海の底、森の奥

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20190711

青い湖から降る雨(リクエスト企画・NCT127リアル短編)
 ドアを乱暴に開けて中に入り、鍵を下ろすと、部屋はすぐ堅固な密室となった。
 大音量の音楽が鳴り響く空間にいたせいで耳がおかしいのか、ただ疲れからか、それともその両方か、荷物を置く音、ため息のこぼれる音、カーテンを閉める音、そのどれもが反響し、その場にいる人間を少なからず圧して、夜に溶けそうな思いにさせた。
 並んだべッドの一方に力尽きたように座り、悠太がルームメイトに言った。
「俺、ベッドこっちでいい?」
 クローゼットに上着を吊るしながら、テヨンは悠太に背を向けていた。相手を見ていないのは悠太も同様で、返事がないことを不思議に思い振り返ると、クローゼットを閉めるテヨンの張った肩が動くのだけが彼を迎えた。待ってもやはり答えはなく、顔すらこちらに見せなかった。そのまま洗面道具を持って、テヨンは奥に消えた。
 今日、口数が少ないなと感じてはいたが、ここまではっきり不機嫌だとは知らず、悠太は驚き、戸惑った。手を後ろに着いた格好のまま、大きな目を瞬きながら理由を考えた。リハーサル中は普段通りだったはずだ。車の中は?確かに静かだった。疲れているのだとばかり思っていた。が、どうもそうではない。あのようすは、質問に応じもしないなんていう彼は、異常だった。
 疲労困憊であったが、心配の方がより重く悠太を覆い、指を髪に差し入れて混ぜるようにしながら、何故あのような態度なのかを改めて探ってみた。しかし見当もつかず、息を抜くと口の中で小さく舌を打った。
 水を使う音が、夜の部屋に妙にくっきりと染み込む。
 テヨンの節くれだった繊細な指が、洗面台の周りを機敏に動いているさまが目に浮かび、悠太は再び振り返った。こちらに戻るまで待とうと考えていたが、鼓動が口の下あたりから聴こえ、もう腰を下ろしていられなかった。
 立ち上がると、首の後ろを掻きつつ洗面所に向かった。
 洗面台を整えたテヨンが、シルバーの小さなピアスを外していた。鏡の中で視線が交じる。
 だがすぐテヨンは、また自分自身の方を捉えた。耳から離れたピアスをケースに入れる。次は指輪。裸の指になるとスウェットの裾に手を掛けた。
「テヨン」
 無言のテヨンを、追い詰められた悠太は呼んだ。入り口の縁、上方に手を置き、そこに体重を掛け気味して心持ち顔を前に出す。
 テヨンはテヨンを見つめている。黒々とした目を微動だにさせず、鏡の中で自分と対峙したまま服を脱ぎ始めた。一枚、もう一枚。衣擦れがふたりの間を漂った。
「テヨン」
 喉の奥が絡まったような声を悠太は出した。
 テヨンにここまで本気で無視されたのは初めてだった。
 素肌の肩や胸、腹が、狭い部屋の中光って現れていた。かすかな汗の匂いが空気に静かに混じる。それ以上にテヨンの香水と制汗剤の香りが、悠太の全身を包み込んだ。途端に哀しみがはちきれそうに膨れ上がった。匂いとはなんと残酷なものだろう。
 デニム地のパンツ姿になったテヨンは、とうとう悠太に目を向けた。鏡を通してではなく、直に。
「なんだよ」
 わずかに力を込めた濃い眉の下の、強い目の中に、声の色に、悠太はひるんだ。敵意を持ったテヨンは体温のない動物で、その冷たさは途方もなかった。混乱した悠太はうまく唇と舌が動かず、慌てながらどもって返した。
「ど、どしたの」
 双眸を隠そうとする前髪を両手で掻き上げると、より睨むように黒目を輝かせたテヨンは悠太を凝視しつつ言った。
「どうしたって、寝る支度してんだよ」
「そうじゃなくて」
「何」
「お、こってる、よな?」
 腕組みをし、悠太は知らぬうちに口角だけで笑みを作った。
「な、なんかあった?」
 目を雑に擦り、テヨンは残った片目でなおも悠太を視界に入れた。
「トラブル?具合悪い、とか?」
 自らを抱え込むように体に腕を回して、悠太は可能な限りの優しさと穏やかさをたたえて青年に尋ねた。
 もう一方の目を擦りながらテヨンは、唇を引き結んでうつむいた。それが子供が拗ねて泣き出したような姿に悠太に映り、眉間に皺を寄せさせ、近くに寄ることをそそのかした。
 床を踏みしめた音がそばで鳴ると、テヨンが勢いよく顔を上げた。虚を突かれた悠太が目を見開くと、
「スタッフの子と仲良くなったって?」
と、喧嘩を売るように顔を近づけてテヨンは言った。
「…は?」
 二〇センチほどの間を空けて、ふたつの顔が向かい合っていた。その距離で見て、テヨンが小さく震えているのが悠太にようやく知れた。
「テヨン、寒いんじゃ」
「付き合うのかよ」
 桜色の唇を噛んで、長い睫毛を小刻みに揺らして、暗い渦を巻いているような瞳の上を濡らして、テヨンは詰問する口調とは裏腹に小さく言った。
 黒目を落ち着きなく動かしながら、悠太は無意識にテヨンの肩に触れた。電気が走ったようにテヨンは皮膚が跳ね、そしてまた下を向いた。
「ほら、冷えてる」
「好きなのかよ」
 垂れた前髪はやはり長く、テヨンは顔が見えなかった。悠太は両手でテヨンの両肩をさすりながら、
「何聞いたんだよ」
と笑って言った。
「ドンヒョクとヨンホが」
 名前を聞き、更に悠太は笑った。
「何もねえよ」
 その言葉と同時に、テヨンは額を悠太の肩に置いた。悠太のシャツの胸元を、両方の手の指で固く掴み、荒い、熱い息を吐いた。
「ま、確かにちょっと可愛かったんだけど」顎を上げて悠太は白く並んだ歯を覗かせ続けた。「悪かったよ。今は仕事、仕事、仕事だもんな」
 髪の毛がぱらぱらと悠太の肩から浮いていく。顔と顔が、今度は数センチのところにあった。
 中の自分を見せつけられるかのように、鏡面に似たテヨンの目の玉が、強烈に悠太へと捧げられた。
 悠太の胸ぐらを握り締めたテヨンは、鍛えられた腕でそこを己の方に引っ張り、寄せた。
「テヨン」
 もう、動くこともままならなかった。吐息がそのまま唇に当たる。互いの顔以外、世界からはすっかり消え失せた。そう悠太が思うほど、完璧なテヨンの顔だけしか目に入ることはなくなっていた。
 しばたきもしないふたつの目からは怒りや苛立ちは去り、ただ鋭い何かだけ宿っていた。それが何なのか悠太には理解できず、突然ただ底のない不安が体全体を覆い尽くした。
「テヨン、痛いって」
 襟を掴んだテヨンの手は激しく震えた。
「どうしたんだよ」
 逃げ出したい衝動に駆られながら、筋肉の張った目の前に立つ男からそれは叶わないと知っていた悠太は、混乱を深める頭でこの状況の解答を求め続けた。だが得られなかった。白い肌が中からうす赤く染まったテヨンに黙したまま対していると、みるみるうちに映った自分が水の中に沈んだ。
 と、そのうちのひと粒が、肉のない頬の上に転がり落ちた。
 それに自身で驚いたかのように、テヨンは体ごと悠太から退いた。そして足早に洗面所から歩き去った。
 水滴ひとつがテヨンを濡らした光景に、悠太は気が遠くなっていた。俺がテヨンを泣かせた?まさか。いや、でも。
 立ち尽くしていた悠太が我に返って寝室へ取って返すと、トレーナーを着たテヨンが一瞥をくれ、またそっぽを向き、鼻をすすって、
「俺、ちょっと出て来る」
と素っ気なく言葉を放った。
 急いで出て行こうとするその後ろ姿に、テヨン、と悠太は大きな声で呼び掛けた。
「テヨン、なあ」
 立ち止まったテヨンは、扉の前で四角い背中をより四角くさせ、顎を引いて沈黙した。
「こっち見ろよ」
「いやだ」
「見ろって」
「やだよ」
 悠太は大股でドア前のテヨンのところまで行くと、腕を取って無理矢理その体の方向を変えさせた。
 腕で目を隠したテヨンのその手首を引き下ろすと、水槽の中の魚のような瞳が、揺らめきながら悠太を見ていた。
 先刻以上に顔を赤くしたテヨンに、悠太の顔から力が抜けた。
「テヨン」
 横を向いて視線から逃げようとするテヨンに、抱えた愛情すべてを乗せて、悠太は彼の名を呼んだ。
「テヨン」
 そしてとうとう、テヨンはこらえるのをやめた。
 涙は雨のようにその顔に降り、悠太の囁きは、やはり部屋のすみずみまで行き渡るかのようにはっきりと鳴った。それはテヨンの鼓膜を甘く震わせ、ドアは朝まで開かなかった。
 
 
 
おわり





 
 
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