海の底、森の奥

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20191223

はじめて逢う人(クリスマス・アンサー企画/パラレル短編/NCT127)

 喉の奥が熱くなるのは酒を呑んでいるとき特有の症状だ。それが快いのかそうでないのかイ・ドンヒョクには未だもってよく分からない、呑み会にはしょっちゅう顔を出す方であるのに。
 正体をなくすほど呑むことが今年は多かったなと振り返る。年末は思い出すことがたくさんあるものだ。だが実際記憶を呼び覚ましたいことはあまりない、むしろ完全に忘れてしまいたいことはある。
 体の中だけでなく室内も暖かった。それは部屋の主が暖房を強く掛けているからだ。
「暑いよ先輩」
 とっくに緩めていたネクタイをイ・ドンヒョクは乱暴に襟から抜きながら言った。差し向かいで床に座り込んでいる相手はうんざりした態で応じた。
「お前寒いとずっと文句言うだろうが」
 そう言いながらも設定を変更するためマーク・リーはもぞもぞ動いた。背後で手にしたネクタイで向けられた尻をぺしんと後輩は叩いた。
「何すんだよ」
 振り返ったマーク・リーは零す。だが諦念と酔いが混ざった口調はことさら責めているふうでもなかった。
「なんでもないすよ」
 視線を落としたままイ・ドンヒョクはネクタイを横に放った。Yシャツをつまんで空気を含むように揺らすと体臭と香水の匂いが舞った。風呂に入りたいなとイ・ドンヒョクは思った。
「トイレ」
 立って勝手知ったる家の中を移動した。
 用を済ませて戻るとマーク・リーは水を二杯グラスに注いで待っていた。
「お前泊まるの」
 眼鏡の奥から上目で座ったかっこうのマーク・リーは聞いた。多少肌が色づいてはいるが彼は泥酔まで至っていないのは明らかで、しこたま呑んで浅黒い皮膚が濃い赤に変わっているイ・ドンヒョクはある程度すっきりしたはしたがまだ動きの鈍い頭と体で返事をせず、ただそのマーク・リーの態度に理不尽に苛立った。
「帰りますよ」
「終電やばいだろ」
「知らないす」
 荒い動きで掛け布団がくしゃくしゃと丸まったままのベッドの上に体を投げ出す。嗅ぎ慣れたマーク・リーの匂いが鼻腔に入り込み、不意に心が休まった。
「取るなよベッド」
 ため息と共にマーク・リーは言った。仰向けになったイ・ドンヒョクは返事すらしなかった。
 夏以降、イ・ドンヒョクに恋人らしきものはできないままだった。ド・ギョンスを想う気持ちを持て余し、異性との出会いを求めるのすら面倒になっていた。それでも一、二度誘われて合コンには行った。が、誰を見てもド・ギョンスと比べる自分に気付くばかりで、自己嫌悪を覚えるのが関の山だと行くのをやめた。しかしひとりでいると気分はどん底だった。誰といたいというわけではないが誰かといたいという状態で、結局マーク・リーといた。
 大学の先輩であるマーク・リーは今大学院の院生だった。ずっと大学近くの安いアパートにひとり暮らしをしており、昔からしょっちゅう遊びに来ていた。
「合鍵くださいよ」
「やだよ」
 このやり取りを何百回となくやった。
 友達はたくさんいるし、より気の合う者は少なくなかったが、何故かマーク・リーといるのがイ・ドンヒョクは好きだった。楽で、安心できて、面白かった。変な人だなと何度となく思い、呆れる部分も山ほどあったが、妙に触発されたり励まされたりすることがあり、話していてありきたりなことを言わないところを買っていた。
 今回の件も洗いざらい話してしまった。誰にも言いたくなかったが、言わずにいられるわけがなかった。
「そうか」聞き終えてマーク・リーは言った。「よっぽど素敵な人なんだなあ」
 それを聞いて不覚にもイ・ドンヒョクは涙ぐんだ。泣き虫というわけでもないのに、ド・ギョンス、それにあろうことかビョン・ベッキョンの前で泣いてしまい、今度はマーク・リーの前で。唇を噛んで必死にイ・ドンヒョクは耐えた。
 週末ほとんどマーク・リーと一緒に過ごした、場合によっては平日も。過ごしながら、マーク・リーの恋愛事情なども聞き、そうして自分を顧みて、俺は男が好きなのだろうかと静かにくすぶっていた胸の奥の疑問を引っ張り出しては考えてみた。けれどどうもよく分からなかった。無精髭を生やしたいつも顔色の悪い(睡眠時間を削って研究や勉強をするのがマーク・リーだった)少しだけ年上の男に相対していても、ド・ギョンスに対するような鮮やかな恋慕が湧きようもなかった。当然性的な欲求も。夜な夜な見るのは男女のセックス動画であったし、女の好みも変わらずしっかりしたものだった。
 そうなるとやはりド・ギョンスだからだったのか、とイ・ドンヒョクは結論づけそうになるが、今現在現実の女性に興味が持てないのも事実だった。それが一過性のことなのか、続いていくことなのか、どちらなのか。失恋の辛さと共にその不安もイ・ドンヒョクを確かに苦しめた。もし後者なら苦しい道のりが待っている予感がし、酒量は増し、マーク・リーの部屋にいる時間も長くなった。
 いろいろな話題を肴にするふたりであったが、マーク・リーから聞く彼の恋愛についての話は、その内容が発展するきざしは皆無で、イ・ドンヒョクは小馬鹿にして言った。
「先輩他の男に取られますよ、それじゃあ」
「うるさい」
 完全にのぼせ上がっていると言うよりちょっといいなと思っているくらいの同級生が相手ということで、焦っていないのだとマーク・リーは言った。イ・ドンヒョクは中学生の話を聞いているかのような気分になりながら、改めてマーク・リーに呆れていた。
 そんなふうに秋が過ぎ、冬になった。相変わらずマーク・リーの部屋に上がり込んでは呑んだりゲームをしたり話したりして過ごし、何も変化がないようだったが、少しずつ知らぬうちにおのれの根本を侵すような焦げ付くような感情は弱まっており、つい先日そのことをイ・ドンヒョクはくっきりと実感した。寒風の中マーク・リーの部屋を目指しながら、ゲームの続きを楽しみにしていたり、新しく出た酒を呑み交わすことに期待していたりしている自分に気付いたのだ。そのことに驚きながら、ドアを開けたマーク・リーの顔を見た。やはり顔は白い皮膚が紙のようで、唇の上には薄く髭があった。眼鏡は汚れて靄がかっている。だがイ・ドンヒョクは胸が温まるのを感じた。ふざけてそのまま抱きついた。
「やめろ」
 きつく抱き締めると背中をどんどん叩かれた。頬に触れた素肌が思いの外すべらかなのを知ったのはそのときだった。
 いつの間にか目を閉じていたらしい。まぶたの先が暗くなったことで、イ・ドンヒョクはそれを上に上げた。そこにはマーク・リーの顔があった。
「寝るんなら寝る準備してからにしろ」
 蛍光灯を背負ってマーク・リーの顔は薄暗かったが、近い距離にあることでイ・ドンヒョクはそれのいつもとの違いに目を留めた。
「先輩、今日髭剃ってる?」
「な、なんだよ」
 口元に手を当てマーク・リーは顔を上げた。
「なんか、全体的に小綺麗にしてない?」
 半分顔を隠したまま白い顔が赤みを帯びていくのをイ・ドンヒョクは見つめた。よく観察すると髪の毛はいつもほどぼさぼさとはしておらず、眼鏡に染みもない。部屋着も新しいもののようだった。
「何?今日予定あったの?」
 常のごとく行くとだけ連絡して返事も待たずにそのまま来たが、誰かとの約束を反故にさせているとは思いもよらなかった。来てからもひとこともそんなことは言わなかったのだ。
「いや」
「嘘でしょ、なんだよ、言ってよそんなら」
 肘をついて上半身を起こすと、イ・ドンヒョクは続けた。
「呑み会?家族?あれ、もしかしてデート?あの子と?」
 どうやらそうらしかった。マーク・リーは嘘がつけない。横を向いて俯くと、黙ってしまった、唇を手で覆ったまま。
「えー、ごめん、てかなんでよ、言えばいいじゃん。なんで言ってくんないの」
「いや、いいんだよ」
「よくないよ、連絡はちゃんとした?」
「し、したよ」
「大丈夫?怒ってなかった?」
「多分」
「ほんとうに?変なふうに言わなかった?」
「ほんとだって」
 にわかには信じられなかった。うまく弁明などできる人間ではないのだ。突っ立った同じ体勢のままマーク・リーは何も言わない。
 ベッドの上に座り直してイ・ドンヒョクは言った。
「ごめん先輩、ほんとに」
「いいんだって」
「だってチャンスだったんじゃん」
「いや」
「て言うかこれなら付き合えたよ、俺が駄目に…」
「いいって!」
 突然強い口調で返されたものだから、イ・ドンヒョクは目を見開いて口を閉ざした。目を泳がせているマーク・リーを黙して見つめていると、しばらくして手を離した口が動いた。
「あ、相手が誘ってくれたんだよ、もともと…」
 数秒意味を図りかね、沈黙したあとイ・ドンヒョクは返した。
「え!?じゃあ…」
「けどお前来るって言うから、それならって断って…」
「何それ」
 目をまん丸くしてイ・ドンヒョクは心から言った。
「正直、い、行かなくてもよかったって言うか…あ、あの子といるよりお前といる方が…」
 首に手を置いてなおもマーク・リーは下を向いていた。
 まだ白目の中につぶらな瞳を浮かせるようにしてイ・ドンヒョクはマーク・リーを凝視していた。
「あの子と会うために、きちんとしたんでしょ?」
 こざっぱりとしたマーク・リーの全身を眺めて、別人と対しているかのような心持ちでイ・ドンヒョクは尋ねた。
「まあ…と言うか、クリスマスだから…」
 それまで以上に目を点にしてイ・ドンヒョクは言葉を失った。
「だから言ったろ、いい子だなって思ってるくらいだからさ」
「だからって」
 言いながらイ・ドンヒョクは我慢できず苦笑した。
 ようやくマーク・リーは目をイ・ドンヒョクに向け、ふたりは視線を合わせた。
 マーク・リーはベッドに近寄り、腕を差し伸べると、「ほら、寝るなら着替えろ」と言った。
 出された手の向こう、丸く大きな銀縁眼鏡の中の釣り上がった知性と無垢に光る目を見て、イ・ドンヒョクは唇を結んでいた。そして手首を掴むと引っ張った。
 当然の結果としてマーク・リーはイ・ドンヒョクの上に倒れ込んだ。うわ、と言ってイ・ドンヒョクの硬い胸に落ちると、ふたりは顔と顔を至近距離で見合った。
「何すんだよ」
「引っ張った」
「分かってるよ」
 酒臭い息を互いに吐きかけつつ見つめ合い、そうしながらイ・ドンヒョクはマーク・リーの腕を掴んだままだった。じろじろと無遠慮にイ・ドンヒョクは男の顔を見た。
「なんだよ」
 唇を尖らせるようにしてマーク・リーは不平そうに言った。
「あのさ」
「何」
「キスしてみてもいい」
 たっぷり十秒は間があった。イ・ドンヒョクはその間鋭く相手を見据えながら返事を待った。
 きょとんとしたマーク・リーは冗談だと思ったらしく、突然破顔した。
「何馬鹿言ってんだよ」
 しかしイ・ドンヒョクは笑わなかった。それでマーク・リーも笑うのをやめた。
「…嘘だろ?」
「ううん」
 再び間。掴んだ手首の中の血管がどくどくと脈打つのをイ・ドンヒョクは感じながら、眼前にある顔の奥底から血の色が浮き出てくるのを一瞬たりとも逃さず見ていた。
「か、からかうな」
 言いながらマーク・リーは顔をそらした。
「からかってない」
「じゃあなんだよ」
「してみたくて」
「し、してみた…?」
 思わずマーク・リーは横目で後輩を見た。
「なんだよそれ」
 イ・ドンヒョクは両手でマーク・リーの頬を挟み、自分に向かせた。そして瞬きもせず目の中を見た。
「してみたいんだよ」
 据わった目に怖気をふるったマーク・リーは慌てて両手でイ・ドンヒョクを押しながら返した。
「よ、酔ってんだよお前」
「酔ってるよ」
「そ、れが失敗の元だったろ。忘れたのか」
「だから今度は聞いてるじゃん」
 言われた言葉に唖然とし、返答に詰まっているとイ・ドンヒョクが触れている部分の頬を親指で撫ぜた。それははっきりとした意思が表れたやり方で、マーク・リーは鳥肌が立った。
 やめろ、と言いかけたところでイ・ドンヒョクは射抜くようにしていた目のさまをやわらげ、溶けるような不可思議な眼差しにそれを変えた。酔いとそれ以外のものが混ざった初めて見る双眸にマーク・リーは喉が詰まったようになり、制止する言葉がそこで止まった。
「ちょっとだけだから」
 常のかすれたおかしな声が、囁くとまったく違った表情を呈した。耳の中の毛がさわさわと直接触れられているようなそれは、首のあたりの体温を突如上げた。
 イ・ドンヒョクは、これはまったくもって頭のおかしな行為かもしれない、という疑念を当たり前だが持っていた。友人をひとり失うかもしれない、それも大変好きな友人を。でもその恐怖よりも何か大きな期待が圧倒的に身中を支配していた。ド・ギョンスの唇を奪ったときとはまるで違った。自分でもよく分からない確信を持ってイ・ドンヒョクは言っていた。
「先輩、するよ」
 黒目を揺らしたマーク・リーは何も言わず、ただ時が経つのを待ち受けた。細く目を開けたイ・ドンヒョクは、マーク・リーの黒い髪の中に指を差し込み自分に近付けると、唇の上に唇を置いた。
 たまらずマーク・リーはきつく目を閉じた。イ・ドンヒョクは彼の肌が沸いた湯のように熱くなっていくのを体感しながら、口を少し開けて唇を優しく食んだ。びくりと体をマーク・リーが震わせる。今度は少々大きく唇の上下を開け、全体を包むようにした。
 マーク・リーは全身を細かく震わせていた。長い指で彼の髪や首を撫ぜ、もう一度柔らかく唇をつまむようにしてからイ・ドンヒョクは離れた。
 ゆっくりとマーク・リーは瞳を現した。狐のような眉と目が妙に平行に、ぼんやりとしたようすを示し、イ・ドンヒョクを見つめていた。
 イ・ドンヒョクは何も言わなかった。ただ感情を込めて頬を挟んだままマーク・リーを見返していた。
 マーク・リーはシーツを握りしめ、視線を下にして言った。
「…で、なんだよ」
 拗ねたような口ぶりにイ・ドンヒョクは笑いそうになるのをこらえた。
「よかったよ」
 そう言うとぱっとマーク・リーは顔を上げ、イ・ドンヒョクと目を合わせた。
「ど、どういう意味だよ」
「そのままの意味だけど」
「そのまま?」
「うん。先輩は?どうだった?」
 微笑みを唇の端に乗せ、またイ・ドンヒョクはマーク・リーの両頬をかすかに撫ぜつつ問うた。
「どう?」
「うん」
「どうって…」
「もう一回したい?」
 もう白いなどとは絶対に言えぬほどにマーク・リーは赤くなった。イ・ドンヒョクは彼の眼鏡を外した。
「どうなの?」
 マーク・リーは嘘がつけない。口をぱくぱくさせているのをしばらく眺めてから、イ・ドンヒョクは笑みを浮かべ、その動きを自分のそれでやめさせた。
 
 
 
 
 
 おわり
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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