海の底、森の奥

- EXOの二次創作とオリジナルのBL小説を中心としたブログです。R18表現あり。お気軽にどうぞ。

20160920

フェアリーテイル(シウミン、レイ)
彼女いるの?と尋ねると、彼は少しためらったあと、はい、と消え入るような声で答えた。
どんな人?と俺は続けた。
こんなふうに人に根掘り葉掘りものを聞くのは、俺にしては珍しいことだった。
「………すごく、明るくて、元気で、楽しくて、優しい、人です」
ぽつり、ぽつり、と、内容とまるで沿わないような話し方でチャンくんは言った。
だが確かに、彼の表情がそれまでよりほのかに柔らかくなり、唇の横にかすかなくぼみさえ浮かんでいるのが俺の目にとまった。
初めて、それを見た。
「…………素敵な、人なんだね」
喉の奥が絡んだような声で、俺はそう言った。
手に持った熱い缶コーヒーが、少しずつ冷えていくのを感じていた。
するとチャンくんは俺の目をきっちり捉え(そんなことは稀だった)、にっこりと微笑んだ。
今度はくっきりえくぼができた。
俺は目尻の流れと頬のつんとしたへこみを見たまま、しばらくの間黙っていた。


工事現場の仕事は過酷だ。
特に夜の現場は。
俺はもうだいぶ長いことこの仕事を続けていた。
体を動かすということが得意で、力の強い俺は、この仕事がかなり気に入っていた。
このままずっとこうしているかは分からないが、とりあえず今の生活に不満があるわけではなかった。
もともと本当は計画性のあるタイプだが、大学進学後の進路に迷い、そうこうしているうちになんとなく始めたこの仕事にはまっていた。
工事のノウハウは興味深かった。
真剣に技術に関する知識を勉強してもいいかもしれないとさえ、最近の俺は思っていた。
バイトの若者はひっきりなしに入って来た。
その中のひとりがチャンくんだった。
中国人留学生で、大学に通いながらこのバイトを週4でやっていた。
他にもちらほら何か仕事をしているらしい。
長く続く大学生は少なく、そんな稀有な若人のチャンくんは、もうすっかり皆の仲間のようになっていた。
彼は口数が少なく、おそらくかなり言葉は堪能なのだが、あまり会話の輪に入って来なかった。
だがときどき、話が聞こえたのかひとり笑っているのを見かけることがあり、単に気難しいわけではないということを、なんとなく全員が感じていた。
それにチャンくんはヘルメットを脱ぐと、とても綺麗な顔をしていた。
若干眠そうな目ではあったが、とにかく優しそうであるし、甘い表情を常にしているような顔立ちだった。
作業着を脱いだときの体も美しく、おっさんたちに混じると特におかしな感じだった。
時折からかわれ、
「イーシンだったら俺抱けるよ」
と恥知らずな親父が言った。
俺が笑いながらそれとなくたしなめると、チャンくんはいっとき意味が分からないというような、ぽかんとした表情を浮かべ、すぐに胸まで真っ赤にし、俯き急いで私服を身に付けた。
わははははは、という下品な笑いがそこに響いたが、俺は決して笑えなかった。
鎖骨の線を赤く染めた、睫毛を伏せた彼のようすは、見たことのない何かだった。


そんなとき、休憩時間に恋人の有無を聞き、俺は意外だなという感想を持った。
チャンくんは非常にうぶな印象だった。
童貞かもとすら思っていた。
だが確かにあんなにかっこいいのだから、何も不思議なことはないのだと、俺は考えを改めた。
それに聞いた彼女のイメージは、ひどく積極的な女性だった。
彼に迫り、籠絡させたのかあと、俺は自室のベッドに仰向けになって腕組みを枕にしながら考えた。
なぜだかよく、俺はチャンくんのことを思い出した。
繊細で生きにくそうな雰囲気とその容貌がセットになって、俺の中で特殊な位置を占めるようにいつの間にかなっていた。
なんと言うか、気にかかった。
何か変な目にあっていないだろうか、授業はきちんと出られているのだろうか、体調悪いのにひとりでいるんじゃないだろうか、彼女と喧嘩していないだろうか、と、実際会うと聞きもしない心配や懸念を俺はひとりで抱えた。
深刻に思い悩んだわけではなかった。
ただ頭の奥の方に、いつもむき出しの肩を晒して肌を赤くした、向こうを向いたチャンくんが住んでいるようだった。
だから現場で顔を合わせ、俺が可能な限りの笑顔で彼を向き、チャンくんがつられて少し微笑み、あの忘れがたい頬の印を見せてくれると、俺は心底ほっとしたものだった。
なんなんだろうな、俺はと思った。
けれどその感覚はいやではなかった。


休憩中に、チャンくんが携帯で電話をしていた。
そういうことは珍しく、俺はその後ろ姿を缶コーヒーを飲みながらじっと見守っていた。
うん、うん、と頷きながら、たまに軽く笑って、聞いたことのないような声音で話すチャンくんは、知らない人物のようだった。
話し終えてこちらを向いたチャンくんに、俺はおごりの缶コーヒーを手渡しながら、
「彼女?」
と尋ねた。口の端を上げて。
ぱっと赤面し、
「あ、すみません」
と手を伸ばしたチャンくんは、缶を受け取り損ねて、自分の作業着と床にコーヒーを撒いた。
あー、と漏らした俺は、ごめんと謝りながら、熱くなかったかを慌てて問うた。
幸い彼の体にはほとんどかかっていないようだった。
「大丈夫、全然大丈夫です。ちょっと拭くもの持ってきます」
そう言うとチャンくんは、謝罪を口にしながら自分の鞄の置いてある方に走って行った。
湯気が軽く立ち上る中、椅子に置いて行った携帯から、かすかに音が漏れているのに俺は気付いた。
人の声らしかった。
彼女か、と思い、俺は戻って来ないチャンくんの行き先を見つめながら、その携帯を手に取った。
耳に恐る恐る近付けると、男の、声がした。
「おい!なんだ今の音ー。だいじょぶかー。切れてねーぞ!電話!」
続々と、ハスキーだが通りのよい声が、携帯の中から流れ出た。
俺は耳から携帯を離し、液晶を見つめた。
登録された名前は、女のそれではなかった。
ばたばたばた、と音がして、チャンくんが戻って来た。
俺はわずかに、気の抜けたような顔をしていたと思う。
だがくるくると滑りよく脳内は回っていた。
見られぬよう終話ボタンを押し、そっと横に携帯を置いた。
「すみません」
もう一度謝りながら、こぼれた茶色い液体に使い古したタオルを被せた。
「…………コンクリートだし、あんま気にしなくていいよ」
歯の先だけで喋るように、俺は言葉をチャンくんに掛けた。
そうでしょうか、と体を起こしたチャンくんは、せっかく買ってくれたのに、と言い、俺を見つめて頭を下げた。
「………気にすんなって。……また、買うよ」
チャンくんの眉間の皺を見上げながら、俺は今までのことがフラッシュバックを繰り返していた。
その中にはいつも俺の脳みそにいる、チャンくんの分身の姿があった。
肌理の細かい肌に色を付け、目を伏せて恋人といる彼だった。
これまで彼の相手は、女性だった。
しかし、今。
「…………キム先輩?」
俺の顔を注視しながら、首をかすかに横に傾け、チャンくんは俺を呼んだ。
俺はチャンくんがそうなっている姿を、俺自身の角度で、今は見ていた。
その体の色を、頬のえくぼを、まるで自分のもののように、眺めているのだった。




おわり





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