海の底、森の奥

- EXOの二次創作とオリジナルのBL小説を中心としたブログです。R18表現あり。お気軽にどうぞ。

20180722

それはすべて追求の様相(誕生日企画・リアル短編)
 命を削って盛夏を謳う蝉の声は、幾何学模様を描こうとする筆の擦れた筋道を髣髴とさせる。
閃く細い筆の毛一本一本が集まり、広がり、墨は紙の上、字を紡いでいく、そのようすと鼓膜を揺すぶる彼らの歌声が似ているとギョンスは毎夏思う。
 昔テレビで書の特集を見てから、夏を迎えるたびその光景が脳裏に浮かぶようになった。真白な平面に黒が滲む、線として。それはいつか形を成して漢字となり、どんどんと続いていった。読めないものの方が多く、ギョンスは失望した、自分に。漢字はひどく美しいものであるとそのとき初めて気が付いた。
汗が顎を伝う。丸い唇は少しでもと涼を求め自分勝手に開いている。
相変わらず蝉たちは全身で生を訴え、それは同時に性をであった。俺も同じだとギョンスは考え、それにすぐさまわずかに恥じ入った、彼らは生命すべてを懸けているのだ。
すごいものだと思うのは、波音までをも蝉の叫びはものともしないということだ。遠く遠くに海があるようだ、すぐ横、走って数分のところに水だけの空間が広がっているということが嘘のように。ギョンスはかざした日傘を握る掌に汗が滲み続けるのを意識し、まばたきを一度した、シャッターを切るような心持ちで。
目の前には四角い肩がある。首が下を向いている、きっと自分の足の爪でも見ている。
襟足は揃えられている、きちんと。だから伸びた首筋は丸見えだ。日傘を差しているのはギョンスだけだ。日焼け止めは効力を発揮しているだろうかと訝りながら、赤く焼けているように目に映るそこを喉を鳴らして凝視していた。
奴の体の線は筆で、あのいつの間にと思う速さで描かれたそれのようだ、ギョンスはまた頭の中、かさかさと紙と毛の擦れる音と白と黒の交わいが席巻する。
サンダルの底から、防波堤にこもった熱が登ってきていた。上からも下からも、中からも焼かれていた。焦げる、消えてなくなる、溶けそうな目をして汗の粒を顔に浮かべたギョンスは朦朧としながら足を止めた。
斜め掛けしたショルダーバッグからペットボトルを取り出そうとしただけだった。だが歩みを止めてすぐ、前を行く連れも足音を消した。
ジッパーを下ろしかけたギョンスが上目で前方を確かめると、振り向いたベッキョンが言った。
「どーしたの」
 つやつやした皮膚の上を、ギョンス同様汗が滑り落ちていた。頬の高い位置が化粧を施したように薄紅色に変わっている。
ふたりだけ、相手だけを見、それぞれの内部を侵略しているときの光景が蘇るその顔は、ギョンスの体を微動だにさせなかった。
ただ互いを見合ったまま、蝉の合唱だけを聞いていた。
 撮影隊から離れて、今どこまで来てしまっただろう、とギョンスは突如不安に駆られた。何故ならベッキョンを見つめながら、どこかにこいつの手を引き連れ去ってしまいたいと激しく強く願っていたから。その背徳感にしびれ、むしろ現実が迫ってきていた。もうすぐこの時間は終わる。空色が濃く背景を彩り、その下は鏡面のように青を敷き詰めた海がある、そして遊泳禁止のため誰もいない砂浜が広がり、つまり蝉だけが、たまに通る車だけが彼らがそこにいるのを知っている、そんな時間は。
 からからの喉からひからびた声を、ギョンスは発した。
「誰もいないな」
 日傘の陰になったギョンスは顔が白と黒に分かれていた。片目が隠れている、もう一方の瞳はベッキョンを真っ直ぐ目指している。
「なんだよ今更」
 ベッキョンは笑った。その腹から響く声で、喉の奥で力なく。
 下を向いたベッキョンが目だけでギョンスを捉えると、直立したままのギョンスは口を閉じた。相手の尖った顎の先に雫が玉になってぶら下がっているのを今自分だけが知っているのを、奇跡のように思いながら。
「喉乾いたんだろ」
 視線を外してベッキョンはぱたぱたと大儀そうにギョンスの方へと足を進めた。
 思い出したように手を動かし、ベッキョンに顔を向けながら鞄を漁ろうとするギョンスは、傘を首と肩の間に挟んでいた。
無言でそれをベッキョンが手に取り、ギョンスの動きの制限をなくした。
ギョンスはまだベッキョンを見ていた、当のベッキョンはギョンスを見ていない、また多分自分の足の爪を見ている。いつもそうだ。
すっかり常温に戻ったポカリスウェットを取ると、ギョンスはその口を捻った。すべての動作をベッキョンの額と眉とまぶたを隠す前髪を、その向こうから零れてくる汗を、引き結ばれた唇を、白の上に黒で活写するごとく鮮烈に脳に像として作り上げながら行った。
上向いて喉を潤した。ベッキョンが自分の喉の上下動を盗み見ていると知っていた。そのことを思うと冷やしているはずがますます体は火照った。
顎を下ろすと我に返ったようなベッキョンと視線がかち合った。白い歯が腑抜けた唇の間から顔を覗かせていた。
 心持ちギョンスの方に傾けた日傘の下、ベッキョンは再び目を逸らして拗ねているのかと見紛う表情でしばし黙ると、鼻から息を抜き、口を開いた。
「俺にもくれよ」
 一瞬ののち、ギョンスは蓋を開けたままのボトルをベッキョンに差し出した。受け取るベッキョンはもちろん下を向いたかっこうだ。
音を鳴らして飲むベッキョンを当然だがギョンスは見つめ続けた。
口を解放したベッキョンに笑いを含んだ顔のギョンスは言った。
「間接キスだな」
 蓋を持ったギョンスにボトルを返そうとしていたベッキョンは、日焼けでない赤みが首からさあっと上がっていった。そんなベッキョンをさも面白そうに、そして実は内部から体をまた焼き尽くすように激しくギョンスは見ていた。
ごとんと、その日一番大きな音がふたりの間で鳴った。
道路側に傘を傾け、その中に隠れてベッキョンはギョンスの唇を奪った。乱暴なキスだった。唇と唇を合わせるだけ、一秒ほどの。
 やっと目を合わせたベッキョンは寄り目になったギョンスに、開口一番、ぶっきらぼうに、ばーか、と言った。
蝉が、恋を叫んでいる、筆が紙を滑り、大きく大きく青年の名をしたためる、ギョンスの見開いた目が、薔薇色の頬をしたその名を持つ恋人を映している。
声になってその名前がギョンスから放たれたとき、傘は風に乗っていた。海と空に向かって、踊るように嬉しそうに飛んでいった。



おわり





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あとがき「それはすべて追求の様相」 | 音が波であると感じる夜

comment

お久しぶりでございます : ジン @-
檸檬様お久しぶりです!ジンです。
すっかり文章から足が遠のいてしまって、こちらにも来ておりませんでした…一度私が更新をした時に(去年です)あたたかいメッセージを下さってとても嬉しかったです。未だに誰か来ているのかよくわからないほどの人気のないサイトを運営しているお恥ずかしい身ですが…本当にありがとうございます。


そして、今更ながらご結婚おめでとうございます!!!
一緒に住んでらっしゃる方の話をよくされてたので、もう結婚されてる方を同居人と呼んでらっしゃるのかな?と思ってたりもしたのですが(すみません)、おめでたいことですね…!これからもお二人で素敵な毎日をお過ごしくださいませ。

結婚からはまだまだ遠い私でございますが、何だかとても心地よさそうな関係なのだな〜と感じました。


檸檬様の書かれるベッキョンは、爽やかに色っぽくていいですね。私はあんまり彼を沢山書いたことがないのですが、どうしても子供っぽくなるか喋り過ぎるかなので…まだまだ研究が必要です。笑


それでは長々と失礼いたしました。また遊びに来させていただきます。

2018/07/27 Fri 04:00:46 URL

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