海の底、森の奥

- EXOの二次創作とオリジナルのBL小説を中心としたブログです。R18表現あり。お気軽にどうぞ。

20190804

アンバー・エフェクト 後編(誕生日企画・グループミックス・パラレル短編)
3.夏の夜の虫と匂いとモストフェイバリット


 かなり久しぶりの店内を見回し、俺は嘆息しながら最後に目が留まったカウンター上の花瓶の花に視線を投げたまま、その手前に立った店員にビールふたつと告げた。
「サンキュ」
 ビョン・ベッキョンはそう言うと、俺と同じように、しかし違う理由から周囲に視線を走らせた。社交的で明朗快活な男だが、人や物や場所にきちんと気を配るたちなので、ここでどう振る舞えばいちばんいいのか判断しようとしているらしいと見て分かった。俺は自然顔がほころび、届いた細長のグラスをビョン・ベッキョンのそれに当てると、
「悪いな、付き合ってもらって」
と言った。
 小さな目を大きく広げて俺を見ながら、やつはビールを喉に流した。
 息をつくと、削った木の枝のような指を襟に差し込み、ネクタイといっしょに首のあたりを緩めていた。首も細く、覗いた鎖骨がひどく濃い影を作っている。茶とも橙ともつかないこの店の色をまとい、コマ数の少ないフィルムに撮った人物のようにビョン・ベッキョンは変様した。
「俺こそこんなとこ連れてきてもらって悪いなと思ってるよ。あんまり人なんか連れてこないんじゃねえの?」
 長くなった前髪を掻き上げるようにして額を晒し、そう言うと、脚を組んでまたビールを口にした。爪を噛みそうになりながら、俺は答えた。
「そうだな、うん。ひとりで来る」
 笑い皺を作ってビョン・ベッキョンは言う。
「光栄だな」
 こいつの声はざらついた質感を伴い、人の心をかき乱す響きがある。笑いが混じると特にそうなる。初めて会ったときから、ずっとそう思っていた。
「でも、なんで?どうして連れてくる気になったの」
 レコードの音の間に間にその声が弱まったり強まったりしながら聞こえ、俺は知らずやつに寄った。
「うーん」壁に寄りかかっているビョン・ベッキョンの肩近くで俺は答える。「いっしょに来たかったから」
 ひととき沈黙が流れ、展開するシンコペーションが場を支配した。俺もやつも互いを見ていた。すると尖った肩を揺らし、相手は笑った。
「なんだよ、いいな、それ」
 笑って体が振動し、開いた襟首の中身がもっと顕になり、俺は無意識にそこを直した。 
 触れた瞬間ビョン・ベッキョンは体を強張らせ、笑いを止めた。俺はなんてことないふうを装い、
「はだけすぎ」
とだけ言った。
「悪い」
 自分でも直し、気まずそうにしているやつに俺は話した。
「今日は好きなバンドが来る」
 視線を戻したビョン・ベッキョンが好奇心を持って尋ねた。
「そうなの?」
「うん。だから来たかった」
 さっき服を掴んだとき、指の先に肌が当たったことを反芻していた。そして言ったことを自分で噛み締め、隣にこの男がいることを思った。
「じゃあ楽しみだな」
 メニューに目を落とし、喉で転がすようにして言葉をこぼすやつの横で俺は首肯した。
 程なくしてバンドメンバーが登場し、俺たちは熱い拍手で迎えた。
 待ちわびた客たちの熱気に俺も興奮を覚え、もう我慢できず、ビョン・ベッキョンへと頼みを口にした。
「悪い、煙草吸っていいか」
「あ?ああ」
 返事を聞くなりケースを取り出し、火を点けた。その間メンバーは準備を進め、おもむろに音楽は奏でられ出した。
 肺を満たす煙と直に感じる音の波動に俺は恍惚となって目を閉じた。組んだ足の片方が勝手にリズムを刻んで止まらない。薄目を開けて連れを見ると、アルコールも手伝いこれは現実ではないと思えた。ビョン・ベッキョンが口を開け気味に、とろけた目でそこにいる。
 と、やつが俺と目を合わせ、にやっと笑って耳に口を近付けると、告げた。
「すごいな」
 吐かれた息が皮膚をくすぐり、熱くなった体がより火照って俺は数センチの距離にいるビョン・ベッキョンの気の抜けた笑顔に目を向けた。
「そうか」
「うん、すごい」
 プレイへの賛辞の拍手を贈り、吸い終えた煙草を灰皿に押し付けると、お代わりをしたビールに口をつけつつ、体をもっと俺に近寄らせてやつは言った。
「今日さ、なんか話あんのかなと思ってたんだよ」
「話?」
「うん」伏せた目をこんなふうに近くで凝視することがあるのだなと感慨に耽りながら、俺は言葉を待った。「なんか、相談とかかなって」
 勘がいい方だとは思っていたが、そう実際来られると返事に窮した。もう一本煙草を咥えると、ライターを手にして俺は答えた。
「相談なんかないよ」
「そうか?」
「うん」
 赤く染まった先を相手とは逆の側に送って、俺は煙も同様の方向に吐いた。
「ならいいんだけど」
 マイナー曲からスタンダード曲に移り、ドラムの弾けるような音色に俺は体全体が悦びで震えた。
「これ聴いたことある」
「有名だから」
「俺、これ好き」
 改めて真横の顔を見てしまった。やつも俺を見、そのまま言った。
「俺も」
 半分しか開いていないような目で、ビョン・ベッキョンは俺を映した。こうしていたら頭がどうかすると俺の方から目を逸らした。
「これ、歌入りの方がほんとは好きだけど」
「そうなのか?」
「うん、女性ボーカルが入ったやつ」
「へえ」グラスを空けてやつは言う。「聴いてみたいな」
 数曲続けて聴いたあと、トイレ、と告げてビョン・ベッキョンが席を立った。
 帰ってくる頃合いを見計らい、俺も手洗いに立つと、暗がりの中鏡の前にやつはおり、俺をぼんやり見返した。
「よお」
 そんなふうに呼び掛けられ、しばたいていると、
「酔ったわ」
と笑われた。
「平気か」
「うん」
 と言いながら目を閉じるビョン・ベッキョンの傍に行くと、揺らぐ体の腕を取った。
「転ぶなよ」
「だいじょーぶ」
 思ったより細い二の腕に力を込めていると、顔と顔がかち合った。
 まずいと思った。
 鏡に映る俺が視界の外れにいる。そいつが俺に言う、やめろと。引き返せ。
「ギョンス」
 そのかすれた声で俺の名前をかたち作り、その潤んだつぶらな黒目で俺を指す。
「元気出せよ」
 脳の中の芯みたいなものが、そのとき溶けた。
 ビョン・ベッキョンを壁に押し付け、唇に唇を被せた。む、という音が相手から漏れ、そこで俺は口を開けた。俺の腕に手が乗ったが、拒否するような力はそこから伝わらない。
 もう躊躇する理性がなく、俺は舌を中に入れた。
 絡め取るとふん、ふんと鼻から息を抜くようすが感じられ、俺は腰から下がしびれた。
「先輩」
 かすかな叫びのような声が俺の鼓膜を跳ねさせた。耳慣れた声、なのに聞き慣れない響き。
 振り向くと、ドンヒョクが俺たちを見て肩を怒らせ、小刻みに震えていた。
 頭の働かない俺は、何故ドンヒョクがここにいるのかなどには考えが及ばず、見られた現場の内容と、それに対するこの後輩の心境を思い、ビョン・ベッキョンから離れて体の向きを変えた。
「ドンヒョク」
「先輩」
 みるみるうちにその目を涙でいっぱいにして、ドンヒョクは泣いた。哀れさで胸が痛み、なんと言っていいのか逡巡していると、
「ドンヒョク」
と後ろから声がした。
 横をすり抜け、ビョン・ベッキョンが腕で目を隠したドンヒョクの背中に手を置いた。そして優しく、
「行こう、ほら」
と促した。
 半ば無理矢理方向を転換させ、ふたりは店の方に戻り、俺も急いで用を足し、後に続いた。
 皆で店を出、ビョン・ベッキョンがドンヒョクを熱い茶を飲ませながら道々説き伏せ、真っ赤な顔で黙りこくった彼を帰りの電車に乗せるため駅まで送った。ドンヒョクはひとことも声を発さなかったが、扉が閉まる頃にはだいぶ落ち着いているようだった。電車が去ると俺はひとまず安堵した。
 ホームに並んで立った俺たちは、呆然とした態で双方を見合った。
 ようやく俺は口を開いた。
「平気かな、あいつ」
「うーん、とにかくまた次会ったとき、ちゃんと話をしなきゃだな」
「悪い、ほんとに助かった」
「いいって」
 こんがらがった状況で、頭が混乱の極みだったが、しばらくしてビョン・ベッキョンが前を向いた俺の横顔を眺めているのに気が付いた。
「お前」
 片側の口角を上げてやつは言った。
「キスしたな」
 驚いて目を見開いた俺は、少し間を開けて、半ばやけで、
「したよ」
と返した。
 ティンパニーのような笑い声を立ててビョン・ベッキョンは言った。
「開き直ったな」
 笑いの意味を図りかね、俺はただやつを見返していた。
 徐々に真顔に戻ると、つぶやくように、しかしくっきりと聞いてきた。
「俺にキス、したいの」
 その聞き方に瞬きも忘れ、聞かれるままに返答した。
「したい」
「そう」
 虫が鳴いている。夏の夜の匂いが充満し、むせ返ってしまいそうだ。
「さっき」また目を伏せたビョン・ベッキョンが、微笑を覗かせ、続けた。「俺もしたかった」
 緑の濃くなる匂いも、日に晒されものが皆焼けた匂いも、全然嫌じゃない。
 虫たちの合唱を聴きながら、俺たちは俺たちだけを見、入っては出ていく電車を前に、世界でふたりだけになった。
 
 
 
おわり





 


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ EXO RANKING ⊿⊿
FC2BLOGRANKING
( korea boys rank ) Kiss&Hug.
にほんブログ村テーマ BLラブへ
BLラブ
trackback (0) | comment (0) | 短編(パラレル・グループミックス)
私はその長く美しい緑の髪と、それにまつわるエピソードを忘れられません | 非常にお恥ずかしいことでした

comment

コメントを送る。

URL:
Comment:
Pass:
Secret: 管理者にだけ表示を許可する
 

trackback

この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
  • ミス・レモン
ようこそお越しくださいました。
EXOのメンバーを登場人物にした二次創作BL小説や、オリジナルのBL小説、好き勝手なことを綴った雑記などを置くブログでございます。
内容を読んでのコメント、メッセージなど、いつでも心よりお待ちしております。
よろしくお願い致します。

最新記事

人気投票 1

人気投票 2

人気投票 3

人気投票 4

人気投票 5

ブログ村

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 韓流二次BL小説へ

人気ブログランキング

アクセスカウンター

有料アダルト動画月額アダルト動画裏DVD美人フェラポルノ動画フェラ動画美人フェラ無修正アダルト動画フェラチオ動画無修正フェラ
アクセスカウンター高画質アダルト動画無修正フェラ動画アダルト動画無修正アニメ動画海外アダルト動画
無料カウンター無修正DVDクレジットカード
無料アクセスカウンターウォーターサーバーアダルトグッズランジェリー無修正盗撮動画AV女優名教えて
ブログカウンター