海の底、森の奥

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20170124

ハプニング(リアル短編)
昔、一度だけ、男にキスをしたことがある。
そのきっかけは喧嘩で、相手はベッキョンだった。
とにかくふたりとも猛烈に腹を立て、原因なんかはむしろ忘れてしまったが、体じゅうが煮えたぎるようなその怒りの感覚だけはまだはっきりと思い出せるくらいの、ものすさまじい争いだった。
殴ってやろうかと、思った。
すんでのところで止めているだけで、拳はてのひらに熱がこもるほどの力で作られており、俺は若干震えていた。若かったのだ。
ベッキョンの薄い唇が、ぞろりと並んだ歯が、よく動く舌が、俺への悪口雑言を吐き出していた。
化粧をしていないとほんとうにとらえどころのない地味な顔立ちで、特に宿舎暮らしで他のメンバーとも始終顔を突き合わせているために、その百花繚乱ぶりの中で華やかさに欠けるということをいやと言うほど感じさせられる、興味が持てないとしか言いようのない俺にとって魅力に乏しいやつのそれは、そのとき目の前で憎しみの対象に上り詰めた。尖った顎。落ちた目尻。小さな黒目。ふわふわと揺れる髪。
その肉の多くない頬を思いっきりぶっ飛ばしてやろうかと腕を前に出した刹那、凝縮された時間の中で、俺は顔に怪我をさせたらまずいという考えと、より相手を貶めてやれるという思いから、突如次の行動を改めた。何より、くるくる動き続けるその口を封じてやりたいと強烈に思った。
乱暴に片手で頬を顎から抱えるように挟み、上を向かせて食うように唇を被せた。ぶちゃっと、おかしな音がした。
もう一方の手で小さな頭を押さえ、俺の顔から動けなくさせ、固定したまま舌を突っ込んだ。じたばたと本気で暴れるやつは、俺をあらん限りの力で殴ったり蹴ったりし、なおも何かを言わんとしていた。しかし結局ウエイトと身長が違いすぎ、しかも俺は激情によって痛みなどほとんど感じなかっため、抵抗などものともせず、うおう、おう、ぶっ、ばふっ、などという音が口内で溢れかえるのを放って、舌で舌を追いかけ続けた。よだれが口の端を伝った。
もちろん数限りなくキスをしたことはある。だが、こんなキスは、後にも先にもなかった。
そもそもの感情の猛りの上に、嗜虐心が上乗せされ、俺は発情期を迎えた野生動物のような、未知の激烈な興奮を得ていた。全身が燃えるようで、当然いつの間にか勃起もしていた。そのことをベッキョンに知られようがどうでもいいと思った。だからぴったりとその平べったい体を俺に押し付け、好きなように背後をまさぐった。柔らかさなどかけらもない、女とまったく違う、その体。彼女たちを愛撫したときに感じるあの甘い享楽など望むべくもない。ごつごつとした、筋肉と骨を直接触っているような感触。なのに俺は、この男を支配しているという事実にこれ以上ないほど発奮した。
最後、舌を唇で掴み、ぬるりと引っ張って、目を開けた。
視界の中いっぱいに、ベッキョンの顔があった。
さっきまで、血管が浮かびそうに赤い色をして、眉間に深い皺を寄せていたそれが、解放されたショックで呆けた表情を浮かべ、こちらをただ見上げていた。
血走った目に、涙が張っていくのを、俺は引き伸ばされた時間に浮かんで、ゆっくりと眺めた。
「…チャニョル…」
 きちんと俺の名を呼ぶことすらできない。混乱と困惑と驚愕と羞恥。憤怒は逆に消え去っていた。それらを混ぜた感情が、なんとも感じないと思っていたその顔の上で渦巻き、初めて俺に何かを強く喚起させた。
そのまま絶交したっておかしくなかった。だが、俺たちはただの友達ではなく、責任の多い仕事の得がたい仲間であり、関係を修復させるのは当然の義務であった。
どうその場を収め、どうその後謝ったのか、俺の記憶はあやふやだ。喧嘩自体は、どちらが悪いといった類のものではなかったはずだ。しかしその結末としての俺の行動は、俺にすべての責があった。セクハラとして糾弾されてもしかたないような行為なのは分かっていた。
でもベッキョンは許してくれた。時間はかかったが、それでも驚くような短い期間で、俺たちは元通りになった。
俺はこのことすべてを、自分でもどう捉えていいのか分からなかった。ベッキョンの優しさと寛容さに救われ、甘え、頭の隅でただ疑問符と共に弄び続けただけだった。

夕暮れが街の中に穏やかな影を落とし、もの皆すべてが温かさを覚えさせる色に染められている。
ベッキョンと俺はふたり、カラオケでしこたま遊んだ帰り、ぶらぶらと歩いていた。
短い時間のオフであったが、仕事終わりの高揚もあり、その勢いで走るようにしてカラオケに乗り込み、ふたりきりでマイクをずっとそれぞれ離すことなく、歌いまくった。しばらく歌の仕事がないことも手伝い、喉の酷使をいとわなかった。
あの大喧嘩のあと、それは他者がいない空間での出来事であったため、ベッキョンは俺とだけ共にいるのが嫌になるのではないかと不安に駆られたこともあった。だがそれは杞憂で、謝罪のあと、どこでどんなふうにふたりになろうが、そのこと自体に気まずい雰囲気を出して来ることはベッキョンはなかった。俺はそれで、改めて、この同居人かつ同僚を心底見直したりもした。
わあわあと盛り上がるだけ盛り上がり、立て続けに歌い、騒ぎながらも、俺はたまに、静かな心でベッキョンを盗み見ていた。
露わになった細長い首には何も後ろ毛はない。今日もすっぴんで、いたって平凡な顔なのは相変わらずだった。ショートカットの化粧っけのない女の子だという妄想すら無理であった。ゆらゆら揺らめく、弱いとりどりの、幻想を抱きやすい灯りの下であっても。
あのときの感情の奔流を、俺は忘れたことがかたときもなかった。ずっと、たとえ一角ではあっても、脳のある場所から動くことなくそれはあった。そのことをベッキョンに知られていたはずだということも。
どうしてあんなになったのか、俺の語彙では言語化がどうしてもできなかった。他の誰あろう、ベッキョン相手に、心が、体が、ああなったこと。
誰かに相談したいとさえ思った。ギョンスに、もう少しで言いかけたこともある。だが耐えた。ギョンスを困らせることも、ベッキョンを貶めることも、みずからの恥部を曝け出すことも、できなかった。
あのことがあってから、俺は女の子に対する劣情を抱くたび、反射的にベッキョンとのキスを反芻するようになった。何か抗いがたい力で持って、俺をその感覚は圧倒した。そう、快感であったのだ。ライブや、音楽で得られるような、代えの効かない快楽をベッキョンから与えられた。それを繰り返したいと、あれをどうしても手にしたいと、無意識のうちに求めているらしかった。
何事もなくカラオケの終了時刻を迎え、外に出、色の付いた前髪が少しだけ帽子からはみ出ているのをこうして横目で俯瞰している。口元まで上げたマフラーから白い息が漏れている。
ふたりで街に出たのは久しぶりで、俺は相変わらずの高揚感に包まれ、それと同時に夜が始まるという感傷にも否応なく満たされていた。ざわめきすべてが音楽のもとでしかなくなり、暴れ出したいような妙な心地だ。
こんなに寒いというのに、体は変に火照る。細胞が膨らんでぱんぱんになっているような、そんな自分を持て余し、俺は口を開いた。
「俺、コンビニ行ってくる」
 すぐ手前に見えたコンビニへと、俺は返事を待つ間もなく小走りで向かった。
迷わずに商品を掴み、レジで会計し、ちょうど前に差し掛かったベッキョンと合流した。
「何買ったんだよ」
 ベッキョンの唇からもわあと息が溢れる。
「これだよ」
 袋に入れてもらった品を、がさりがさりと取り出す。
「わっ、まじかよ。寒くねーのお前」
 あはははと笑いながら、ベッキョンは目を剥く。
俺はびりびりと封を破き、中から現れたベリー入りのチョココーティングのバニラアイスクリームの棒を掲げた。白いもやがその先から上がる。なんと冷たそうなのだろう。
「食べてーんだもん」
 そう言うと、上からかぶりついた。ベッキョンを食ったときのように。
「うっわ」
 体を折るようにして、見てる方が寒いわ、とベッキョンは目を逸らした。
 きんきんとしたものが口の中を侵す。甘くて、すっぱくて、苦い。
「うまい」
 はふはふと熱いものを食べているかのように俺は口の先で話す。
「まじかよ、どーなってんだお前」
 連れ立って歩き出すと、くはははは、とベッキョンはまた小さく笑っていた。
 喉の中をぬるぬると凍ったものが溶けながら落ちていく、ベッキョンの髪が揺れる、鼻の頭が赤い。
あたりは太陽による色味を失いつつあり、代わりに電飾がちらつき始めていた。派手で、淫猥で、軽薄な色たち。俺は決してそれが嫌いではない。
「なあ」
「ん?」
「お前も食べる?」
 見上げてきた小さな黒い丸ふたつは、まったくもって、俺の好みのそれではない。俺は大きくて、くりくりしていて、光の多い瞳が好きだ。まるで子供のように他愛なく、簡単にいろんなふうに変わってしまう、ベッキョンの不埒な目。
「ええ?」
 くしゃりと眉間を歪めて問い返してくる。
「寒い中で食べる冷たいもんも、またいいもんよ」
 疑いしかないまなざしで、しかしあっけなくベッキョンは降伏し、素直に顔を寄せてくる。マフラーを下ろし、唇が現れる。ほのかにピンク色のそれが、そろそろと開く。
瞬間、俺は再びあの衝動に襲われる。今は怒りなどこれっぽっちもない。あるのはベッキョンに対するまっさらな、認めたくない欲求だけ。
白い歯がチョコレートに突き刺さる。焦げ茶のコートがひび割れる。
「ふめてっ」
 目をぎゅっと瞑ってベッキョンは零す。
「ふめてーよー、まじかよチャニョルー」
 もそもそと口を動かし、顔を戻すベッキョンを笑って見下ろし、俺はやつの咥えたアイスを口に運ぶ。
こんなところで、そんなことは、できない。
間接キスで我慢して、とりあえず、早く家に、暖かいところに連れ込み、話をしようと、俺は思った。



おわり



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2017/02/02 Thu 10:33:15
Re: チャニョル三部作万歳 : ミス・レモン @-
鍵コメD様

こんばんは!
ようやくこちらのコメントにお返事できることとなりました…!
ほんとうにお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした!!!

チャニョル三部作をお気に召していただけて、大変に嬉しいです^^
チャニョル不足だなあなどと思い、調子に乗って三本も書いていたのに、企画で彼が登場する話がかなりあり、読者様にちょっと多すぎではと思われなかっただろうかと今は少し考えたりしております。いえ、もし思われたとしても、いたしかたのないことですし、まあ、いいか、といった感じなのですが^^;

それにしても、スマートフォン、壊れてらっしゃったのですね!それはご不便でらしたでしょう。直られてほんとうによかったです^^
そんな、正座などされずに、お楽になさって読んでくださいませ。
わたくしはちょっとした憩いのひとときを皆様に過ごしていただけたら嬉しいなと思っているだけでございますので^^
これからもお読みになってくださったり、こちらにお言葉をおよせになってくださったりするときは、どうぞ細かいことをそんなに気にされず、気楽にお越しくださいませね。

チャニョルを健全だ、と感じてくださっているというお言葉、とても嬉しく思いました。
私も彼をすごくそう思っておりますし、そう描こうとしておりますもので。
ただ、特にベッキョン相手に彼を書きますと、なんだか性欲の強いジャイアンみたいになりますので、それをあまり気に入ってくださらない方もいらっしゃるのではないかなと思ったりしておりまして、D様のようにおっしゃっていただけるとほっといたします。

私は何度も言及しているように彼がとても好きでして、特に顔立ちと声が大変いいなと感じているので、テレビなどに彼が出ているとじいっと見入ることがございます。
好みであるとかということではないのですが、珍しい、素敵な生き物を見守るような感じです。
ただ、彼の性格自体はすごく珍しいものであるかと言うとそうではなく、たまにいる、音楽好きな、割と自由な精神を持った両親に育てられたのびのびとした青年、そのままという感じで、ああ、いるなあこういう子、という印象でございます。
でもそれもまた、アイドルとしては珍しいのかも知れず、よいのではないかなと思ったり。
私自身は彼のそういう性格や性質を、アンビバレンツな思いで見ているところがございまして、なんと言いますか、実際のところ、手放しで大絶賛したくなる存在だ、というのとは微妙に違っているかもしれません。これは言葉にすると大変に長くなるので割愛いたしますが…。それにほんとうに、わたくしの独断と偏見でございますし。
ただ、批判したいとかそういうことではないのです。
彼がすっごく好きですけれど、彼の好みやなんかをすべて許容できるかと言うとそうではない、という感じです。

私もD様と同じで、彼から性的なニュアンスはほとんど感じることがありませんね。
けれど、友人と話していて共通認識として語るのは、チャニョルがめちゃくちゃに攻められる姿というのは実はとても萌えるものがあるということです。
一度クリスとの話を書きましたけれど、チャニョルはその身長などから受けにするのがなかなか大変なのですが、クリスや、それ以外をなんとか考え出して、ひいひい言っている彼をいつか書きたいものだなとぼんやり考えたりしております。

スホは、器用とは言いがたい青年ですが、ほんとうに愛すべき存在ですね。
チャニョルもスホも、これからうまく年を重ねていって欲しいなと心から思います。

素敵な感想をお教えくださり、ほんとうにありがとうございます。繰り返し読んでいただけるというのは、書き手冥利に尽きることです。
わたくしも、D様のお言葉、何度も読み返しております。

バレンタイン企画、すべてが終わった今、いかがお感じになってらっしゃるでしょうか。
わくわくとしたお気持ち、持続していただけたでしょうか。
そういうお気持ちになっていただけるといいなあと思いまして始めたものでございまして、少しでも、今年のバレンタインの彩りになれていればと願っております。

ディオの映画、ご覧になったのですね~!
見てみたいなと思う気持ちもありますし、いつか実際見るとは思うのですが、是非とももっと癖のある監督の映画に出て欲しいなといつでも願ってしまう自分がおります。
D様が楽しまれたということをお聞きでき、この映画への期待を高めることができたのがとても嬉しいです^^

温かく、いつもと同様豊かなお言葉、ありがとうございました。
ゆっくりとした返信となり、大変心苦しいですが、是非とも次のコメントへのお返事も、お待ちいただけたら幸いでございます。
私もいつでも、D様からのお便りをお待ちしております。


フェリシティ檸檬




2017/02/15 Wed 19:47:30 URL

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