20160715
心中の道連れ 3
今日は夜のロケ撮影がある。
夕食を済ませ、俺は撮影場所に向かうため、マネージャーの待つ車へと行くよう、玄関の大混雑の足元をよけつつ、ドアへとたどり着いた。
扉を開けようとすると、向こうから錠を開ける音がし、俺は体を引いた。
薄い顔より更に色味とコントラストを抜いたような、ベッキョンのそれが隙間から覗く。
汗の匂いが俺の鼻を抜けた。
「…ただいまあ」
倒れ込むようにベッキョンは中に入り、俺の肩に首を預け、のしかかって来た。
「疲れたー」
少し湿ったベッキョンの肌が、俺の首に直接触れ、匂いはますます鼻腔を刺激した。
俺はベッキョンの背に腕を回し、ぽんぽん、と叩く。
「お疲れー」
そこもしっとりと俺の手に触れる。
「…ギョンスさつえー?」
体が密着していることで、振動とともに言葉がダイレクトに伝わる。
「そうだよ」
俺の声も、体を震わせる。どちらもの。
「そっかー」
ベッキョンは俺の両腕を掴み、体を起こす。
そして俺と同じ高さの目線をそのまま俺に向け、俺たちは見合う。
とろんとした目をベッキョンは俺から離さず、掌で俺の頬をぺちぺち、と軽く叩いた。
閉じた口の端を、かすかに、にーと上に向ける。
「頑張れー」
笑みを消し、もう一方の手も反対側の頬に持って来て、俺は両頬を挟まれた。
ベッキョンはぱちっと目を開く。それでもまだまだ細く小さいそれである。
「……無理しすぎんなよ」
むにー、と、頬を両手で押され、俺は唇が飛び出す。
ひはは、と笑い、ベッキョンは顔が緩く崩れる。垂れた目は際限なく垂れ、口は半月とは言えないかたちに開く。
ひどい顔をしているに違いないまま、俺はただでさえ元から盛り上がった唇が更に高さを増した状態で、「分かってるよ」と無理矢理答える。
その細い手首に両手を掛け、そっと俺は禁を解く。
「行ってくるよ」
ほんの少しだけ、微笑む。気付かなければ、気付かないくらいの笑顔で。
「ん」
顔をそらし、ベッキョンは靴を脱いで部屋に上がる。
俺は振り向いてそのようすを眺めながら、「ベッキョン」と声を掛ける。
肩越しに俺を見て、ベッキョンは立ち止まる。
「……さっき食ったチゲ、残ってるから」
「……お前作ったの?」
仔犬のように俺を見る目がおかしいのと哀しいのとで、俺は気の抜けた笑いがまた込みあげそうになる。
「…ううん」
「なんだー」
「でも美味かったよ」
残念そうな表情に、俺は素直な感想を急いで告げる。そこにはそうであってよかったという気持ちと、そうでなくてもよかったという気持ちが同じくらいあり、俺は自分で混乱する。
「……ギョンスのラーメン食いてーなー」
そう言って前を向いたベッキョンは、廊下を行く。
また作ってやるよ。
約束をする前に、その華奢な体はダイニングルームへの扉の向こうに消えた。
俺は肩のリュックサックを掛け直し、ドアを開けた。
夕食を済ませ、俺は撮影場所に向かうため、マネージャーの待つ車へと行くよう、玄関の大混雑の足元をよけつつ、ドアへとたどり着いた。
扉を開けようとすると、向こうから錠を開ける音がし、俺は体を引いた。
薄い顔より更に色味とコントラストを抜いたような、ベッキョンのそれが隙間から覗く。
汗の匂いが俺の鼻を抜けた。
「…ただいまあ」
倒れ込むようにベッキョンは中に入り、俺の肩に首を預け、のしかかって来た。
「疲れたー」
少し湿ったベッキョンの肌が、俺の首に直接触れ、匂いはますます鼻腔を刺激した。
俺はベッキョンの背に腕を回し、ぽんぽん、と叩く。
「お疲れー」
そこもしっとりと俺の手に触れる。
「…ギョンスさつえー?」
体が密着していることで、振動とともに言葉がダイレクトに伝わる。
「そうだよ」
俺の声も、体を震わせる。どちらもの。
「そっかー」
ベッキョンは俺の両腕を掴み、体を起こす。
そして俺と同じ高さの目線をそのまま俺に向け、俺たちは見合う。
とろんとした目をベッキョンは俺から離さず、掌で俺の頬をぺちぺち、と軽く叩いた。
閉じた口の端を、かすかに、にーと上に向ける。
「頑張れー」
笑みを消し、もう一方の手も反対側の頬に持って来て、俺は両頬を挟まれた。
ベッキョンはぱちっと目を開く。それでもまだまだ細く小さいそれである。
「……無理しすぎんなよ」
むにー、と、頬を両手で押され、俺は唇が飛び出す。
ひはは、と笑い、ベッキョンは顔が緩く崩れる。垂れた目は際限なく垂れ、口は半月とは言えないかたちに開く。
ひどい顔をしているに違いないまま、俺はただでさえ元から盛り上がった唇が更に高さを増した状態で、「分かってるよ」と無理矢理答える。
その細い手首に両手を掛け、そっと俺は禁を解く。
「行ってくるよ」
ほんの少しだけ、微笑む。気付かなければ、気付かないくらいの笑顔で。
「ん」
顔をそらし、ベッキョンは靴を脱いで部屋に上がる。
俺は振り向いてそのようすを眺めながら、「ベッキョン」と声を掛ける。
肩越しに俺を見て、ベッキョンは立ち止まる。
「……さっき食ったチゲ、残ってるから」
「……お前作ったの?」
仔犬のように俺を見る目がおかしいのと哀しいのとで、俺は気の抜けた笑いがまた込みあげそうになる。
「…ううん」
「なんだー」
「でも美味かったよ」
残念そうな表情に、俺は素直な感想を急いで告げる。そこにはそうであってよかったという気持ちと、そうでなくてもよかったという気持ちが同じくらいあり、俺は自分で混乱する。
「……ギョンスのラーメン食いてーなー」
そう言って前を向いたベッキョンは、廊下を行く。
また作ってやるよ。
約束をする前に、その華奢な体はダイニングルームへの扉の向こうに消えた。
俺は肩のリュックサックを掛け直し、ドアを開けた。







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