海の底、森の奥

- EXOの二次創作とオリジナルのBL小説を中心としたブログです。R18表現あり。お気軽にどうぞ。

20160729

砂糖壺に落ちる 6
いつ頃からだったろう。
夏……だったような気がする。そのときも。
セフンが俺に会うとこちらを見ず、半笑いしながら相槌ばかり打つようになった。
自分の首の後ろをさすりながら、目を合わせないセフンを見上げ、どうしたんだろう、と、3度目になると思い込みではないという哀しい確信を持ちながら考えた。
俺、何かしたかな?
なんか、みっともない?
臭い?
うっとうしい?
俺は次々とクエスチョンマークを頭に浮かべながら、解決しない問題を抱えて、ただでさえ落ち込みやすい性格に多少拍車がかかった。
……………俺のこと、嫌い?
面と向かって聞けるわけもなかった。
だけど、俺はセフンをよく見かけたし、すぐそこにいることが増えた。ような気がした。
それに俺が振り向いたりすると急いで顔を背けている。……ような気もした。
だから嫌われてるわけじゃない……のかな?と、だんだん気は楽になってきた。
嫌だったら近くにいないだろう。きっと。
それと同時に、セフンの横を向いた顔の輪郭や、伏せた目や、色の白さを際立たせるような頬の赤みを目に映すと、なんだか体の中が変な感じになるようになった。
こんなセフン、あんまり見たことない、と思った。
兄貴たちとくすくす笑って遊んでいるひょろひょろした可愛い弟が、なんだか借りてきた猫のようになって、おとなしく隣にいると、熱っぽいような、じっとしていられないような、おかしな感覚になって俺は困った。
そしてそばにいなくても、セフンのようすを目に浮かべ、物思いにふけり始めた。
ちょうどそのとき、俺は彼女がいたんだけど、彼女にいつもよりもっとぼーっとしてる、とさんざん叱られたりもした。
目の前にいる髪を逆立てんばかりの彼女を見下ろしながら、ああ、自分の目のすぐ上にある、あの鋭い顎の線を見上げたいな、と思っていた。そう思った自分に驚いた。
俺の耳にも独特の響きに聞こえるあの話し方や、いつでも自分のペースを崩さないその生き方や、人に対して平等に接するフラットな在り方。
あの子と一緒にいたいな、と強烈に、しかしじんわりと、欲した。
ああ、俺はセフンが好きなんだ。
そう、気付いた。
そのあとすぐに、彼女と別れた。
セフンと付き合おう、なんて思ったわけではなかったけれど。


前の仕事を終え、急いで撮影現場のメイクルームに入った。
小走りで来たため少し息を上げながら。
部屋を見回すと、もう終えた者とこれからの者でいつも通りめいめいの好きに過ごしていた。
俺は、まだ終わってなかったんだ、と思い安心すると、ジョンデがきっちりとメイクした濃い顔で俺に顔を上げた。
「あ、お疲れ、兄さん。今セフンだよ」
あ、ありがと、と言いながらも、俺はもちろんセフンがいないのにいちばんに気付いていた。
ドアの前で立っている俺に、メイクの女性が声を掛ける。
「こんにちはレイくん。座ってー。顔やるから」
「あ、はい」
と言った瞬間背後のドアが開いた。
驚いて振り向くと、すぐ後ろにセフンが立っていた。
目を見開いて、その唇に施された濃い口紅の色を見る。
「…兄さん」
その唇が俺を呼ぶ。
俺はごく、と唾を飲む。
それで、キスしたら。
瞬きの間にそんな想像をして、囁くように「お疲れ」と俺は言った。



つづく



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20160729

慈雨、降りそそぐ 13
そんなジョンインは、だんだんと、兄さんてまだ俺のこと好きなのかな?と、日に1回は考えるようになった。
踊っているときだけそんなことはなかったが、それ以外だとふっと突然、その問いかけが浮かぶのだった。
チャニョルと向き合いその妖精みたいな顔を見つめている最中ですら、頭をよぎった。
いや、だからこそなおと言うべきか。
くりくりとした漫画のような目の玉に相対しながら、心の中で尋ねていた。
そうなの?と。
まず、ジョンインの中で、チャニョルが自分に対して憧憬の念を抱いていたということ、それが恋心の深く大きな位置を占めていたということが、自分で思う以上に気にかかる事柄だったためと言えた。
好きでない、つまり、もう自分は兄さんの賞賛を浴びられるような姿を舞踏において見せていない、という思考の流れに、ジョンインは陥っていた。
また、普段の姿にとうとう愛想が尽きたのでは、それで好きでなくなったのでは、という別の思考の流れもあった。
このふたつの思考経路はまったく違う道を通っているが、結局辿り着くのは‘好きでいてもらえなかったら俺はどうなるんだろう’というちょっとした不安だった。
これはチャニョルの気持ちへの何かというよりも、ジョンイン自身の自らへの駄目出しに近かった。
好きでいて欲しいと願うわけではないのに、結果的にそう望んでしまうというジレンマがジョンインを襲った。
チャニョルに好かれる自分で在りたいという気持ち、それはジョンインの中で確実に育っていった。
ここまで書いてきたことを、やはりジョンインはそこまで明確に把握できていなかった。
ジョンインの頭では、兄さんて俺のこと好き?まだ?呆れてない?ダンス大丈夫?いまいちかな。どうかな。と、こんな調子だ。びゅんびゅんと言葉が飛び交う。気まぐれな流れ星のように。
そんなことになっているとはつゆ知らず、チャニョルは目の前にいるジョンインが心持ち自分の顔を食い入るように見てくるのを不思議に思って見返していた。少し顔や耳を赤く色付けたりしながら。
兄さんに好かれ続けたい(実際ジョンインはそうはっきり思っているわけではなかった、繰り返すと)、まだ俺のこと好き?と続けているうち、今度は兄さんは自分と本当はどうなりたいんだろう、という問いが、こちらは明らかな言語化がされ、ジョンインを訪れた。
会話の間なぜかチャニョルがほのかに頬や耳を赤らめることがあると、自分の質問への答えを得たように、ジョンインは心中こっそり安堵し、そのあと、こんな兄さんはいったい何を望んでいるんだろう?という流星が飛んでいくのを、徐々にではあるが意識していった。
そこから、そう言えばキスされたんだった、と、そうだそうだと思い出したりした。
そして今頃、途端に恥ずかしくなった。
もう絶対しない、という言葉を呪文のように浴びたジョンインは、催眠術よろしく唇を合わせられたという事実に対して自分の感情をほとんど持たぬまま今に至っていた。
端的に言うと忘れてしまっていた。
ジョンインにとってキスなどそのあとの告白に比べたらなんということもなかった。
目を開けなければなかったことになると激しく後悔したほどだった。
しかし、チャニョルの気持ちを聞き、それに慣れ、そうであっても構わない、むしろ好かれていたい、チャニョルの望むこととは?という段階を経た現在、キスというのは重大な意味をジョンインにとって持つようになった。
好きというのは、恋愛として好きというのは、そういうことだ。
誰に呆れられてもしかたのない話だが、ジョンインはチャニョルが自分にキスしたりしたいのだということをようやくしっかり、認識した。
その後困惑し、照れた。
キス、キスだけじゃないだろう、キスから先。
………どうやってやるんだろう。
ジョンインはその方面の知識に無頓着な方だった。
なんとなく、自分たちのそういう漫画や小説が書かれていたりするのは知っているし、周りから話を聞いたことはあった。ゲイの知人もいる。
あれってまじなのか?と、耳に挟んだ男同士の営みの方法について改めて懐疑的な気持ちをジョンインは持った。
当時、半信半疑だった。ちょっと嘘だろと思っていた。
だけど、兄さんはそれを望んでいる?
ジョンインは苦悩した。
受け入れるつもりがあるわけでも、今別に付き合っているわけでもないのに、勝手にひとりもんもんとした。
端から見たら、チャニョルはとっくにふられているし、その後ふたりの関係はそんなにもめることもなく平穏無事で万事本当にめでたい、というようなものだったろう(実際知る者は読者のみであるわけだ)が、ジョンインは人知れずかなり悩んだ。
だからと言ってどうなるというものでもないことだが、新たな質問たちはジョンインの仕事の隙間を縫って、彼の心を支配する時間を着実に増やしていったのだった。



つづく



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20160728

砂糖壺に落ちる 5
イーシン兄さんを好きなんだ、と自分で気付いたとき、あーあ、と思った。
なんてめんどくさいんだろう、と。
きれいな女の人が好きだけど、きれいな男の人だもんなあ、と、考えては、溜め息ばかりつくようになった。
俺は人が好きだし、人と接しているのが好きだ。
だけど気持ちを自覚してから、兄さんにはちょっとよそよそしくなってしまったかな、と思う。
自分の中だけでぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる、出口のない迷路にいるみたいに自分自身を分析した。
勘違いなんじゃないか?と何度も思っては、そっと合コン的なものに参加してみたりした。
それなりに収穫もあってほくほくと帰路につき、なーんだやっぱり違うんじゃん、俺、と安心しながらドアを開けると兄さんがいて、おかえりー、と微笑まれると、さっき感じてた動悸の単純に10倍くらいが俺を襲ったり、なんてことを繰り返した。
よくよく考えてみた。
どこが好きなんだろう?どうして?
忙しいスケジュールの合間、待ち時間、移動時間、ずっと考えた。
特に夜。
宵っ張りの俺は、散らかった部屋の窓の向こう、暗い空をベッドから見上げて、風から香る外気を吸い込みながら、兄さんのことを考えた。
顔から足まで脳みその中で精密に描き出し、目を閉じてじっくりと観察した。
確かに整った、魅力的な容姿だ。
俺たち韓国人と違う、大陸の人の顔をしている。あの幅の広いふたえとか。小鼻のかたちとか。
触れられたりするのが苦手だという首周りは、身長差から俺は常に見下ろすけれど、たいていそこは無防備に開放されていて、あのやめてやめてという反応を見たくさせる強い吸引力がある。
そう言えばみんなのそこへの攻撃を見たときから、なにか感じなくもなかったような気がする。
すごく、いい匂いがするし。
鼻をこすりつけたり、肌を味見したり、歯を軽く立ててみたりしたいな、という妄想が、いちばん最初だったかもしれない。
俺は蜜に群がる虫みたいだと、自分を思った。
そこに落ちたら戻れない、甘いものがたっぷり詰まったなにかを、兄さんは連想させた。
あの高い、儚げな、女性的な声の感じも。
普段は重力を感じていないみたいなとりとめのない動きなのに、踊ると突然体重が倍になったようなダンスになるのも。
罠だ。
俺は恐怖におののく。
逃げなきゃ、と。
でも。
部屋を出てばったり会ったり、朝起きて挨拶したり、仕事で頭を突き合わせたりすれば、優しくてストイックで繊細な、その人柄に触れ、自分の深夜味わった恐れなど、ふしゅるるると空気が抜かれてしまい、ますますただ惹かれ、目を合わせるのもためらいながら、そばにいたくて少し離れた、でもごく近くにいたりしたのだった。
そんな期間が長かった。
ずっとそのままで、いつか、気持ちが少しずつ冷めていくだろう、と俺は諦念とともに予想していた。


もう何百回目かの反芻を、また行いながら、俺は撮影前のメイクを施されていた。
中華料理屋でキスしたときの記憶は、ビデオテープなら擦り切れ始めてしまうんじゃないかというくらい、俺の中で巻き戻されては再生された。
兄さんが顔を仰け反らせて、息継ぎとともに濡れた声を漏らしたときは、頭の中でぷつんと何かが切れたようだった。
そこまで思い返すと、いつも体が反応しそうになって、目を開けて深呼吸する。
腕と脚を組んでアイシャドウを塗られていた俺が、突然ばちっと瞼を上げたものだから、メイクさんがびっくりしてわっ、と言った。
「あ、ごめんなさい」
照れながら慌てて謝ると、快く許してくれ作業の続きが始まる。
こんなところで駄目だ。
そう自分を戒めるのに、気付くとまた、映像はリピートされているのだった。



つづく



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20160728

慈雨、降りそそぐ 12
ジョンインの疑問にチャニョルが苦しくも答えてから、チャニョルは最初の告白よりあとのようす以上に、リラックスして、明るい表情をしているように、ジョンインの目には映った。
変わらずに接しようとやはり頑張ってくれていたんだな、とジョンインは切なく思った。
対して心のもやもやが解消されたはずのジョンインは、これで気が済むかと思いきや、答えを聞く前よりもっと、チャニョルのその感情についてよく考えるようになった。
問うたことを少し後悔もした。
そもそも尋ねるつもりもなかったし、あんなに問い詰めるようなことをするなんて自分で自分に驚くほどだった。
チャニョルの辛そうな姿を思い出すと、自分がそうさせたにも関わらず、ジョンインはひどく胸が痛んだ。
結果今、チャニョルが気の楽になったさまを見せてくれているからまだ救いはあるが、自分の幼稚さにジョンインの心は沈んだ。
何より、チャニョルの返答が、彼の中に根を張ったようになった。
あんなふうな告白をされたのは、生まれて初めてだった。
誰のどのそれよりも、ジョンインに何かを訴えた。
それは、こういうこともあるのだ、という人生の底知れなさ、自分が同性から好かれる可能性を持っているという不可思議さ、人が人に好意を寄せることのそのなんとも言えぬやるせなさ、ほかにもそこにいろいろなものが混じった感情をわやわやと抱かせる、ジョンインの目を開かせるような経験だった。
チャニョルに告げた通り、自分の抵抗感のなさにもわずかに驚いていた。
当初あった嫌悪とまではいかないが、強く出た拒否反応は、ほとんど皆無と言ってよかった。
それはチャニョルに対する信頼と愛情の表れでもあった。
ジョンインが嫌がることをチャニョルがしないというなら、しないだろうと、ジョンインは確信していた。
だからチャニョルがたとえ今でもまったく気持ちに変わりがなく、万が一それが強まることがあったとしても、自分は平気だろうと、自信を持って思えた。
鏡の中の自分を、洗面所、浴室、練習場、さまざまな場所で見つめるたび、チャニョルが自分に憧れていたという言葉をジョンインは反芻した。
胸のあたりがむずむずとして、落ち着かない気分になった。
普段の、私生活の自分に対する馬鹿正直な感想に対してすらも、その気持ちの真実味と誠実さをジョンインに改めて感じさせ、ひとり赤面したりした。
そんなに間が抜けて、ぼーっとして見えるのか?
恥ずかしいのか憎たらしいのかなんなのか、ジョンインはチャニョルの背中と後頭部とそこに置かれた大きな両手と色のついた耳の先を眺めながら過ごした回答時間を思い返すと、わー、と言いながら顔をこすり上げたくなるのだった。



つづく



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20160727

砂糖壺に落ちる 4
エアコンが効きすぎていて、ちょっと寒いし、肩が凝ってきた。
車が朝の喧騒を切って走る中にいて、俺はリュックサックに突っ込んでいた薄いパーカーを引っ張り出し、肩に羽織った。
少しだけでも寝たい。
シートにもたれかかり、瞼を下ろす。
そう思うのに、目を閉じると今夜の約束を思い出して、なんだかそわそわしてしまい、ちっとも眠れなかった。
セフンがあの中華料理屋に一緒に行こう、とメッセージをくれたのには、ただ分かったって返信しただけだったけど、ほんとはそこじゃなくてもいいんだよって言いたかった。
俺に気を使ってそう言ってくれてるんだろう、って、思った。
嬉しいんだけど、淋しい。
セフンには好きなことをしてほしい。
気兼ねなんかしないで、わがままを言って、にこにこしていてほしい。
そう思うのに、言葉が難しいのもあって、うまく伝えられないでいた。
でも、それでも、ふたりで食事するのは嬉しい。
デートだ、と思うと、顔が勝手ににやけてしまう。
あんなにきれいな、かっこうのいい男の子が、俺の恋人だなんて。
俺はセフンに触れたいと思うたび、自分が彼を汚してしまうような気がして、なんだか末恐ろしくなって何もしない、ということを繰り返していた。
皆から愛され、大切にされるべき存在の、あの子に。
俺なんかが踏み込み、荒らし、跡を付けてもいいのだろうか?
ふと、やるせなさに沈み込み、俺は携帯で時刻を確認した。
まだ、半日は会えない。
………でも、半日経てば。
俺はすらりと高いその体が自分を待っている姿を再び閉じた目の裏に映し、やはり、笑顔になっていた。


予想、していなかった。
俺はレンゲを持ったまま、セフンから唇を当てられていた。唇の上に。
かっこ悪い、と途端に恥ずかしくなるが、拒否できるわけもない。
セフンはゆっくり目を閉じた。
閉じた瞼の上が、白くて、本当に無垢だった。
まつげ一本一本が、目に映る。
黒く、濃く、長い、そのそれぞれがいとしい。
品よく小さい、下唇の厚みが美しいセフンの唇は、想像の中でしたどんなキスのときより、柔らかく、儚かった。
短い、ほんの一瞬だった。
唇が、離された。
顔を少しだけ遠ざけると、セフンはおずおずと目を開け、叱られた子供みたいに俺を見た。
「……ごめん」
手首を優しく解放すると、視線を斜め下にしたセフンが、唇をきゅっと結ぶ。
「ごめんじゃないよ」
俺は目をきょろきょろと泳がせながらレンゲを置いて、セフンの両腕を掴んだ。
「…全然、ごめんじゃないよ」
そう言うと、セフンは顔を上げ、切なげな目元を俺に向けた。
告白のときを、思い出した。
その目は言葉よりも饒舌に、俺に心の内を語りかけてくる。
「セフン」
名を呼び、両手で彼の肉のない頬を覆った。目と目を間近で合わせ、囁く。
「すごく、嬉しい」
俺は微笑んだ。
どうしたら伝わる?
こんなひとことと、笑顔だけでは。
軽い絶望が俺を襲う。
それでも思いを込めてセフンを見つめると、彼は瞳の中の輝きを増し、今度は逆に俺の両腕を掴んだ。
そして再び、くちづけてきた。
俺はためらいなく、その訪問を受け入れる。
さっきは乗っているだけだった。
握った腕の手の力が強まると同時に、その唇が動いた。
俺の唇を食べるみたいに、隙間を徐々に、広げてくる。
ああ。
俺は目を開けていられない。
唇の間で、もっといきいきと動く何かを感じる。
濡れていて、広がった口の、歯と歯の間をつついてる。
舌だ。
そう思ったときには腰が溶けるようになっていた。
上背のあるセフンは、椅子に座ったままの体を俺を覆うように傾け、俺は頭を上向けた。
きき、と椅子の脚が鳴る。
ついに舌が俺の舌を見付け、下に潜ってから、取り込もうと試み始めた。
その、どこまでも甘い、圧倒的な感覚に、自分の舌を無意識に差し出した。
くるくる踊る口の中は、さっき飲んだスウプの味でいっぱいだ。
セフンとのキスが、初めてのそれが、俺が健康のためにと頼んだ漢方薬の味なんて。
やっぱり俺は恥ずかしくなる。
そうは思っても、スウプとキスですっかり熱を持った体は、セフンとの親密なダンスを、やめるはずがなかった。



つづく



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20160727

慈雨、降りそそぐ 11
頭痛に顔をしかめながら、ジョンインは酒なんて最悪だ、と心の中で毒づいた。
それにほんとになんだかすごく、むしゃくしゃする。
「聞いてないよね?答え」
声が思う以上に尖ったものになる。だがジョンインにはそんなことに構っていられる余裕はなかった。
チャニョルはもう一度水を飲み、台の上にコン!と置くと、立ち上がって自分のベッドの周りを檻の中のゴリラよろしくうろうろと回り始めた。
眉をひそめ、口の両端は下がっている。
スウェットから伸びた大きな素足がフローリングの上でぺたぺたぺたぺた音を立てる。
そんなチャニョルを見上げながらベッドに横になったままのジョンインは、珍妙なこの光景に思わず笑いが出そうになった。
しかし頭の重みと痛み、自分の問いかけに対する応答への強い好奇心が、彼の唇をそのままにした。
チャニョルは唸るように言葉を発した。体の移動をやめず、後頭部をがしがしと掻きむしりながら。
「……だって……お前あんな泥酔してて、そんな奴に何言ったって……覚えてないと思ったし……」
「覚えてるもん」
間髪入れず、ジョンインは口を挟む。
ますます苦悩の色を濃くし、チャニョルは口を歪ませ、反論者の顔を見る。
「そっ……だっ……て言われたって、お前だって…………困るだけだろ?」
顔を手で覆って、うあー、と言いながら、自分のベッドの足元の方に、ジョンインに背を向けチャニョルは腰掛けた。
「でも聞きたい」
一度したい質問をしてしまった二日酔いのジョンインは、引き下がるということを知らなかった。
何と言ってもこんな絶不調の今、気になることを放っておくのだけは嫌だった。
ジョンインは自らの性質の一端を、思う存分発揮していた。
肩越しに振り向いたチャニョルは、ほとんど睨むようにジョンインを見た。
「……なんで、……ってつまり…………」
地の底から響いてくるような声でチャニョルは言う。
「なんで………、て…………」
再び顔を背けて向こうを向くと、頭を落とし、両手でわしゃわしゃと搔き回したあとぼそぼそと語り始めた。
「……………お前の……ダンスとか…見てると、誰でも……そうだと思うけど、やっぱりすげー………セクシーって、んん、思うじゃん。…………俺、男に対して本気でそう思ったのって、初めてじゃないかと思うんだけど、お前のそういうの見てて、あー………ていう気持ちになんのと、……いや、だからって別に最初からどうとかとかそういうわけじゃなくて、お前のことはなんつーかダンスに関してって言うかすごい憧れてて、それは口に出してるけど、それ以上つーか…………。俺がどう頑張ってもどうにもなんないことで……。…………で、……普段、…一緒にいて、お前のその……自由さっていうか、間抜けさっていうか、ぼやーっとしてる……素直に、思ったままをしてる……感じが、俺のその憧れ的なもんと、なんかこう、混ざって、………ずっと、見てたい、てゆうか………だんだん…………そう…………」
落とした首の上に手を組み合わせて置き、チャニョルは消え入るような声で、そんなふうに言ったのだった。
ジョンインは言われている言葉ひとつひとつを耳に入れ、目にはチャニョルの尖った耳の先が赤くなっていくのを映していた。
「……間抜けって……」
とうとうジョンインは微かに笑った。笑いを顔に、意識的にこしらえた。
どんな想像もできていなかったが、とにかくどんな想像とも、答えは違った。
「わ、りー。馬鹿にしてんじゃねーんだけど……。…………お前が言う通り俺は女が好きだし、今もそれは変わんねーんだけど、……お前とはやっぱ長くいるし、それだけ色んなとこ見えるし、きも、ちが、こう、濃くなると、ゆーか、……やべー。わり、気持ちわりーよな」
はああーと盛大な溜め息を漏らして、また、チャニョルは頭を抱える。
「………別にそんなふうに、思ってねーよ………」
呟くようにジョンインは言った。なんだか傷付けられた心境だった。チャニョルこそが、自分で自分を傷付けているだろうこのときに。
「……そんなふうに言わなくていーって」
チャニョルが自嘲気味に返す。
「ほんとだって。……慣れた、っつーか……」
ここしばらくの、自分の心の動きを思い返し、ジョンインはごく正直にそう言った。
チャニョルが自分を好きだという状況自体には、いつの間にかすっかり慣れてしまっていた。
もともと周囲に満遍なく気を使えるタイプではまったくないため、気を抜くと自分ひとりしかいないような、ふわふわした心地にすぐなってしまうのがジョンインだった。
ただ今はその中にチャニョルに対する疑問が混じっているだけで、ふわふわの周りの、チャニョルが己に向ける好意というのは、ジョンインの中で天気のような、そう、雨が降るとか、そういうものと同じになっていた。
何と言っても相手はチャニョルだった。
明るく、元気で、気が強いけど優しくて、人生を楽しんでいて、目と耳と口の大きな、ぴかぴか光る、音楽の大好きな、ジョンインの大好きなチャニョルだった。
そんなチャニョルが自分を好きというのは、たとえそれが恋愛感情の混じっているものだとしても、ジョンインの中である種自然という枠に吸収されるのが時間の問題であったのだ。
その、理由を知りたいだけだった。
そして今、やっと、知れた。
「……ほんとか?」
絞り出すように、泣きそうな声でチャニョルは言った。
「うん。俺、兄さんのこと、好きだよ。愛してるよ、前とおんなじに」
ジョンインははっきり、単語それぞれを発音して、答えた。
ちょっと恥ずかしかったが、これは逃げられない、と本能で分かった。
「…………そっか。うん。ジョンイン、ありがと、まじで」
そう言ってチャニョルは振り向いた。
チャニョルは泣いてはいなかった。
引き結んだ唇の両端が、ほのかに上を向いているだけだった。



つづく




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20160726

新ブログから初めてのつれづれ
こんにちは。
こちらのサイトに移転してから初めての日記のようなものになります。
フェリシティ檸檬です。

FC2ブログになってから初めてこのブログに来られたという方もかなりいらっしゃるようにお見受けいたします。
改めましてはじめまして。
フェリシティ檸檬と申します。

こうして一応無事に引越しを済ませられたことを心から嬉しく思っております。
一時はちょっとどうなることかとひやひやいたしておりました。

今現在、私はこのブログトップのデザインを、パソコン版でもスマホ版でもかなり気に入ってございます。
以前のブログは、写真を背景にはできましても、テンプレートを選んだりなどができませんでしたので、今回選択の幅が広がり、大変だと同時にとても楽しめました。
今後また変更を加えたりすることがあるかもしれませんが、とりあえずはこの仕様で参りたい所存です。
このブログデザインをご覧になって、皆さまはどのようにお感じになってらっしゃいますでしょうか。
初めての方と、顔なじみの方と、感じ方は違いますでしょうか。気になるところでございます。

さて、引越しとともにさまざまなことが変わりましたが、その中のひとつに拍手機能というものがございまして、これは素晴らしいものだなと、わたくし日々実感しております。
旧ブログはこの誰でもが気軽に押せる分かりやすいボタンというものがなかったのでございます。
私自身、他の方のブログにお邪魔し、素敵だなと思った際に、いちばん押しやすいのが拍手ボタンであるということを思い出したりいたしました。
確かにそうなのです。
やはり「拍手」というネーミングが的を射ているというか、そのものずばりという感じで、まさにそのためにボタンを押したいと人は思うものなのです。
よかったよーパチパチパチ!
という。
他のランキング等のボタンは、私も設けてはおりますが、特にブログをお持ちでないと、どういう仕組みのなんなのかということもぼんやりと予想するぐらいで、なんだか押しづらいものであったりすると思います。
なので必然的に拍手ボタンに手が伸びます。私はそうでしたし、今もそうです。
そんなふうに押された方の気持ちが分かる気がいたしますので、拍手ボタンを押していただくと本当———に嬉しいのです。
ああ、楽しんでいただけたのだなと心から思えます。
もちろんランキングボタンもそうなのですが、拍手ボタンに関しては、その軽いお気持ち、いや、軽くはございませんが、気持ちと行動が直結しているその感じが、私の心を鷲掴みにいたします。
そういうわけで、今までこちらの新ブログに足をお運びになり、拍手ボタンを押してくださった方々、本当にありがとうございます。
面倒臭いと思われても当然であるのに、お読みになった1話1話すべてに押して行かれる方がいらっしゃって、まさしく喜びに震えております。
当然他のボタンを押してくださる方、なんのボタンも押さずともお読みになってらっしゃる方にも、どれだけ感謝申し上げても言い足りません。
ただ上記のようなお心遣いをしていただいている方々に、改めてお礼を申し上げたかったわけなのでありました。
本当に、ありがとうございました。

そんなことを言いながらも、私は今、可能であればやはり読者の方と交流をより深めたいものだとひとり嘆息していることが多い日々を過ごしております。
ごあいさつにも書きましたが、私は私の書く物語を読まれると少々話しかけづらいと思われなくもないと自分でも思うのですが、いつもどなたかからのお声がけを待っております。
人見知りなどいたしませんし、おしゃべりするのが大好きです。
これは旧ブログの日記にても同じように書いたことがございますが、どんな立場の方とでもお話は是非してみたいものだと思っているのです。
EXOがお好きであったり、BLがお好きであったり、どちらもであったり、さまざまな方がいらっしゃると存じますが、私の書いた何かを読んで、それに対して感想を言っていただくというのは、こういったことをやっている者にとって何にも変えがたい幸福なのでございます。
私はお話を自分の好きに書いておりますし、内容が、他の同種のことをやっている方と比べると、カップリングからなにから、少々癖の強いものかもしれません。
ですが常々同じような小説ブログを書いている方とも、ただ趣味でお読みになっている方とも、是非ともお友達になってお話ししたいと願っております。
ですから、もし、ほんの少しだけでも、しゃべってみてやってもいいとか、ひとことかけてやってもいいとか思われた方は、どうぞコメント欄なりなんなり、拍手機能のコメント欄でも結構です、軽いお気持ちでしてやってください。
それがどれだけ私の心をさまざまに動かすことでしょう。
EXOのこの曲が好きなんです!とか、そういったことも聞きたいです。
このメンバーのここが好き!とか。
もしくは、こんな話が読みたいです、などのリクエストでございますとか。
なんでも結構でございます。
お暇なとき、ちょっとした時間潰しに、お言葉をお寄せくださいませ。
いつでも、私は待っております。

さて、今久しぶりの2作並行連載となっております。
まったく趣の違うふたつでございますが、お読みになられた方の感想はどういったものでしょう。
一生懸命書いて参りますので、是非、よろしければ、最後までお付き合いくださいませ。



猫を足で触りながら
フェリシティ檸檬



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20160726

砂糖壺に落ちる 3
寝起きから、イーシン兄さんがくれたチョコレートのお菓子を食べながら、俺は残りの数を数えていた。
1、2、3、4、5、6。
二個目の封をぴりぴりと開けながら、兄さんがどうしてかちょっとためらいつつこのお菓子をくれた夜のことを思い出す。
兄さんがパイを食べるのを、横で見ていた真夜中。
目尻を垂らし、えくぼをこしらえて口を動かすようすを見つめながら、触りたいな、と思っていた。
そのパイみたいに、俺を噛んで欲しいとも。
唇に付いた生地を、舌で取ってあげたいとも。
どれも思うだけで、口にはしなかった。
付き合ってて、ふたりきりで、深夜で。
何も邪魔するものはないのに、いつも一歩が、踏み出せない。
……ちゃんとキスさえ、していない。
思いが叶ったとき、手を繋いで、頬に軽く口を付けた。
兄さんが浮かべた優しいくぼみに、俺の唇を乗せた。
それだけは、せずにはいられなかった。
少しだけ、あと数センチずれれば、唇だったけど。
その距離が俺にはまだ、遠い。
兄さん連中が聞いたら笑うだろう。腹を抱えて。
恋人に手を出すのに本気で尻込んで、キスさえままならないなんて。
いくつなんだ、いったい。
自分でも呆れてしまう。
だけど兄さんを前にして、その顔を見下ろしてると、ほんとに触れてもいいのだろうかと、自問自答して体が固まる。
兄さんは嫌がったりしないだろうから、余計に。
我慢してるんじゃないかとか、本心では嫌なんじゃないかとか、そんなことばかりが頭を巡る。
もうひとつ、菓子を口に放り込む。
パリパリ、パリパリ、という食感を楽しみながら、今日も俺は、今日こそは、と心に決める。


なんとか作った時間で、俺は今夜、イーシン兄さんと夕食を共にする予定だった。
ドタキャンされないかどきどきしていたけれど、幸い兄さんは少し遅れただけで、待ち合わせの店に、帽子、眼鏡、マスクをして現れた。
メンバーが皆よく使う中華料理屋で、ここはたくさん個室があった。
ごくごく小さなそのうちのひとつに通してもらい、俺たちは丸テーブルに隣同士で腰を下ろした。
嬉しさで顔が綻ぶのが自分でも分かり、恥ずかしいくらいだった。
メニューを手に取りながら、兄さんは口を開いた。
「セフン、ごめんね、中華にしたの俺のためでしょ」
その顔は少し悲しげで俺はいっぺんに気分がへこむし、同時に焦る。
「ち、違うよ。俺が食べたかったから。個室も取れるし。だから気にしないで」
手を伸ばして肩に触れる。兄さんの肌のぬくみと表情で俺は暑いんだか寒いんだか分からない。
「そう?無理してない?」
なおも眉をひそめて兄さんは問うてくる。
「してないよ。好きだもん」
続く言葉は中華が、のはずだけれど、俺は言いながらほのかに赤面した。
なんとか兄さんの納得を得ると、俺たちは注文を始める。
エビチリ、ほうれん草と魚介の炒め物、ピータン、水餃子、小籠包、漢方のスウプ。
アルコールは控えた。明日も早くから仕事だし、体調管理のためにも。
今日あったことやメンバーの噂話などをしながら待っていると、料理はどんどん運ばれてきた。
湯気が俺たちを取り巻く中、膝を寄せ合って一生懸命それらを食べた。
狭い部屋でふたり、赤いテーブルの上の色とりどりの食べ物を前にして、俺たちは唇を光らせていた。
「お腹いっぱいになってきちゃった」
少なくなってきた皿の上を見下ろしつつ、俺はふーっと息を吐いた。
「大丈夫?もうやめる?」
「ううん、も少し食べる」
「このスウプ飲んだ?」
兄さんが頼んだ漢方たっぷりのこの店特製のスウプは、ぴりっと辛く、複雑な味がして、飲むと汗が噴き出してくる。
「体にいいよ。飲みなよ」
そう言って兄さんはレンゲで掬い、少し息を吹きかけたあと、俺に向かって差し出した。
俺はその一連の行動に胸がざわざわし始める。
こんなことはみんなでよくやることだけど。
おずおずとそのレンゲに口を付け、吸う。
目は、ずっと兄さんの顔を捉えながら。
滋味豊かな液体が口と喉を通っていく。
差し出されていた手のその首を、飲みやすいよう俺は掴んだ。
それに対して俺の目を見た兄さんと、俺は視線がぶつかった。
スウプは飲み干された。
体の中にぼっと火が灯ったようだった。
俺は握った細い手首を自分の方に引っ張った。
兄さんの体が俺に傾く。
少しだけ開いた唇の上に、俺はおそるおそる、自分のそれを重ね合わせた。
兄さんとの初めてのキスは、山椒と八角の匂いがした。
その柔らかさに、目を閉じた。


つづく



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20160726

慈雨、降りそそぐ 10
さすがに翌朝早く仕事の入っているメンバーはごく限られていた。
昼近くになるまで、残る面々は誰も起きられず、おおかた二日酔いをベッドの中で持て余していた。
もちろんジョンインはそんな中でも症状はひどく、夕方からスケジュールが入っていたが、行けるかどうか自信がなかった。行きはしても、使いものになるかどうか。枕の上で口を半開きにしながら、ジョンインはそっと目を開けて中心から外に向かって痛みの走る頭を意識した。幸い吐き気はそれほどでもなかった。
寝返りを打って仰向けになると、頭痛は強さを増し、思わずジョンインはいてー、と口走った。
額に手をやり、意味はないがこすってみる。
細く開けた目の中に、カーテンから零れる日光が入ってくる。その明るさと色は天気のよさを示していたが、特段ジョンインの気を和らげたりはしなかった。
「…ジョンイン?」
衣擦れの音とともに声が向こうからやって来た。
喉に何か引っかかったような、だがそれでもしっかりと個性ある低音の声の主は、見なくともジョンインには分かった。
声の方へ顔を向けると、チャニョルがこちらを見ていた。ジョンインと同様額に手を乗せて。
「…大丈夫か?」
相変わらずくぐもった声で尋ねるチャニョルと目が合い、ジョンインはなんだか泣きたいように感じ、小さくうん、とだけ答えた。
チャニョルは体を起こして部屋の中を見渡した。そして目をしばたかせながら髪の毛を両手で梳かしつける。
「……俺たちだけかあ。11時半だよ。…ジョンイン、起きるか?お前」
ふわー、と、特大のあくびをしてチャニョルは問う。
ジョンインはもぞもぞとチャニョルの方を体ごと向くが、風邪をひいたような色の悪い顔で何も言いはしなかった。
そんなようすを見たチャニョルは、首の後ろを掻きながら、「まじでへーきか?」と更に問う。「水、飲むか?」
眉を寄せ、口を開けた切なげな顔で首を縦に振るジョンインを見て、チャニョルは長い手足を大きく動かし、ベッドを降りた。
「待ってな」
そう言い残して部屋を出て行くと、ほとんど間を空けずにもうジョンインの前に立っていた。
手には水滴の浮いたグラスを持って、チャニョルはほら、とジョンインを促した。
ジョンインは肘をついて上半身を起こし、受け取ったグラスの中身を喉を鳴らして飲んだ。唇の横から一筋垂らしながら。
「ああ、ああ」
無意識に声を漏らしてチャニョルは人差し指と中指で相手の顔の水の流れをせき止めた。
グラスから口を離すのと、チャニョルが自分の行為に気付いて動きを硬くしたのは同時だった。
申し訳程度にささ、と指先で撫でると手を離し、近くのティッシュを引き抜いてジョンインの顔にほら、と言って当てる。
ジョンインはグラスをナイトテーブルに置き、ティッシュを自ら手で押さえた。
目の前に立つチャニョルの少し気まずそうな姿から、ジョンインは昨夜のことがぼわぼわと蘇ってきた。
ディテールは抜けていたが、自分がまずい質問をしたことはなぜか覚えていた。
トイレに連れて行かれたことも。
そしてそのときもこんなふうに困ったチャニョルが目の前に立っていたことも。
で。
結局、なんで俺が好きなんだっけ?
ひっきりなしに痛む頭でどれだけ思い返してみても、ジョンインは答えを得られた記憶がないことに苛立った。
確か、聞いたはずだ。
思い込みじゃない。
やっと聞けたと思ってなんだか清々しい気さえしたのをはっきり覚えてる。
忘れたのか?
ああ、痛い。いてーよー。
あんなに飲むんじゃなかった。
痛い痛い痛い。
なんでだっけなんでだっけなんでだっけ。
痛い。せっかく聞いたのに。
「ねーなんで?」
ベッドに腰掛け、自分の分の水を飲み始めたチャニョルが思わず動きを止めるほど、やや大きな声でジョンインは言葉を放った。
「あ?」
広い白目の中、何色とにわかには言えない色のついた丸がジョンインに向けられる。
こめかみを指先で擦りながらまだ横たわったままのジョンインは、繰り返し言った。
「だから、それで、なんで、俺が好きなの」
チャニョルが奥歯をぐっと噛み締めた。残った水の通っていくのが喉の動きで分かる。
いっきに時間は12時間前に引き戻され、ふたりはトイレに立っていた。



つづく



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20160725

砂糖壺に落ちる 2
仕事の最中なのに、集中しなきゃ、と思ったけど、どうしても差し入れの、チョコレートのかかった小さなケーキみたいな駄菓子を頬張ると、うちに帰りたい、と願ってしまう。
特別美味しいお菓子というわけではなかったけど、パリパリ割れるチョコのコーティングだけは素敵だった。
まずその食感がいいし、甘みも苦みも匂いもよかった。
チョコが大好きな俺の恋人も気に入るだろうか、と考える。
「レイー」
スタッフに呼ばれ、広げられた位置チェック表に目を通しながらも、心のどこかは家にある。
もぐもぐ中の薄っぺらな味のクリームを咀嚼しつつ、それでもこれを好きかもしれないし、と俺は再度思う。持って帰れるほど残っているかな?
指先で紙を指して自分の意見を伝えると、時計を見上げ、時間を確かめた。
10時かあ。
確認していないけれど、たぶんメッセージが携帯に入っている。
俺がそういうことに無精なのを分かっているから、返信がなくてセフンは怒ったりしない。
……ちょっと怒ってもいいよ、と思っちゃうくらい、セフンは怒ったりしない。
「じゃあもう一回4曲目の動き確認しまーす」
ステージのディレクターが大きな声で皆を集める。
口の中に、もうケーキはない。
唇を手の甲で拭って、俺はちらりと雑然としたテーブルに目を走らせる。
まだ、だいぶ残ってるみたいだな。
皆の中央に立ちながら、飲み込んだチョコレートが、俺の心臓を少し焦がすような気がした。


灯りは点いているけれど、おそらく誰も起きてないだろう、と予想しながら、俺はリビングのドアを開けた。
オレンジ色の小さな灯りがぼんやりと部屋の中を照らしている。
ふわりと匂いが漂ってくる。ケーキ屋さんにいるような。
鼻をひくつかせながら目を動かすと、ソファの上に、誰かいる。薄い布団を掛けられて、すう、すう、と寝息を立てて。
「セフン」
途端に俺は喜びと驚きとで全身が膨らんだみたいになる。
慌てて近寄り、荷物を放り、興奮で強くならないよう気を付けて、そっと肩を揺らす。
「セフン」
自分から出た声の、糖度の高さに赤くなる。
眠った顔の眉の線が、やっぱりすごくしっかりしていて、いいなあ、と笑みが出てしまう。
もう一度軽く揺らすと、ん、という声が漏れて、その響きに胸がきゅうと縮まる。
薄く開いた目で、俺の顔を映したセフンは、
「……あ、兄さん?あれ?あ、帰ったの?お帰り……」
言いながら体を起こす。きょろきょろ見回すようすを座って見上げて、俺は「ただいま、今、2時半」と告げる。
「ごめ……寝ちゃった……」
目を擦ってぼうっとした顔をこちらに向けると、夢ではないかと訝しんでいるようだ。
「……待ってたの?」
俺は自分の期待を思わず尋ねてしまう。
するとふにゃりとセフンは笑う。
「うん。ていうか寝てたけど」
この嬉しさがどれくらい伝わるだろう?
俺はいつも歯がゆくて切なくなる。
気持ち悪いくらい顔が緩んでいるだろうことが自分で分かる。
「ありがと、ごめんね、遅くて」
「しかたないよ」ふわーと大きなあくびをしてセフンは言う。「仕事だもん」
そしてソファからずり落ち、俺の横に体育座りになる。
「お腹空いてる?」
ごく近くで小首を傾げて甘い顔でそう問うセフンに、俺は胸が高鳴るのを抑えられない。
「…少し」
「なんか食べる?」
「……遅いし……どうしよう……」
ほんとは食べるよりもしたいことがあった。
くたくただし眠たいしお腹もちょっとは空いてたけど、それよりもなによりもしたいことがあった。
でもいつもと同じにそんなことは言えない。
「パイがあるんだよ」
にこにことセフンは言う。
そして俺たちの前のテーブルの上の、白い箱をかさかさと開く。
「ほら」
中身を見ると、高そうで美味しそうなてりてり光るパイが3つ、入っている。
「まだ、ギョンス兄さんとチャニョル兄さんも食べてないから。中身全部違うんだよ」
俺は持ち帰ったたいして美味しくもない駄菓子のことを思い出し、なんだか少し恥ずかしくなる。
「……兄さん」
「ん?」
「兄さんてさ、…果物何好きだっけ?」
なんでかほのかに、セフンは後ろめたそうだった。俺は不思議に思いながらそうだな、と考えてみる。
「……桃?かな?」
「桃?」
「うん。他にもたくさん好きなのあるけど」
セフンは箱の中に手を入れて、パイのパイ生地の隙間をじーっと見つめた。
「…あ、これ桃じゃない?」
ぱあっと笑みを零して嬉しそうにセフンは俺を見る。
確かに薄黄色の桃っぽい姿がパイとパイの間から覗いていた。
「そうだねえ、桃だね」
「よかった。どうする、今食べる?」
夜中にしかもこんなどっしりしたものを食べるのはいろいろと思うところがないではなかったけど、セフンとふたりきりでパイを食べるなんてなんだかとてもいいと思った。
「うん、食べる」
えくぼが浮かんでいるのを自分でも意識しながら、俺はセフンの顔を見る。
「分かった、お茶持ってくるね」
そう言ってセフンは立ち上がり、キッチンの方へ消える。
俺はパイを持って口に運んだ。
齧った果物のかけらは、…アプリコットの味だった。
戻ったセフンは機嫌よく聞く。
「どう?やっぱり桃?」
とぷとぷとぷ、とグラスを満たしながら、俺を見つめる。
「うん。おいしいよ」
そう答えて俺はふた口目を齧る。
ほんとはアプリコットだけど。
ほんとはパイでないものを口に入れたいけど。
でも俺はそんなこと言えない。いつもと同じに。



つづく



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  • ミス・レモン
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