海の底、森の奥

- EXOの二次創作とオリジナルのBL小説を中心としたブログです。R18表現あり。お気軽にどうぞ。

20191221

願いの行き先(クリスマス・アンサー企画/パラレル短編/EXO)

 薄靄の向こうにいるド・ギョンスはあらぬ方を見ている。
 唇に人差し指と中指を触れさせるたび、ビョン・ベッキョンは彼を盗み見た。唇がすぼまり、また開くさまは開花を思い起こさせた。灰色に染められた絹生地に似た煙がそこから幽霊のように溢れ出る。渦が巻き、消えるのを見つめながら、ドラムの細かく儚い、しかし確かにそこにある打音が頭の中心を揺らすままにさせていた。
 食事は結構なものだった。相当いい店に行ったのだーー女と付き合っているときにだってあまり行ったことのないようなレストラン。フレンチ。
「クリスマスだからってさ」
 席について苦笑しながらそう言うと、まじまじと相手の顔を眺め、ナプキンを広げながらド・ギョンスは返した。
「いやなのか?」
「いやじゃないけど」
「美味いらしいから」
 会社帰りの男ふたり連れで来るようなところではなかった。男女のカップルか家族連れの中、彼らは浮きに浮いた。ビョン・ベッキョンは少々居心地が悪く、目を伏せて零した。
「美味いのはそうかもしれないけどさ」
「予約取りづらいんだ」
 小声で話している中、よりこもった声でつぶやくようにド・ギョンスは言った。背筋を伸ばし、ウエイターが皿を運んで行き来するのを目で追いながら。
 まばたきながらビョン・ベッキョンは黙った。すでに恥ずかしさからかなり頬が染まり、首筋に汗が浮くほどになっていたが、いよいよ体温は上昇した。光るグラスを取ると、中の水を勢いよく飲んだ。
 それからは気を取り直して明るく多弁になったビョン・ベッキョンとド・ギョンスはよく食べ、よく呑んだ。確かにどれも非常に美味だった。マナーや何やかやが気にならないこともなかったが、不躾とも言えるほどまっすぐまばたき少なく自分を見てくるド・ギョンスの視線のようすに意識は向けられ、体中に発汗を覚えながらビョン・ベッキョンは喋り、食した。食べながら食べられるのを待っているようなおかしな感覚で、意味もなくへらへら笑った。
 店を出ると白い息を吐いてド・ギョンスは言った。
「うち来てほしいんだけど」
 マフラーを巻いていたビョン・ベッキョンは一瞬動きを止めた。が、合っていた目をそらして急いで答えた。
「うん」
 先立って歩き出したコートに着られているような背中を追った。考えのまとまらない脳内は、クリスマスソングだけが唯一まともに流れていた。
 来るのは初めてではなかった。正確に言えば三回目である。
 当然来ることになるだろうとは思っていた――のに、実際来るといつも異常に緊張した。今回も同様だった。皮膚の表面がぴりぴりとしびれ、何を言い、何をしているのかよく分からなくなってしまう。常にそのときどきの状況を把握して行動するビョン・ベッキョンのようなタイプにとってこれは恐慌状態に近かった。魂が体から抜け出て宙に浮き、そこから自分を見下ろしているような不安な感覚で、どうしたら落ち着けるのだろうかと必死だった。反対にド・ギョンスは妙に落ち着いていた。常時そうだとも言えるが、口数はより減り、瞳がおかしなふうにぬらぬらと激しく、しかし静かに光った。それが恐ろしく、だが快く、ビョン・ベッキョンはお化け屋敷におっかなびっくり入る子供のような心持ちで整然とした清潔な部屋で夜を過ごした。だいたい金曜日の夜で、今夜もそうだ。
 付き合っているのだーーそうなのだろう、とビョン・ベッキョンは思う。ほとんど毎週金曜の夜、共に過ごす。週末、土曜も予定が他になければ会ったりする。しかし夜明けまで一緒だったのは、この部屋に来たときの二回だけだ。それに、お互い相手に触れることもほぼない。あのときは突然キスしてきたくせに、ビョン・ベッキョンは思い出しながら何か騙されたような気持ちに心中歯噛みした。あれ以来、仲のいい友達、親友のような関係になって、確かに楽しくはあったが、拍子抜けしたことも事実だ。けれど決してそのようにド・ギョンスがおのれを思っていないことも知っていた。それはこれまで書いているように、目のありようにまざまざと表れていた。だがただ見つめるだけで、そうして伏し目になって煙草をゆっくりふかすのだ。期待していた自分が恥ずかしくなり、ビョン・ベッキョンは妙に意地になって何も気付かないふりすらした。
 ケーキ作った、と言われて生クリームでデコレーションされたホールサイズのものを見せられると、ビョン・ベッキョンは驚きのあまり絶句した。その間ド・ギョンスがわずかにこちらの反応を伺っているのが分かり、ビョン・ベッキョンはことさら騒いだ。ひとしきり食べ終えるまでうるさくすると、ド・ギョンスは常のごとく断ってから一服し出した。手作りのケーキは甘く、砂糖と果物の香りが部屋中に満ちており、苦いような煙草の匂いがいつも以上に鼻を突いた。
 部屋に入ってからすぐかけられたジャズはヴォーカルなしのもので、会話を止めたふたりの間をくるくると踊るように回っていた。ド・ギョンスが淹れた冷めたコーヒーを再び口に持っていくと、声が聞こえた。
「ドンヒョクは」
 一段と低い音になったド・ギョンスの声が煙といっしょに舞った。視線を上げたビョン・ベッキョンは、予期していなかった言葉に「うん?」と言った。
「もう、大丈夫そうだから」
 視線を受け止めることをせず、ド・ギョンスは続けた。吐き出した煙がゆっくりと上を目指す。
「そうなのか?」
「うん」
 ビョン・ベッキョンも実はそう思っていた――少し前から。
「改めて謝られたし」
「へえ?」
「気にしないで付き合ってくださいだって」
 瞬間どくりと心臓が鳴った。ビョン・ベッキョンは返答をためらった。
「だから」
 言葉を切ってド・ギョンスはビョン・ベッキョンを向いた。眉根が下を向いているのは気のせいだろうか?こんな心もとない顔をしているド・ギョンスは、ビョン・ベッキョンは初めてだった。下を向いてド・ギョンスは言った。
「俺と付き合ってくれる」
 言いつつ煙草を灰皿に押し付けた。
 唇を引き結んだビョン・ベッキョンはド・ギョンスを見つめていた。膝を立てたド・ギョンスはその上に伸ばした両腕の肘を置き、片腕の上に顔を半ば隠すようにした。そしてちらりとビョン・ベッキョンをそこから見た。晒されたうなじが桃色になっている。
 どもりそうになりながらビョン・ベッキョンは答えた。
「い、いいけど」
 するとおもむろにド・ギョンスは顔を上げた。
「いいの」
「うん」
「そうか」
「うん」照れたビョン・ベッキョンは半笑いで続けた。「て言うかもう付き合ってると思ってたし」
 目を合わせたまま相対していると、にわかにビョン・ベッキョンは焦った。
「だってお前俺のこと好きってことだったし、誘ってくるだろ。俺断ってないんだからさ」
 耳まで赤くなっているのが嫌でも分かった。
 いきなりド・ギョンスは立ち上がり、それに驚いたビョン・ベッキョンが見上げていると、すたすたとビョン・ベッキョンのとなりにやって来て腰を下ろした。
 目を見開いたビョン・ベッキョンにあの達磨のような黒目の丸を向け、ド・ギョンスは言った。
「キスしていい」
 唇から煙草の匂いが漂うのが分かるほどの距離だった。掛けられた言葉の意味が脳に落ち着くと、ビョン・ベッキョンは気絶するかと危ぶんだ。
「なんで聞くんだよ」
 笑おうとしたがうまくいかなかった。ゆがんだ唇がかすかに震えた。
「前の反省を込めて」
 今度は自然と笑った。
「なんだよそれ」
 自分の息が甘い。ビョン・ベッキョンは勝手に閉じそうになっている目を懸命に開けていた。
「したいんだけど、いいか?」
 徐々に顔が寄ってきているのが分かっていた。無意識のうちに、何故かビョン・ベッキョンは両腕で顔を隠した。
「駄目ってこと」
「いや、その」
 変わったかたちの耳は燃えるような色を示し、腕の向こうにそびえている。
 手首に手が回った。
 簡単に腕は下りた。小さな怯えたような瞳がド・ギョンスを見返しており、彼は沸き立つ衝動が体を焦がすのではないかと案じた。
「いいか」
 信じられないほど低い声で、唇と唇が触れそうなところでそう問われると、ビョン・ベッキョンはこくこく小さく繰り返しうなずいた。その最中にふたつは重なった。
 耳の奥でシンバルが振動しているようだった。顎を捉えられたビョン・ベッキョンは後ろに頭を引くこともできず、知らぬうちに目を閉じ、唇が好きにするに任せていた。それはそれだけで生き物のように欲望に忠実だった。ジャズバーのトイレの前でキスされてから、ずっと自分が何を望んでいたのか、ビョン・ベッキョンはこれ以上ないほど強く自覚した。
 ド・ギョンスは理性が遠のくのを実感していた。急ぎすぎてはいけないと自戒していたのに、結局舌はビョン・ベッキョンの口の中にあった。舌同士が久しぶりに出会うと全身が溶けるかと思うほどで、無我夢中で愛撫した。
 ようやく離れると泳ぎ疲れたあとのようになっていた。
 前髪を撫でるようにして軽く引っ張ると、ド・ギョンスは囁いた。
「脱がしてもいいか?」
 ビョン・ベッキョンはもうとても耐えられないと、不機嫌そうに小さく吐き出した。
「その聞くの、やめろよ」
 皮膚全体を真っ赤にしてビョン・ベッキョンはそっぽを向いた。
「それで?いいのか?駄目なのか?」
 悔しくなってビョン・ベッキョンは答えなかった。横を向いたままでいると、首の骨を唇が這った。
「じゃあもう聞かない」
 耳の穴の奥の脳の芯が、今度はド・ギョンスの低音で甘く震えた。
「あ、汗かいてるからやめとけよ」
 ド・ギョンスはくすくす笑った。何を言っているんだか。どれだけ俺がその汗を舐めたいと願っていたか、ちっとも分かっていないのだから。不敵な笑みを浮かべたド・ギョンスが心底恐ろしく、そして愛しいとビョン・ベッキョンは思い、そんなふうに思う自分に唖然としている中、素肌がいつの間にか空気とド・ギョンスに触れていた。
 
 
 
 
 おわり
 
 
 
  



 
  




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