海の底、森の奥

- EXOの二次創作とオリジナルのBL小説を中心としたブログです。R18表現あり。お気軽にどうぞ。

20170224

【お知らせ】「ことの共犯」冊子作成についてのご意見募集
こんばんは。
まだまだ寒いですね!
フェリシティ檸檬です。

さて、昼につれづれを一度上げたのですが、このつれづれではちょっと、お伺いを立ててみようかと思い再度やってまいった次第です。
何の話かと申しますと、一度軽く触れました、本の作成についてでございます。
このお話に、具体的にお声掛けくださったのは、懇意にしてくださっている、コメントのやり取りをさせていただいているT様とY様だけだったのですが、それでもわたくし、とても嬉しく思ったのでした。
しかし、もし、何も反応をいただかなくとも、ずっと頭の片隅で、このことについては考えておったのです。
なぜかと申しますと、T様のお返事にも書いたのですが、「ことの共犯」についての熱いお言葉をいただくことが、ほんとうに多く…。
このお話の続きを強く皆様からご所望いただき、それに毎回、気長にお待ちください、とお茶を濁すような感じで過ごしてまいったのですが、正直な話をいたしますと、今のところ、拙ブログにて長編を書いていく予定を、入れてはいない状態なのです。
これにはいろいろな理由があるのですが、ご説明するわけにもいきませんので、割愛させていただきまして、とどのところつまり、「ことの共犯」と「ボナペティ」は、当分の間未完のまま、そっとしておくという心積もりでございました。
しかし、投票でも、コメントでも、もったいないような、素敵なお言葉で「ことの共犯」については続行を望まれる旨お伝えいただき、私もさすがに、うーむとなってまいりました。
どうしたものかな…と思っていたところ、同居人が冊子作成にやる気を出し、見本まで取り寄せている始末で、はいはい、と思いながら聞いておったのですが、ふと、ああ、「ことの共犯」を、完結させて一冊にまとめるのもありかな…と思ったのです。
毎日アップするかたちの、連載ものとしてはちょっと難しいけれど、時間を見つけて書き溜め、自分のある程度納得のいく内容にし、それを本というかたちにする、ということは、ブログを運営した記念にもなりますし、実はひっそり、私もすっかり忘れたまま開設一周年も迎えておりましたのでその記念にも同時になりますし、小説としての仕上がりすべてを考えられますし、本を自分の好きなように作ってみるという経験にもなりますし、いいかなあ、と考えた次第なのです。
もちろんこの方法は、今まで無料でネット上でお読みいただいていたお話であるにもかかわらず、そうはできなくなるという、非常に身勝手な方法でございまして、まことに申し訳なく感じる思いが強いです。
ただ、こういう方法でも取ることをしないと、このお話を完結させることは、すぐには無理であると、自分の中ではほぼ決まっている状況なのでございます。
ですので、もちろん、そんな面倒な方法でなんて、と思われる方のほうが圧倒的に多く、反感を抱かれる方すらいるのも重々承知しておりますが、もしよろしければ、こういった選択肢があるということを、皆様に知っていただきたいなと思い、今こうしてしたためているわけでございます。
まったく、細かいところは決まっておりませんし、それどころか、まだ迷っている最中でして、読者様からどういった反応が出るかということで、これからわたくしの心境が変わってくるような状態なのですが、どういうお考えをお持ちか、もしよろしければ聞かせていただければなと思います。簡単で結構でございますので。
定期的にこちらにコメントをくださっている方で、もし、これに反応しないと、これからの付き合いに支障が出るかな…なんてお思いの方は、まっっったく、気にする必要はございませんことを、何よりお伝えしたいと思います。
わたくしだって、いくら好きな何かの何かを手にすることができたりするとしても、いろいろな理由から、やめとこう、と思うこと、しょっちゅうございます。ほんとうにしょっちゅう。
こちらの、気軽に来れる仕様や雰囲気がお好きである、と思ってくださっている方々に、それが変わるわけではないということを、重ねて申し上げます。
ですから、気にやむことはしないでくださいませ。どうぞ、お心のまま、スルーを。
「ことの共犯」の、続きがどうしても読みたい!や、まとめて本にして読みたい!という方、もしくは、「ことの共犯」でなくてもいいが、新作の何かを本にして読めるなら読みたい!という方は、ご一報くださいませ。
もし、「ことの共犯」を本にということになれば、既に書いてある文にも加筆修正を大幅に施す可能性があることをあらかじめご了承いただきたいと思います。
一本のお話としての完成度を、できる限り高めることに注力することになるだろうと考えておりますので。

できれば…お怒りのお言葉などはご遠慮願えればな、なんて虫のいいことを考えております。
それとなしにそんなのひどい~、と言われるくらいであれば、もちろん受け付けたいと思いますが、本気で、そんなのってあんまりです!!というようなことを言われてしまうと、私としても辛く、しかもどうにもならないことでありますので…。

だらだらと書いてまいりましたが、上記のようなことから、この事案に関しご意見・ご要望のある方は、この記事にコメントをお送りくださいませ。
ほんとうに何から何までお手数をお掛けしてしまい、まことに申し訳ございません。
ただただ、私のわがままとなりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

もし、ほとんど反応がございませんでも、気にしてものすごくへこんだりはいたしませんので、ご安心くださいませ!


先日の音楽祭でのセフンソロパフォーマンス、とてもよかったですね!カメラワークはほんとうのほんとうに残念でしたが。がっでむ!
フェリシティ檸檬



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20170224

惑わさせてよ
こんにちは。
花粉が飛んでいますね。
フェリシティ檸檬です。

花粉症を発症しております。
私はあまり鼻に出ませんで、主に目の痛み、そして頭痛となります。
熱っぽさに額に冷えピタを貼り、花粉症に効くというカモミールティーを飲み、何とかしのいでいる次第です。
ほんとうに参ります。

バレンタイン企画を終え、そのままになっておりました。
焼いたケーキを上げたり、投票を設置したりはしておりましたが。
そうです、投票、バレンタイン企画のものを作成しましたのですが、こうしてお願いをきちんとする前に、10人以上の方がご参加くださり、わたくしほんとうに嬉しく思いました。ありがとうございます!
投票システムはすべてそうなのですが、おひとり一度ずつで、可能であれば(ほんとうに、特に長編にはお願いしたいのですが)、日付をコメント欄に記入の上、ご投票を、まだの方はしていただけると大変に喜びます。
今のところ、バレンタイン企画の結果は少々意外なところもあったりいたしまして、入れていただくたび、へえ~!とひとりごちております。
すべてのリクエストにお答えすることができましたのも、ひとえに投票をしてくださったり、励ましのコメントをしてくださったりする読者様のお陰でございます。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

コメント、大部分をお返ししたのですが、まだすべてではございませんで、もう少々、お待ちいただければと思います。
きちんとお返ししたい、と思いますと、なかなか時間がかかりまして、お待たせしているのは重々分かりながらも、ぽんぽんと上げられずにおります。
こういう駄文は、そういったお返しよりも、はるかに楽に書けるものでして…。
どうか、お許しくださいませ。

ここのところいくつか映画を見ております。
アカデミー賞前ということで、見たかった映画をwowowさんがたくさん流してくれることも手伝って、うはうはしながらご飯の最中などに観賞し、その余韻に浸っている日々でございます。
「ヒメアノ~ル」と、「ルーム」をすべて見、「ヘイトフル・エイト」は途中です。
今週末は、「レベナント」、「スポットライト」などが放映されますので、今から楽しみです。
上記の、見終わった作品は、どちらもとても熱のこもったもので、作家性も娯楽性もあり、演技も優れていて、見る甲斐のあるものに間違いございませんでした。
ただ、やはりいろいろと考えさせられるところは多く、手放しで絶賛したくなる、といった感想を得る結果にはなりませんでした。
私は創作物において、テーマというのは大変に重要なものだと思っております。
それは、たとえば長期連載物で、少しずつ含有するものが変化していくタイプの物語、などは例外として、たいていの読み物、見る物に言えて、私はこれがぐらついている作品が、あまり好きではありません。
どんなにいいなと思うところがありましても、そこから少しずれている、と感じますと、それで評価がかなり下がります。
これはあらゆる評価軸のひとつであり、このほかにものすごい数のチェック項目のようなものが私の中にありまして、それらをかいくぐって、お気に入りができあがるわけでございます。
皆様も、きっとそうなのではないかなと思うのです。
ここ最近見た中で、いちばん面白かった!!いい映画!!と思いましたのは、「ベル&セバスチャン」という、「名犬ジョリィ」の元となった原作を映画化したものでございます。フランス映画…だったと思います。
これは続編もありまして、それもなかなかによかったです。
お分かりの通り犬の映画でございまして、私はかなり犬が好きですので、それも大きい犬が好みですので、真っ白い大きな犬が出てくるというだけでかなりがん上がりなのですけれど、犬が出てくる映画が好きかというとそういうわけではありませんで、むしろ好きなものは少ないくらいなのです。
それでも、この映画は、驚くほどよくできておりまして、わたくし見ながら鼻息が荒くなりました。
すべての要素が有機的に絡み合って物語が進みますので、あらすじを言葉で説明するのが大変なほどなのです。
これも、よさを書き出していきますととんでもないことになりますので、割愛しますけれど、もし、ビデオレンタルなどのご機会のある方は、是非一度ご覧になってみてくださいませ。
確かに、一部の隙もないほどすべてが完璧だ、とまでは言えませんけれど(でも、そんなことを言うのははばかられるくらいのクオリティでございます、ほんとうに)、それこそ家族でご覧になってもいいような、万人に向けられたお話でございますので、お子様などがいらっしゃる方も、いっしょに見てみてはいかがでしょうか。
回し者のような雰囲気が出てきておりますが…。
「ヒメアノ~ル」は殺人シーンと、森田剛のぼうっとした顔と話し方が、「ルーム」は男の子の表情や仕草、話し方、女性警官のふるまいが、とてもよかったです。

ここのところ、BLにおける萌えについて考えております。
これは人それぞれ違うものでして、こういうものだとひとつに定義できませんけれど、BLの最も重要なファクターであると、読む方なら誰もが思うのではないでしょうか。
私もBLを読むときはやはりそれを得たいと思っておりますので、自分で書くときも、そういうものにしなければという意識を持ってキイボードに向かいます。
こうしたら萌える、と、頭で考えているというのとまた少し違い、脳内に漂う霧のようなものを必死にこねて、わたあめみたいな甘い食べ物に仕上げていくような感覚で、書いております。
これからも、何かお話を書くときは、それをどう、うまく物語の中に無理なく落とし込むことができるか、ということに、神経を尖らせて書いていかなければならないな、と強く思っている最近なのでございました。
わたくしの長編人気作は「受容について」「ことの共犯」「砂糖壺に落ちる」なのですが、きっとこれらの萌え成分は、受け取られる、感じられる方の多いものなのだなあなどと、考えたりもしております。
皆様の萌えを、是非お聞きしてみたいものでございます。


松田聖子の曲では「小麦色のマーメイド」が好きです



う、ウィンクがうますぎる…!

目の使い方が秀逸すぎて、思わず「うまい…!」とつぶやく始末
フェリシティ檸檬


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20170217

膨らむあなた
20170217

抹茶シフォンです。


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20170214

ケーキケーキケーキ
20170214


焼きました〜。


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20170214

my funny valentine
こんばんは。
ハッピーバレンタイン!!
フェリシティ檸檬です。

さて、本日、とうとう最後のバレンタイン企画第8弾、チャニョル×レイを、更新いたしました。
鍵コメMK様のリクエストでございます。
お楽しみいただけるとよいのですが…。
レイを出しますと、どうしてもセフン相手の印象が強い方が多いようで、その相手が他のメンバーですと、あまり好んでいただけないのではないかなと私はつねづね思っているのですが、いかがでしょうか?
チャニョルとレイは、それぞれなかなかカップリングが難しいメンバー同士ですが、彼らを組み合わせると独特な魅力があるなとわたくし、今回改めて思いました。
素敵なカップリングをご依頼してくださって、MK様、誠にありがとうございました。
バレンタイン当日でございますので、ちゃんとバレンタインデイを過ごすふたり(日は越えてないくらいでしょうか)を描きたいなと思いました。
チャニョルはどうも、私が描くと振り幅が大きくなりますね。
暴君になったり、へたれになったりいたします。
「慈雨~」のカップリングがお好き、という方にとっては、このチャニョルは結構よいのではないかなと、勝手な推測をしたりもしております。

これで、とうとう、今回の企画が終了いたしました…。
長かったですね~!
皆様はどうお感じでしょうか?
そう言えば、セフン×シウミン、チャニョル×カイをリクエストしてくださった読者様から、お読みになったという反応をいただいていないのですが、まだ読んでらっしゃらないのでしょうか?
お忙しいかとは存じますが、もしよろしければ読了した旨だけでもお伝えいただけると幸いでございます。よろしくお願いいたします。
ホワイトデー企画などを行うかどうか(さすがにちょっと難しいかと思いますが…)はさておき、どんな企画でございましても、こちらにご依頼くださる読者様には、お読みいただいた際はご一報いただけることをお願い申し上げたく存じます。
ある意味その方のために書いているようなものでございますので、お読みいただけないと無価値なものになってしまうからでございます。
大変面倒に感じられてしまうのは分かりますが、お話を書くのはなかなかに時間と労力を使いますので、報われないことが骨身に染みるのです。
そんなわけで、もし、今度企画があった際は、よろしくお願いいたします。

タイトルのことですが。
私はこの歌が大好きでして…。
ラブソングの中でいちばん好きと言っても過言ではありません。
行うつもりのない結婚式や披露宴で使いたいななどと妄想するくらいでございます。
いろいろなジャズシンガーが歌っておりますが、私はこのバージョンが今のところいちばん好きです。





この歌の何がそんなにいいのかと言うと…メロディーと歌詞の内容ですね(当たり前)。
とにかく胸がきゅーっとなります。
音がどんどん上がっていくところが、「あなたはそのままで、何も変わらないで、何も」という歌詞で、音と意味が螺旋を描いて上昇していくような感じです。
たまりませんですね。

皆様、それではすてきなバレンタインデイをお過ごしくださいませ。

ケーキがおいしいといいなあ
フェリシティ檸檬


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20170214

サクリファイス(リアル短編・バレンタイン企画8)
背後からドアの開け閉めの音が聞こえ、男の唇は勝手に弧を描いた。
キッチンは、換気扇で取りきれないほかほかとした湯気で満ちていた。
よってにおいも充満している。
肉と、根菜が、煮込まれたもの。甘く、香ばしい、焼き菓子のもの。スパイス、ハーブ、洋酒。
たす、たす、と、帰宅したイーシンが、ささやかな足音を立てて奥に進み、カウンター越しに家族のひとりを目に映した。
「チャニョル」
 語尾を抜くように発音する、彼独特の言い方で、このキッチンの主に呼び掛けた。
高い、上の戸棚を開けたら間違いなく額を打つ身長を誇る、イーシンの弟分は、顔だけを振り向けた。
「兄さん、お帰り」
 そしてにこにこと笑みを顔に浮かべ、食卓の準備の仕上げに取り掛かった。
「…もしかして、待ってた?」
 コートを脱ぎながらイーシンは尋ねた。とても暖かく、代謝のいい彼はすでに薄く発汗していた。
「寝ててねって、連絡したのに」
 それに対するチャニョルの返事は「おっけ!!!!」だったのだ。イーシンはだからとても、驚いていた。
「えー、だって」天井の灯りがチャニョルの丸く盛り上がった頬を光らせる。「びっくりさせたかったから」
 チャニョルの声は、ヘッドフォンで、隅々まで計算されつくした音源を耳を済ませて聴いているときにやって来る、いちばん質のいい低音のようだなと、イーシンはいつも思う。そんな声で、こんなことをさらりと言う。
「ずるいなあ」
 ぽつりと零す。
「え?何?」
 食器をかしゃかしゃと取り出し、盛り付けに精を出すチャニョルは、イーシンがコートを放り投げ、上に着ていた厚手のトレーナーを乱暴に脱ぐのをふいに目にした。下に着ている長袖の薄いトップスの首周りを、暑そうに指で伸ばしているのも。その輝くばかりの笑顔は瞬間、消えた。唇を噛んで、目を泳がせながら手の動きを速めた。
「さすがに腹、減ってるでしょ」
 カウンターを回って、イーシンの立つ横に備えられたテーブルに、盆に乗せた料理をチャニョルは運んだ。敷いておいたランチョンマットに、それらを丁寧に並べながら続ける。
「もし、まんいち減ってなくても、味見くらいしてよ」
 そうして行ったり来たりを数回繰り返すチャニョルをぼうっと見守って、イーシンはただ、うん、とだけ呟いた。
俺たちって、やっぱ付き合ってるんだ、と、彼は改めて考えた。
まったくもって、似ているところのない自分たちが、それもどっちも男なのに、こんなことになるなんて、信じられないなとここ数ヶ月、チャニョルが自分を抱きしめてきたときから、イーシンは絶えず困惑をし続けてきた。
今日のように、深夜、へとへとになってマンションにひとり帰り着くと、玄関に突如チャニョルが現れた。
彼はイーシンを待っていた。
その大きな歩幅であっという間に距離を縮め、まだ靴も脱いでいない兄を、弟は腕の中に包み込んだ。
そうだ、あの日も。
硬く、広い体から、食べ物のにおいがしたことを、イーシンは思い出す。青い野菜や、トマトなどのそれ。
夜気と、香水と、汗の世界から、いきなりチャニョルの懐へと、イーシンは引っ張り込まれた。
おかえりなさい。
耳元で、あの声で、ヘッドフォンなどしていないのに、すばらしい音楽を聴かされるように、囁かれ、無意識のうちに、うっとりと目を閉じていた。全身の力が抜けた。
耳の裏から漂うイーシンのにおいと、脱力して身を任せられたという事実に、チャニョルは胸が苦しかった。拒絶されなかったというだけでも、涙が出そうだった。
「ご飯、作ったんだよ」
 体を離しつつ、異様なくらい大きなそのふたつの目で、イーシンを捉えてチャニョルは告げた。え、と、ほとんど息だけの声が、イーシンの品のいい唇から漏れた。
「食べて」
 お腹空いてたら、と、視線を逸らされると、呆気に取られたイーシンは、それでもとにかく靴を脱いだ。
ぼ、ぼと、と、靴の落ちる音が、やたらに響く。
「来てよ」
 手を差し出され、顔を上げると、今までに見たことのないような、切なげな表情を浮かべたチャニョルが、目を伏せてイーシンを向いていた。
忙しくて、まったく気付いていなかったけれど。
操られるようにイーシンは手の上に手を乗せた。
こいつ、こんなふうに俺を見てたのか?
チャニョルは手を触れただけで体温が上昇し、思い切って力を込めると、それに連動して体の真ん中、意思どおりにはいかない部分が、存在を主張した。
それを無視し、手を引いて、リビングへの扉を開けた。
バジルとトマトのパスタと、ほうれん草とハムのスープを、その夜ふたりは食べた。
食事を始めると、チャニョルは叱られた犬みたいに元気をなくし、もくもくとひたすら料理を口に運んだ。
そういうことが苦手であるのに、がんばってイーシンは、おいしい、とか、料理うまいね、とか、思いつく限りの、本心ではある、チャニョルの気を上向かせようとする言葉をたくさん並べた。とてもおいしかったのだ。ほんとうに。
食べ終わり、シンクに食器を運んでふたりが並ぶ格好になると、チャニョルはイーシンを見下ろした。
また、無言で、チャニョルはイーシンを抱いた。
そうされる一秒前に見た、涙の膜のようなものが張ったチャニョルの双眸に、イーシンは金縛りにあったようになった。
自分にこんなにも近い人間から、そういう、まことの恋情を目に浮かべられたのは、初めてだった。
ぎゅう、と引き寄せられ、腰のところで腕が交差するのが分かった。
言いたいことがあるのだけれど、それを言うのが、チャニョルは恐ろしすぎた。だからと言って、こんなことをしていたら、それこそ嫌われかねないことも、分かっているのに、体が自動的に、イーシンに触れてしまった。喉の奥でからからと音がするように思った。言葉が生まれ出ようと必死になってもがいていた。
にいさん。
言いながら、さっき食べたものを全部戻してしまうかも、とチャニョルは危ぶんだ。
すきだからつきあって。
暗号のように、抑揚なく、いつもの豊かさのかけらもなく、青年の言葉はふやふやと空気を漂った。
抱かれた格好のイーシンは、目を瞬いて夢のようなこの時間すべてに思いを馳せた。
 手をするすると男の感触のする背中を滑らせ、心臓の裏辺りで止め、ぽんぽん、と叩いた。
「―――いいよ」
 何を持って了承したのか、イーシンは自分でもよく分からなかった。
そのあとも、何度も何度も、考えた。
胸の中の温かさ。
野菜の味。
全身(目、声、手)から発してくる、好意の強度。
いつの間にやら絡め取られていた。そうとしか言いようがない。たった一晩、それどころか、一時間くらいのことだったのに。
俺を自分のものにしようとしているこいつを、俺のものにしよう、と、イーシンは頭の隅で確かに、はっきりと思ったのだった。
向かい合ってテーブルに着くと、ちょっとだけね、と言って、チャニョルは白ワインをグラスに注いだ。
「乾杯」
 杯を合わせ、遅れて乾杯、と言いながら、あれ?とイーシンは不審に思う。
「……今日って、なんか、お祝いする日?」
 甘めの白が喉を下っていく。
 チャニョルを見ると、おかしそうに笑顔をこしらえ、スプーンでクリームシチューをすくっている。
「やっぱりなあ」
 ごろごろと入っている厚切りのベーコンが、ひとすくいでふたつ、スプーンに乗った。
「今日、バレンタインだよ」
 美しい口でそれを咥えるチャニョルを、魅入られたようにイーシンは眺めた。ばれんたいん。
「バレンタイン?」
「うん」
 咀嚼するチャニョルは、硬いバゲットをむしる。白いカスがぱらぱらと落ち、かぐわしいイーストが鼻をくすぐった。
「…そっかあ」
「食べなよ」
 喉の奥で笑い、促すチャニョルを呆けて見つめるだけだったイーシンは、おもむろに食事に手を付けた。柔らかくなったベーコン。おいしいパン屋の人気のバゲット。
「おいしい」
「まじで」
「うん、ほんとう」
「やりー」
 子供のように顔をくしゃくしゃにして喜ぶチャニョルに、なんで俺がいいんだろう、とイーシンはまた、疑問が湧く。だが、空腹が満たされていくうちに、アルコールも手伝って、もっと体が温かく、充足していき、幸福とはこういうことを言うのだということしか、もう脳みそには残っていなかった。
目の縁や耳の先や首周りを、ほんのり赤く染めたイーシンが、ふらふらと体を揺らすのを、チャニョルはちらちらと盗み見るように眺めた。
おおかた食べ終えた頃、
「デザートがあるんだ」
と、チャニョルがくっきりと言った。
「デザート?」
「うん、焼いてみた」
「焼いた?」
「うん、ケーキ」
「ケーキ?」
 立ったチャニョルは冷蔵庫から、冷えたチョコレートの四角い塊を持って戻ってきた。
「ガトーショコラ」
 それでなくてもとろりとした目元のイーシンが、ほぼまぶたを閉じかけていたにもかかわらず、驚くべきことにかっと目を見開いた。
「え?これ、焼いたの?」
 イーシンの鮮烈な反応に、喜びで膨れ上がりながらチャニョルは答えた。
「うん」
「チャニョルが?」
「うん」
「ほんとに?」
「うん」
 初めて作ったけど、多分そんなにまずくないと思う、と、照れくさそうにチャニョルは語った。
無骨な焦げ茶の直方体を見下ろし、ふたりはしばし黙った。
「…これ」
 イーシンが口を開いた。
「食べる?」
「これ、…お風呂上がってから、食べたい」
「―あ、そう?分かった、じゃああとで切るよ」
「うん、いっしょに、食べよ」
 そのときイーシンは、チャニョルの目をしっかと見た。頬を熱くしたチャニョルは、慌ててケーキを冷蔵庫へ戻す。
「じゃあ、片すから、兄さん風呂入ってきなよ」
 何も返答せず、イーシンは立ち上がった。すぐそこで、チャニョルは盆に皿を乗せている。
「チャニョル」
 ん?と顔を下ろしたチャニョルの肩を、手でぐっと引き寄せた。
唇と唇を触れ合わせるだけの、キス。
だが、初めての、キスだった。
みるみるうちにチャニョルは真っ赤になった。尖った変なかたちの耳も、燃えるように、紅葉した葉のように色付いた。
「…お風呂、いっしょに入ろ」
 上目でイーシンはそう言った。高い声が、甘くかすれて、チャニョルの耳に届いた。
「で、…でも」
 もう一度唇を合わせる。む、とチャニョルが喉仏辺りから漏らした。
顔を離して、イーシンはにこっと、目尻を垂らした笑みを作った。
「待ってるから」
 くるりと踵を返し、すたすたとドアの向こうへ、イーシンは消えた。
付き合って数ヶ月。
どうしても、キスさえも、できなかった。のに、とうとう、向こうから、してくれた。
真夜中、こうして時折ご飯を食べたり、携帯で連絡を取ったりする以外、具体的な行為をすることは、ついぞなかった。
―――付き合っているんだろうか。
そう自問することは数え切れぬほどあった。それでも、あの夜のことをチャニョルは忘れられなかったし、あれは夢ではないことも、よく分かっていた。
口元を手で覆う。
触れる肌が熱い。期待で体がぱんぱんだ。
浴室へ行ったら、兄さんが待っている。
我に返ったチャニョルは、素早い動きで食器をかき集めると、シンクへ向かった。
並外れた作りの体を縮こまらせて、勢いよく後片付けを行いながら、これから見られるだろうイーシンの白い体を思い浮かべては、唇をひとり緩ませた。



おわり



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20170209

短いお別れ
こんばんは!
天気がよくない日でございます。
フェリシティ檸檬です。

本日分の、バレンタイン企画第7弾、シウミン×ベッキョンリクエスト、先程更新いたしました~!
昨日に引き続きまして、鍵コメH様のご依頼でございます!
まだ読まれた方はほとんどいないのではなかろうかと思うのですが、お読みいただくと、あれ?これ、ベクシウじゃ…?と思われる方が多いのではないかと予想されます。
いいえ、シウベクなのです。
そういうご依頼であったことももちろんですし、これはいわゆる、何と言うんですか、誘い受けというやつでございますね。
いざいたすときはベッキョンが下に。←
いえ、もともと、自分でお話を書くときなどどちらかと言うとベクシウであったんですが、このお話の中のふたりは、私の中で、ちゃんとシウベクなのです。シウミンの心持ちが、そうなのです。受けの気持ちでベッキョンを好きなのではありません。
これも、昨日同様、リアル設定、馴れ初め、とのご指定でございましたので、その、できあがるまでをどうしようか~と、頭でもやもやと考えました。
結果、ああなったわけでございますが、もしかするとこれまででいちばん、企画の中ではBL色の強いお話になったのではないかと思います。
あと、かっちりとした細身のスーツを着、髪を撫で付けているという設定にしておりますが、ちょっとCBXを彷彿とさせますね。それを最初から狙っていたというわけでもないのですが、いろいろな事情により、そうなりました。ちなみにこれはCBX以前の頃のお話であると、なんとなく思っております。お読みになると気付く方も多いのではないかと思いますが。
H様からは、これまた熱い、すばらしい感想のコメントを早速いただきまして、ほんとうに嬉しく思いました。今日分もございますので、まとめてでもよろしかったのに、こうしてすぐ、ひとつ目にコメントをくださって、感謝感謝でございます。
お気に召してくださったとお聞きでき、安心と、大きな喜びを感じました。ありがとうございます!
それほど、あのような素敵なお言葉を並べて褒めていただくのに値する者ではないように、自分では心底思いますが、その言葉を励みとしてこれからもがんばりたいと考える所存です。
今日分も、是非お楽しみいただけるといいなあと願っております。
コメント、追ってお返事いたしますので、お待ちくださいませ!

さて、それでは、皆様にお知らせがございます。
今夜から、インターネット回線の都合により、ブログ更新が難しくなります。
これは来週頭まで続きまして、以前少し触れましたとおり、最後のお話が、ぎりぎり、14日にアップできるか否かという感じでございます。
ご依頼くださったMK様、申し訳ございません。
ですので、明日以降、回線が復旧するまで、お話やつれづれなど、上がる可能性は大変に低いです。
どうぞご了承くださいませ。
そして、コメントをしてみてやってもいいなあと思ってくださった方々に向けてなのでございますが、それならする意味ないじゃん、と思われるかもしれないのですが(しかも返信がたくさん滞っておりまして…申し訳ございません!!!)、私がコメントを受け取り、お読みする方法はございますのです。お送りいただくときはいつもと同じで結構でして。
なので、すぐ、お返事はできかねてしまいますけれど、わたくし、ほそぼそとコメントのお返事と、上げるお話を書き溜めるつもりでおりますので、もしよろしかったら、その励ましとして、お声掛けくださると、大変に嬉しく思います。
手前勝手なことばかり申し上げてほんとうに心苦しいのですが、読んでいただいてどのように感じてくださったのかお聞きできると、意欲や達成感がまるで違うものなのです。
そういうわけで、もし、そういう衝動をお持ちになった方がいらっしゃったら、是非コメントをくださればと思います。
よろしくお願いいたします。

このところ、長編に投票をいただくことが数回あり、そのたびにやったあとガッツポーズしておりました。ありがとうございました。
前お話したとおり、お願いしたように日付、それにコメントも添えてくださっている方がまたいらっしゃり(お世話になっております)、大変に幸せでした。
すばらしい読者様に囲まれて、わたくしは果報者でございます。

他のブログもご覧になってらっしゃる方がもしいれば、それで知ってらっしゃることもあるかと思うのですが、このところ、紙の媒体を作成して、それを読まれている方に、というようなお話がちらほら見受けられます。
それを知ったうちの同居人が、作りたい、などと言い出しまして、目を丸くしております。
彼自身も以前サークルでそういったことをしていたためもあり、何かでやる気のスイッチが入ったようでして、ええ!、と私はただ驚いている次第です。
去年、私の素敵な読者様のおひとり、T様が、素敵な本にして、読みたいなあ的なことを私に優しくおっしゃってくださったことがございましたけれど、まさかほんとうにというような思いでございます。
いえ、まったく、全然決まった話ではございませんけれども。
私はデザインなどもすごく気になってしまう方ですので、やるとなったら大変な労力を使いますし、考えると頭がくらくらいたします。
表紙の絵を描いたり、フォントを考えたり、発注の手配をしたり(これは彼がやるのですが)、載せる話に修正を加えたり、書下ろしを書いたり…。ひい!
欲しい、とおっしゃってくださる方に対して、受注で、定まった額で、ということになるようですが、うーむ、恐ろしいことでございますね。
そして、お優しい気持ちでおっしゃってくださったT様や、他の読者様に、こんなこと、気まずい思いをさせるだけなのはよく分かっております。ほんとうに。
なので、そんなことを言い出した人がいた、ということを、今日の記録としてしたためただけなのでございます。
ただ、私はものを作るのが基本的に好き、というか、やらずにおれないようなところがございまして、そのたちをうずかせられたということでございました。
装丁とか、すばらしい仕事でございますよね…信じられぬほど悩みそうですが。

つらつらと駄話をお聞かせして申し訳ございませんでした。

それでは、本日分のお話を楽しんでいただけることを祈りながら。


もうすぐ終わりでございますね~!
フェリシティ檸檬






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20170209

空とキス(リアル短編・バレンタイン企画7)
延期になっていたブランド服と小物のモデルの撮影が、今日になったことを告げられたのは、昨晩だった。
かなり大きな仕事だったし、延ばすと言ってもすぐに予定は入るからと言われていたため、皆顔や体のコンディションに抜かりはなかった。なんと言っても、そこはプロだ。
うちのメンバーは基本色白が多い。
明確にそうでないのはジョンインくらいで、あとはだいたい、肌理の細かい、漂白したような肌を持っていた。俺も例外じゃない。
それは武器であるが、難点もあって、肌荒れをすると、特に赤いにきびなどできるととんでもなく目立つ。もちろん化粧を厚くすれば隠せるものは隠せるが、メイクさんに手間を掛けるし、写真は加工しなければならなくなるし、人に会うときすっぴんでいることが難しくもなる(ファンや仕事関係の人に荒れた肌を見せるのは、あまり得策とは言えない)。
スケジュールの変更に対し、そういう意味もあって若干ナーバスになりがちだ。今日であったはずの仕事が来週に、となると、体重や肌のしあがりが、ピークを過ぎることになる。それを維持し続けるか、その日に向けてまた上り坂を描かなければいけなくなるのが、きつかった。
今日はそのことで、メンバーの中で俺だけ、ほんの少しブルーだった。
小さいにきびが唇の下にできていたのだ。
さっきプロだ、などと言ったが、それでは俺はプロ失格と言えるのかもしれない。食べるものには気を付けていたし、いつも以上に運動に精を出していたのに、もともと体が変化しやすい体質で、ちょっとしたことが、すぐ表に出てきてしまう。少しだけ赤みを持った、ごくごく小さなにきびを、俺は爪の先でまた、軽く引っ掻いた。
広々とした控え室には、俺と、ベッキョンと、ギョンスがいた。
白を基調とした室内は、蛍光灯の白い照明のせいもあって、SFっぽい現実味のなさがあった。衣装が、クラシックなスーツを基にしているが、アレンジが近未来風味で―――メタリックな質感の布で仕立てられている―――そのことも、映画の中の、たとえばガタカのような(ギョンスとずっと以前、いっしょに見た)雰囲気を醸し出していた。
皆一様にネクタイを締めていて、それがまた、よく似合った。俺は蝶ネクタイを締めることは、衣装でたまにあったけれど、こうして珍しく細身のタイなんか身に付けると、わずかに大人っぽく、鏡の中の自分が見えて、今更ながら嬉しさを感じることを抑えられないところがあった。
きっちり横分けに髪を撫で付けたヘアスタイルは、メンバーの顔のよさをより際立たせ、ギョンスなんかほんとうに若い頃のイーサン・ホークの横に立っていそうだったし、ベッキョンは、くるくると印象の変化の激しいその顔立ちが、またこれまで目にしたことのないそれに変貌していた。
俺はイヤホンで音楽を聴き、ベッキョンは大きめの本を開き、ギョンスはポータブルプレイヤーで映画を見ながら、待ち時間は過ぎていった。いっしょに過ごすのに、いいメンバーだった。思いやり深い、人と接することもひとりで過ごすことも好きなふたりといると心地がよく、俺は目を瞑ってサム・スミスの高音に耳を傾けた。
かたり、と音がした。
テーブルの上にプレイヤーが置かれた硬い音は、イヤホン越しでも聞こえ、俺は目を開け、向かいに座るギョンスを見た。イヤホンを片耳外す。
 立ち上がりながら弟は言った。
「俺、ちょっとトイレ行って、飲み物買ってくる」
 これ見てたら喉渇いた、とひとりごとのように続け、財布を鞄から引っ張り出す。
「さっき配られたお茶は?」
 鏡台の前に並んだペットボトルに目を走らせ、俺は尋ねた。
「炭酸飲みたくて」
 そう答えると、すたすたと俺たちの前を通ってドアの向こうにギョンスは消えた。
「あっ、ギョンス」
 本に目を落としたままだったベッキョンが、突如立ち上がって扉を開き、顔を向こうに出して叫んだ。
「俺、レモン丸絞りダイレクト!」
 俺にはギョンスの応答は聴こえなかった。が、ベッキョンがおい!俺この前買ってきてやったじゃん!ジンジャーエール!と更に大声を出したのを見て、微妙な反応をしたのだろうと分かった。勝手に頬が緩み、俺はベッキョンがソファに置いていった大判の本を、なんとなく手に取った。
嘆息しながらこちらを向いたベッキョンが、俺がやつの本を持っているのを目にするのを、気配で感じた。
上目で見返し、音楽を止めてイヤホンをテーブルに置くと、戻ってくるもうひとりの弟に言った。
「写真集じゃん」
 空ばかり集めた風景写真集だった。あらゆる国の、あらゆる時間の、広大な空ばかりが紙一杯に広がっている。
すぐ隣に腰を下ろしたベッキョンが、うん、と応じた。
「お前、これ自分で買ったの?」
「そうだよ」
「珍しいな。高そうだし」
「うん、結構するよ。でも、いいでしょ」
 ひとめぼれしたの、とその口内で反響する声で言う。
先刻から、ちょっと距離が近すぎるなと俺は落ち着かない気分だった。ベッキョンから、いつもつけている香水と、嗅いだことのない整髪料のにおいがする。ほとんど化粧っけのない顔の上、小さな、細い目の中で、より小さな黒い点が俺をしつこく捉えていた。膝と膝がくっついているのから、さりげなく横にずれる。
ぱら、ぱら、とめくりながら、紙面から目を離さず、ただ動悸を速めてぎこちなく、俺は言った。
「うん、いいなあ。俺も好きだよ、こういうの」
「兄さん、空っぽいもんね」
 ぱら、とめくっていた手が思わず止まった。
そうしないように努めていたのに、俺への視線を、自分のそれで受け止めてしまう。
やはりベッキョンの目は、瞬きも少なく俺を映し、いつもの冗談めかした陽気な空気は、微塵も顔から伝わらなかった。
 ただでさえ狂っていた鼓動の音が、また、大きさと速さを変え、俺を襲った。
もう、だいぶ長いこと、俺はベッキョンをただの弟として見ることができなくなっていた。
もともと、会話が得手ではない俺だけど、そんな俺が話していて楽しい、と心から思える相手に、恋をしてしまう傾向が、俺にはあった。
とにかくベッキョンは話がうまいし、誰とでも仲良くなれるし、俺にない長所の塊で、うらやましいやら、変に憧れるやら、自分を省みては、落ち込むことがデビュー後一、二年、とても多かった。いっしょに活動するようになってから特にそれはひどくなったが、ふたりで話したときや、誰かと話しているさまを見ているときの楽しさは格別で、焦燥や羨望の感情以上に、どんどんこいつが好きになった。笑ったときのどうしようもない顔なんかを見ると、胸が熱くなるほど嬉しかった。
そして、実は気遣いのできる、賢いこの弟が、笑って嬉しそうに俺に接してくると、心臓が覚えのあるかたちにくぼむことにある頃から、気付いた。
ぞっとした。
赤くなったり青くなったりしながら、俺はただひとり、ひたすら耐えた。拷問だった。何故か俺のことをベッキョンも好いてくれ、ふたりで今度からジムなども行こうと話す始末だ。俺はできれば、ふたりきりになどなりたくないのに。なりたいけれど。
だから今のような状況は、ある意味いちばん幸福だった。すぐに終わりが訪れる、甘いだけの時間。だが、夜にそれ以上の苦しみが待っていることを、俺はよく知っている。
 本を持つ手が湿ってしまうのを、止めることができなかった。
ぱっと、少し不自然に感じられてしまうかもしれない速さで、俺はまた本を見下ろす。
「…空っぽいー?」
 ふざけているような声音で返すと、再び、真面目な声が耳に吹き込まれた。
「うん。説明難しいけど」
 ハスキーがかったふくらみのある声も、俺はたまらなく好きだった。こんなに近いところで喋らないで欲しい、と思った。
「俺、すごい空好きだよ」
 好き、という響きに、左の頬がびりびりと震えた。口を開くことすらできず、目を左、右と小刻みに揺らす。
「兄さんは?」
 次から次へと訪れる言葉の波に、頭がまったく着いていかない。俺?俺が?
「ミンソク兄さんは、俺が好き?」
 かた、かた、と音が鳴るような動きで、ようやく俺はベッキョンを見た。見たことのない表情をたたえ、目の中が異様に光っている。
「……恥ずいこと、聞くなよ」
 無理矢理笑って、そう言った。
「好きじゃないの?」
 しかしひるむことなく、淡々とベッキョンは食い下がった。目の端が心持ち悲しげに下がったように見えたのは、気のせいだろうか。
「…そりゃあお前、……す、きに、決まってんじゃん」
 分かるだろ、と付け足して、唇を引き結んだ。ページの端を指で弄ぶ。ベッキョンの目を見ていられない。
「そうだよね」
 笑いを含んだ声でそう言い、でも、と更に弟は告げる。
「兄さんの好きはさ」
 と、俺の手から本を取り、ぺらぺらぺらぺら、と捲ると、あるページを見開きで俺に向けた。
「こういう、好きでしょ」
 そこには、深い薔薇色に染まる大空が広がっていた。もうすぐ夜を迎える時間、恥ずかしいほどに色っぽく、闇に消えまいとするその彩。
目にした俺はその空と同様、いやそれ以上に血の色が頬の内側から照った。耳や、首までそうなっているのが、自覚できた。
本の後ろからそんな俺を見つめ、ベッキョンは相好を崩した。
「やっぱりねー」
 にこにこと笑みを浮かべ、ぱたん、と本を閉じ、テーブルに置く。
「ちなみにね」
 軽く震えながら俺は斜め下を見て、身動きが取れずにいた。頭がまったく働かない。なんと言い、誤魔化せばいいのか、分からない。
「何言ってんだよ」
「俺、そうじゃないかなって、思ってたの。割と長いこと」
 声が重なった。
言われたことがきちんと耳に入り、俺はますますかっかと頬が燃えた。まじか、嘘だ、嘘って言ってくれ。それだけがぐるぐると脳を回った。
「それでね、俺、兄さんのその気持ちと、同じ気持ちになれんじゃないかなって、つーかむしろなってんじゃないかなって、思ってんの」
 驚きのあまり目を見開き、弱弱しい声で、はあ?と俺は言った。
「だから、俺と、付き合ってみる?」
「…ばか、か、お前」
 馬鹿にされているのかと、からかわれているのかと、一瞬怒りがもたげたが、そうではないとすぐ気付いた。ベッキョンは、そういうことはしないのだ。
「だって俺のこと好きでしょ。俺も兄さんのこと好きだと思う。ならそうなるでしょ」
「お、おもうって、なんだよ」
「男好きになったことないからさ、なんかいまいちこう、実感がなくて」
「じゃ、あ勘違いだろ。忘れろ、そんな考え」
「違うと思う。だって兄さん見てるとなんか、むずむずするし」
「むっ…?」
「うん、あ、そういう意味でもね、当然」
 呆気に取られた俺は、口をぱくぱくさせながらもうこれ以上赤くなどなれないというほど、完全な朱色に染まっていた。
 こちらににじり寄ってくるベッキョンから、俺はのけぞるようにして逃げながら次の言葉を聴いた。
「じゃあさ、ちょっと、キスしてみようよ」
「は!?」
「そしたらお互い分かるでしょ、いろいろ」
「な、何言って…お前…」
「ね、そうしよう」
 ベッキョンの長い指を持つ手が、俺の腿の上に置かれた。反対側の手が、俺の右肩に乗り、ずりずりとその細い腰を俺の腰に寄せる。
「ま…まて、って」
「ううん、待たない」
 にこー、と、俺の脳みそをとろかす例の笑みをこしらえ、どんどんと顔は近付いた。ぎゅっと、強く目を瞑った。
 唇の上に、柔らかい、唇としか思えないものが、ほんとうに被さった。
俺は、ベッキョンが俺に触れているところすべてに電気が走ったみたいになり、股間が服を破きそうなほどに反応しているのに気付いた。押しのけようと手をあげかけたが、体に満ちる悦びが、意思を退けるのはたやすかった。
ただ乗っただけだった唇が、ふにふにと優しく動く。
唾液の絡んだ粘膜が、俺の唇の表面を愛撫した。きつく閉じていたはずの口が、簡単に緩んでしまう。
されるがまま、ベッキョンの器用なキスを受け続けた。
どれくらい時間が経ったのだろう。短かったのか、長かったのかすら判断できない。
ベッキョンが俺を解放した。でもすぐそこに瞳は、鼻は、唇はあった。
「…ね」
「……え?」
 息の上がった俺は、半目でベッキョンの、よく分からない感情の渦巻く顔を眺めた。
「やっぱり、好きだよ」
 ひう、という変な音が喉の奥で鳴った。
数知れぬ、膨大なパターンのベッキョンの声色を聴いてきたが、こんなに甘いそれは初めてだった。
「…兄さんもでしょ?」
 金縛りにあったように、うなずくことも、声を出すこともできず、ひたすらベッキョンを見返した。
「もっかい、しよう」
 ベッキョンは何がおかしいのか、唇の両端が上がったままだ。
「させてくれたら、付き合うのOKってことにするからね」
 挑戦的なまなざしでそんなことを言う。
唇を寄せるベッキョンに、待て、と何とか声を出す。
「ぎょんす、帰ってくる」
 こんなことを言うんじゃないだろ、と内心自分を叱り飛ばすと、ああ、とベッキョンは言った。
「へーき。さっき頼んだの、あれ外のコンビニまで行かないとないから。ああ言ったら、ギョンス絶対買ってくるし」
 言われていることをすぐに飲み込めず、きょとんとしてベッキョンを見ていると、
「あれ」
と、小さく笑われた。
「にきびできてるねえ」
 きれいな、途方もなくきれいな指先で俺の唇の下、小さな膨らみをベッキョンは軽く押した。
「かわいい」
 そう言うと、ぺろりとその上を舐め、続いて舌を、俺の口の中にするすると忍ばせてくるものだから、もう俺は、ただ唇をそっと開くことしか、できなかった。



おわり





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20170208

殺伐とした世の中でございますので
こんにちは。
いやはや、後半戦でございますね。
フェリシティ檸檬です。

本日分のバレンタイン企画第6弾、鍵コメH様からのリクエスト、セフン×スホの、リアル設定、馴れ初め話、を更新いたしました。
H様、いかがでございますでしょうか?
ご希望に沿ったものに、なっておりますでしょうか?
H様のご依頼が、今回承ったものの中でいちばん細かく内容のご指示がございましたので、(と言っても上記くらいでございますが)、それにお応えしなければならないなと、いろいろ頭を巡らせました。
このカップルは短編で2回書いておりまして、そのときも、付き合っているふたり、というものでなく、ある種それが初めて、みたいなお話でございましたので、しかもリアルでしたし、違いを付けなければならないなあというのが何より思うところでございました。
そういうわけで、ちょっと純愛と申しますか、きっちりした、普通のカップルといった雰囲気のお話にしてみました。
ちょっと疲れている感じのスホに、男っぽい落ち着いたセフン、と申しますか、そういうイメージでしたためました。
また、諸事情からと、冬の話ばかりになっているのもあって、夏のお話にしてみたのも特徴でございます。
うっすら日に焼けたふたりが並んで浜辺に座ってビールを飲んでいるのがなんだかいいなと自分で思っております。
そういう風に感じてくださる読者様がひとりでも多くいらっしゃることを願ってやみません。

昨日上げたお話をご依頼くださったY様から、早速コメントをいただいて、ほんとーーーーーに、嬉しかったです!
心底安堵しましたし、温かく、的を射たすばらしいお言葉の数々に胸を打たれました。
大事な、お忙しい日を過ごしてらっしゃるのに、私などにお時間を割いてくださって申し訳ありません…!
昨日のお話はほんとうに人を選ぶものであるよなと、友人と話して考え、朝目が覚めても思ったりして、どんどん不安にさいなまれておりました。
そんなところにこうして素敵なお言葉をお寄せくださって…!気を使わせてしまいすみません!
とにかく嬉しくて、書いてよかったなと思いました。
改めましてお返事は当然いたしますので、もうしばらくお待ちくださいませ。

ここのところ、マンションの工事でスカパーさんがうまいこと見られず、地上波をちょこちょこ目にするのですが、新しいアメリカの大統領のニュースが多く、私はいまだ彼が当選し就任したという事実が受け入れがたいため、いい加減見聞きするのが限界となってきました。
冗談や映画の中の話でなく、こういうことが現実に起こるのだということに、ほんとうに身の毛がよだちます。
ドイツのかつての独裁者を見るような思いであのアメリカのよくないところを一身に体現したような男を毎日毎日プレジデントという言葉付きで情報として流されるのを見るなど、ディストピアものの小説や映画の世界にいるようです。
あの完璧な作り物めいた奥方や美人を従えたようす…!地獄絵図…!!
この間まであのチャーミングで賢くおしゃれなミシェル夫人でしたのに…!
私はヒラリー・クリントンが好きでも嫌いでもなく、いちばん印象として強いのは漫画家いしいひさいちの四コマの中の彼女です。
いしいひさいちの漫画が私は大好きでして、この中で彼女はセックス狂いの大統領の旦那をスキャンダルからあらゆる方法で救っておりました。
それはともかく、彼女に、もう少し大統領選に出るのを我慢してもらえたら…あるいは…。これ以上?と彼女は思うのかもしれませんけれど…。
言ってもせん無いことでございますね。
ずっと、このことを書こうかなと思ってはやめてまいったのですが、とうとう我慢ができなくなりました。書いたからといってどうなるわけでもないのですが。
ほんとうに、心底、うんざりでございます。
テレビの中の知識人などの多くが、きっとこの人は口だけだろうと思っている口ぶりでしたが、私はそれがずっと理解できませんでした。
やるに決まっているのに、あんな、横暴な大会社のワンマン社長でしかない男が、やると言ったらやるに決まっているだろうにと。
権力以外のすべてを持っているのだから、権力を持ってできることを片っ端からやるだろうにと。
全然、意味が分かりません。
今更、まじで!?となっている人たちが、私にはまったく理解できません。
彼が語っていることはきっとすべて本心で(それが人を惹きつけているわけですし)、それらの実現に可能な限り尽力するのでしょう。
これから4年間、どれだけ嫌なニュースを聞かされ続けるのか、想像しただけでも気が遠くなる思いです。

愚痴のような、暗いお話をして申し訳ありませんでした。

バレンタインまで残り数日、ささやかな気分転換として、拙ブログのお話をお使いいただければ幸いでございます。


サツマイモをふかしながら
フェリシティ檸檬



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20170208

潮騒を聴きながら(リアル短編・バレンタイン企画6)
あの日。
その、夏の日の昼下がりのことを考えると、まずいちばん最初に思い浮かぶのは、電車の中、よだれを垂らして眠る兄さんの、寝息の音だ。
突然、午後の予定がすべてキャンセルになった、平日の昼。
マネージャーからその旨を伝えられると、撮影や何かが入っている、いないメンバーを除くみんなは、大歓声を上げた。男どもの地鳴りのような大声に、俺は軽く耳をふさいだ。もちろん、俺だって嬉しかった。にやける顔をそのままにして、どうしようかなと頭を巡らせた。
日々の仕事で疲労困憊であっても、二十代半ばの、体力ある青年の集まりであるグループを表し、意気揚々と出掛ける準備を始める兄ばかりだった。ベッキョン兄さんなんか、いえーい、ほうー!とか言って、スキップしたりしていた。ばーか、と、チャニョル兄さんに背中を軽く蹴られても、まったく落ち着く気配はなかった。
デート行くのかな、でも平日だしな、と俺は勝手な妄想を額で弄び、事務所の窓から空を見上げた。
真夏の、思わず目がくらんでしまうような青ばかりが続く空。申し訳程度の、綿ぼこりのような雲がちょこちょこと乗っていた。
いったんマンションに戻るメンバーは車で送ってもらえることになったが、俺はうちに帰りたくなんかなかった。椅子に腰掛けたまま相変わらず空を仰いで、隣にいる兄のひとりが、自分と同じことをしているのを全身で感じていた。
「兄さん」
 ジュンミョン兄さんが、こちらを向いた。
疲れた、色の抜けた顔をして(もともと大変色が薄いのに)、ほとんど閉じたような目で俺の顔を見た。ん?と返し、唇は歯が垣間見えるくらいに開いたままにしていた。
「海、行こうよ」


 青春ぽいな、と俺は思った。
俺の青春はだいたいが仕事で過ぎていったから、こういうことに対する憧れが結構強い自覚がある。
それでも、急にこんなことを言い出して、それを実際聞いてもらえると、嬉しいのと同時に、まじで?という気持ちが湧き、申し訳なささえ感じた。もう少しで、やっぱりいい、と言い出しそうだった。
でも、兄さんは気の抜けた笑顔をこしらえ、俺に言った。
「うん、行こうか。こんなことめったにないし」
 そして再び夏空を見上げ、すっげー天気いいし、と続けた。
駅まで車で送ってもらえた。そのあと、着のみ着のままで、海に向かう電車に乗った。
スマートフォンで行き方を調べてくれた兄さんは、あんまかかんないよ、と言った。
「近くはないけどさ。腹減ったか?」
「まだ平気」
 さっき、買ってきてもらったサンドイッチを食べたばかりだった。それに、お菓子をいくつか鞄に入れていた。
「俺もまだ大丈夫だな。じゃあとりあえず海まで行くか」
 電車に乗ること自体、久しぶりだった。
夏休みが始まる直前で、真っ昼間の車内は空いていた。安堵はしたが、俺はサングラスとキャップを、兄さんはマスクとハットを身に付け続け、心持ち俯きさえした。遊びに出た大学生と思われますように、と祈った。
実際、格好はかなりラフだった。
今日は衣装を着る予定が入っていたし(撮影所のトラブルっていったい何があったのだろうと俺はぼんやり考えた)、そのあともしリハーサルを詰め込まれたら、持ち歩いているトレーニングウエアに着替えるしで、私服にあまり意味はなかったからだ。それでも、俺も兄さんもみっともなくはなかった。もともとすっきりとした体型であるし、そういうことに気を使う方であったから。
実はかなり値の張る服を双方着てはいたけれど、ぱっと見そうとは分からない感じだろうと俺は見当を付け、ほうと溜め息をついた。
地下を走る車内は薄暗く、電車の揺れも、眠りを誘った。
瞬きしながら首をふにゃふにゃさせていると、レールと車輪の擦れの合間に、くう、くう、と、不思議な音が小さく聴こえた。
見ると隣の兄さんが、腕を組み、頭を前に垂らし、完全に眠りこけていた。俺からは長いまつげがびっしり並ぶさまだけが視界に入った。電車に合わせ、体がかしぎ、また戻る。
どこで降りるんだろう、と思ったが、話からするとまだまだ降車駅は先だろうと、しばらく寝かせておくことにした。
ちらほらとシートを埋める、他の乗客たちの多くも、夢の中に旅立っていた。
当然俺も睡魔に襲われ続けたが、もったいない、という思いと、乗り過ごしそうな予感から、半目のまま、腕と脚を組んでただ電車そのものを満喫した。


 さすがにもうそろそろまずいだろう、というところで兄さんを揺り起こすと、まさに次の駅が目的地だった。
よだれを拭った兄さんを押して慌てて降り、バスを待った。
海水浴客と思しき家族連れが二組ほどいて、俺たちは帽子を目深に被り、顔の中の肌の範囲をできる限り狭めた。
窓から差し込む日差しはすさまじかった。白い斜線となって乗客を照らし、冷房の効いた車内でも、その熱からは逃れられなかった。じりじりと皮膚が焦げるのが分かり、仕事のことがちらりとよぎった。
でも兄さんは何も言わなかった。一応日焼け止めは朝しっかり塗ってあったが、こういうとき、絶対おせっかい焼きをしてくるのに、珍しいなと俺は訝った。やたらぼうっとしている印象に、かすかな心配が頭をもたげた。話し掛けると、弱い笑みを浮かべて、声にも笑いを含んでいるのが分かり、兄さんも楽しんでいることが伺えた。単に疲れているだけなのだろう、俺はそう結論付け、久しぶりの緩やかな時間の流れに身を浸した。
しばらくすると海の音とその姿が俺たちを迎え、休日だという実感が血の流れに乗ってくるくると俺の中を遊んだ。
バスが止まった。


まずコンビニを探し、どうにか一軒見つけ、そこでいろいろ買い込んだ。
ビール、つまみ、お菓子、ごはんもの、サンダル、敷物。
どっさり詰まったビニール袋を携え、店を出ると、早速海へと向かった。
さすがに日焼けがまずいことになりそうなのと(撮影は延期になっただけで、すぐまた予定に入る)、水着がないことで、泳ぐのはやめようと話し合った。
もともと、足を漬けられればいいなと思っていたくらいで、海を見て、波の音を聴けるだけでも十分だった。それも、兄さんと。お酒を飲みながらなら、なおいい。
パラソルの貸し出しが始まっていたため、俺たちは一本巨大なそれを借りた。適当な砂浜に差し、シートを広げ、食事の支度をした。買ったサンダルに履き替え、熱せられた砂を肌で感じながら。
缶ビールを開け、かんぱーい、とぶつけ合う。
マスクを下ろした兄さんの頬が、既に赤味がかっているのを目にしながら、俺は喉を鳴らして中身を飲んだ。
冷えた、泡立つアルコールが体の管を降りていった。ぷぷぷぷぷ、と汗が浮く。
「うまーい」
 はあーと、盛大に息を吐き出すと、はははと兄さんが笑った。
「よかったなあ」
 食べ物をつまんで、もぐもぐと咀嚼しているようすを右半身で味わった。兄さんが食事をすると、小動物に似た風情があり、俺はいつも自動的に、満ち足りた気持ちになった。
かなり薄着な俺たちであったが、すっかり汗でびっしょりだった。ビールを飲んでいることが拍車を掛けた。しかしそれが不快じゃない。どんどん飲んで、どんどん汗にした。溶けて消えていくようだった。
遠く、水平線と空が混じる。
高い声でかもめが鳴く。
女性や子供の、甘い嬌声が空気に潜む。
ハーフパンツから伸びた自分の脛に、俺は日焼け止めを塗り直した。ついでに顔や腕にも。
「偉い偉い」
 破顔する兄さんに視線を向け、手を差し出した。
「余ったの塗ったげる」
 サンキューと答えられると、短い丈から飛び出たくるぶしや、足の甲に指を這わせた。すべらかな肌は、クリームの手伝いもあって俺の手に吸い付いた。
日焼け止めを付け足して、こっち向いて、と告げた。
「マスク取ってよ」
 言われたとおり取り払うと、傘の下で薄墨に染まった兄さんが、まっすぐに俺を見た。
まず、手。そこから上っていく。腕。
首。
顔。
両の掌で包み込むように頬を優しく挟んだ。
整った顔の、つぶらなふたつの目は、少し赤らんでいた。
「セフン」
 何、と、空気でしかないような声が俺の喉から漏れた。
「お前の手、…こんな、熱かったっけ」
 囁くように、兄さんは言った。
黒目がふるふると白目の上で浮いている。
帽子のつば同士がぶつかった。
兄さんの唇を、奪った。
互いの口が、その小ささがこのためだったかのように、ぴったりのサイズだなと、俺は頭の隅で思った。
兄さんが反射で顔を引いたけれど、手で押さえ、逃がさなかった。
数回啄ばみ、唇を離した。
 動いたら鼻先が擦れる位置で、互いの顔を固定する。
「…いやだった?」
 光る黒目から目を逸らさず、これほど近付いていなければ決して聴こえない大きさで、俺は尋ねた。
 兄さんは、浅い呼吸を繰り返した。ぱちぱちと幾度もまぶたを下ろして。
「いやなら、言って」
「あ…」
「ん?」
「…あつい…」
 そして目を閉じた。誘うように、上唇と下唇の間を作ったまま。
吐息ごと俺は兄さんを食べた。
二回目のキスは、ビールと海苔と、スナック菓子の味の、惑う舌を追った。


今、散らかり放題の部屋の中、俺たちは開けた窓から雪を眺めている。
真っ黒な空、そこにちらちらと白い小さなかけらが舞う。灯りを受け、黒を背景に色を際立たせるその姿。
冷気が兄さんと俺を襲うが、暖房と運動で火照った体には、むしろ心地がよかった。
兄さんの裸は、驚くほどに色がなくて、夜になると浮かび上がる。この雪のように。
そう告げると、お前なんて、俺より白いよ、と笑われる。そうかな、と思うが、よく分からない。確かに白いけど、兄さんの方が、と胸の中だけでなんとなく反駁する。
口元をほころばせて雪を見つめる横顔に、さすがに寒くはないかと、手を伸ばした。
耳から続く、顔の線、顎の骨のかたちを、確かめる。
掌を顔で受け止めながら、兄さんはこちらを振り向き、初めてくちづけをしたときのように、目をその白いまぶたで隠した。
「…あつい」
 手の上に頬を乗せるようにして、そう呟いた。
ここは、あの海岸。
いつでも何度でも、あそこに舞い戻る。
昼は夜に、かもめは雪に、砂浜はシーツに。
海は、俺と兄さんの体の内に。寄せたり引いたりを繰り返し、兄さんがまた、熱い、と零すのを、俺は貪るように聴く。



おわり





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  • ミス・レモン
ようこそお越しくださいました。
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