海の底、森の奥

- EXOの二次創作とオリジナルのBL小説を中心としたブログです。R18表現あり。お気軽にどうぞ。

20190726

きみが、きみに、きみと、きみは(リクエスト企画・リアル短編)
 ある恋の話をしよう。
 
 ずっと前、もう何年も前のことだ。
 スケジュールが比較的緩い時期が時たま、ごく稀に突然訪れることがあった。そうすると割合早くマンションに帰ることができ、メンバーは各々出掛けはせずとも束の間の休息と自由を全力で満喫した。ひたすら眠る者もいたが(当然、いつもジョンインがそのひとりだ)、多くが起きて何かしていた。若いと時間を無駄にしたくないという思いが殊の外強い。自分の時間というものを得たら、あれもこれもそれもしたかった。女の子と連絡を取っているやつはすぐ分かった。顔も声も腑抜けて一目瞭然になる。マネージャーのしかめっ面をものともせず、欲望を発散するのに皆が大忙しだった。
 そんな幸せな時間に、ギョンスの姿が見えなくなるときがあった。そういうことが何度か起こった。だいたいの面々の居場所をなんとなく把握していたが、ギョンスがどこにいるのかは知らなかった。そして同時にベッキョンの行方も知れないことがあった。ギョンスがいないとベッキョンもいない。俺はなんだか気になった。
 音楽室と呼ばれる小さな部屋がある。
 楽器やら音楽機材やらが置かれているある種の物置で、たまにチャニョルが籠もったりした。が、他のメンバーにとっては、荷物の詰まったただの窮屈な小部屋である。
 ふたりの居所を突き止めようと考えてから、すぐにそれを行動に移した俺はとにかくやかましいリビングから離れ、廊下に出た。すると後ろ手に扉を閉めた背後から漏れ聴こえるチャニョルとセフンがかけたヒップホップではない、かすかな音色が鼓膜を揺らした。最新流行歌とはかけ離れたニュアンスを聴き取った俺は、知らぬうちに忍び足で床を歩いた、その音楽らしきものが聴こえる方へと。そして先刻説明したいわゆる音楽室の前に辿り着いた。
 ノックもせずに開けてみようかと思いついたが、何故かそうはしなかった。それどころかしばらくドアの前で立ち尽くしていた。
 蓄音機から流れるような古い歌が、扉を通して聴こえてくるのだ。
 ここにはドーナツ盤を乗せるようなレコードプレーヤーはないはずだった。とするとこれは録音時の音の質感なのだろう。ざらついた耳障りが、半世紀も前だろうかと思しきレコーディングの産物をより趣深いものにしていた。
 俺が耳を木の扉にくっつきそうなほどに近付けようとしたとき、女性歌手の豊かな歌声に被さるようにして、生の男の声が流れてきた。
 ハーモニーを奏でようというのではなく、女性と同じ音程で歌おうとしていた。ベッキョンだ。
 やはりここにいたのかという思いと、何をしているのだろうという疑問と、やつの歌唱法への興味がないまぜになり、片手をドアの表面に触れさせながら、まるで部屋の中を見通せるかのように俺はただ前方を見つめていた。
 ベッキョンが常より高いキーで歌っている。細い喉の奥を狭め、時折ファルセットにもなって、歌う女性に声を絡ませながら音符の上下を追っていた。
 その声特有のハスキーさが曲と合っていて、俺は右耳上のこめかみあたりをドアにもたせかけると、目をほとんど閉じながら音に集中し始めた。囁きよりも小さな声で、みずからでもいつの間にか歌っていた。
 ベッキョンの声が裏返りかけて笑いが混じると、突如そこに低い音程が侵入してきた。より発音よく英語を操り、ベッキョンにない拍への本能的な発露がある。
 ギョンス。
 まぶたは勝手に上がり、どうしてか木と密着したてのひらが湿った。ベッキョンはまだ少し笑っているが、それでも歌い続けており、その軽薄さを包んで落ち着かせようとするかのようにギョンスの声はなめらかに空気の一部となり、悠々と廊下まで侵入してきた。
 しかしどうしたって聴こえる声が籠もったものになってしまうのは避けられず、俺は我慢が効かなくなった。思案するより先にノブに手がかかっていた。音の出ないよう、速度を遅くそこを回した。
 片目だけしか見えないよう、か細く開けた隙間から俺は室内を覗いた。幸運なことに、壁の前に据え置かれたプレーヤーを見下ろすふたりは並んで向こうを向いており、こちらに気付く気配はなかった。胸を撫で下ろすと共にどこか気分の晴れないものを感じ、俺は自身に苛立って、眉をひそめて息を殺した。
 曲が進むと、これ知ってるな、とベッキョンが言い、また歌い出していた。今度はギョンスも初めから加わった。その歌い出しの発声は見事としか言いようがなく、俺は体すべてが耳になったように全身でそれを味わった。再びベッキョンが音を外し、笑いが始まった。と、その手でギョンスの腕を掴み、揺すぶったりする。笑い声と歌声が溶け合い、斜めに下る狭い肩の背中と、逆三角を描こうとする広い肩の背中が互いを求めるように距離を縮める光景に、俺は瞬きもできずに固まった。
 眼鏡を掛けた奥の目尻に皺が寄っているギョンスを、そうさせている横に立つ男から引き離したい、そう欲している自分がいることに気付くまで時間はかからなかった。ふたりの歌はもう俺の胸を甘く溶かそうとはしなかった。ただ熱く焼き焦がすだけだった。
 目を伏せ、もうこれ以上は無理だと、俺は扉を静かに閉めた。そして来たときと同様、音を消して廊下を歩き、元いたリビングに何事もなかったかのように戻った。
 
 このことを軽く問うことすらずっと俺にはできなかった。
 なんでふたりっきりで歌ってたんだよ。
 笑ってそう尋ねれば済むことなのに、ベッキョンにもギョンスにも、ついぞ聞けぬままだった。殊にギョンスになど、それについて話すために声を出そうとするだけで喉が干上がる気がしていた。
 だが、聞いてみよう。今なら聞ける。
 そう思い、汗の染みたベッドに寝転がりながら、エアコンの設定温度を下げている素肌の背中に問い掛けた。
 振り向いたギョンスは表情ひとつ変えずに言った。
「ただ歌ってただけだけど」
 呆気にとられた俺は、ギョンスの黒々とした目の玉と視線を合わせながら、
「それだけ?」
と聞き返した。
「うん」
 シーツの上に座ったギョンスは真っ裸で、顔の近くに股間が来た俺は妖しく光るそこを視界に入れないよう目を逸らして、「なんであの曲を?ふたりで?」と続けて聞いた。
 テーブルに置いておいたグラスの水を飲んで、ギョンスは答えた。
「なんでも何もないよ。俺が音楽聴くって言ったら、付いてきたんだよ」
「一回だけじゃないだろ」
 上目で記憶を辿るようすを見せ、ギョンスは言った。
「そうかも。まあなんか楽しかったんだろ」
 響きのいい音を立てて元あった場所にグラスが乗せられると、氷の溶けきったその中身に視線を注いで俺は呟いた。
「そうだな。楽しそうだったよ」
 言った途端ギョンスは俺の方を見た。肘をついた腕で頭を支え、横になっていた俺は、上にあるギョンスのふたつの目をおずおずと仰いだ。
「あれいつのことだ?」
 いたずらを企む悪ガキのような顔をしたギョンスが、俺に尋ねた。
「わ、すれた」
「かなり前だよな」
「うん」
「お前」ギョンスの片側の唇の端が上がる。「そんなときから俺のこと好きだったのか」
 合わせていた目を背けると、答えに窮した俺は口を知らず尖らせていた。
 そんな俺の顔を覗き込むようにしてギョンスは逃すまいとした。
「知らなかったなそれは」
 羞恥から目を見開いて俺は言った。
「うるさいな」
「そんならそうと早く言えばいいのに」
「言えるか」
 そっぽを向いて背を見せた俺に言葉が降る。
「お前はそのときからで」
 体の芯を震わせるようなその声が、俺だけに響く。何を言われるのかと目を泳がせていると、
「俺はどうだと思う?」
と糖蜜のような音が耳の中に流れ込んできた。
 その瞬間俺は飛び起き、ギョンスを向くと、
「え、いつ。いつから」
と大声で聞いた。
 だがギョンスはまた片方の口角だけ上向ける笑みを作り、言った。
「教えないに決まってるだろ、ジョンデ」




おわり




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