくてたまらないのですが、この喜び…!もし、お寄せになりたいと思ってくださるなら、タイミングや回数など気にされず、是非お送りくださいませ。
いつでも、お待ちしております。
また、お越しください!!


フェリシティ檸檬



2017/02/07 Tue 23:13:39 URL

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