海の底、森の奥

- EXOの二次創作とオリジナルのBL小説を中心としたブログです。R18表現あり。お気軽にどうぞ。

20160718

憂鬱のすきま
※これは全6回分とそのあとがきをブログ移転時にまとめたものです。




困ったな、とチャニョルは思う。
彼女とのデートの帰り、タクシーに乗り込んだ彼は、窓の外を流れる夜景を見るともなしに眺め、ぐるぐるに巻いたマフラーにくちもとまで潜った。
最近なんだかものごとがしっくりいってる感じがしない。
つい今しがた会ったばかりの彼女にも、何故だか責められているようなぎくしゃくした雰囲気を醸し出されてしまい、せっかく仕事を切り上げて約束を守ったのに、チャニョルは帰りたくて久しぶりの逢瀬をそれとなく予定よりもずっと早く終了させるように仕向けたのだった。
確かに自分のような立場の人間と付き合うなんて面倒を背負わせているだけ、本当に申し訳ないしありがたいと感じている分、日頃彼女への気持ちも強く持っているのは事実だが、忙しい時間をやりくりして会ったときああいう態度を取られると自分がひどくないがしろにされているような気がして、妙に落ち込んでしまうのがチャニョルは辛かった。
家の近くの見慣れた景色が目に入り、チャニョルは安堵のため息を漏らした。

「ただいまー」
伊達眼鏡にニット帽、何重にも巻いたマフラーに埋もれた大男がダイニングルームに現れた。
「おかえりー」
そんな状況にも当然うろたえることなくソファに座ったメンバーは迎える。
のたのたとチャニョルはリュックサックを肩から下ろし、ダウンコートを脱いでソファにどさりと腰を下ろした。
チャニョルの隣にシウミンが座り、ひとり掛けのソファにカイがいる。シウミンは台本を読み、カイはスマートフォンでゲームをしているらしかった。
「みんなは?」
不承不承マフラーを外しながらその低音でチャニョルは問う。
「だいたい帰ってきてるよ。部屋にいる。あ、ギョンスだけ撮影かな、まだ」
シウミンが手元から顔を上げチャニョルを見て答えた。スマートフォンを見つめたまま、カイが「忙しいなー」とつぶやく。風呂上がりらしく、濡れた頭とつやつやした顔の弟分は、心持ち口を開いて熱中している。ニット帽を脱いだチャニョルは髪の毛をわしわしかき混ぜて、眼鏡も取り、
「体心配だな」
と目を落とす。
「ギョンスのことだから、大丈夫だとは思うけどな」
台本を閉じ、シウミンが年上らしく話しながらキッチンへ向かう。お湯を沸かそうとする音がソファのふたりに届く。準備を終えたシウミンが戻ってくる様子をぼんやりと見つめ、チャニョルは「風呂でも入るかー」とひとりごちる。
「そうしろよ、疲れた顔してるぞ、お前こそ」
シウミンは苦笑して言う。
「セフンと一緒に入んなよ、あいつ今入ってるから」
立ち上がったチャニョルは手に持ったニット帽を笑うカイの頭に向けて投げ付け、「ふざけんな、誰が」と言い、自分も笑った。



入浴を済ませたチャニョルは、タオルで頭を拭き拭き再びダイニングルームにやって来た。
するとキッチンのコンロの前で、帰宅したギョンスが何かを作っている。いつもの真っ黒い部屋着を着込み、手元に視線を落としたままこちらを見る気配はない。
チャニョルは足音を控えて彼の後ろに回り込み、身長差を活かして頭の上から彼の手元を見た。小さな鍋が真っ白いミルクで満たされ、その上に木の枝のようなものがぷかぷか浮き、ふたりに向かって湯気を上げている。
「それ、何?」
ギョンスの頭上から声を掛ける。
彼はぱっと上を向いて表情だけで驚きを示し、嘆息した。
「牛乳だよ」
「違うよ、その浮いてんの。あ、シナモンか」
「そう」
立ちのぼる靄の勢いとふつふつとした表面のようすでギョンスは判断を下し、横に準備していたカップにとろとろと中身をつぐ。つ、と半ばで手を止め、
「お前もいる?」
と横目でチャニョルを見る。
特別お相伴にあずかりたいという思いがあったわけではないが、温かそうな夜の飲み物と心優しいメンバーの気遣いを断る理由は何もなかった。特に今夜のような心境で、シナモン入りホットミルクと、ギョンスが供されるならば。
「いいの?じゃあ、もらう」
チャニョル専用のマグカップ−馬鹿でかく、キッチュなライオンがこちらに向かって吠えかかる絵が描かれている−に、ギョンスは残りを分け与えた。
小鍋をシンクでお湯につけようとしているのを、ギョンスのつむじの上から変わらず何となく眺めていると、彼の刈り込まれたうなじ、白く盛り上がり、くぼんだ部分、背骨の道、そして片方の肩甲骨のへこんでいる部分が見え、そこにあざのようなものがあるのをチャニョルの目が捉えた。
「ギョンス」
「うん?」
さっと手を首から中に突っ込み、チャニョルはその赤みに指を置いた。
「うわっ」
ギョンスが顎を上げて声を荒げてもお構いなく指でこしこし皮膚をこすってチャニョルは言う。
「虫刺された?赤いよここ。痒くない?」
途端にギョンスはチャニョルの手を強引に引き抜き、スウェットの襟首に手を回して押さえ、チャニョルに向き直った。ギョンスの視線はチャニョルの目とぶつかり、その白い肌が首から顔へ赤く染まっていくのをチャニョルはスローモーションのように見た。ぱ、と視線を斜め下に落とすギョンスを見て、すっかり事態を悟ったチャニョルは彼への申し訳なさと親愛の気持ちを込めて言う。
「なんだ、ギョンス彼女できたのかよ」
何も言わず、自分の白いカップだけを持ち、ギョンスはすたすたソファへと向かう。しくじったかな、と少し慌ててチャニョルも後を追った。
ギョンスはひとり掛けに腰を下ろし、カップを口に運んでいる。チャニョルはときおり見せるそういった仕草でギョンスが驚くほど幼く感じると、心臓がくっとつかまれるような感覚を覚えるのをこのところ自覚していた。傷付いた子供のように目に映る同い年の仕事仲間に、気を取り直してチャニョルは笑顔で明るく話しかけた。
「水臭いな。言ってくれたらいいのに。まあ、ギョンスはそういうの吹聴しないだろうけどさ」
カップを膝のあたりまで下ろし、ギョンスはチャニョルを斜に見た。
「…知られたくないから、内緒にしといて」
何故かギョンスのそのようすにチャニョルはわずかに動揺したが、顔には出さず、答える。
「お前がそうしたいなら言わないよ、誰にも。…なんかごめんな」
バツが悪くなってチャニョルも熱い牛乳を口に含む。シナモンの香りが鼻をくすぐる。湯気の向こうには長い睫毛を伏せたギョンスが蜃気楼のように座っている。
「音楽活動期間中じゃなくてよかったな。着替えのとき見られちゃうからな」
また、軽い感じでチャニョルは言ってみた。ギョンスはそうだ、というようにチャニョルに、
「これ、普通には見えないだろ?覗き込まないと」
と再び誰かに吸われたであろう跡のあたりに手を伸ばしながら問うた。
「うん。だと思う。撮影で脱ぐシーンとかないんだろ?」
手を戻しながらギョンスは答える。
「うん、ない。それどころかいつも首詰まってる服を着てるような役」
「ギョンスっぽいじゃん」
微笑んでチャニョルがそう言うと、ギョンスもやっと笑みを浮かべ、
「そうだな」
と言った。
深夜にふたり、この世で自分たちだけのような心持ちでミルクを体に流し込みながらこんな話をするのは、本当ではないようだとチャニョルは思った。ギョンスの相手が誰なのか、いつからなのか、うまくいっているのか、もちろんすべてが気になったが、それよりも心を奪われるのは目の前にいるギョンスの何とも言えない儚げなさまと、先程見下ろした首から肩、あの恋人のあかしの光景で、彼が幸福さと無縁なような、それでいて満ち足りているような、そしてそれがチャニョルの胸をかきむしるような、自分でもよくわからない感情に支配され、チャニョルはますます夢見心地になるのだった。



ラジオの仕事を終え、練習場に向かうと、いつもの部屋の前の通路に小さな人だかりができていた。なんだろうと訝しがりながらチャニョルが近付くと、その中にベッキョン、ギョンス、チェンが混じり、それ以外は若さに弾けるような少女たちであることが分かった。チェンがチャニョルに気付き、
「チャニョル」
と声をかける。
女の子たちもチャニョルに気付くと、わあー、きゃあーと、口に手を当てて上気した肌をますます赤く染め、お互いを見合う。ひと目見ただけである程度容姿の整った子たちばかりだとチャニョルは思い、練習生だなと判断した。
「すみません、お忙しいのに。ただ挨拶だけさせてもらおうと思ったんです」
その中の一番大人びた、色の真っ白なひとりが、チャニョルの目をまっすぐ見上げて言った。「私たちも今度からここで練習させてもらうようになるので。よろしくお願いします」
そして次々に、よろしくお願いします、というあいさつと、それぞれの名前が口にされた。
「こちらこそよろしく。頑張ってね」
にこにこしながら心底嬉しそうにベッキョンは答える。チェンもいつもの穏やかさと思いやり深さでうんうん頷いている。ギョンスは少なからず人見知りを発動しているようだ。メンバーそれぞれの性格が如実に表われ、苦笑してチャニョルが言う。
「ありがとうね、わざわざ。大変なこともあると思うけど、なにか相談したかったりしたら、時間があるときなら受け付けるからね。俺たちもまだまだ新人だから頼りないけど、一緒に頑張ろう」
彼の混じりけのない陽の空気を最大限に発揮して、少女たちに笑いかけると、皆涙を浮かべんばかりに感激したようすで頭を下げる。負けじとベッキョンもそうだよー、遠慮しないでーと笑いながら彼女たちの腕をぽんぽんと叩く。少女たち、特に先程一番最初にチャニョルに話し掛けてきた娘が、泣き笑いのような態でチャンスとばかりに男性陣の体に触れた。もー、あんまり優しくしないでくださいー、泣いちゃうー。単純に喜んでいるのはベッキョンだけで、チェンとギョンスは少し及び腰になっているのを目に取ると、チャニョルは言った。
「じゃあ、俺たちも練習しなきゃだから。君たちも頑張ってね!」
あっごめんなさい、お邪魔しました!!もーやだー、と、ばたばた慌ただしく甘い香りを残し、これから絢爛に咲き誇るかもしれない花のつぼみたちは去っていった。
あとを見送りながら、ベッキョンは
「初々しいな〜」
と嘆息する。
「お前でれでれしすぎ」
チャニョルが手をポケットに入れたまま肘でベッキョンの腕をこづく。
「そんなことねーよ」
「あるって。なあ?」
ギョンスとチェンに同意を求めると、チェンだけ
「まあなあ」
と苦笑して賛意を表す。
くるりと背を向け、練習室のドアに手をかけながら、三人の方をあの射るような目で一瞥し、
「彼女に言うぞ」
とギョンスは冷たく言い放つ。そのまま石膏でかたどられたような横顔の残像を残し、部屋の中へ消えた。



早朝、スホ、セフン、ベッキョン、チャニョルがひとつの車に乗り、仕事に向かっていた。
日がようやく登り始める頃、暖房の効いた車中で、皆コートに首まで深く埋まりながら半分眠っている状態である。セフンなどは軽いいびきをかいて熟睡しているようだ。
チャニョルもうとうとしていたところ、「なあ」と耳元で声がし、腕をつんつんつつかれた。
隣に座ったベッキョンが、とろんとした目のチャニョルを覗き込み、言う。
「お前さ、彼女とうまくいってる?」
夢の中で響くかのようなベッキョンのハスキーな声が、チャニョルの頭をだんだんと覚まさせる。
「彼女?」
ふわふわ歌うようにチャニョルは口を開く。
「俺さー、昨日喧嘩しちゃってさー。参ったよー」
足元に向かって手をぐーっと突き出し、伸びをしながら、ベッキョンは疲れた表情を見せる。
その横顔を見ながら、チャニョルは昨晩の電話を思い出す。
こそこそ付き合うのって思ったより大変
昼間手を繋いで歩いたりできないのがだんだん嫌になってきた
自分の気持ちがそういうもろもろに負けそうになる
気丈な彼女がほとんど泣いているようだった。
チャニョルはすぐに会いに行きたかったが、今まさに現場に向かっている朝早い仕事が、彼を電話のみに押しとどめた。できる限りの謝罪と彼女への気持ちを伝え、今夜会う約束をし、電話を切った。
もう、だめかもしれない。
そうはっきり思うのはこれが初めてだった。彼女とは。彼女以前の恋人たちとも、確かにそういう瞬間はあった。しかし何度経験しても同じことを繰り返してしまい、別れのときの涙に濡れた顔と向き合わなければならなくなることは、チャニョルの胸をこれ以上ないほど締め付けた。最後に見た彼女たちのつやつや光る美しい顔が、フラッシュバックしては彼の心を沈ませる。自分の仕事で得るものと失うもの、そのふたつのあまりの大きさに、時折チャニョルは圧倒され、何もかもがまったくの間違いなのではないかという疑念が頭をよぎってしまうのを止められなかった。
だが、彼には音楽があった。
音楽。チャニョルはどんな女よりも音楽をこそ愛している。
彼自身にそこまでの自覚があるかと言えばそうではない。だが実際はそうだった。どんな女がそばにいようと、彼の中心は音の連なりと広がりに満たされており、そこにたとえ影響はできても、入れ替わるのは不可能なのだった。
だからこの仕事から離れられない。それは頭で考えた結論ではなく、もっと本能的な欲求であった。
「俺もうまくはいってないよ」
ぽつり、ともともと低い声をますます落として、チャニョルはベッキョンに言う。
「難しいよな」
ベッキョンは前を向いたまま、囁く。
「なあ。…あ、もう着くかな」
朝日が照り、まぶしさを増した窓の外を目を細めて認め、チャニョルも同意した。
「あ、そうみたいだな。…さて、仕事だ」
車はゆっくり速度を落とし、駐車の準備に入る。



撮影の待ち時間、横で忙しげに照明を直すスタッフをその大きな目に映して、チャニョルは椅子に座っていた。
口を心持ち開き、手にはお茶のペットボトルを持っている。
横に並んだ椅子のうちのすぐとなりに、ぎしりと音がした。
「ギョンス」
薄く化粧を施された斜め横から見るギョンスの顔は、以前見た何かの絵に似ている。名前を呼びながら、チャニョルは見とれるようにこちらを見ない彼の顔を眺めた。
ベッキョンが何かおかしいことを言ったらしく、他のメンバーがそれを聞いて笑い声を上げているのが耳に入る。
そちらをちらりと見て、また視線を前に戻すと、
「元気だな、あいつは」
と言い、手に持ったペットボトルに口をつける。
白い喉仏が上下に動くのを見つめながら、
「あいつもなかなか辛いみたいだよ」
とチャニョルは苦笑して言う。
ペットボトルの蓋を閉めつつ、ギョンスが言う。
「ああ、そうみたいだな。昨日帰ってきたとき珍しく暗い顔してたから。でも、あいつは今のとこまだ大丈夫だよ」
チャニョルは驚いてギョンスの顔をまじまじと改め、ギョンスはまっすぐに丸い黒目を彼に与えた。
「なんでそう思うんだ?」
「今の彼女は、前の彼女の代わりなんだよ。あいつはそんなこと思ってないだろうけど。でも彼女もそれに気付くんだろ。だからうまくいってないんだよ。まあ、いくわけないし」
そう言うと視線を外し、ふー、と鼻から息を抜きながら自らの首あたりをぽりぽりと掻くギョンスから、チャニョルは目が離せなかった。
「ギョンスよくそこまで気付いてたなー」
前に向き直り、ずるりと椅子の中で腰を引き下げ、チャニョルはつぶやく。
「見てたらわかるだろ。お前だって知ってたろ?」
何を言ってるんだ、という表情でギョンスは言う。
「知ってたけどさ。俺はベッキョンとよく話すしさ」
「話さなくてもだいたい気付いたはずだよ、お前なら。あいつはわかりやすいやつだし」
チャニョルはギョンスを見る。ギョンスはときたま驚くようなことを突然言うので、チャニョルはそのたび少なからずぎょっとした。そして今はそんなふうに自分を評価してくれる彼に温かい気持ちを抱くのを覚えた。
「お前のことには全然気付かなかったけどな」
ずっと触れてこなかったが、思わずチャニョルはその話題を口にした。
ギョンスは無表情で、少し黙った後、言った。
「隠してるしな」
かすかに寂しげな影をその顔に見て、チャニョルは自分の心臓がくぼむのを感じる。
「誰とも、この話したくないのか?」
「うん。したくない」
激しく自分を拒絶されたような感覚にチャニョルは驚くほどショックを受け、二の句が継げなくなってしまい、しかたなく視線を手元に落とした。
「でも、チャニョルが知ってると思うと、なんだが少し、気が楽だよ」
ぱ、と顔を上げてギョンスの顔を見ると、その目はチャニョルにそそがれていた。そしてこぼれるような優しい笑顔を、慈雨のようにチャニョルに与えた。



無骨で大きな手から、音の玉がこぼれ落ちる。
その長い指が黒と白のモザイクの中をゆったりと踊り、短調を奏でていく。
それは昨夜見た彼女の大きな瞳から溢れる水の粒。
ふわりと前に揺れる琥珀色の長い髪の流れ。
小さい肩の小刻みな震え。
グランドピアノにかがみ込み、前髪が眉を隠し、伏せた目はまつげに縁取られながら鍵盤を見つめ、閉じては、記憶に潜る。
口のすきまから苦しそうに吐息が漏れる。
同じように指からも。
がちゃり。
練習室の扉がゆっくりと開く。
ドアの陰から覗き込むように顔を出したのは、ギョンスだった。
チャニョルは半ば閉じたような目で、彼の姿を見た。
ギョンスはそろそろと体を部屋の中へ入れながら、
「邪魔か?」
と尋ねる。
力ない笑みを浮かべ、チャニョルは「ううん」と答える。
足音をほとんど立てず、ギョンス独特のようすでチャニョルに近付く。
ピアノの前に座ったチャニョルの横に立ち、開かれた楽譜に目を落とす。
「Almost Blue?」
同様に楽譜に目をやり、
「うん」
と返事をする。
「エルビス・コステロ?」
「そう」
ぽんぽん、と椅子の空いた部分を叩き、ギョンスに座るよう促す。
「歌ってよ」
チャニョルは鍵盤に視線を落とし、口元に微笑を乗せて穏やかに言った。
「え?」
チャニョルの顔を、腰を下ろし同じくらいの目線になったギョンスは、真近に見る。
「いいじゃん、知ってるだろ?この歌」
「まあ…」
黒鍵のすきまに指が滑り、なめらかに旋律は流れ出す。誘うように鳴る音の連続に、飢えたごとくギョンスは口を開ける。

Almost blue
Almost doing things we used to do
There’s boy here and he’s almost you ,almost

All the things that your eyes once promised
I see in his, too
Now your eyes are red from crying
Almost blue
Flirting with this disaster become me
It named me as the fool who only aimed to be

Almost blue
It’s almost touching it will almost do
There is part of me that’s always true…always
Not all good things come to an end now it is only a chosen few
It’s seen such an unhappy couple
Almost me
Almost you
Almost blue

低く情緒豊かな歌声が、もの悲しいピアノの調べと絡み合い、宙に舞った。
“blue”の高音の名残りが漂う中、ギョンスがチャニョルを見ると、チャニョルは鍵盤に両手を置いたまま、頭を下げ、目をぎゅっとつむり、嗚咽をこらえている。ふふ、ふ、ふ、と、引き結んだ口から音が漏れる。
眉を寄せたギョンスは、チャニョルの肩に腕を回す。優しく、優しく、背中を撫でる。チャニョルがギョンスに向き直り、彼の肩に顔を埋める。とうとう、言葉にならない声を、かすかながら出しながら、チャニョルは泣いた。ギョンスの黒いトレーナーに染みを作るのを申し訳なく思いながら、止めることができなかった。ギョンスはチャニョルを抱きしめる格好で、何も言わず、ただ背中を撫で続けた。
しばらくそうしたあと、チャニョルはそろそろと顔を上げ、濡れた瞳で前髪の間からギョンスの目を見た。
見つめ返してきた目には、涙が表面張力によってかろうじてその場にとどまっていた。
鍵盤のようなコントラストのギョンスの目は、水をためて揺らめいている。
白い頬は涙を待ち受けるかのようにわずかに震えている。
あ、落ちる、と思った瞬間、その粒をチャニョルは受け止めた。
ギョンスの瞳のすぐ下に、チャニョルの唇が乗っていた。
さっと、体を引き、
「ごめん」
とチャニョルはつぶやく。
ギョンスの怒号が聞こえてくることを覚悟して俯くチャニョルに、柔らかな声が聞こえる。
「彼女と間違えんなよ」
顔を上げると、ギョンスがしかたないな、という表情で、肩の涙の跡とともに、微笑んでいた。
「だって…ギョンスまで泣くから」
恥ずかしくなり、目を拭いながら鼻をすすってそう言うと、
「泣いてない」
と顔を振りながら上目遣いをして宙を見、ギョンスはうそぶく。
「おーそうかい」
「そうだよ」
言い合ってふたりで笑う。
はー、とため息をつき、チャニョルが言った。
「この歌詞、お前はどう思う?」
目元と頬、鼻の頭をわずかに染めたギョンスの顔に内心戸惑いながら。
「だいたい、憂鬱なことばっかり、ってことじゃないか?誰とつきあっても、結局同じ。みんなそう、ていう」
「うん、…そうだな」
「でも、だからこそ」
チャニョルがギョンスの顔に視線をそそぐ。
「今度こそ。って、思うんだろ?」
ギョンスのうるんだ黒目がチャニョルのそれを捉えた。
泣いたせいで少し鼻にかかった声の音が、チャニョルの耳に音楽のように残る。
今この瞬間、俺は憂鬱なんだろうか。
憂鬱がこんな甘やかなものだったろうか。
上気した顔で隣に座る同い年の青年を、ただ別れたばかりの彼女と間違えたのだろうか。
チャニョルはギョンスを横目で見、この間偶然発見してしまった背中の小さなあざを思い出し、急激に赤面した。
「どうした?」
そのようすに気付いたギョンスが、上目遣いでチャニョルを見返す。
慌てて視線を外し、唇を噛む。
なんだか、ふたりにふられたような気分だ、と、チャニョルはかすみがかった頭で思う。
その考えに、思わずふ、と笑ってしまう。
「なんだよ」
となりでギョンスも笑っている。



おわり




【あとがき】


みなさま、こんにちは。
いかがお過ごしでしょうか。
フェリシティ檸檬です。

小話ではございましたが、お楽しみいただけましたでしょうか。

私は日々、チャニョルさんの性格や性質を大変好ましく思っていまして、そういった部分がこの話に表れていればいいなという気持ちでおる次第です。
そんなチャニョルさんと、フォトジェニックボーイ・d.oさんのあれこれは、前回の「シング シング シング」とはまたまったく違った書く楽しみがありました。
それはやはりチャニョルさんの人柄の影響だろうと思います。

私は彼らの芸術への邁進を願うばかりです。


それでは、もしご感想がありましたらお気軽にお寄せください。
お待ちしております。

次回の作品でお目にかかるまで、失礼致します。



フェリシティ檸檬



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