海の底、森の奥

- EXOの二次創作とオリジナルのBL小説を中心としたブログです。R18表現あり。お気軽にどうぞ。

20190809

All because we're in love(リクエスト企画・リアル短編)
 また汗の玉がひとつ額から滑り降りて、Tシャツに染みを作る。
 帽子と伊達眼鏡に熱がこもり、視界が曇ってしまいそうになりながら、ベッキョンは前を行く男のフォルムに目を凝らした。
 耳の縁や首の後が、少しだけ焼いたパンのように薄く色付いて見える。
 大きな口を開け、大義そうにベッキョンは同僚であり友人に呼び掛けた。
「ギョンス」
 蜃気楼の中の、実体のない幽霊のようなキャップを被ったギョンスが立ち止まり、わずかに振り向くと、なんだよ、と声が放られた。
「まだ?」
「もうすぐ」
 ごく軽装のふたりは、それに対する不安がないではなかったが、この気候に屈してマスクさえしていなかった。こざっぱりとした地味な服装の青年たちは、その出で立ちのせいか、それとも体型や顔立ちのせいか、大変幼く人の目に映った。お互いがお互いをそう思ってもいた。汗を浮かべた半袖短パン(ギョンスは長ズボンであったが)姿の双方を目にすると、そのたび『夏休み』とくっきり頭に文字が書かれた。
 歩くのを再開すると、ベッキョンはギョンスの隣まで軽く駆けた。そのようすを見てギョンスは眼鏡の奥の瞳をかすかに光らせ、だが何も言わなかった。
「暑くて死にそう」
 襟元を掴んで風を送り込もうとさかんに動かすベッキョンから、愛用の香水と制汗剤と汗の匂いが立ち上った。前を向き目を伏せたギョンスは言った。
「だから来なくていいって言っただろ」
「そういうこと言ってるんじゃないっての。お前平気?」
「まあ」
「あぢー」
 古い商店街は小さな店がぎゅうぎゅうに詰まり、道行く人はまばらだった。それは大変好都合で、ベッキョンもギョンスも声を抑えることなく普通に話した。
「あんまりきついなら、引き返せよ」
 大気のせいかみずからの声も足音も、エコーがかかっているみたいだとギョンスは思った。言葉と感情が乖離しているせいかもしれないということは頭の隅で氷のように溶かしていた。
「ここまで来てんのに何言ってんだよ」大きく、砂糖とミルクを落とした珈琲のような耳に残る声は気温に負けずよく鼓膜を震わせた。「俺とは嫌だっての?」
 思わずギョンスはわずかにベッキョンへと顔を向けた。ベッキョンもギョンスを見ており、丸眼鏡奥の垂れ目が恨みがましそうに歪んでいる。
「そうじゃない」
「ジョンデとは喜んで来るくせに」
 目を逸らしたベッキョンは、俯いて吐き捨てるように言った。内容が滑らかに入ってこず、ギョンスは瞬いて「は?」と返した。
「こないだジョンデと出掛けてただろ」
 靴裏の砂がはっきりとした音を立て、ギョンスは気もそぞろになりそうになる。やっぱり暑いな、平気なんかじゃない、と突如音を上げたい気分になりながら答えた。
「それはたまたま空いた時間がいっしょだったから」
「そうかよ」
 唇を尖らせかねないさまを見せるベッキョンに、ギョンスは泳ぐ目が止まらなかった。
「お前とがいやとかそんなんじゃないよ」
 先刻言ったことをまた繰り返した。自分の内心と言動が一致を見、ギョンスは体の内側で、発した声がクリアに響くのを実感した。
「着いた」
 二階建ての古いビルの前にふたりはいた。重いガラス扉をギョンスが押すと、中から冷房の効いた空気が流れ出て、どちらもが無意識のうちに嘆息した。
「いらっしゃい」
 狭そうに見えた外観よりも実際は奥に空間が広がっており、急な勾配の階段で続く二階も同じ店らしかった。目に映るところすべてがレコード。レコード、レコード、レコードである。最奥に店主らしき人物が座っており、客はひとりふたりしかいなかった。絞り気味のボリュームでクラシカルなジャズが流れている。
「すげー」
 感嘆の声を上げるベッキョンは、小粒な瞳を細い目の中で忙しげに動かした。
「お前よく来んの」
 耳元で囁くベッキョンに我に返り、ギョンスは言った。
「いや、数回ってとこ」
 小声にするためにより低い声をギョンスが耳に寄せると、笑い皺を作って甘くベッキョンは破顔した。
「そっか」
 やたら糖度の高い笑顔を自分に向けてくることの意味がギョンスには分からなかった。だが単純に胸は震えた。古いレコードと甘いベッキョンの匂い。端からそうは見えずとも、ギョンスは高揚した感情を持て余しかけていた。
「見るぞ」
 そう呟くとギョンスは足を進めて目についたところを物色し始めた。ベッキョンも人に聴こえない程度の音量で鼻歌を口ずさみながら、品を見ていく。
 一階をあらかた見回ったいう頃合いで、ベッキョンがギョンスの肩に手を置いた。
「二階行こうぜ」
 熱いてのひらに促されるままギョンスは階段を登った。ぎしぎしと店全部が揺れるような音が鳴り、ふたりは顔を見合わせ軽く吹き出す。じゃれ合いながら駆け足で上まで上がった。
 二階には客も店員もおらず、まさにレコードだけが彼らを迎えた。ここもエアコンによる冷たい空気に満ちていたが、西日が正面の窓から差し込み、室温を上げることはなくともやけにすべてを白っぽく見せていた。
「貸し切りだな」
 弾んだ声でベッキョンがそう言うと、ギョンスはどうやら連れは楽しんでいるらしいとどこか安堵した心持ちになった。ぐるぐる見て回るベッキョンを目の端に入れながら、ギョンスはぎっしり並べられたドーナツ盤を指先で繰って行った。
 そうしてテーブル上のレコードの間に指を差し込んでいるさなか、軽快な金管楽器の音色と共に、香り立つような歌声がふいに舞い降りてきた。
 視界の隅のベッキョンは逆光を浴びてシルエットだけになっている。尖った顎や肩、薄い唇、作りものめいた手指を切り絵のように光がかたどっている。揺らぐ埃とそれを縫う音楽の中、ギョンスは女性歌手と共に知らぬうちに歌っていた。
 白光に輝く室内に、音の連なりが水の面に絵を描くさざなみのように広がった。窓の前に立ち、鋭い日差しを浴びながら音楽に体が揺れ、ベッキョンは心臓を射抜かれたようにいっとき動けなくなった。そして喉の奥で発声しながら、努めて笑いを声に混じらせ言った。
「なんて歌」
 突然この世界に引き戻されたかのように顔を上げたギョンスが、ベッキョンと目を合わせた。
「これ?」
「うん」
「Lullaby Of Birdland」
「ララバイ?」
「そう」
 音程が高くなり、低くなりを繰り返す。蝶が花の間を舞うがごとくいとも容易に歌は楽器と絡まり合い、青年と青年の距離をなくすかのようにその部屋の中すべてを埋め尽くした。
 実際にベッキョンは視線を外してぶらぶらと窓からギョンスの方へと近寄っていった。ギョンスはそれをただ見守った。
 ギョンスの横に立ったベッキョンはまだ彼を見ない。ギョンスはずっとベッキョンだけを見つめている。
 弄ぶようにレコードに触れつつベッキョンは尋ねた。
「子守唄ってこと?」
「うん」
「誰が歌ってんの」
 そしてようやく視線を合わせた。
 つい先程までベッキョンの顔にあった笑みはもうどこにもない。唇は今にも何かを語り出しそうであるが、ただそっと結ばれている。ギョンスは大きな目を開いたまま閉じることを忘れていた。
「サラ・ヴォーン」
「なんて歌ってんの?」
 なんて?
 茶色い瞳と薄桃色の唇は白い皮膚と淡い色の髪の中、ただふたつの色彩としてギョンスに迫り、どこまでも黒い髪、眉、瞳と熟れた実に似た唇はほのかに焼けた肌に映え、南国の青年をベッキョンに思い起こさせた。
 ギョンスはつと手を挙げた。そしてベッキョンの頬に触れた。瞬間電流が走ったようになったベッキョンは、しかしそのまま何も言わず、何もしなかった。
 頬に添えるように手を置くと、ギョンスは親指でいちばん高いところを撫ぜた。そうしてもう一方の手を逆側の頬に乗せると、ベッキョンの顔を包みじっと覗き込んだ。
 されるがままのベッキョンはまるで眠いかのようにまぶたを半分ほど下ろしていた。口の両端も悲しげに落ちている。
 
 All because we're in love
  
 背後に日を背負って少しだけ陰って見えるベッキョンに顔を寄せ、ギョンスは唇を奪った。どちらも目を閉じず、すべての行程を記憶していた。
 頬から耳の後ろに手を差し込み、ギョンスはベッキョンの頭を抱えた。ベッキョンは立ち尽くし、傾けられた頭をギョンスの手へと預けている。
 曲が次へと移る間、ギョンスはベッキョンの唇を食んだ。弾むような音が生まれ、消える。上気したベッキョンは我慢できぬようにまぶたをきつく閉じ、信じられないほどの鼓動の速さを抱え、小さく震えていた。
 後ろ髪を掴み、やっとのことでギョンスはベッキョンへそれ以上することを耐え、顔を引いた。
 まぶたを上げたベッキョンがギョンスを映す。眼鏡の後ろで水分を蓄えた双方の目が訴えている、もうそれは十分すぎるほどに。
「こういう歌」
 顔の前で声を吐かれ、ベッキョンは「へ?」と漏らした。
「どんな歌か聞いただろ」
「あ、うん」
「こういう歌だよ」
 いまだギョンスはベッキョンの髪の中に両手を入れていた。掻き混ぜながら、それでも真顔でギョンスはベッキョンを見つめ続ける。照れたようにベッキョンは笑って、肩をそびやかした。
「くすぐってえ」
 その光景にギョンスは何かが溢れてしまいそうになる。レコードの上にベッキョンの指先が置かれ、それだけで生き物かのようにふにふにと動いているのが視界に入る。
 Vの棚はどこだったろうか、そう考えながらギョンスはベッキョンを抱き締め、その香りを胸いっぱいに吸った。
 
 
 


 おわり
 
 
 
 
 
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