海の底、森の奥

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20190803

《修正版》アンバー・エフェクト 中編(誕生日企画・グループミックス・パラレル短編)
2.琥珀色の瑪瑙の部屋のモスコミュール


 こんなところに来たのは初めてで、いたたまれず俺はモスコミュールの入ったグラスを再び握った。すぐなくなってしまうからそうしたくはないというのに、絶望的な気分に浸りながら、しかたなしに口元に運んだ。
 地下に続く店の入り口に立ったとき想像したよりずっと、店内は広かった。そしてとても暗い。奥の方など目を凝らしてもよくは見えない。間接照明とダウンライトのみで照らされた店は琥珀色の瑪瑙の中にいるようで、禁煙どころか分煙もされておらず、煙草の煙でより靄がかって何もかも紗がかかったふうに目に映った。慣れない匂いにむせそうになりながら、なんとか我慢して観葉植物横のふたりがけの目立たないテーブル席に身を縮めて座っていた。一刻も早く地上に出たかった。
 だいたいこんなことをしていては駄目だ。許されないことだ。それは重々分かっている。なのにどうしてもここにいたい。来るかどうかも定かでないのに、確かめずにはいられない。もしほんとうに来たとしたってどうにもできない。だけどそういう問題じゃない。
 同じことを繰り返し繰り返し考えては、結局ただそこにじっとしていた。ゲームでもしようかと思うが、やる気が起きない。テーブルに両肘を付き、腕を重ね合わせると、前屈みになって下を向いた。前髪がカーテンのように視界の端で揺れている。きっと来ない。そうだ、来ないに決まってる。なんでひとり、こんなところでこんなことをしているのだろう。
 ギョンス先輩にここの話を聞いたときまで、時間を巻き戻せたなら。
「ジャズバー?」
「うん」
「そんなとこ行くんですか」
「行くよ」
 クライアント先に提出する書類作成をしていた夜中、缶コーヒーを飲みながら小休憩をしていたら、よく行く店の話になった。休日や夜、いったいどこに出掛けるか?俺は誰とが重要で、どこへはそこまで気にしなかった。だが先輩は、映画館、本屋、ジャズバー、全部ひとりで行く、と答えた。
「ジャズ聴くんですか」
「うん」
「そこ、行ってみたいです」
「聴く?ジャズ」
「聴きません」
「なら退屈だろ」
「経験してみないと」
 そう言うと、先輩は眉をひしゃげ、音を立てずに笑った。俺が話すとよくそうした。
 いいよ、とは言ってくれなかったが、きっとうまく頼めば連れてきてくれただろう。店の名前は覚えていたから、調べたらすぐ知れた。こんなふうに来るつもりなんてこれっぽっちもなかったけれど。
 ギョンス先輩は今まで会った誰とも全然、まったく違って、俺は最初担当が先輩みたいな人だと知ってちょっとがっかりしたものだったが、俺が言った冗談で先輩がくすくす笑ったのを見て突如考えを改めた。すごくおかしそうに、少年のような風情で先輩は笑う。その笑顔に、冷たいわけではないんだな、と安心し、それから冷静に話すことを聞き、することを見ていると、俺は非常に運がよかったとまで思い始めた。先輩は仕事にも人にも、誠実で忠実で丁寧で無駄がなく、自分というものを心得ており、自身だけの論理や方法や速度でことを行ったが、それを押し付けはしなかった。俺にも理不尽なことを言った試しがない。失敗したときには機嫌を損なうどころか自分の教え方を謝られた。今でもやはりこう思う、俺はこの上なくラッキーだと。けれどものすごく不幸でもある。
 そのきつい残業を終え、終電を逃した俺はまだ電車のある先輩の家に泊まらせてもらうことになり、疲弊した脳みそと体で、しかし高揚して深夜の道を歩いた。先輩はマンション住まいで、部屋に入ると想像通りの地味なインテリアが俺を迎えた。
 翌日も仕事で、帰ったら風呂を借りてすぐ寝なければならなかった。疲れも溜まっているし、何もしないまますぐ眠りこけてしまうかもしれないなどと道中案じていたりもしたが、ベッドの前のソファに腰を下ろした俺は、目が冴えに冴えていた。
「先風呂入れよ。掃除はしてある」
 先輩がネクタイを解く音を立てながらそう言っている方を向くことができず、スーツを着た状態でソファに埋まった俺は、「はい」と小さく答え、テーブルの上を見つめていた。テレビのリモコン、エアコンのリモコン、扇風機のリモコン?…これはなんだ。あ、眼鏡。本。考えがとっちらかり、居心地悪さを抱えながら、とりあえず目に入ったものを声に出さずに呟いていた。衣擦れが小部屋にこだまし、俺の体を縮こまらせた。
「ほら、風呂入れって」
 あちこち動く気配のあと、こちらに来る足音がしたのですぐ横に立っていると分かっていた。観念して顔を上げると、眼鏡を外し、灰色のTシャツとスウェットパンツに身を包んだ先輩が、こちらを目を凝らすようにして見下ろしていた。
「どうしたんだよ」
 裸足の足の爪にまで目を走らせ、俺は慌てて顔を背けた。
「風呂ですね」
「そうだよ」
 辛うじて奇妙な笑みを唇に乗せ、わーい、風呂!!と立ち上がってはしゃいで見せたが、先輩は常の如く無反応で、タオルとか出してあるから、と告げて俺が座っていた場所に腰を据えた。
 今度は俺が先輩の短髪を上から見る格好になり、眼鏡を取り上げているようすに目を奪われていると、掛ける直前に上目でこちらに視線を投げられ、
「買い置きの下着、やるから使えよ」
と言われた。
 丸くて黒い瞳が大きな目玉の中でぎょろぎょろ動いているのから目が離せず、言われたことをすぐに飲み込めなかった俺は、数拍置いて「いいですよ、今着てるの着ます」と恐縮して返した。
「いいから着ろよ。もう出したから。寝間着は俺のだと小さいだろうけど、我慢しろ。そっちは新品じゃないけど洗濯済みだ」
 先輩はもう俺を見ていなかった。銀縁の楕円形の眼鏡を掛け、スマートフォンをチェックし出した。
「早く行けよ。さっき場所言っただろ」
 常日頃先輩は襟元をはだけることなどなく、俺は見たことのない彼の肩らへんの肌を目にした。腕のそれも。それは白く、儚いほくろがやたら目立った。突き出た分厚い唇は、上からでも一部が見えた。
 唇を湿すと、染めた髪をした肌の色の濃い俺とは正反対のその容姿に背を向けて、俺は言われた通り脱衣所を目指した。
 その後は入れ替わりに先輩が風呂に入り、渡された歯ブラシだので寝る支度を整えると、明日に備え眠りに就いた。俺はソファに陣取った。
 灯りを消した室内は扇風機の回る音だけが穏やかに鳴り、ソファに横になった俺は、先刻目にした暗い中立っていた陰影だけの先輩の姿を、闇の間に思い浮かべていた。
 先輩の寝息が聞こえ出すと、俺は喉の奥のあたりが締め付けられるような心地がし、寝返りを絶えず打った。そのまま寝たり起きたりをし続け、朝が来ると心からほっとした。
「なんだよその隈」
 開口一番、目を覚まして俺の顔を見た先輩は言った。もう俺はへとへとだった。
 それから俺は変わったのかもしれない。そうなるつもりはないのに、先輩に接するとき、変にぎくしゃくしてしまうようだった。そんな俺を受けて先輩も多少困惑していた。それが続くと、夜、珍しく食事をおごると、先輩に半ば強引に店へと連れ出された。
 俺は嬉しいと同時に怖かった。その恐怖からそれほど飲めない酒をどんどんと干していった。赤らんだ皮膚をした俺を、先輩は本気で心配していた。
「大丈夫か」
 四角い眼鏡の奥、あの夜邂逅した、未知の生物に似た黒目が俺を真近で捉えていた。俺たちは中華料理屋の、衝立で仕切られた回る朱色のテーブルのひとつを囲み、目と目を合わせて押し黙った。酔いと、その他の何かで俺は目が潤んでいった。
 それを見た先輩は、困った表情をして俺の肩を抱くようにし、優しく言った。
「おい、どうしたんだよ」
 密集して生えている眉や睫毛がすぐそこにあった。線の入った唇も。
 俺は少しだけ顔を寄せた。それだけで充分だった。
 触れさせた瞬間に弾かれ、押し返そうと反射で口を開け、咥えようとしていた。次の刹那肩を突かれた。
 椅子を倒し、仁王立ちした先輩がそこにはいた。一瞬で酔いが引き、俺も腰を上げた。
「すみません」
 頭を下げた。
 顔を戻すともう先輩はいなかった。高く鳴る靴音が遠ざかって行くのが聞こえた。
 モスコミュールを飲み干した。
 ドアの鈴が鳴る。もう何度目かの確認で入り口の方に首を伸ばすと、男性ふたり連れ、どちらもスーツ。
 当たった。
 毛という毛が逆立つというのは生まれて初めてのことだった。
 ビョン・ベッキョンが先輩といっしょにいるのを見るのは、いつだって嫌だ。今自分のしている、ストーカーめいた愚かな行為のことを頭の隅に完全に押しやってしまえるくらい、ふたりがここに連れ立って来たことへの感情だけが膨れ上がり、俺は血が沸き立った。
 ふたりが席を決めて腰を落ち着けるのを確かめると、傍を通った店員にまたモスコミュールを頼んだ。
 酔うわけにはいかない。届けられた濡れたグラスを見つめて、自分を抑えるように腕をしっかりと体に回した。グラスの表面はびっしりの汗。俺の掌も同様だった。



続く




 
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