海の底、森の奥

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20190721

昼と夜の間の夢と歌 後編(誕生日&リクエスト企画・パラレル短編・グループミックス)
「俺の英語の先生、ド先生なんだけど」
 俺もだよ、と口を挟むことすらどうしてか憚られ、黙ってマークは続きを促した。
 鼻や首に濃い影を作った暗青色のドンヒョクが囁くように語り出した光景は、聞きながらまるで実際見たかのように、マークの頭いっぱいに鮮やかに広がった。
 ドンヒョクは英語がもともと嫌いではなかった。できることなら話せるようになりたいと願っていたし、マークのことが本気で羨ましく、憧れてもいた。
 進級し、ド先生が教えるようになると、それまで以上に英語のことが好きになった。彼の英語は異国のすばらしい音楽のようだとドンヒョクは感じ入った。奥深い声で、リズムが心地よく、何を言っているのかすぐに理解できずとも、そこに吹き込まれた感情がなんとなく読み取れる。
 授業中、片時も自分から目を離さない、真剣なドンヒョクを時折見ては、ド先生は微笑んだ。それを見るたび、ドンヒョクはショックを受けた。羞恥心が頭をもたげ、こんなふうに視線を送るのをやめようと心に決めるが、またあの顔を見たいと我慢ならないほどに欲した。そして結局、常に欲求に屈した。
 ド先生は放送室の管理を任されており、よくそこで目撃された。それを聞いたドンヒョクは、英語に関連した質問を作れるだけ作ると、頻繁に放送室へ通うようになった。
 ド先生は基本、ドアを開けば生徒のノートやテスト、学校業務の書類関係を広げた机に覆い被さっており、狭い室内はまるで彼の小さな城のようになっていた。そこでドンヒョクを迎え入れると、折りたたみ椅子を引っ張り出して座らせ、丁寧に生徒の疑問に答えていった。
 額を寄せ合う間ド先生を盗み見ると、その顔の眉の黒さ、すべての部位の丸さ、白目の白さ、肌のきめ細やかさに圧倒された。分厚い唇から漏れる英文に、耳から溶けていきそうな心地がした。
 あまりに足繁く訪れ、それを嫌がられたら死にたくなると、ドンヒョクは注意深く頃合いを見計らって放送室のドアを叩いた。
 夏休みももう目前というある夕方、今日は行ってもいい日だと、内心幸せではちきれそうになりながらドンヒョクはいつものようにド先生の部屋に向かった。
 ささやかな室内は、音楽で満ちていた。
 振り向いたド先生は穏やかに笑い、「ドアを閉めて」と言った。甘く情感豊かな音色の中、ドンヒョクは後ろ手に扉を閉めた。
 年季の入ったレコードプレーヤーがこの部屋にはあり、満面の笑みでそれを扱いながら、幸福そうに、教師はひとりごちるが如くつぶやいた。
「こんなのがあるなんて、思ってもみなかったよ」
 回転する黒い円盤を一心に見つめるド先生を、その首筋を、なだらかな肩の線を、ドンヒョクは貪るように目に映した。ピアノとドラム、ベースに、女性シンガーの太く有機的な歌声が絡み、いっときドンヒョクは先生と共に異世界に飛んだような錯覚を覚えた。
「これ、先生の?」
 夢を見ているような気分でドンヒョクは聞いた。声が変にかすれていた。
 口の中で笑ってド先生は言った。
「そう。持ってきた」
 まだ向こうを向いている。ドンヒョクは無意識の内に、音の鳴る方へと足を進めていた。
「先生、こういうのが好きなの?」
 喉から体の中のものが全部出て来そうだとドンヒョクは考えていた。メロディが体を覆うが、鼓膜は心拍でより激しく震えている。
「うん。集めてるよ」
 刈り込まれた後頭部がすぐそこにあった。
 踵を返したド先生が、上目でドンヒョクを見返した。
「ドンヒョク」
 自分の名を零したそこを、ドンヒョクはうっとりと眺め、気付くと頬を両手で包み、みずからのそれで塞いでいた。
 すぐさまド先生はドンヒョクを強く押した。開き切った目をして、口元を片方の手の甲で押さえ、椅子の背もたれにもう片方の手を置いたド先生が、何を言うべきか必死に考えているのがドンヒョクに見て取れた。
 ドンヒョクも驚いていた。自分自身に。こんなことをするつもりではまったくなかった。
 今更顔が紅潮し、唇が小刻みに震えていた。あらゆる恐ろしい想像が脳を席巻し、どもって「すみません、ごめんなさい」と何度も言った。
 そのようすを見たド先生は逆に冷静さを取り戻し、ドンヒョクに近寄ろうとした。
 その声で何か言われかけたとき、弾けるようにドンヒョクは駆け出した。部屋を出ても、まだ走った。逃げたのだ。逃げて、逃げて、家に着くまで止まらなかった。
「それが先週のこと」
 もうドンヒョクは目だけに白を残した、闇の色の生き物だった。マークはドンヒョクの口から語られた、それと同時に自身の脳内で展開されたできごとに、完全に参っていた。すべては作り話のはずだと思い込もうとする自分さえいた。
 それでもマークはドンヒョクの力になろうと、気が遠くなりそうなところを持ち前の意思の強さで踏み止まり、なんとか問いを口にした。
「そのあと、先生と話してないのか?」
 唇を突き出したドンヒョクは、拗ねたようにそれに答えた。
「授業で会うけど、俺も先生も目を合わさないようにしてる。先生何も言ってこないし、俺も怖くて会いに行けない」
「どうすんだよ」
「わかんないよ」
 泣き出しそうなドンヒョクが、だが泣くまいとしているのが手に取るようにマークに知れた。どうしたらいいか?そんなこと、マークにだって分からない。分かるはずがあるわけもなかった。
 風はなくなり、窓はただ外界に通ずる大きな四角い穴であり、そこから粒のような光が数個浮かんでいるのが見えた。
 夜が忍んでやって来る。昼と夜が混ざり合う、日々の奇跡の時間が終わる。
「行ってくれば?」
 ドンヒョクのつむじを見つめて、マークは言った。
 憔悴しきった顔のドンヒョクが、顎を上げてマークに相対すると、何?と聞き返した。
「だから、今から行ってくれば?先生のとこ。まだいるだろ」
「やだよ。行けないよ」
 顔をしかめてドンヒョクは拒み、マークは続けた。
「俺もついていってやるから。俺からも謝るよ。話す間は、見えないところで待っててやるし」
 腑抜けた表情を呈し、ドンヒョクは黙った。マークの精悍そのものといった顔が、ドンヒョクを迎えている。マークは頼りになる、ドンヒョクは常にそう思い、今もまた同様だった。
「…ほんとに?」
「うん」
「先生と、話してくれる?」
「うん」
「ずっと、待っててくれる?」
「うん」
 目を泳がすと、ドンヒョクはにわかに立ち上がった。
「分かった。行く」
「うん」
 何かをするとなると、ドンヒョクはあっという間だった。荷物をまとめ、さっさと出て行く彼を追い、マークは急いで勉強道具を掻き集めると、走って部屋を後にした。
 放送室まで来ると、ふたりは押し黙り、目だけで再度ドンヒョクは頼んだ。一度深く息を吸い、吐いて、マークが扉を指で叩くと、中から籠もった声が聞こえた。
 見えないように横に立ったドンヒョクを置いて、マークはドアを開き、中を覗いた。
 煙草の匂いが鼻を突いた。そして、音の波。
 机に向かったド先生が、煙草を指に挟んだまま、ドアの前に立つマークを見上げた。紫煙と音楽に包み込まれた、眼鏡を外した若い青年は、その空気に染み込むような声で、マーク、と呟いた。
 マークは、自分を正しく呼ぶふたりに挟まれながら、そのことの意味を今、はっきりと悟った。
 
 
 
 


おわり
 
 
 
 
 
 
 
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夢の小部屋とターンテーブルと煙草の煙 : ツグ @hlhM8mZI
恋するドンヒョク…
滅多にないことだろうけど、彼だって恥ずかしくなるのです、ギョンス先生に微笑まれれば。
放送室ってある種の別世界。
学校の中でもそこでなら、夢が紡がれることもあるかもしれないと思わせる場所。

ドンヒョクの衝動に私も飛び乗っている。無言で慌てているギョンス先生の姿…目を見開き、手の甲で口を押さえ、もう片方の手は椅子の背もたれにある。この姿、ドンヒョクも私も決して忘れることはできない。

ドンヒョクの夢のような現実をまざまざと見聞きするマークの葛藤が切ない。
しかし、思春期の少年達はさらに自ら巻き込まれ、巻き込んでいく。
煙草の煙と音楽に包まれるその人が彼らを誘ってやまないからである。

(でも、その人は数学担当のビョン先生と週末を一緒に過ごしている、なんてことはありませんか?←)

(それから、キスシーンでターンテーブルにのっていた曲はなんだったのでしょうか?気になる〜!教えて檸檬先生!!
私は女性シンガーにあまり詳しくなくて、好きなアルバムからジョー・サンプルfeaturing レイラ・ハサウェイを勝手に回しちゃいました。)

他にも書ききれない印象的な表現がたくさんありましたし、まだまだいろいろに楽しめる素晴らしい作品をほんとうにありがとうございました!
これからも新作やつれづれ、どれもこれも楽しみにしています。
何度言っても言い足りませんが、ありがとう、ありがとう、檸檬さん!
2019/07/25 Thu 23:53:13 URL

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