海の底、森の奥

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20161227

たゆたう境界と染まる男(リアル短編・年末企画・グループミックス)
鏡の中の自分と相対することは義務だと、ベッキョンは思っていた。
当然だ、と彼は己を見つめていつも自分に言い聞かせた。人から見られること、それが仕事なのだから。
メイクを済ませたあとにそうしてあちこち念入りにチェックしていると、なんだかおかしな気持ちにもなった。この世界に身を置くようになって(おふざけで化粧をしたことはないではなかったが、きちんと、社会に受け入れられようとする気概を持って)初めて、いかに魅力的に、短所も長所も活かして顔を作り上げるかということに苦心し始めると、女性の気持ちが少しだけ分かるような、ステージ上での振舞いや在り方もあいまって、自分の性別がふわふわとするような、妙な心地が彼を襲った。
目の周りはぼうっと灰と紫がにじんでいた。
その中身はごく小さい瞳が乗った、平凡なものだった。目の尻は、心持ち下を向いている。
はっきり言ってみずからをハンサムだと思ったことはなかった。昔番組でギョンスに最下位にされたときも、ほんとうのほんとうは確かにそうだ、と心の隅でひとりごちていた。自分の顔が嫌いだということではなかった。ただ、ベッキョンはひどく冷静に自己を客観視できた。自身のどこが秀でていて、どこが劣っているかを誰よりも自覚していた。
柔らかく、目頭に入った粉のかすを指で押さえる。
すると先の尖った、白く長く、美しい指が彼の顔を半ば隠した。
こういうふうに手を置けば、こういうふうな効果が出るのか、とベッキョンは微妙に顔と手の角度を変えながら、今日のステージに思いを馳せた。
年の瀬の大々的な音楽祭が、もうすぐ始まろうとしていた。


控え室を出、大型のテレビとソファが置かれた開けたスペースにベッキョンが来てみると、談笑している出演者たちがちらほらと目に付いた。
長椅子型の白いソファーのうちのひとつに、まぶたを下ろしたヒチョルが仰向けに横たわり、胸の上に拳銃を乗せ、ほのかに開いた唇の端から赤い液を垂らしていた。
一瞬、ほんの一瞬だけどきりとしたベッキョンは、目を見張り、上からヒチョルを見下ろしたまま立ち尽くした。
ぼこりと浮いた眼球の上の皮膚はただ白く、薄く、肉感的に膨れ上がった唇は桃色で、歯の白と血に似た赤が互いの色を強調していた。
「兄さん」
 言いながらベッキョンはヒチョルの拳銃を握った手の上にみずからのそれを置いた。
ヒチョルの今日の衣装は、おそらくソロパフォーマンス用のもので、なんと全身虹色のスーツだった。馬鹿げた代物だ、とベッキョンは思いながら、それでもソファに横たわったこの男の姿は、若手監督が撮ったキッチュな映画の中のひとコマに見えなくもない、と同時に感じていた。もう一度呼ぶ。兄さん。呼ぶと共に置いた手で軽く相手を揺らした。
ぱちりと大きな目が現れた。
ぎょろ、と自分をそれが捉えると、思わず後ずさりしそうな心境にベッキョンはなった。実はいつも、少しだけそうだった。ヒチョルの目は何か心をざわめかせるものがある。
「何やってんですか」
 苦笑してソファに回り込み、肘掛に浅く尻を置いた。
「やっと反応示してくれるやつが来た」
 よいせと起き上がり、たぶん三十分くらいずっとこうしてた、とヒチョルは呟いた。
俯いたため見えたうなじに視線を這わせ、まじで、と笑うと、半分くらい、いや大部分うとうとしてたけど、と返って来た。
「それどうしたんですか」
 ベッキョンはみずからの誇る手指に負けない、いやそれ以上かもしれないヒチョルのそれがいじくっている、真っ黒い銃を見下ろし尋ねた。ヒチョルは両手でかしゃかしゃとひっきりなしに人殺し道具もどきを触っていた。
「今日のステージの小道具。結構重い。効果的かどうかは微妙なとこだな」
 ほら、と掲げて007ばりにポージングするヒチョルを俯瞰すると、ベッキョンは率直に格好いいなと思った。誰がしたって間抜けになるだろう服装で、ギャグにしかならないかっこつけなのに、ヒチョルにはそれをスタイリッシュに見せるだけのルックスと魅力があった。長い髪を横分けにして片目で流し目を作るヒチョルは、ベッキョンにないものの塊だった。
「どうだ?」
「だっさい」
 本音を隠してくははははとベッキョンが笑うと、ヒチョルはベッキョンの腹めがけて銃口で突いてきた。うそ、うそ、とベッキョンが謝っても、ヒチョルは長い腕でベッキョンを絡め取り、自分の脚の間に抱え込んだ。
そのままヒチョルの体に後ろから抱きかかえられるようにして、ベッキョンはソファに座ると、再びほら、と声がした。
「持ってみるか?」
 すうっと長い指から零れるようにベッキョンの手に黒く光る偽物の銃が置かれた。ずしりとした重みに、両の手で水をすくうように持ちながら、まじまじと見つめていると、視線を感じた。ヒチョルがあの目で自分を見ている、そう思うと、ベッキョンはなんだかいたたまれない気持ちになった。そう、自分を自分で眺めているときのように、自分がいったいなんなのかが判別できなくなっていくような感覚だった。それこそ両性具有的な美しさと妖しさを併せ持つあらゆる意味で稀有な先輩は、後輩の中でもベッキョンにとりわけ優しく、さまざまなかたちで可愛がってくれた。彼といると---特に化粧などしていると---いったい俺たちはなんなんだろう、という疑問が湧いてきた。ヒチョルはほんとうに綺麗だ、とベッキョンは思っていた。ずっと昔から、今に至るまで。背の高い、ほとんどモデルのような体型に、小さな頭、長い髪、はっきりとした顔立ち。ヒチョルに見下ろされ、射すくめられ、マネキンのような手で触れられると、笑いながら、泣きたいような心持ちになった。そんな思いを抱くのはヒチョルに対してのみであった。
瞬きをしつつ、なんでもないようにヒチョルの視線を受け止めにこにこしながら銃を返すと、口元の血糊に改めて目が留まった。それに気付いたヒチョルがああこれ、と言う。
「新発売の液体状の口紅。結構いい赤だよな」
 中指の先でヒチョルは口の端を拭った。唇に色が付く。
きっとこの色もよく似合うだろう、とベッキョンは想像した。数限りなく行われたヒチョルの女装は、当然ベッキョンも見たことがあった。画面越しでも、直にでも。そのたびやはり驚いてはしまうのだが、しかしベッキョンはそういう、いわゆる女装というものよりも、こうした、ちょっとした彼の曰くいいがたい揺れのようなものを目にする方が動揺した。耳にかかった髪の毛の感じであるとか、横から見た唇の膨らみであるとか、目の端でこちらを見るときのまつげとまぶたの伏せ方であるとか。今、唇を一部彩った赤は、ベッキョンの目を釘付けにさせた。
「似合うか?」
 にやりと笑みを作るとヒチョルは紅を指で伸ばし、唇を赤く染めた。ベッキョンは図らずも息を呑んだ、頭の中の画がそのまま眼前に現れたためだった。はみ出しながらも赤く塗られた唇は、笑みのかたちのままだった。
目線を上げてヒチョルのそれと合わせると、なんとか唇の両端を上げて似合うよ、と答えた。
「あ」
 襟元を見たヒチョルが声を出すと、ベッキョンは体が跳ねた。
「な、何?」
「動くな」
 自分を振り向かせたまま、ヒチョルはベッキョンの首に顔を寄せた。ヒチョルの髪が顎をかすめ、香りが鼻を通った。何が何やらわけが分からず、体は強張ったまま、時が過ぎるのを待った。
「おっし」
 嬉しそうなヒチョルの声が間近で響く。
顔の前に顔が戻ってくると、それは満面の笑顔で、その横には繊細な指先でつままれた糸くずが垂れていた。白い糸はところどころ赤く汚れている。
「だいじょーぶ。シャツには付けなかった。俺、やるな」
 ぱしぱしと襟元を擦られながら、ベッキョンは呆気に取られていた。
「…ありがとございます」
「かたことかよ」
 唇の片端で笑うヒチョルは、やべ、もう行かなきゃだな、と言い立ち上がった。
「それ」
「あ?」
 振り向き見下ろしてくるヒチョルに対し、自分が真顔になっているのがベッキョンは分かった。だが構わないと、何故か思った。
「捨てとくんで」
 ヒチョルが手に持ったままだった糸くずを受け取るため、ベッキョンは自分の手を差し出した。
ああ、と漏らしたヒチョルが指を開くと、それぞれの造形の美を主張してやまない手と手の間で、白と赤に彩られた繊維の絡まりがふにふにと動いた。
じゃな、がんばれよ、と言って後輩の頬を優しく二度ほど叩くと、ヒチョルは大儀そうにぺたぺたと足音を鳴らして去っていった。一度向こうを向いたまま再び銃を持ったポーズを決めながら。
虹色の男の後ろ姿を見送りつつ、かっこいい兄さん!と声を掛けると、ひらひらと手を振られた。
ヒチョルが見えなくなると、手の上に置かれた糸にベッキョンは目を落とした。赤がくっきりと目に飛び込んでくる。先程あんなに近くにあったあの目。鼻。髪。指。---唇。
 付くわけもないと分かっていたが、ベッキョンはその糸の紅を、みずからの唇に押し付けずにはいられなかった。



おわり




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