海の底、森の奥

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20170120

おいしい証明(リアル短編)
夢と現実の境から、水面の上に顔を出すようにして目を開き、眠りを遠ざけると、部屋の中はひとつの灯りもなかった。
瞬きを繰り返しながら、ミンソクは手を動かして携帯を取った、強い照明に大きなまなこを細める。二時半過ぎ。
当然まだ眠かった。もう一度寝ようと体勢を変え、目を瞑った。だが小一時間が過ぎても、再び夢の世界へ戻ることはなかった。
疲れているのに、とミンソクはため息をつくように心の中で考えた。日が変わる前に床に就け、それがとても嬉しかったのに、と。
しばらくの間、ミンソクはその白いふたつの足を羽毛布団の中でもぞもぞと擦りあせていた。少し寒かった。喉によくないと、就寝時エアコンをつける習慣はなかった。代わりに布団数枚をきっちりと自分に巻きつけ、いつも眠った。靴下を履けばよかったかもしれないと後悔しながら、冷えた足を互いに摩擦し続けた。
ようやくミンソクは諦めた。
起き上がり、ベッド脇の小さな灯りをつけ、床に足を着いた。ひんやりとしたその感触に、ミンソクの頭はそれまで以上に冴えた。立ち上がった彼は、とりあえずと静かに部屋を抜け出した。
ドアを開けた途端、誰かがまだ起きていることが分かった。墨色に染まった周囲の中で、ドアのガラス板が橙に輝いている。薄く音楽が漂う。ジャズだ。
ぺたりぺたりと、夜、親の起きているところへ起き出した幼子のような寄る辺なさに身を浸して、足の裏を木の板の上で鳴らすミンソクは、その光と音の方へ吸い寄せられるように向かった。
ノブをひねると、静かに、だが確かに空間を満たすフリージャズの鍵盤と弦の絡み合いの中に、ミンソクはいた。キッチンから何か調理する音が聴こえ、その音を立てている張本人の大きな後姿がちらちらと見えた。生姜のにおいが鼻をつく。音楽に合わせ、高いところにある小さな頭と角ばった肩は揺れた。低く、どこまでもくぐもっているのにやけにクリアな声で、たまに旋律をくちずさんでいる。
ぱたん、と扉を閉めると、気付いた弟分がミンソクを振り返った。
「兄さん」
 エアコンと料理の熱で、この部屋はとても暖かだった。それに乾燥していない。コンロの上からの蒸気と加湿器で、触れられるようなしっとりとした空気が周りにあった。
「どしたの、こんな夜中。寝てたっしょ」
 チャニョルは言いながら手元とミンソクに交互に目をやった。ぐつぐつ、という鍋の中の音がミュージシャンたちの昂ぶりの隙間を縫ってミンソクにも届いた。くう、と小さく腹が鳴る。
「目、覚めて」
 寒いし、と呟くと、チャニョルはあー、そうだよねえ、とうんうんうなずきながら料理を続けた。片手で何かをごくりと飲む。とん!と台の上へグラスを置く音が響く。
「何飲んでんの」
 カウンターキッチンに近付いてミンソクは尋ねた。長い首の揃った襟足を見上げる。俯いたために浮かび上がったごつごつした背骨がまるで恐竜のようだとミンソクは思う。
「ああ」鍋の中をかき混ぜる手をチャニョルは止めない、ただ一瞥をミンソクに投げる。「トマトジュース。兄さんも飲む?」
 ミンソクはトマトジュースが好きでも嫌いでもなかった。けれどこのとき、チャニョルの言うその飲み物の名が、何かとても素敵な、あまりよく知らないいいもののようにミンソクの耳にこだまし、彼の目を無意識にきらきらとさせた。
「うん」考える前に返事をしていた。「飲みたい」
 おっけー。そう言うと、チャニョルは冷蔵庫を開け、見たことのない、高価そうなトマトジュースの瓶を取り出し、新しいグラスになみなみと注いだ。はい、と言ってミンソクに手渡す。
「サンキュー」
 すぐ、口を付けた。冷たいグラス、冷たいジュース。唇と舌と体の中の管を冷やす。とろとろとした、食べ物のような飲み物が、胃まで落ちていくのがミンソクにははっきりと分かった。
「うまい」
 すごく、甘かった。
「何これ。すっげーうまい」
 グラスを掲げて残りの朱色を見つめていると、かしゃかしゃと準備に勤しむチャニョルが嬉しそうに告げた。
「ねー!うまいよねそれ。父さんが送ってきたの。まだいっぱいあんの、だから飲みたかったらもっと飲んでいーよ」
 犬みたいな笑顔でそう話すチャニョルを上目で見つつ、ミンソクはまたグラスのふちを咥えていた。
「体にいいからって。俺が肌荒れとかしてるとすごい気になるみたい」
 ははは、と笑うチャニョルは愛すべき存在という以外のなにものでもなかった。俺が親でもこの子を同じように案ずるだろうとミンソクはかつて会ったことのあるチャニョルの父親に思いを馳せた。チャニョルの家族、チャニョルの実家は、チャニョルから想像するそれらとまったくずれがなかった。自分の実家との違いにミンソクはくらくらとした。そしてその家の息子とこうして暮らし、共に働く不思議を思った。今、深夜、彼からトマトジュースを一杯もらっていることの奇跡。
「すごいうまいよ。ごちそうさまでした、おいしかったですって、言っといて」
 飲み干したミンソクは唇を拭ってチャニョルに言った。
「うん」
 顔をほころばせて、もう一杯いらない?と聞くチャニョルに、ううん、と断ると、じゃあ、これは?と続けられた。
「うどん食べない?」
 茹でる前の乾麺を袋のままチャニョルはミンソクに見せた。
「スープは今作ったから。卵と青梗菜と葱の。あったまると思うよ」
 完璧だ。
ミンソクはチャニョルのふたえまぶたの幅を見つめるたびに、そう感心してしまう。自分にはない、その見事な線。下にある黒くて丸い、光を溜める大きな瞳が、まっすぐ自分を指してくる。
「…食べる」
 だよねー、上機嫌にそう返し、チャニョルは茹だった湯の中にうどんをふたつ、投入した。
「少し待ってね」
 カウンターに肘を置き、ミンソクは頬杖をつく。すると自分よりずっと大きなチャニョルの体が、もっともっと大きくなる。
ぼこぼこぼこぼこ。
鍋の中で、煮えている、それはふたりが待つ優しく温かい夜食というだけではない。とっくに大人になった青年たちが、また別にみずから家族を持ったという、おいしい証なのだった。



おわり



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