20160810
砂糖壺に落ちる 14
窓から覗く木々の緑と、空の水色、天使が下りてくるように降りそそぐ日の黄色、その横に佇むセフンは、俺の目に今も残像みたいに残ってる。
今まで見た中で、いちばんきれいな風景だった。
セフンのそばに寄っていくと、汗と、セフン自身の何かが混じった匂いがした。
それは俺をくらくらさせて、やはりセフンをじっと見ずにはいられなかった。
風が吹き込んでくると、そこに緑の匂いも加わった。
いつからか、セフンが俺を見てると、気付いた。
おそるおそる目を合わせた。
少し上から見下ろしてくるそのふたつの瞳は、日の光を反射して、常以上に俺を魅了した。
宝石みたいだ。
俺は自分の語彙に悪態をつきながら、そのふたつずつの黒目と白目が、俺に何かを訴えていることに反応した。
唇は少し空いて、ちょっと困ったような、そんな表情で、目は俺から離されなかった。
本当に久々に、俺をまっすぐ見つめていた。
それはまじりけのないものだった。
嘘のない、真実のセフンがいた。
好き。
そう、声が聞こえると、俺は、すべてが腑に落ちた。
それでも訊き返さずにはいられなかった。
付き合いたい。
そこまで言ってくれるとは、思っていなかった。
俺は自分を恥じた。
年上なのに。
こんなことを、言わせて。
思わず裾を手に取っていた。
風が吹く。
手に、指が絡みついた。
セフンが髪を遊ばせながら、俺に近付く。
無意識のうちに、微笑んでいたらしい。
大きくなったセフンの顔が、俺の唇の横のくぼみに、ちゅ、と、ためらいがちに、くちづけた。
またひどく遅くになった帰宅は、今日もセフンの顔をまともに見られなかったと、俺を落胆させた。
が、玄関を開けるとガラス戸の向こうから強い光が漏れており、俺は期待に胸膨らんだ。
少し早足でドアを開けると、キッチンの前のテーブルに、セフンと、チャニョルがいた。
ふたりはそれぞれの手前にカップラーメンを置いていた。
同時にこちらを見たふたりは、声を揃えて
「おかえりー」
と言った。
「ただいま」
答えながら、俺は荷物を床に置き、テーブルに近寄った。
ふしゅしゅしゅしゅ、という音が、キッチンの奥から聞こえた。
「兄さん、お湯湧いたみたい」
そうセフンが言うと、お前行けよ、やだ、のやり取りが交わされ、軽く舌打ちしたチャニョルが席を立つと、俺に向かってセフンはにっこり笑った。
もう一度、ゆっくり、「おかえりなさい」と言う。
予想外の展開に驚きながらも、嬉しさは隠せず、俺は顔がほころんでしまう。
「ここ、座りなよ」
そう、自分の隣の席を引く。
「兄さんの分もあるよ」
そう言って、横に積み上げたさまざまなカップ麺の山を指す。
「食べない?」
少し、お腹は空いていた。
チャニョルがやかんを、鍋つかみをして持ってきた。
「兄さんも食うの」
言いながら、蓋を開けた中身にもうもうと湯気の立つ湯を流し込む。
俺は腰掛けながら、「食べる」と答える。
「どれにする?」
相変わらずにこにこ顔のセフンが頬杖をついて俺を見ている。
どれにしよう。
たくさんある味に目移りしていると、チャニョルがセフンの分の中に、お湯を注ぎながら言った。
「お前買いすぎなんだよ」
「いいじゃん。選べるでしょ」
俺はセフンを横目で見る。
自意識過剰な想像をする。
また目を戻してカップ麺を眺めるけれど、ますますひとつに、決められなかった。
つづく
今まで見た中で、いちばんきれいな風景だった。
セフンのそばに寄っていくと、汗と、セフン自身の何かが混じった匂いがした。
それは俺をくらくらさせて、やはりセフンをじっと見ずにはいられなかった。
風が吹き込んでくると、そこに緑の匂いも加わった。
いつからか、セフンが俺を見てると、気付いた。
おそるおそる目を合わせた。
少し上から見下ろしてくるそのふたつの瞳は、日の光を反射して、常以上に俺を魅了した。
宝石みたいだ。
俺は自分の語彙に悪態をつきながら、そのふたつずつの黒目と白目が、俺に何かを訴えていることに反応した。
唇は少し空いて、ちょっと困ったような、そんな表情で、目は俺から離されなかった。
本当に久々に、俺をまっすぐ見つめていた。
それはまじりけのないものだった。
嘘のない、真実のセフンがいた。
好き。
そう、声が聞こえると、俺は、すべてが腑に落ちた。
それでも訊き返さずにはいられなかった。
付き合いたい。
そこまで言ってくれるとは、思っていなかった。
俺は自分を恥じた。
年上なのに。
こんなことを、言わせて。
思わず裾を手に取っていた。
風が吹く。
手に、指が絡みついた。
セフンが髪を遊ばせながら、俺に近付く。
無意識のうちに、微笑んでいたらしい。
大きくなったセフンの顔が、俺の唇の横のくぼみに、ちゅ、と、ためらいがちに、くちづけた。
またひどく遅くになった帰宅は、今日もセフンの顔をまともに見られなかったと、俺を落胆させた。
が、玄関を開けるとガラス戸の向こうから強い光が漏れており、俺は期待に胸膨らんだ。
少し早足でドアを開けると、キッチンの前のテーブルに、セフンと、チャニョルがいた。
ふたりはそれぞれの手前にカップラーメンを置いていた。
同時にこちらを見たふたりは、声を揃えて
「おかえりー」
と言った。
「ただいま」
答えながら、俺は荷物を床に置き、テーブルに近寄った。
ふしゅしゅしゅしゅ、という音が、キッチンの奥から聞こえた。
「兄さん、お湯湧いたみたい」
そうセフンが言うと、お前行けよ、やだ、のやり取りが交わされ、軽く舌打ちしたチャニョルが席を立つと、俺に向かってセフンはにっこり笑った。
もう一度、ゆっくり、「おかえりなさい」と言う。
予想外の展開に驚きながらも、嬉しさは隠せず、俺は顔がほころんでしまう。
「ここ、座りなよ」
そう、自分の隣の席を引く。
「兄さんの分もあるよ」
そう言って、横に積み上げたさまざまなカップ麺の山を指す。
「食べない?」
少し、お腹は空いていた。
チャニョルがやかんを、鍋つかみをして持ってきた。
「兄さんも食うの」
言いながら、蓋を開けた中身にもうもうと湯気の立つ湯を流し込む。
俺は腰掛けながら、「食べる」と答える。
「どれにする?」
相変わらずにこにこ顔のセフンが頬杖をついて俺を見ている。
どれにしよう。
たくさんある味に目移りしていると、チャニョルがセフンの分の中に、お湯を注ぎながら言った。
「お前買いすぎなんだよ」
「いいじゃん。選べるでしょ」
俺はセフンを横目で見る。
自意識過剰な想像をする。
また目を戻してカップ麺を眺めるけれど、ますますひとつに、決められなかった。
つづく







BLラブ
comment
コメントを送る。