海の底、森の奥

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20190802

アンバー・エフェクト 前編(誕生日企画・グループミックス・パラレル短編)
1.色彩の洪水の中のモノクローム


 呑みに行かないか、などと言われたことがあっただろうかと考えながら、アスファルトの焦げた匂いがまだ濃く空気に混じる中、ビルを出て飲食店の間をさまよっていた。
 そういう誘いを持ち掛けるのはいつも決まって俺の方で、そうするとたまに断られたがたいていは承諾され、他のめんつを入れたり、ふたりきりだったり、そのときどきで状況は違ったが、とにかく街に繰り出しいっしょに食事をして帰った。この男が付いてくるのは翌日は休日という夜だけで、俺は開放感に常より酔いしれ、食事を終えると上機嫌で終電目指して駅へ向かった。
 ひとりきりでの食事が何より嫌いな俺は、誰であっても時間と空間を共有できればそれでかなり満足だったし、相手を満足させられる自信も多分にあった。ド・ギョンスだって例外ではない。向こうから誘ってこなくたって別になんとも思わなかった。俺が誘えばいいのだから。
 同じ課で、無口なやつと特段親しい間柄ではなかったけれど、話すとそれなりに相性はいい感触があった。だからふたりだけで飲み食いするのに抵抗は全然なかったし、実際してみると思い描いていた以上に相当愉快だった。気が利くし、他のやつと考え方が少し違ってそれを聞くのが面白かった。ユーモアもあって、ときどき驚くほど笑わせられた。それに眼鏡を外すと割といい男に見えて、モテるだろ、と言うと、顔を丸めた紙みたいにしておそらく苦笑した。そしてそれはお前だろ、と返され、まあなと答えると、そうだろうなと、拭いた眼鏡を掛け直し、真剣に肉を焼きながらひとりごとのように言っていて、また笑った。
 でもだからと言ってやつとばかり仲がいいわけではやはりなく、かなり気に入っている方ではあるが、ずっとただの同僚のひとりだった。この春までは。
 新入社員の教育係を任されたド・ギョンスは、付いた新人とやたら親しげになっていき、それからなんだか俺の心境が変わった。
 最初はどうということもなかったのだが、帰り際これまで通り声を掛けると、以前よりも断りの言葉が返ってくるようになった。と言うよりほとんど首を縦に振らなくなった。
「悪い、ドンヒョクが」
 そう言うのだ。
 普通こんなことに気分を害する俺ではないが、ド・ギョンスが眉頭を心持ち上げてそう返事をしてくると、知らず口の端に力が入った。それを気取られないよう意識して、「分かった、またな」と言うのに毎回なかなか骨が折れた。
 誰であってもあまり相手にされないというのは不愉快なものなのだなと俺は思った。そもそも俺はそういう扱いをされることに慣れていない。忌々しい思いを抱きながらド・ギョンスにまとわりついているイ・ドンヒョクを人知れず睨みつけた。
 イ・ドンヒョクは顔にも声にも締まりのないいたずら小僧のような青年で、髪と肌が一体化しているような、不思議な色をまとっていた。社交的で要領のいいやつは、すぐにあらゆる人間の懐へと入り込み、輪の中心になっていった。当然俺のところへも尻尾を振るふわふわの犬のような態でやって来て、鼻にかかった高い声で軽やかに受け答えした。そのさまに自分と似た匂いを感じないでもない、という気がして、目の前の後輩にも自分自身にも嫌気が差した。
 しかしやつを差別するなどの馬鹿げた行為は当然しなかった。ただ心中落ち着かなかっただけだ。誰に対しても柔軟に対応し親密になるイ・ドンヒョクは、殊にド・ギョンスには教えを請うだけでなく、傍目に分かるほど強く慕って付いて回った。そのようすを周りは微笑ましく眺めているようだったが、俺だけは金輪際笑いなどで唇のかたちを変えたりなどしなかった。こんなに懐の小さい男だったかと自分自身で驚いた。
 だがこのところ、ふたりの対照的だが影響し合える仲のいい先輩後輩という間柄が、少々変化してきたように俺には見受けられていた。困ったように、しかし甘く笑っていたド・ギョンスの顔に、わずかな陰りが覗いていた。抵抗感、とでも言おうか。とうとうそのしつこいほどの構われたがりっぷりにうんざりしたのだろうかと考えたが、そういう匙加減をイ・ドンヒョクは心得ているタイプだろうと判断していた俺は少なからず意外に感じた。イ・ドンヒョクの方も、ド・ギョンスにそんな態度を示されると敏感に察して一瞬動きが止まり、すぐ体を引くと、赤い唇を突き出すようにして黙って俯いていた。透明な膜のような壁が現れ、それが彼らの間に存在していなかった距離を作り出したように俺には見えた。けれども基本的にはマイペースで静かなド・ギョンスと明るくよく喋るイ・ドンヒョクというのは変わらず、ごくごくかすかだが伝わってくるのは彼らの交流から生じるただの匂いや振動のようなものだった。よく気のつく俺だからこそそんなことも見逃さなかったが、おおかたの人間は彼らの関係に何ら変わったところなどないと見て取っていた。
 気まずそうなド・ギョンスを目にするのは自分にとってもどこか苦しいような気持ちになることだと俺はまもなく気付き、たとえその相手がイ・ドンヒョクだとしても、できることなら以前のような朗らかさをやつに取り戻してほしいと願った。そう、ド・ギョンスは物静かで、礼儀正しく、若者らしい活発さが目に見えてあるわけではないが、非常に朗らかなところがあった。そこがとてもいいと俺は思っていたし、それを感じ取る同僚からもひっそりと、だが熱烈に好かれていた。
 だからド・ギョンスから今日誘われたとき、そのことかなとすぐ閃いた。後輩に関する何かしらの相談であろう、きっと、と。
 それでも声を掛けられた驚き自体は大変大きく、しかしそれをひた隠し、トイレ帰りの俺を呼び止めたド・ギョンスにふたつ返事で了承を告げると、顔の筋肉をぴくりともさせず狭い背中を見せて自分の席へと戻って行った。
 初めて俺を誘ってきた。
 そればかりが何故だか頭を占め、定時で終われるよう機械的かつ能率的に仕事を進めた。おかげで俺も、そして幸運なことに向こうも早々に会社から出られ、飲食店街を共に目指した。
 そして今に至るわけだが、これまでとはなんとなく違う雰囲気でふたり揃って歩いていると、思わず視線が泳いでしまい、どこで食べるかや何を話すのかなどの課題や疑問を集中して考えることができず、ただ闇雲にどうする?とか何食べる?とかあやふやなことばかり口走っていた。俺らしくもなく、危うく舌を打ちそうになっていたとき、
「食事はあそこにしよう。昼もやってる定食屋」
ときっぱりド・ギョンスが言った。
「あそこ?あそこで飲むのか?」
 立ち止まることもせず、俺は相手の黒い髪や眉を見、相手は前を向いたまま続けた。
「いや、食べてすぐ他のところに行こう」
「他のとこ?」
「うん」
「決めてあるのか?」
「うん、たまに行くところなんだ」
 その外見から想像するよりもずっと低い、喉の奥底から響いてきて心臓を揺するような印象の声が、夜の闇によく合うなととんちんかんなことを考えていた。それくらいこの会話は俺をますます混乱させた。ド・ギョンスとのやり取りではないようだった。声の色、話す内容、どれも何かおかしかった。
 分かった、とだけやっと応えた。
 俺は目線を道へ落とし、自分の爪先が右、左と交互に視界に入るのを意味もなく眺めていたが、しばらくしてまた隣を盗み見た。
 黒いセルロイドの縁の眼鏡の横から、白目が目玉焼きの白身みたいに浮かび上がっているのが分かった。黄身たる黒目は変わらず進行方向を見据えたままだ。刈り込んだ襟足はワイシャツの釦をいちばん上まで留めてあっても首を洗いざらい放り出させ、その焼けていない皮膚は白目と同じように夜道の中で光って目に映った。
 主に昼休憩に使う定食屋までの道のりは短い。もうあと数分で着くだろう。
 ネオンがとりどりに街を照らし、皆週末前の夜の始まりを全力で喜び、楽しんでいる。
 けれどあらゆるかたちのあらゆる色彩が周りで揺らめくさなか、俺は真横に立つ男の黒い部位と白い部位が強烈に脳裏に焼き付き、胸の中が経験のないふうに音を立てていた。息苦しい、とにかくそう思った。
 今日、初めてド・ギョンスから誘われた。
 連れが目的地の扉を開いたとき、結局またこの文言が脳内で勝手に回転していた。
 
 
 
 続く
 
 
 
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