海の底、森の奥

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20191225

実を啄む(クリスマス企画/パラレル・グループミックス短編/EXO・NCT127)

 この時間まで残るのはやはりきついなと考えながら正面玄関から足を踏み出すと、職員用玄関の方で静かに動くふたつの影が目の隅をかすめた。スニーカーが砂利の上で夜に対し張り切って音を立てようとするのをマークはそっとやめさせた。シルエットを描くふたりが誰であるか、直感的に思い当たったためだった。
 学校から公道に出るまでの広く暗い砂利道の端を影は寄り添って歩いていく。両側に建てられた灯りは数が少なく、彼らをまぼろしのようにしばらく浮かび上がらせては消した。視力の悪いマークだったが、だんだん目が慣れてくるとそうだろうと踏んだ人物たちであることが後ろから距離を置いて付いて歩きながら学校の敷地を出るまでに確かめられた。
 一般道に来ると街灯が照らし、ド先生と、連れ立って歩くビョン先生の後ろ姿がマークの眼前に現れた。淡黄色の光を浴び、闇の中でそこだけ切り取られたような空間を行く青年ふたりは、マークのことにまったく気づくようすもなく、時折笑い声を立てながら、しかし基本的には小声で会話を交わしていた。
 マークは鼓動が速まるのを感じていた。唇をマフラーで覆い、眼鏡を曇らせ、鼻の頭を染めた彼は、足音に神経を集中させるのを忘れないように努めつつ、ふたりから決して目を離さなかった。
 ビョン先生を見るのは久しぶりのように思えた。二年のとき数学を受け持ってもらっており――マークは彼をとても好ましく感じていた。大変明るいたちの教師で、大きな口で大きな声を発し、よく笑った。しょっちゅうふざけて、生徒をからかい、教えること以上に笑わせることが好きなように見受けられるほどだった。と言って大雑把かと言えばそんなことはなく、生徒を非常によく見ていた。具合が悪いとか身が入っていないとか、努力はしているが実っていないとか。叱るときは厳しく、慰めるときは親身だった。授業自体無駄がなく分かりやすく、特段ハンサムというわけではないが、愛嬌のある癖のない顔立ちをしていて、その上すっきりとした体型と美しい手指を持っていることが合わさり、生徒から、特に女生徒から驚くほど人気があった。だがこういったことに敏くないマークはほとんどを友人から聞いてあとから気付いた――彼がビョン先生について長い間抱いていた印象は、教えるのがうまい、温かい人柄のとてもいい教師というだけのものだった。ビョン・ベッキョンはモテるよな、と同級生が話していても、なんとなく理解はできるがぴんと来ず、女子がイベントごとの際、彼に対し騒いでいるのを目を見開いて見つめたことなどをマークは皮膚を氷のようにしながら思い返した。
 進級して担当が変わったあと、再び彼の名を耳にしたのはドンヒョクの口からだった。
「あいつ、ド先生と仲いい」
 小さな木の実のような唇を突き出してドンヒョクは言った。三白眼気味の目を顰め、例によって生徒会室のマークの傍らで仏頂面を晒していた。謝罪に行ったのち、諦めると言いつつなかなかそうできていないのが現状だった。
「あいつってなあ」
 論点のずれなど気にせずマークがなだめようとするのを無視し、ドンヒョクは言ったものだ。
「あいつ絶対ド先生のこと好きだ」
 何故そうも確信を持って言えるのかマークには分からなかった。が、ドンヒョクは間違いないと思い込んでおり、この後輩は驚くほど勘のいいところがあるということを知っているマークは、ビョン先生をド先生と結びつけて考えずにはいられなくなった。それから、見かけた際はそれとなくビョン先生を観察するようにした。そのように気を付けて過ごすようになったあと、ド先生といっしょにいるところを見たことは一度もない。ド先生のことはそうしようと意識せずともマークはよく目で追っていた。放送室で用向きを話したときの彼の表情がマークの瞼の裏に焼き付くようにまだあった。寂しげな、見たことのない顔をしたド先生を目にし、マークは経験のないふうに胸が強く縮んだ。そして喉の奥深くで震える低音で、「ありがとう、マーク」と言われた瞬間、マークは周囲が回転していくような錯覚に襲われた。ドンヒョクが話している間、ふらつきながらも脳みその中のあらゆる事柄をまとめようと腕組みをして考え込んだ。しかしすべてが曖昧模糊としていて、はっきりこうと結論付けられるものではなかった。以来ずっとこの問題は受験と共にマークの頭を占め続けていた。
 ド先生とビョン先生の並んだ姿を見つめながら、マークは自分自身の胸の痛みが己を襲うかと身構えたが、それほどではないことを知って少し虚を突かれていた。それよりもドンヒョクのことが気になった――このことをもし知ったら。どこまで付いていこうかと逡巡しているうちに、もう追う相手は駅に入ってしまっていた。ドンヒョクドンヒョクドンヒョク。思わずつぶやきそうになりながらずっと彼らをマークは追った。半分やけくそになりながら、犯罪にはならないだろうかと不安を覚える心を制し、身を隠すようにして同じ電車に駆け込んだ。
 数駅先でふたりは連れ立って降りた。続いてマークも降車すると、出口に消えそうになる後ろ姿に懸命に付いていった。住宅街、音が何もかも反響してしまいそうな夜更け、マークは首を埋めるようにして一切の音を殺し、一定の距離を保ったまま付け続けた。
 そしてあるマンションの前に来ると、教師たちは中へと歩を進めた。マークもその建物前で足を止めて植木に隠れ、エントランスで鍵を出そうとしているド先生と横に立つビョン先生をなんとか見守った。手に持ったキーホルダーの一部分がてのひらから滑った刹那、ビョン先生がド先生の首に腕を回し、抱え込むようにして自分を向かせ、そのまま彼の唇にみずからのそれを押し付けた。マークは目を丸く開け、強く息を吸い込んだ。冷気が体内を鋭く通る。黒い短髪の後ろ頭から首筋を、ビョン先生の細長い指が這うように押さえている。そのとき初めて、マークは皆が言う意味が分かった。その指――まるでピアノでも弾いているかのようなのだ。音楽が奏でられているような最中、ド先生は手を相手の腕の上に置いていた。拒否するでもなく、軽く掴むように。眼鏡の背後の目は薄く開いたままのようにマークには見えた。少しして一度離れたかと思ったら、よりピンク色にうごめくものが目に付き、それが消えると再びふたつは触れ合っていた。今度はド先生はビョン先生の肘をしっかり掴んでいた。鍵が落ちる。その音がマークのところまで届いた。
 それでふたりはキスをやめた。笑っているビョン先生。慣れ親しんだあのふやけたような笑顔。苦笑したド先生が鍵を拾い、エントランスホールのドアを解錠すると、彼らは奥に消えた。
 立ち尽くしていたマークは我に返って後ずさると、足早にそこを去った。今にも走り出しそうなスピードで通ってきた道を戻った。息を切らしかけながら駅に着くと、ホームに降り立ち、震えているスマートフォンを手に取った。
「あ、先輩?」
 ドンヒョク。
 早鐘を打っている心臓がより一層大きく跳ねた。
「今どこ?俺まだ帰ってなくてさ」
「今?今ーは…」
「ねえこれから飯食べない?」
 そう言ってドンヒョクは自分の居場所を伝えた。マークと彼の家の最寄り駅前をぶらついていたとのことで、混乱しながらもマークは承諾した。
「分かったー待ってるから」
 ちょうど電車が到着し、乗り込むと、数分先にはもう会っているだろう後輩に、どう切り出したものかとマークは呆然と考えた。
 本屋の軒先で雑誌を立ち読みしているドンヒョクが視界に入ると、マークは喉がつかえて声を掛けられず、ただゆっくりと彼に向かって歩いていった。
「先輩」
 横にふらりと立った男に体をびくつかせてドンヒョクは言った。
「どしたの先輩、変だよ」
 客が横から現れ品を取ろうとし、ドンヒョクはマークの手を取りそこを離れ、駅前の広場の暗がりの方へと引っ張っていった。
「何、どしたの先輩」
 真っ青な顔をしたマークをドンヒョクは不思議そうな目で眺め、具合悪いの、と尋ねた。
 首を横に細かく振り、マークはなおも黙っていた。手袋をしたその手をドンヒョクは取ったまま、ぎゅっと握って振った。
「じゃあ何?なんかあったの?」
 眉根を寄せ、しかしまだ半笑いでドンヒョクはマークを見つめた。マークは視線を合わさず、少しうつむき加減で口元をマフラーで隠すようにしている。無表情とも言える顔つきで、もくもくと白い息を登らせていた。と、目を上げまともにドンヒョクを見た。
 そのまっすぐな眼差しを受け、ドンヒョクは微笑の混ざった唇を閉じ、引き結ぶと、じっとマークを見返した。
「先輩」
 何かを言いかけたドンヒョクの唇の動きを、マークはスローモーションで見た。木に鈴なりになっている、よく熟した小粒の果実のようなそれから目線を上げ、顔全体を視界に収めると、痩せたままの頬を両側から毛糸の手袋をはめた手で挟み込み、勢いよくそこに近付いた。
 眼鏡がかすかにドンヒョクの鼻を引っ掻いた。その下の唇に、マークは自分のそれを触れさせていた。カナダにいたときにはキスの習慣はまだあった。が、もう随分久しぶりのそれだった。それも唇同士は初めて、つまりファーストキスだった。しかしそんなことはこのときマークの頭にまったくもって浮かんではいなかった。とにかく彼の脳内は洗濯機の中の洗濯物の如くごちゃごちゃと回り続け、ただ真ん中の空洞に、長らく格闘していた課題の答えが光ってあるように思え、柔らかな唇の上の押し返しがそれをオーロラのように包み込んでいた。
 わずか数秒のことだった。ドンヒョクは驚きのあまり硬直し、何もせず突っ立っていた。痛みを我慢するかのように目をぎゅっとつむっているマークとは対象的に、そのさまをドンヒョクは余すところなくすべて見ていた。
 おもむろに体を引くと、マークは目を開き、真剣な顔でドンヒョクに謝った。
「ごめん」
「…な…にしてんの」
「うん、ごめん」
 虚脱状態になったドンヒョクは広い白目の中で黒目をらんらんとさせ、闇の中でも異様に輝かせて見せていた。マークは怯むことなく真正面からそれを受け止めた。そして強い口調で言った。まるで怒っているかのように。
「忘れろ」
「へ?」
「先生のこと、もう忘れろよ」
 今度はマークがドンヒョクの両手を取り、握った。
 瞳を揺らがせてドンヒョクは黙った。青かったマークの顔が内から赤く光っている。
「な」
 もわりとその口から煙のように息が漏れると、それを見ていたドンヒョクは自分でも知らぬうちに「うん」と答えていた。
 そしてふたりして下を向いた。両手を繋いだ格好で。行き交う人々の目の届かないぎりぎりの暗闇で、大人になりかけの彼らは向き合ったまま押し黙った。しばらくただそうしていた。
「…腹減ったな」
 マークがぽつりと零した。ほんとうに腹が鳴っていた。笑いもせずドンヒョクは、そうだね、と応じた。
「よし、なんか食いに行こう」
 明後日を見ながらマークは体の向きを変えた。片手でドンヒョクを引いている。
「クリスマスなんだから、贅沢しようぜ」
 その言葉でドンヒョクはマークの顔に目をやった。冷気の中、シャンシャンという音と共に耳慣れた音楽が繰り返し鳴っている。にわかに体中が火照った。
 鮮やかに色づいた若者ふたりは、行きつけのファミレスを目指し、そっと手を離すと妙に力強くずんずんと街を行った。
 
 
 
おわり




 
 
 
 
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