海の底、森の奥

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20190720

昼と夜の間の夢と歌 中編(誕生日&リクエスト企画・パラレル短編・グループミックス)
 高校に進学するタイミングでカナダから韓国へと一家で引っ越してきたマークは、それまで家族や親戚と話す以外であまり韓国語を口にする機会がなく、英語の方がずっと流暢だった。だから学校生活が不安であったし、実際入学すると言葉の細かなニュアンスが理解できず、かなり苦労した。名前も英語名と韓国名、どちらもで自己紹介をし、マークの方が呼ばれ慣れているのでそう読んでほしいと言ったにも関わらず、誰もが彼を韓国名のイ・ミニョンで呼んだ、それもフルネームにさん付けで。皆帰国子女の彼を、どことなく自分たちとまとう空気の違う彼をどう扱っていいか分からず、なんとなく遠巻きにした。
 そんな状況が変化したのはマークが生徒会役員に立候補する前後のことで、その生来努力家で大変勉強熱心な性格から、学業はもちろん、生きた韓国語にも必死に取り組み、徐々に友人と呼べるクラスメイトを作ると、委員会のメンバーを決める時期、意を決して生徒会の書記の候補に手を挙げた。進学のことを考えてと、生徒会そのものへの興味、そして現在の状況を打破したいという思いからの行動だった。他の候補者がいなかったことも功を奏し、マークは生徒会役員に選出された。そこで会長を始めとした上級生たちに珍しがられ、可愛がられ、やっとマークは「マーク」と人に呼ばれるようになった、生徒会担当の教師からすらも。
 そうして二年に上がる頃、韓国語は韓国の青年が話すそれそのものになり、クラス替えが行われても、マークは一年のときほどには違和感なく、同級生から受け入れられた。だが当然、よく面倒を見てくれた会長を含む三年の役員は卒業し、担当の教師も変わり、それでもマークはまた会に入ったが、淋しさは拭えなかった。年齢関係なく集った集団の中で、気軽に「マーク」と呼んでもらえることはもうないのだろうかと考えた。会長や他のメンバーが入れ替わったことで、会の雰囲気は以前とは違ってしまった。
 だがひとり、趣を異にする役員がいた。ドンヒョクだ。
 役員に決まってから盲腸で入院し、一度も集まりに出られずにいたドンヒョクが初めて会議に出た日のことを、マークは鮮明に覚えている。
 その日、マークと資料のコピーを取りに行くことに決まり、ドンヒョクは宙に浮いているような足取りでマークの元にやって来ると、開口一番、
「マーク先輩ですよね?イ・ドンヒョクです。よろしくお願いしまーす」
と、その不思議な声で朗らかに言った。
 マークは一瞬呆気に取られ、よくよく相手の顔を見た。幼子のような顔立ちにも、泡のたくさん入ったソーダ水のような声音にも、人懐っこい物言いにも気を取られたが、何より「マーク」と呼ばれたことに驚いていた。もう生徒会に彼をそう呼ぶ者はいなかった。
「なんで知ってるんだ?」
 思わずそう聞いていた。受けたドンヒョクは笑顔で、
「あ、うちのクラスに、先輩のクラスに兄弟いるやついるんです。そいつから聞きました。カナダで生まれたんですよね、いいなー、英語話せるんでしょ」
と畳み掛けた。
 常なら社交辞令とでも言おうか、そういったものに類することを言われてもただ空々しい感じしか印象として受けることはないマークだったが、ドンヒョクからは何故かそうではなかった。彼はただ本心を語っているのだと伝わった、そこに何かしらのいやらしいものなど、かけらもないのだと分かった。コピー機までの道中も、コピー中も、部屋に戻る間も、ドンヒョクはよく喋ったが、マークはうるさく思わず、心が弾む何かを終始感じていた。男でも女でもないような独特の声のトーン、よく回る頭と舌、重力などないかのような身のこなし、それらを一身に備えたドンヒョクは、妖精か天使みたいなものに思え、マークはその邂逅を心から楽しんでいた。
 それからマークは、放課後、よくドンヒョクと生徒会室にいた。正反対と言ってもいいふたりだが、馬が合うとはこのことで、共に勉強したり、何か食べたり、あれやこれやと話したりして何時間も過ごしたが、お互いそれがちっとも苦にはならなかった。口達者なドンヒョクは、マークにとって言語、それも面白可笑しく話す韓国語を学ぶ相手でもあった。おかげでクラスメイトを笑わせるということが、マークにもずっと楽にできるようになったものだ。
 マークをマークと呼ぶ人間の数は二年になってだいぶ減った。もう自己紹介で「マークと呼んで」とは言わなかった。自分を他とは違う、仲間ではないと印象付けるだけだと知り、付け足しのように英語名を言い、呼ぶのはどちらでも構わないとだけ告げた。仲良くなればふざけてマークと呼ぶ者もいたが、ミニョンと呼ばれることの方がずっと多かった。
 それは教師も同様で、だいたいが「イ・ミニョン」呼びであったが、例外がいた。
 その例外の教師ことド・ギョンス先生は、英語担当で、この春からの赴任であった。
 マークのクラスの英語も彼が受け持ちになり、若い男性教師に女子が軽く色めき立った。が、ド先生は若くはあるが人に溌剌さよりも沈着さを感じさせる、基本地味な教師であり、瞬間湧き上がった女子の興奮は直に沈静化した。重層的な、通る低い声を持ち、決してそれを張ることはなく、愛想がないのかと思いきや何かのきっかけで四角い黒縁眼鏡越しにすぐ破顔する彼は、暗い色味のシャツやジャケット、パンツに身を包み、その豊かな声で非常に発音のいいアメリカ英語を淀みなく話した。
 そんなド先生は、指されたマークが教科書の例文を軽やかに読むのを耳にすると、黒い瞳を広い白目の中で浮遊させ、英文を繰り出していく生徒を瞬きもせず凝視し、彼が読み終えると一拍置き、言った。
「きみは、英語圏に住んでいた?カナダかな?」
 嬉しそうと言うべきか、眉を上げ、唇の両端を上方に切れ込ませたド先生の顔を見て、マークは少々戸惑った。しかしすぐにはい、と応じた。
 それを受け、ド先生は、
「生まれがカナダ?」
と続けて尋ねた。
「はい、そうです」
「そう」教科書に目を落とし、唇に微笑を乗せたド先生は言った。「美しい発音だね」
 途端純真なマークは真っ赤になった。耳まで染まり、それに更に発熱すると、立っていたマークは小さく「座っていいですか」と教師に求めた。
「ああ、いいよ」
 柔らかな笑顔のままド先生が答えると、マークはなるべく音の出ないよう、静かに椅子に腰を下ろした。まだ強く心臓は鳴り、恥ずかしさから俯いたまま、教科書を覗き込んで時が過ぎるのを待った。
 一年時の英語教師からは、英語に関し褒められたことはあれど、話し方を「美しい」とは言われなかった。それもあのようなようすで。言語に関わらず、マークは生まれて初めて接する方法によって賛辞を受けたことに気付く手前で縮こまってしまっていたが、授業が終わったタイミングでド先生に呼ばれると、どこか高揚しながら慌てて彼の元へと飛んで行った。
 教壇に立ったド先生は、休憩時間のざわめきの中、マークに向かって顔を寄せた。そのとき視線を絡ませたマークは初めて、ド先生の目と唇が人のそれらとはどこか違うことに気付き、経験のない緊張から体が固く強張った。
「きみ、名前、イ・ミニョン以外にもあるんだろ?」
 予想だにしなかったことを問われ、マークは眼鏡がずり落ちた。たっぷり五秒経ってから、はい、あります、とだけ答えた。
「なんて言うの」
「マ、…マーク・リーです」
 尻すぼみに声は消えて行ったが、目と目は逸らされることなく、マークはド先生が少年のように笑うのを見た。
「マークか。きみはずっとその名で呼ばれてたんだろう?」
 自身の目がらんらんと光っていることを、マークは自分で知っていた。胸の中で太鼓を叩くような音がする中、目に映るものすべて逃しはしまいと端の釣り上がったそこの中身を輝かせ、マークは渇いた口で、頷きながらまた「はい」と言った。
「そうか。じゃあ今度からきみをそう呼ぼう。いいかな?」
 まったくまぶたの下がるようすの見えないド先生が優しくそう言うと、マークは皮膚の下の水分が目をめがけて集中してくるのを感じ、今度はさかんにしばたきつつ繰り返し首肯して、
「はい」
と返した。
 頬の赤らんだ、目の潤んだ彼に頷いてド先生が教室を去るのを、しばらくマークは見送ったまま立ち尽くしていた。
 


つづく



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trackback (0) | comment (1) | 短編(パラレル・グループミックス)
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comment

努力と再びの恥とソーダ水 : ツグ @hlhM8mZI
マークは器用なのでも要領が良いのでもなく、おのれと周りを知って努力をする人なのだと、この中編を通して檸檬さんが教えてくれました。
ドギョンス先生に発音を、思いもしない方法で褒められて、恥ずかしさに真っ赤になって「なるべく音の出ないよう、静かに椅子に腰を下ろした」マークが愛しいです。

自分の半身である「マーク」をすくい上げてくれたドギョンス先生は、ヘチャンだけでなくマークにとっても特別な人であるらしいです。(ドンちゃんのことにしてもドギョンス先生にしても、外見のことには遅れて気付くマーク、良いなぁ!)

ソーダ水のような声のヘチャンことドンヒョクは、マークに何を語るのでしょうか?

臆面もなく後編につづく!!←
それにしてもドギョンス先生の声が気持ちよすぎる!
2019/07/24 Wed 23:09:13 URL

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