海の底、森の奥

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20170515

罠(東方神起・パラレル短編)
訪れるのは必ず夜、それも、人の減る、閉店ぎりぎりと言っていい時間帯にしていた。
駅前の、蛍光色があたりにばらばらと落とされたように光る一帯、林立するビルの最上階のスポーツジムの自動ドアを、チャンミンは通った。
イヤホンを耳に入れていた。必ず音楽は携帯する。家を出るとき忘れたら引き返すほどである。移動中もしもなければ、いらいらしながらガムを噛んではすぐ出し、また新しいものを口に放り込む、を繰り返してしまうのが癖だった。
先日購入した、値の張る、音の出る小さな玉ふたつは、想像以上に音がよく、チャンミンは珍しく買い物で非常に深い満足を得ていた。唇の両端が心持ち上がる。受付に会員カードを差し出すとき、アデルのビブラートが、チャンミンのいちばん好きな振れ幅で喉を震わせている振動で、彼の耳の中に流れ込んだためだった。
 メロディに合わせ、軽くみずからも口ずさみながらチャンミンはロッカールームに向かった。スーツからさっさと動きやすい身軽な服装へと着替え、マシンの待つ部屋へと足を進める。
かっきり三十分間、鏡に対峙してトレーニングを毎回、行った。トレーナーは、まばらになった人々の間、あちこちに散らばってはいたが、この夜の遅い時刻に部屋にいるようなメンバーは常連で、ほとんど対応する必要のない者たちばかりだった。それでも、話好きの会員ならばやり取りはしていた。その楽しげな声色や、大きな笑い声はガラス越しに通ってくる闇の中で、音楽がかかっているのも構わずやたらと響き渡った。
高性能のイヤホンをしたチャンミンにも、特徴的な笑い声がやはり聴こえた。
 髪の毛は水を被ったようにびしょ濡れになって張り付き、開いた口の下、顎から、絶えず水滴が玉となって滴り落ちた。Tシャツは若干透け、筋肉のかたちがはっきりと見て取れる。
あはははは、また、閉じた目のまま、チャンミンは少ししゃがれた、喉の奥で引っかかったような笑いの音を耳にした。
まぶたを上げる。壁掛け時計はチャンミンにトレーニング終了を告げている。黒目は更に動いて声の主を探した。
腕を組んだ、浅黒い肌の男が五十代ほどの会員と談笑していた。会員はストレッチをしている。ランニング後の、体をほぐしながらの会話のようだとチャンミンは判断した。
マシンから立ち上がり、まっすぐ己を見返す自分を見つめながら、タオルで額や頬を拭った。荒い呼吸で、口はまだうまく閉じない。眉頭が困ったようにわずかに上を向いている。
お疲れさまでした、という声かけに、他の従業員も追いかけてお疲れさまでした、と口を開く。振り返ると、例の会員はシャワールームの方へ消えていった。
また、鏡を向いた。すると自分の背後に、影のようになって近付いてくる誰かがいるのが目に入り、肩がぴしりと強張った。
「シムさん」
 ひょこりと、顔を覗き込むようにしてチョンはチャンミンと目を合わせた。
「もう三十分経ちましたか」
 笑顔を作りながらチョンが話し出すと、並んだその歯が白さをチャンミンに強調した。
 タオルで顔を隠すように拭き、そうしながら片耳だけイヤホンを外し、くぐもった声で答えた。
「はい」
「そうですか、あっという間だな」
「そうですね」
 もうチャンミンは、自分たちを映し返す光る鏡面に目をやらなかった。
「じゃあ、僕、シャワー浴びるんで」
「あ」
 素早い足取りでチャンミンは持ち物を引っつかみ、細長く続いていく通路へと歩いていった。チョンがお疲れさまでした、という言葉を掛けない、そしてエコーのようにそれに続くお疲れさまもない、ということが、チャンミンには何故か重くのしかかっていた。

背の高い彼でも上向けるシャワーヘッドの取り付けられた個室のひとつに、チャンミンは入り、まぶたの表面に水のつぶてを受けていた。色白とは決して言えない南国の青年のようなすべらかな肌は、まだまだよく水分を弾いた。この瞬間が好きで通っているのかもしれないと、毛穴という毛穴に湯を通すように浴びながら、チャンミンはよく思った。
そしてそう思いながら、同時にチョンのことがその都度、頭に浮かんだ。
嫌ならば来なければいいのだ、ジムなんかいくらでもある、運動したあと浴びるシャワーなど、どこでも同じだ。
そう、自分に言い聞かせる。それを何度繰り返したのか、もはやさっぱり分からなかった。
チャンミンがこのジムに入会したのが二年前、勤める商社の支社に出向となり、それに伴い引っ越しをした際、新たに入り直したのだった。
そのときからチョンはいた。チャンミンの担当だった。
あまり気の合うタイプの人間ではないなというのが第一印象であった。そしてその第一印象は未だに変化していない。
大雑把で、説明が下手で、運動馬鹿で、話の飲み込みがよくない。よく分からないことで突然笑う。
担当の変更を願い出ようかとも当然考えた。しかし、思いとどまった。
それはその後の居心地の悪さを考えてという理由が大部分であったが、それと共に、チョンのどこか憎めない感じ―――持って来てくれたカップに注いだ水を途中でふたつともひっくり返すであるとか、目標のタイムを切ったときに自分のことのように大声で喜びを表し、抱きついてくるであるとか、これ好きなんですよ!と言いながら毎度のように菓子を分け与えてくるであるとか、そういうことの積み重ねが、チャンミンに苦笑と諦めをもたらしたためでもあった。
一年程が経過した頃、チャンミンはチョンとトイレで鉢合わせたことがあった。
水を出し、両手を揃えてその中に溜め、顔にばしゃばしゃとかけていた。そのするりと伸びた、竹のような指にチャンミンは目を留めた。しぶきがあがる。小さな顔が刹那、消える。虫の腕や足のように長く伸びたその指一本一本が、妙にチャンミンの目に焼きつくように迫った。
気付いたチョンは、あ、シムさん、と顔を上げ、やべ、タオルねー、と言った。
しかたなしにチャンミンは手に持っていたタオルを渡した。
礼を述べて、チョンはなんのためらいもなく顔をごしごしとその薄青い大判のタオルで拭いた。いい匂いするな、と言いながら。
その姿を見、言葉を聞いた瞬間、チャンミンは相手の手から自分のタオルを奪い返し、走って逃げたい強烈な衝動に駆られた。
だがもちろん、そんなことはしなかった。その代わりにただ、唇を引き結んで下を向き、いいえ、と言いながら、肌の色を濃くしていた。
その後、チョンを見て、そういう感情が再び起こるということはなく、チャンミンは心底からほっとした。それからまた、週に二度ほど通い、用があるときにチャンミンが話し掛け、それにチョンが対応する、という、他の会員とトレーナーと同じ関係性が続いた。
しかしあるとき、チョンが珍しく、心ここにあらずといったさまで、ねえ、シムさん、と低い声で聞いてきた。
チャンミンは我知らず呆けた顔になり、囁くようにはい、と応じた。濃い、黒い眉を寄せ、チョンは顔をチャンミンに近付け、問うた。
プレゼントなんですけど、何がいいですかね?
呆気に取られたチャンミンは、は、と言ったまま頭で浮かぶ予想が現れては弾けて消えた。
あ、彼女の誕生日のです。
そう言えば、といったようすでチョンは付け足した。
背中に、分厚い、途方もなく分厚いジャケットでもかけられたかのように肩を落とし、チャンミンは大きな黒目を揺らして寄せられたチョンの真面目くさった顔を見た。
ゆっくり、長く、息を吐き、アクセサリーとか、駄目なんですかと口から出した。
すると、なんだかんだと勢いづいてチョンは語り出した。
いや、もう長いこと付き合ってて、あらかたあげてるし、そもそも好みが激しくて、あんまり無難なものあげても喜ばないし、花とかはまた別物だし、と矢継ぎ早に述べていく。
よく動く口と瞬く目をチャンミンは注視した。また、手がその前をひらひらと踊った。指が、木の枝に似た指が、誘うようにくるくると動いていた。
まったく違うことを考えながら、チャンミンは言った。
TRPGとか、どうですか。
え、何、ゲーム?聞き返してくるチョンに、簡単に説明した。
テレビでやるんじゃなく、テーブルの上でやるゲームのことなんですよ、いっしょに、友達とかも交えてできるので、面白いですよ、と。
途端チョンの表情が一変した。
なんか難しそうだけど、それいいですね!!俺たち共通の友達多いし、超楽しそう!!
満面の笑みを浮かべて、チョンはチャンミンに抱きついた。ぎゅうぎゅう抱きしめ、背中をばしばしと叩く。ありがとうございます!助かりました!チャンミンの耳、ほとんど穴の中直接に声は入ってきた。もうだいぶ長いこと、その距離で音を侵入させたのは、愛する音楽の数々だけであった。
支社への移動を機に、彼女とは別れていた。
それからデートは何度かしたが、次へと繋がる出会いはなかった。チャンミンは選り好みが激しく、一定レベル以上の女でないと、目に入らないようなタイプの男であったから。
相談に乗ったのち、チョンからそれに関しての話を聞くことはなかった。それはチャンミンがもう、トレーナーを必要としないという態度を明確にし、もくもくとひとり作業に取り掛かるようになったことで、聞ける機会がなくなったためと言ってよかった。話しかけるなという強いオーラがチャンミンの体から立ち上っていた。そういう客はいる。慣れたトレーナーはすぐ読み取り、さりげなく距離を置くようになる。
チョンは当初、その性格から、そんなチャンミンの態度を敏感に察知できず、なんやかやと話しかけようと画策していた。が、話しかけてもほとんど首肯される程度で済ませられ続けるうち、とうとう引き下がった。
そうして、今に至る。
蛇口をひねって流れを止めた。
瞳を現したチャンミンは、タオルを取りながら思考の回転をいったん急停止させた。
とにかく、ジムには通いたいんだから。
どこだっていいんなら、ここだって別に構わないわけだから。
そうした誤魔化しをまた自分に言い、チャンミンはロッカールームを目指し、湯気のこもる白い部屋をゆっくりと出た。

受付にはチョンがいた。
普段そんなことはなく、驚いたチャンミンはたじろいだ。ただ目を見開いただけではあったが。
カードを返されながら、視線を感じ、チャンミンはそれでも黙っていた。イヤホンをしておけばよかったと唇を噛みかける。
「シムさん」
 笑みから零れてくる言葉。自分の名。思わず台に置いた手を握った。
「これ」
 体を折って下から何かを引っ張り出すチョンを見て、予想外の展開の連続にチャンミンは目を泳がせてただ待った。
両手で持ち上げ、台に置いたそれは、大きくゲームの文字が表に浮いている。
「…これ」
「はい。シムさんおすすめのやつです。…なんでしたっけ」
「…TRPG」
「あ、そうです、T…です。これ、シムさんに、あげます。もらってください」
 視線をチョンのそれに合わせた。しっかりとした目で、唇に笑みを乗せ、チョンはチャンミンをじっと見ていた。さあっとチャンミンは体温が上がる。また、汗腺から水分が滲む。
「え、なん、で」
「これ、あげなかったんです。別れちゃって、誕生日直前。ふられちゃって」
 えへへへ、と続けるチョンに、チャンミンは、それは…お気の毒に…と口の先で小さく答えた。
「はい、辛かったです。もう、だいぶ平気ですけど。それで、これ、捨てようかと思ったんですけど、もったいないし、あ!じゃあシムさんにと思って、ずっととっといたんです。で、今週、誕生日でしょ?」
 会員カード、とチャンミンは手に持ったままのそれに載ったみずからの生年月日を思った。
「だから、はい。どうぞ」
 にっこり笑い、差し出すチョンの顔からチャンミンは目が離せなかった。
「ずっとまともに話せなくて、淋しかったですよ、俺、ほんと」
 チャンミンの眉が垂れた。唇は酸素を求めて身勝手に隙間をこしらえる。
「シムさん、俺のこと、嫌いになったりしてませんよね?」
 小首をかしげるチョン相手に、チャンミンは今伝えられた数々の情報が身のうちを血液の流れるように回っていくのを電気がびりびりと通ったように実感した。
 唇を湿した。手を、掌を上にしてチョンの方向へ向ける。
受け取りながら、言った。
「…そんなことないですよ」
 目は見ることができなかった。
「あ、そうですか!よかったあ!」
 花の咲くような声音でチョンは答えた。
「…これ」
「え?」
 ゲームの箱を見下ろしながら、チャンミンは続けた。
「これ、…いっしょにやりましょうよ」
「え?」
「面白いですよ」
 顔を上げ、少しだけ下にある男の、少々戸惑いの乗った顔に目を向ける。
「あ、はい!いいですね!」
「…じゃあ、チョンさん、週末どっちか休みですか」
「え、…日曜日、休みですけど」
「それなら、日曜日、あの、このビルの斜向かいにあるビルの一階の、a piece of appleで、チーズケーキ買ってきて下さい。駅まで迎えに行きますんで」
「あ、あの店?あそこうまいよね。名前今初めて知りました」
「そうです。ベイクドですよ。あそこスフレとかレアとかも置いてますけど、ベイクドですからね」
「べいくど…」
「固いやつです。クッキー生地みたいなのが下に敷いてある」
「ああ!分かった!俺もあれ好き!そうでないのも好きだけど。全部うまいよね」
「よかったです。じゃあ、待ってますんで」
「え」
「電話番号書いてあるでしょう、会員記録に。何か分かんなかったら電話してください」
「え、う、うん」
「それから、これ、そのとき持って来てください。俺今これ持って帰れるような袋ないんで」
 手に持った平べったい箱を、チャンミンは突っ返すようにチョンの方に差し出した。狐につままれたような顔で、自動的にチョンはそれをまた手に取る。
「じゃあ、日曜に」
 頭を軽く下げると、踵を返したチャンミンはウィー、と唸り、左右に開くドアに大股で進んだ。
振り返ることもせず、そのままエレベーターに向かい、耳に極小の穴の開いた黒い玉を押し込みながら、帰ったらまたシャワーを浴びよう、と考え、数字の上を光が過ぎていくのを見つめた。



おわり



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  • ミス・レモン
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