海の底、森の奥

- EXOの二次創作とオリジナルのBL小説を中心としたブログです。R18表現あり。お気軽にどうぞ。

20160827

これが最後(ベッキョン × セフン)
煙草やめなよ、と、もう何度言ったか分からない小言を、俺はまた、言った。
昼休みに屋上の鍵を開け(これはもうだいぶ前に先輩が壊したのを、まだ教師には気付かれていない)、忍び込んで昼飯を食ったあと、必ずベッキョン先輩は空を見上げて一服した。
「匂いつくよ」
「ガム噛むよ」
「服につくから」
「香水かける」
「ばれるって」
「へーきだって」
毎日繰り返される会話。
本当は誰かにばれるのが怖いとか、そんなんじゃなかった。
先輩の声が、俺は好きだった。
自分と全然違う、太くて、ハスキーで、深い声を先輩はしていた。
特に歌うとすごかった。
聖歌を歌っているのを、たまに聴くことがあった。
いつも全身鳥肌が立つ上、俺はちょっと震えてしまう。
これが失われるのはいやだと、特別何かに対する執着なんて持っていなかった俺が唯一、それだけは強く願っていた。
それ以前からちょくちょく戒めてはいたが、俺はまるで先輩の母親か彼女のように、しきりにその悪癖を注意した。
なぜか先輩はそんなうざいだろう俺に対し、反発したり遠ざけたりをしなかった。
不思議に思いながらもそうして、日々は平和に過ぎていった。
俺はチョココロネの包装を握りつぶし、壁に背を預けた格好で、立って頭を仰向けている先輩の華奢な後ろ姿を見た。
顔からは儚い煙が白く立ち昇っていた。
その指先には煙草が引っかかっている。
顔をしかめてしまうほどのにっくき敵でありながら、俺は先輩の綺麗な指の中にその細い毒の棒が当然のように収まっているさまを見るのが、自分でも驚くほど好きだった。
先輩が顔の中の小さなピンクの三角形に、爪の先を持っていくの目にすると、俺は彼の歌を聴いたときのように肌がかすかに泡立った。
そうなる自分に戸惑っていた。
「先輩ってば」
俺は声を張って彼を呼んだ。
くるりとこちらを振り向くと、先輩はぶらぶら近付いてきた。
「やめなって。………まじで」
出来る限りの真剣な表情を俺は作って先輩を見上げた。
太陽をしょった先輩は、逆光になって顔の中身がよく見えなかった。
少し笑っているのかな、と思った。
「分かった」
「え?」
思いもかけない返答に、俺は声が裏返った。
「やめるよ」
目を凝らしてその顔を見ると、今や先輩ははっきりと笑っているのが分かった。ちょっと狡そうな笑顔だった。
「お前が吸ったらな」
そう言って俺を見下ろした。膝に手をついて。
「……え……」
「一回だけだよ」
にこにこと悪魔のように微笑む彼に、俺は開いた口が塞がらなかった。
煙草なんか吸いたくなかった。それは、もちろん。
でも、もしそれで本当にやめるなら。
俺はすぐに結論を出した。
「……分かった。吸うよ」
そして彼の持つ煙草に手を伸ばそうとした。
あはは、と声を上げ、顔を崩して先輩は笑った。
「違うよ」
俺の手から煙草を離し、その口元に持って行った。
すう、と少しだけ吸い込むと、先輩は俺の肩を片手でぐっと壁に押し付けた。
膝をつき、顔を傾け、俺が呆気にとられるさなか、先輩の口が俺の口の上を覆った。
ふう、という息とともに何か得体の知れない苦いものが口の中に漂うのと、唇のとほうもない柔らかさを唇に感じたのは同時だった。
目をこれでもかと広げた俺に、先輩は目を開けたまま、優しく息を吹き込んだ。
そしてゆっくり体を離した。
息を詰めていた俺は、先輩が離れるとともに激しくむせ、咳き込んだ。
再び先輩はおかしそうに笑い始めた。腹を抱えて、体を折って。
「な、なにす、」
何を言ったらいいのか判断のつかぬまま、涙の滲む目を先輩にどうにか向けた。
笑うのをやめ、煙草を携帯灰皿に押しつぶしながら、先輩は言った。
「これが、最後」
俺を見据える。
「言ったろ?やめるよ」
話の展開についていけない俺は、先輩が煙草やライター、灰皿をしまい、ゴミを拾うのをただ眺めた。
「ほら、もう時間だぞ」
何事もなかったかのように、先輩は俺を見て言い、ドアへと向かう。
「あ、そうだ」
鞄から香水を取り出し、首や手に振り掛ける。
海をイメージして作られただろう爽やかな香りが、俺のところまでふわりと届いた。
「ほら」
声とともに、先輩が鞄から漁って手に乗せた小さな何かが、立ち上がった俺に向かって飛んで来た。
両手で受け止めると、それはミントのガムだった。
「やる」
先輩は自分の口にその粒をひとつ放り込んだ。
ドアを開けて向こうに消えるその姿を目にしたあと、俺は掌の上のガムを見た。
それをそのままポケットに入れ、俺は彼の後を追った。





おわり




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20160828

17時からの情事(セフン × カイ)
真夏、エアコンもかけない部屋でセックスするのは、よく熱せられたサウナに入って我慢している感じだ。
セフンはそんなことを思い、汗を垂らして、もともと色の濃い上から更に日に焼けまるで同国人ではないように見えるジョンインの裸を見下ろしながら、その尻の間に自らを埋めていた。
尻だけは色が何段か落ち、もとの色のままだった。
それだけでもセフンは充分そそられた。
繋がっているところを飽きるほどじっと見た。
出たり入ったりするごとに大きさを変えるこの穴は、どうしてこんなに魅惑的なのだろうかといつも、思った。
ジョンインも自分に対し、そう思っているだろうか、とふと考える。
四つん這いになった彼は、苦しげな声を断続的に上げていた。
腰を回すように動かすと、うあ、という音を出して、
「そ、れ、やめろっ」
と、反発を見せた。
そう言うだろうと分かっていた。
だからあえてやったのだ。
セフンはそういうところがあった。
もうそろそろ、迎えそうになっていた。
かなり堪えていたが、時間も余力も尽きてきていた。
窓から漏れる日の光が、先程よりもだいぶその強さを弱め、セフンの出っ張った先、うずまった部分は熱がこれ以上ないほど溜まっていた。
閉め切った部屋の中にまで届く蝉の声や近所の奥さん方の世間話が、溶けかけた脳みそに流れ込んでいた。
熱中症になってしまう、とセフンは腰のスピードを上げながらただ、思う。
部屋を冷たく冷やしながらでは、このぎりぎりの快感は味わえなかった。
ふたりは正に、夏にいた。
真っ赤な顔をしたセフンは、急いでジョンインの中から自分を取り出した。
それに対しジョンインが、振り向きざまにその掌でセフンの先をすっぽり覆った。
セフンはジョンインの肩に手を置き、目をぎゅっとつむって「あぁ、あぁ」と漏らしながらそのままいった。
ぜーはーと息を上げたセフンを、ジョンインは仰向けに横たえた。
そして片脚を大きく掲げさせ、さっき手に受け止めたものをセフンの尻の奥に塗った。
セフンはされるがままだった。
目を閉じたまま、荒い呼吸を繰り返した。
「いくぞ」
その言葉とともに、セフンの中にジョンインが入って来た。
もうすでにたっぷりと濡れていたジョンインのものは、ぬるぬるとよく滑った。
「あはぁっ………はっ」
汗で湿った髪を振り乱し、ジョンインはリズミカルに腰を振った。
口を大きく開け、熱い息を周囲に撒いた。
薄眼を開けて、セフンはそんな彼を見上げた。
黒く染まった体を熱でより濃く光らせ、セフンを見下ろしながら動き続けるジョンインは、曰く言い難い何かを発散していた。
先刻中身を出した部分がぴくぴくと動くのと、中がひくつくようになるのを自身で感じた。
「………しめんなっ、いっちまうだろ」
眉間を寄せて吐き出すようにそう言うジョンインを見て、セフンはなんだか笑ってしまう。
「あっ……まじ、気持ちいぃ………」
どんどんと運動のテンポは上がる。
優れた体を持ったジョンインは、そうすることになんの不自由もない。
「……時間、ないんだって………」
くぐもった声でそう告げるセフンに、ジョンインは、ち、と軽く舌打ちをする。
相手の両脚を上げてその腕に押さえつけ、ラストスパートをかけた。
ぎぎぎぎぎぎ、とベッドが軋む。
「……あ、いく、いくいくいく」
セフンは机の上のティッシュを抜いた。
ぐっと腰を引くジョンインの動きに、セフンは「ひぁっ」と思わず、聞き慣れない声を上げる。
現れた、つやつや光る、とことんまで膨れたそこの頭に、セフンはティッシュを押し付けた。
「いっ、ああぁっ、あっ、はあぁっ」
上半身をがくがくさせて達するようすをセフンは見つめた。
この瞬間が、好きだった。
がちゃがちゃがちゃ。
ふたりはその、突然響いた鍵の開けられる音に身を硬くした。
「ただいまー」
歌うような高い声と、ドアの開く音が同時に聞こえ、ベッドから飛び降りたふたりは超特急で脱いだ下着と制服を身に付けた。
手をよく拭き、窓を開け、部屋に消臭剤をこれでもかと吹き付け、階段を上がってくる音に慌てながらも備えた。
ノックがされ、セフンが返事をすると、ばっと扉が開いた。
彼の母親がそこに立っていた。
セフンはどうしてこうなったかと思うほど、小柄で可愛らしい顔立ちの、彼の母だった。
「あっ、やっぱり。こんにちは」
にっこり微笑む彼女に、ジョンインはお邪魔してます、とやたらにやけた顔を向けた。
「あっついね、この部屋。なんでエアコン付けないの」
手で自分を仰ぐジェスチャーをする母親に、セフンは答えた。
「うん、ま、いっかなって」
「汗だくじゃないの。体に悪いよ。ごめんね、ジョンインくん」
「あ、へーきです、俺、もう帰りますし」
「え、そうなの?」
「はい。すみません、遅くまで」
「いいえー。お構いもしませんで」
そして踵を返して母親は部屋から去った。
立ち上がったジョンインは、
「俺、まじで帰るから」
と言い、鞄を持った。
セフンは床に落ちた靴下ひと組を拾い上げ、ドアに向かうジョンインの後頭部めがけて投げ付けた。
振り向いたジョンインに、
「忘れ物」
とそっけなく言い放つと、へへ、と、ジョンインは笑い、落ちた靴下を拾った。




おわり





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20160903

ふたりのゆくえ(シウミン × D.O.) 前編
合格祝いは何がいいだろうかと、考えていた。
そもそもギョンスは物欲自体がなさそうで、実際、誕生日のときも、ものを欲しがったりはしなかった。
映画のDVDなど、どうだろう。
いや、特別なお祝いなのだから、もう少しインパクトのあるものがいいか。
家を出るかどうかでも、これから要るものは変わるだろう。
そんなことを思いながら、電車で乗り継ぎ、いつものように彼の住むマンションへと向かった。
とりあえず、花束だけは、うちの最寄り駅前の花屋で買っておいた。
なんの花にするかというだけでも、悩んでしまうものだった。
だいたい、花束を買う、ということ自体、もしかして初めてなのではないかと思った。
母へ一輪のカーネーションを買ったくらいしか、覚えがなかった。
彼女と呼べる存在に対してだって、花を贈るということはついぞなかった。
腕を振るたびかさかさと、束になった白い花が包みの中で鳴っていた。
目の端に入ると、照れくささが胸に沸く。
なんという花だったっけ。
緑色のリボンを茎に結わえられた、俺に顔を向ける花たちは、白一色だった。
なんとなく、ギョンスは色のないものの方を好む印象があった。
いつも黒い服ばかり着て、部屋もほぼモノトーンで統一されているから、おそらく彼を知る者なら、聞かずとも誰もがそう思うだろう。
気に入ってくれるといい、と、純粋に俺は祈った。
部屋のチャイムを押すと、間もなくドアが、相手を気遣うようにそっと開いた。
「ミンソク兄さん」
俺の顔を見て、はにかんでギョンスは言った。
「よ、おめでと」
「うん」
体を後退させて、俺を中へと促す。
「部屋、行ってて」
「あ、これ」
尻に回して隠していた花束を、振り向いたギョンスの顔の前に掲げた。
一瞬寄り目になったギョンスは、一拍置いて、俺の顔へと視線を移動させた。
「お祝い」
さすがに恥ずかしく、俺もにやけた変な笑いが顔に浮かんだ。
「………ありがとう」
がさがさと、両手でギョンスは、柔らかい、壊れやすいものを扱うようにその贈り物を受け取った。
「じゃ、行ってるな」
そう言って、逃げるようにその場を離れた。


家庭教師中に使う俺の椅子が、変わらず同じ場所に置いてあるのを見つけ、感慨深い心境でそこに腰を下ろし、この生活も終わりか、と改めて俺は嘆息した。
机の上に整然と並ぶ、使い古された参考書や問題集の数々を、もはや懐かしい気持ちで俺は眺めた。
部屋全体を見回しながら、この部屋も見納めかもしれない、と、考えていたとき、扉が開いた。
ギョンスがお盆に、コーヒーと菓子を乗せて立っていた。
「……何天井、見上げてんですか」
かすかに微笑んで、ギョンスは言った。
「ん?さみしくなるなー、と思って」
こちらにやって来たギョンスは、机の上にお盆を置き、勉強するときのように、自分の椅子に腰掛けた。
ゆるやかに立ち昇る湯気を前にして、俺たちは少し黙った。
ギョンスは片方のカップとソーサーを、俺の手前に静かに置いた。
さんきゅ、と言うと、ギョンスは口の片端を弱く上げた。
「………よかったな、受かって」
想像以上に、喜びよりも今後の別れの気配に彩られた会合になる雰囲気に、俺は胸のあたりがざわざわしていた。
そこまで意識をしていなかった。
ギョンスに教えることがなくなり、つまり、ギョンスに会うことも、ほとんどなくなるだろうということを。
しかしギョンスは何も言わずとも、そのことに対する哀しみを全身で伝えていた。
俺は少なからず、驚いた。
そこまで俺に、そんな態度を示すのは、どこかギョンスらしくないように思った。
俺はバツが悪くなり、カップを取って中を含んだ。
ここで毎週飲んできた、濃いコーヒーの味がした。
「おいしい」
常と変わらず、そう言った。
ギョンスはまた、片頬のみで消え入りそうな笑みを浮かべた。
かちゃ、とソーサーに戻すと、俺は努めて明るい声で、問うてみた。
「お前、お祝い何欲しい?」
本当は何も聞かずに買うつもりだったが、少しでも気分を変えられたらと思い、とにかく頭にあったことを声に出していた。
広い白目の中で黒目を動かし、俺に目だけで問い掛けた。
「花は別だよ。何か、他にさ」
2年近い付き合いで、俺はギョンスが言わんとするところを、表情でおおよそ見当をつけることができるようになっていた。
「なんか、欲しいもんないの」
いちばん魅力的に見えるはずだと、自分で思っている笑顔で、俺はギョンスに肩を寄せた。
「奮発したるよ」
嘘ではなかった。
第一志望にギョンスが受かったことは、自分の人生の中でも上位5位に入るくらい、心底嬉しいできごとだった。
ギョンスの親から払われたバイト代をギョンスに戻すようなものだったが、それでも、俺の気持ちを表したかった。
「なんでも」
呟くように、ギョンスは声を出した。目は自分のカップに落ちていた。
「なんでも、いいの」
そんなふうな返答が来るとは予想しておらず、俺は心中驚いたが、それを出さずに、うん、とすぐさま答えた。
こちらを向かぬまま、ギョンスがぐ、と喉を上下させたのを、俺はきょとんとしながら見つめた。
「き」
と言ったあと、数秒、間が空いた。
思わず俺は「き?」と、聞き返した。
はー、と息を漏らし、意を決した表情で、でもやはり俺のことは見もせず、ギョンスは再び口を開いた。
「きす、したい」
そう言うと、ギョンスはこちらを見ないどころか、反対を向き、すさまじい速さで、首から耳を真っ赤に染め上げた。
刈り込まれた髪の毛は、俺から、その肌がどんどん赤味を増していることも、細かく震えが走っていることも、何も隠すことができなかった。
手を膝の上でぎゅっと握り締めるギョンスを見つめ、俺は言われたことを脳みその中でただ回転させていた。
ひとことだけで。
それだけで、すべてが明らかとなった。
対象が俺でない、という可能性の低さを、俺は先程述べた、ギョンスの思惑を感じ取る経験から、既に把握しきっていた。
だから、「誰と?」などの、デリカシーに欠けた、大馬鹿な発言をすることは回避できた。
それでも、この場をどうしたらよいのか分かるわけではなかった。
確かに、ギョンスから、女の子の話を聞いたことはほとんど皆無だったことを思い出した。
告白された、と、バレンタインのあとにこっそり教えてくれたことはあった。
しかしすぐさま、断ったことも、同時に告げていた。
もったいないな、と言うと、しかたないよ、とギョンスは机の上のノートから目を離さず、言った。
好きじゃないし、これからもきっと、好きにならない。
そんなの分かんないだろ、と、俺は年上ぶって考えていたけれど、頑固で意思の強いギョンスに、何を言っても変わらないのを知っていた。
そして。
今、俺は、ギョンスが言葉でなく、それと正反対のことを伝えてくるのを感じていた。
ずっと見つめ続けた頬に、これ以上ないほど色を付けて、俺に何を言われるのか、恐れている。



つづく



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20160904

ふたりのゆくえ(シウミン × D.O.) 後編
暖房の効いた小さな部屋の中、俺はどっと汗をかいた。
掌を腿に擦り付けた。
なんと言えばいい。
どう、したらいい。
俺はまったく、そういう目を同性に向けたことはなかった。
単なるヘテロセクシャルで、それ以上でも以下でもなかった。
ギョンスはそうでないということなのか、どうなのか。
この際それはどうでもよかった。
きっとギョンスは、俺に望みがないということを、痛いほど分かっていたのだろう。
だから、その行為だけ、望んでいるのだ。
それを俺が、受け入れるかどうかの話だった。
時間は勝手に、刻々と進んでいく。
すっかり湯気は消えていた。
「ギョンス」
がらがらの声で、俺は呼び掛けた。
緊張しているということを如実にその音が物語り、俺はギョンスよりもっと赤くなってしまうかもしれない、と危ぶんだ。
ゆっくり、ギョンスは、顔を正面まで戻した。
それでも、下を向いていた。
白目まで赤くなっていた。
俺はギョンスが泣いたところは、見たことがなかった。
泣いているわけではなかったが、その光景は、俺の胸を苦しくさせた。
その瞬間、俺は如何に目の前に座るまだ少年のような佇まいを覗かせる青年を、自分が愛しているかに気付いた。
それはギョンスのものとは異質だったが、しかし強さでは負けぬだろうというほどだった。
「ギョンス」
もう一度、名を呼んだ。
すると心持ち、ギョンスは俺に顎を向けた。
重い前髪の奥に、目は隠れてしまっていた。
俺たちの距離は、30センチもなかった。
「………キスしか、できないよ」
囁くように、俺は言った。
自動的に、言葉が唇から流れ出ていた。
言われたことに反応し、ギョンスは徐々に俯けていた顔を起こした。
「………それでも、いい?」
俺は、ギョンスに、これからも会いたかった。
成長していくときどきを、楽しく目に映したかった。
だが。
ありったけの勇気を振り絞り、ギョンスが願いを伝えたのを、俺はどこまでも理解していた。
勉強を見てきたこの長い期間、その熱心さを誰よりも目にしてきたのだ。
そのギョンスが、俺に、望んだことだった。
潤んだギョンスの目が、俺を見据えた。
こくりと頷くのを、俺は見た。
キスなんて。
少し、近付いてしまえば。
俺は顔を横にした。
ゆらゆら揺れる瞳をそのまま隠すことなく、ギョンスは寄って来る俺を迎えた。
机に置いた腕がソーサーに当たり、かしゃ、と小さな音がした。
そのとき、唇の上に、唇を置いていた。
分厚いギョンスのそれは、俺のものでは小さすぎるようだった。
ギョンスはほのかに口を開けた。
ちらちらと、歯の間から何かが動くのを、感じた。
俺は粘膜を擦るその感覚に、抗わなかった。
自分の唇にも隙間を作ると、ギョンスの舌がそこを突ついた。
俺自身、久々のキスだった。
数えきれない感情と記憶の断片が、俺の中を滝のように流れて行った。
そして残ったのは、唇と舌の感触、ギョンスへの愛情だけだった。
その唇と舌は、思いの外柔らかく、雄弁だった。
いつの間にか目をつむっていた。
コーヒー味の、くちづけだった。
きっとコーヒーを飲むたびに、ギョンスはこのことを思い出すだろう、と俺は思った。
机に乗った手を、ギョンスの手が包んだ。
湿った表面が、手の甲の上で温度を高めた。
体が、特に下の方が、反射をしそうになっていた。
駄目だ、俺は思い、絡み合った舌を解いた。
ぷち、というような音を鳴らし、唇と唇は離れた。
お互い、息が上がっていた。
とろりとした目を、ギョンスは俺に捧げていた。
こんな顔を見ちゃいけない、と咄嗟に俺は視線を逸らした。
「…………ごめんなさい」
荒い呼吸の合間に、泣きそうな声でギョンスは言った。
俺は慌てた。
そんなこと、言わせたくなかった。
ギョンスの二の腕を掴み、目と目を合わせ、ひとことひとこと発音した。
「謝んな。……お祝いなんだから」
言い終えると、初めて味わった、果肉のような唇に、音を立ててもう一度だけ、キスをした。
頭をぐしゃぐしゃと撫でると、呆気にとられたギョンスは俺の顔をじっと見た。
「……兄さん」
手を離し、残った、冷えたコーヒーを啜った。
「ん」
「俺のこと、嫌いになんない?」
ソーサーにカップを置き、もう、崩れ落ちてしまいそうなギョンスに向き直った。
俺は渾身の笑顔をこしらえ、言った。
「なるわけないだろ。……お前さえよけりゃ、俺はずっと、お前の兄貴分でいたいよ」
本心だった。
叶うかどうかは、分からなかったが。
ギョンスの本当の希望を実現させられないことに、俺が押し潰されてしまわなければ。
他に、誰かもっと心を奪われる存在が、ギョンスの前に現れた日には。
きっと、それは叶うだろう。
ギョンスはまっすぐ俺を見ていた。
目の中にさまざまなものを込めて、しかし何も言わなかった。
俺はなぜか、今日買った花を思い出していた。
あの、白い花の繊細な花弁と、饒舌な香り。
ギョンスと、花が、重なった。





おわり






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20160905

お伽話の中で(ルハン × シウミン)
ルハンは王子と呼ばれていた。
彼は中国支社から本社に呼ばれて、ミンソクと同じ課に配属された。
皆の前に姿を現し、にこやかに挨拶をしたその日から、女子は彼に釘付けとなった。
ミンソクも、遠くからそのルハンのようすを眺め、嘆息していた。
こんな人間が、実在するのだなと思った。
その韓国語は本当に流暢で、気を付けて聞いていないと、ほとんど訛りは分からなかった。
男子社員は途端に妬みとそねみで腹の中を真っ黒にした。
だがその日じゅうに、漂白されたようにその色はどこかに消えた。
ルハンが聞いたこともないような、鮮やかな色の付いたようなその声で笑ってふにゃりと目の前で微笑めば、それを見た者は自身の何かが浄化されたような気になった。
来たその日に歓迎会という名の飲み会が催され、真ん中に座らされたルハンと次々に口をきいた面々は、皆彼に骨抜きにされた。
特に二次会のカラオケあとはすごかった。
わくわくとどきどきとはらはらが全員の中に溢れるその場で、彼はマイクを握って立ち上がると、にっこり微笑んでから、美しい韓国語のバラードを、完璧に歌い上げた。
この世のものとは思えぬ美声とその立ち姿に、そこにいた者すべてが呆然となった。
ミンソクも例外ではなかった。
初めから異世界から来た何かのようだなと感じていたが、ここまで来るともう、なんだか笑ってしまいそうなくらいだった。
べろべろに酔った同僚たちと別れ、ミンソクはルハンと住むところがごく近所だと判明し、いっしょに帰ることとなった。
ルハンもかなり酔っていた。
ガムを噛みながら、ミンソクは端正な顔と体を持った横に立った男を電車の中でじっくりと観察した。
窓ガラスに映ったつり革をつかむその姿は、やはりなんだか浮世離れしていた。
酔いもあり、なんで俺はこんな神の使いかなんかみたいな男とふたりで電車に乗っているんだっけ、とぼんやりミンソクは思った。
目を閉じていたルハンがぱちりとその瞼を上げ、少し下のミンソクの目を本当に間近で捉えた。
その瞳は電車の蛍光灯の白を受けて、ぴかぴかと瞬いた。
ミンソクも大きさでは負けておらず、上に跳ねるように上がった目尻を彼に向け、上目でじっとそれを見た。
少し充血して溶けるようになった目の中で、絶えず光は揺らめいていた。ふたり揃って。
「ミンソクさん」
突然下の名前で呼ばれ、ミンソクはアルコールの回った頭であってもかなり驚き、かすかに目を見開いた。
だがいっこうそんなミンソクを気にするようすもなく、ルハンは楽器を奏でるように声を発した。
「ミンソクさんの目は、かっこいいですね」
そしてふっと微笑んだ。
何を言われたか一瞬理解できず、ミンソクは目を瞬きながらルハンをそのまま見返した。
脳が内容を把握するにつれ、もともと火照っていた顔が、その色の濃さを増した。
合わせていた目を逸らし、前を向いて俯くと、小さく笑って、ありがとう、と呟いた。
すると上から更に、空気を甘く震わせるような、不可思議な笑い声が降ってきた。
「ミンソクさん、照れ屋なんですね」
ちらと横目で声の方を見ると、変わらずルハンが目尻に皺を作り、ありえないと思うような魅惑的な笑顔を向けていた。
なんなんだ、こいつ。
再び視線を下に戻すと、どんどん顔が染まっていくのをミンソクは感じていた。
耳の中には、ルハンのふふふ、という声がずっと反響していた。


あっという間にルハンはミンソクを呼び捨てるようになり、タメ口になった。
その距離の縮め方に相当戸惑いながらも、ミンソクは押しに弱く、勝手にマンションに押しかけてくるルハンを拒否はできなかった。
持ち込んできた酒をふたりで飲み、さまざまな話に耳を傾けた。
ルハンはお喋りで、人が好きだった。
なぜか彼が自分をとても好いていることを、ミンソクはよく分かっていた。
本当に好意がそのまま相手に伝わるタイプで、それを向けられて嫌だと感じる人間はまずいなかった。
こんなふうに人に好かれたのは初めてかもしれない、とミンソクはその美しい顔と声に晒されながら毎回思った。
それに慣れることがなかった。
話の内容も振る舞いも、ミンソクが共感できることは多くなかった。
だが黙って話を聞き、たまに思うところを伝えるだけで、ルハンは満足らしかった。
お前はいいやつだな。
ルハンはことあるごとにそう言った。
言われるたび、ミンソクは例外なく赤くなった。
そうなるミンソクを見るとルハンは必ず破顔した。
心底嬉しそうだった。
しょっちゅうサッカーの試合観戦、映画観賞、ライブ鑑賞、合コン、ただの散歩などにミンソクは駆り出された。
ルハンは顔が広く、フットワークも軽かった。
運動神経も抜群で、自分と張る足技の持ち主に、久しぶりに会ったなとミンソクは感嘆した。
会社で行われたサッカー大会にふたりで出ると、女子の嬌声たるやすさまじいものがあった。
近所から通報されたらしいと、ミンソクはあとで同僚から聞いた。
確かに走るルハンはすごかった。
ギリシャ神話の何かの神のような動きをしながら相手をかわした。
ミンソクとふたりでゴールを決めると、満面の笑みを汗の浮いた顔でミンソクに向け、ルハンは彼を力いっぱい抱きしめた。
そしてまた、つんざくようなきゃーっという音があたり一面に響き渡った。


もちろん、ルハンは女性とデートを重ねていた。
それはもう、あらゆる女性と。
ミンソクは話を聞くたび少しうんざりしたものだった。
羨ましいとかそういうことではなく、ただ理解ができなかった。
ミンソクは全然、女性に対してそうではなかった。
そんなふうに付き合いたいとも思わなかったし、実際そうしなかった。
呼ばれた合コンで番号などを交換しあっても、おいそれと発展したりはしなかった。
「お前、理想高いんだなあ」
ルハンは心から不思議そうに、女っ気のないミンソクを、珍獣を見るように眺めた。
「違うって」
そう反論すると、はは、とルハンはあの声で笑った。
「違わないよ」
人を魅了してやまない笑顔で、ルハンはあらゆることを相手に言った。
「でも、お前が理想高いのは、当然だよ」
その言葉の意味するところを、ミンソクはよく認識できなかった。
気難しいとか、言いたいんだろうか。
すぐに話題が昨晩のデート相手のことに戻った。
その子のここに幻滅した、と言うルハンに、お前こそ理想が高いよ、と、ミンソクは心の中でこっそり言った。


そんな生活が2年ほど続いた。
彼女ができたりいなくなったりしながら、ルハンは日々を忙しく過ごしていた。
ミンソクはと言うと一度も彼女ができなかった。
それをそんなに気にもしていなかった。
まだ若いし、仕事は忙しいし、ルハンはデートの隙間にひっきりなしに俺を連れ出すし、といったところだった。
休日はルハンとほぼ一緒だった。
なんだろうな、と思わないではなかったが、ルハンにかかるとミンソクはうんと言わざるを得なくなった。
ある日の夜、またいつものようにルハンが突然ミンソクの部屋を訪れた。
既にかなり酔っており、しらふだったミンソクは、呆れながらも家に入れた。
勝手知ったるとばかりにルハンは上がり込み、常と同じソファに陣取り、襟のボタンを2個目まで外した。
長い首だなあ、とミンソクは覗いた鎖骨までを目に留めて、しみじみ思った。
どこもかしこも長く、かたちがいいのがルハンだった。
密かにそこには憧れていた。
どう願っても、叶わないことというのがこの世にはある。
赤い顔をして天井を見つめるルハンは、途端にすっかり無口になった。
珍しいなと思いながら、ミンソクはグラスに水を注いで、ルハンの前のテーブルに置いた。
「どうしたんだよ」
言いながらミンソクは隣に腰掛けた。
ふくふくとしたソファはふたりの体重でぎし、と鳴った。
腹の上にクッションを置き、ルハンはミンソクにくるりと顔を向けた。
力の抜けた、何を考えているか読み取れない表情をして、ルハンはミンソクを見つめていた。
とうとう困惑し始めて、ミンソクは笑いを含めながら、更に問うた。
「なんだよ」
ほとんど瞬きもせずに、やはり輝き続ける瞳をミンソクに投げ掛けるルハンは、何かに取り憑かれたようだった。
「……大丈夫か?」
さすがに心配になってきて、ミンソクは聞いてみた。
かたちの整った薄い唇が動いた。
「………お前って」
顔のようすは変わらず、口だけが機械的に言葉を作っているようだった。
「……………どんな子が好みなの」
突然そんな、まるで脈絡のない質問を向けられ、ミンソクは呆気に取られた。
いつでもこいつの頭は色恋沙汰だな、また女の子と何かあったのか、と呆れながら、ミンソクは溜め息をついた。
「どんなって」
「………聞いたことなかったなと思って」
そうだったろうか。
しょっちゅうそんな話をしていたが、ルハンのことばかりだったのだろうか。
なんだか話したような気になっていたが、確かにはっきりしたことは言わなかったかもしれない、とミンソクは思い、少し考え、質問に答えた。
「…………話してみて、楽しい子?」
ルハンは丸い目をミンソクから離さず、その言葉を味わうように黙っていた。
かすかに恥ずかしいな、とミンソクは感じ、その視線から顔を背けた。
「……俺といたこの2年、そういう子、ひとりもいなかったの?」
当然の疑問とでも言うように、ルハンはまた、ミンソクに尋ねた。
さっきルハンの分と一緒に持って来た自分のグラスを持ちながら、ミンソクは記憶を辿った。
「………うん、いなかったかな、特別には」
そしてひとくち水を飲んだ。
「………ふーん…………」
「なんだよ」
グラスを置いてルハンに顔を戻すと、その顔はまだ、何も表してはいなかった。
なんなんだよ、とミンソクは、この状況に多少混乱していた。
こんなルハンは初めてだった。
大抵しっかりとした自我があり、ぼーっとしているところがなかった。
どんなにへべれけになっていても、やらかしてしまう、というようなことがないのだった。
ふと、下にしていた目線を上げると、ルハンが顔を両手で覆っていた。
ふ、ふ、という耳馴れぬ声が、その指の隙間から漏れていた。
最初笑っているのかと、ミンソクは訝った。
だが示すところは明らかだった。
ルハンは、泣いているのだった。
事態を悟り、驚いたミンソクは、ルハンに近寄り、その肩に触れた。
「どうしたんだよ。大丈夫か?何があった?」
男が泣いているのを見ること自体、いつぶりだろうとミンソクは思った。
酒の席などでこういうこともないではないが、こんなふうな泣き方ではなかった。
こんな、さめざめとした、途方に暮れたような、胸の詰まる泣き方では。
肩を震わせるルハンを、ミンソクは触れたまま、優しく撫でるようにした。
眉を寄せ、唇を曲げて、どうしらたよいかと逡巡した。
する、と手が、ルハンの顔から離れた。
真っ赤になった顔の中は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
本来男がそんな状態になれば目も当てられないものだろうが、ルハンは違った。
それこそ女性が泣いたような、男の心を引っ掻く何かが溢れた、それだった。
ミンソクはそれまで以上に困った。
こんな顔を見て、戸惑わない者はいないだろうと思われた。
涙でもっと目を光らせ、頬にまでそれを分け与えていた。
「……ルハン」
弱り切ったミンソクは、それを表情と声にしてルハンに伝えた。
ルハンの手が伸びた。
首の後ろを掴まれると、ミンソクはルハンの体の上にその体を乗せられた。
ぎゅう、と抱き締められ、首に冷たいものが当たった。
おずおずと、ミンソクは整わない体勢ながらも、ルハンの肩に手を回し、先程のように愛撫した。
体を細く揺するようにして、ルハンはまだ、泣いていた。
女性でも、こんなに人の心まで侵食してしまうような泣き方をする者は会ったことがない、とミンソクは思った。
これ以上何ができるだろう、と抱き合いながら考えていた。
硬い肩や肩甲骨に、何度も何度も指を這わせて。
しばらくして、ルハンの腕の力が弱められた。
あ、とミンソクが思い、体を徐々に離していくと、また、ルハンのあの顔があった。
今度は、これよりは無理だというくらい、鼻と鼻がぶつかりそうな距離で、お互いを見合った。
目にいっぱい涙を溜めて、ルハンは顔を傾けた。
ミンソクは、何が起きているのか分からなかった。
白目を増やし、ミンソクは近寄ったルハンが自分の唇を奪うのを見た。
重ねられたそれは、涙で濡れて、上で滑った。
それを留めるかのように、ルハンは口を開けていた。
唇全体をそれで覆い、半開きだったミンソクの口の中に、よく動く自分の舌を侵入させた。
慌てふためいたミンソクは、舌を押し戻そうとした。
だが姿勢が安定せず、ルハンの細長い腕に絡め取られたミンソクは、そこから抜け出すことが叶わず、口の中を蹂躙された。
いつぶりか分からないようなその行為に、ミンソクはまぶたを強く閉じてただ耐えた。
塩辛いキスだった。
ルハンの舌は自由奔放で、ルハン自身のようだと、ミンソクは手に力を込めながら、思った。
いくら泣いているからと言って、と、ミンソクはその力を最強にし、思いっきりルハンから身を解いた。
後ろに倒れそうになりながら立ち上がったミンソクは、上がった息をし、口を手で拭いながら、ルハンを見下ろした。
影になったルハンから、光がすべて消えていた。
見上げた彼は、よるべない子供のようなさまをしていた。
責めるような目で、俺はあいつを見ていただろう、とミンソクはのちに振り返ることとなる。
顔を落としたルハンは、ごめん、と呟くと、立ち上がって半ば走ってミンソクの部屋から出て行った。
取り残されたミンソクは、かなりの間、ルハンの出て行ったドアを、立ち尽くし、見続けた。


週の初め、ルハンが中国に戻るという知らせが課にもたらされた。
女性陣の悲嘆にくれた声と、男性陣の驚嘆の声が同時に溢れた。
もう既に異動は済んでおり、ルハンは中国に帰っているとのことだった。
えー、という非難の声に、上司はルハンが、悲しくなるから送別会など必要ないと言っていた旨伝えると、皆の間で急速に納得が広がった。
同僚のひとりが、なんで教えなかったんだよ、と面白くなさそうにミンソクに問い掛けた。
俺だって。
とミンソクはひとりごとのように言った。
俺だって知らないよ。
なんだよそれ、そんなわけあるか、という言葉が遠くからのようにミンソクの耳に届いた。
それぞれがぱらぱらと仕事に戻る中、ミンソクだけが、キスをされた夜のように、皆に首を傾げられるほど、その場で棒立ちになっていた。





おわり





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20160906

恋の味(セフン × ルハン)
まだ、来ないかな。
窓際に置かれた古びたソファに腰掛け、セフンは半ば横たわるようにしてドアを見つめていた。
運動部の掛け声が窓の外から入って来る。
まだまだ光は明るく、冷房のない部室の中は相当の暑さだった。
これも使い古された扇風機だけが、かろうじて涼を届けてくれた。
汗でじっとりと湿った体を、セフンは持て余すようにただ力を抜いてじっとしていた。
何も手につかなかった。
引き摺るような足音とともにドアの磨りガラスに人影が映った。
セフンはがばと飛び起きた。
開かずとも誰だか分かった。
待ち人が、来たのだ。
ドアが悲鳴のような音を上げて開くと同時に、セフンは声を掛けていた。
「ルハン先輩」
もしゃもしゃの頭をやや俯けがちにして、細い体を入り口に、ルハンはふらりと立たせていた。


セフンはもう、ルハンを待っているときから若干の興奮を抑えられないでいた。
姿を見てしまえば、体の反応は隠しようもなくなった。
邪気のまったくないような笑顔を向け、ルハンが鞄を椅子の上に放り投げるや否や、セフンは立ち上がって彼の手を取った。
そのまま引き寄せ、包み込むように抱きとめた。
はあ、と息を抜き、背中から尻までを満遍なくその大きな掌で撫で回す。
「落ち着けよ」
はは、と笑ってルハンは言う。
その笑い声の響きだけで、ルハンに押し付けた体の中心が跳ねるようになってしまう。
ルハンからはかすかに香水の香りがする。
この匂いもたまらなかった。
たまに同じものを嗅いだら最後、パブロフの犬よろしく街中でも軽く性器が勃った。
深く、甘い香りだった。
顔を擦り付けるようにして、セフンはルハンの顔と相対した。
額をくっつけ合ったまま、少しの間お互いを見つめ合う。
ルハンは微笑みを浮かべていた。
それを見たセフンは熱に浮かされたような表情をして、目はほとんどうつろだった。
「大丈夫かよ」
くすくすとまた笑ってルハンは囁く。
彼特有の声の色が、セフンの理性を奪っていった。
ぢゅ、と音がするほど、性急にセフンはルハンにキスをした。
ルハンの口の中はいちごミルクの味がする。
それがまた、セフンの脳みそと腰を溶かした。


セフンは演劇部に所属していた。
ルハンはと言えば本来サッカー部所属だった。
だが演劇部も掛け持ちしていた。
目立つじゃん、と笑ってルハンは役が足りないとき駆り出された。
セフンはそれと正反対で、基本裏方ばかりだった。
まったくもって、舞台に立ちたいなどとは思わなかった。
いつも照明や大道具などを受け持っていた。
初めて演劇部の公演を見たとき、ちょい役で出たルハンを目にし、いつの間にやら演劇部に届け出を出していた。
本当は嫌だと思っていても、役に人が足りなければ出なくてはならないこともしばしばあった。
たまらなく苦痛だったが、ルハンがにこにこしながらセフンを褒めると、なんだかまんざらでもない気持ちになった。
一緒の時間を過ごすうち、はっきりとセフンはルハンへの気持ちを自覚していった。
とにかくルハンはもてまくった。
セフン自身も、女の子からは引く手数多といってよかった。
それなのに、セフンはルハンしか見えなかった。
彼の肩甲骨に歯が立てられるなら死んでもいいとすら思った。
しかたなく彼女を作ってその娘に腰を振りながら、頭の中では常にルハンを抱いていた。


高校に入学して1年が過ぎ、2年生になるとルハンはつまり3年生で、セフンは別れの予感にひとり打ち震えるようになった。
自分でも恐ろしくなるほどセフンはルハンが好きだった。
ルハンが付き合う女子は誰も高校の中でも話題の可愛い子ばかり、もしくは他校、下手すると大学生、社会人で、セフンは自分になど望みがないと諦めていた。
だいたい女ですらないのだ。
それも自分が、ルハンを抱きたかった。
ああ見えて勝気なルハンが、そんなことを許すなどという想像はできるはずもなかった。
告白すら、気持ち悪いと一蹴される可能性もあった。
セフンは黙って、毎日を過ごしていた。
そんなある日、たまたま部室にふたりになり、セフンが密かにこの僥倖に浸っているさなか、ルハンがぽつりと言ったのだった。
「お前、俺のこと好きじゃない?」
心の中を読まれたのかと、セフンは完全に凍りついた。
それは認めたも同然の態度だった。
真っ赤になったセフンを前に、ルハンはいつものキラースマイルをたたえて言った。
「やっぱりかあ。お前俺が好きなんだ」
どういうつもりなのだろう、とセフンは口を開けたまま何も言えずに硬直していた。
ソファに座っていたルハンが、椅子に座ったセフンに向かって立ち上がった。
西日を背中に受けたルハンは、顔が影になって見上げたセフンに表情を読めなくさせた。
キーン、という高い音が野球部員たちの声に混じって響いていた。
「で、どうしたいの?」
黒い顔の中でルハンはやはり笑っているようだった。
からかわれているのかと、セフンは仰け反って唇を舐めた。
「俺と、付き合いたい?」
そんな夢のようなこと、実際考えたことはなかった。
ただ、ルハンと交わることだけしか望まなかった。
ルハンは脚を開いてセフンの腿にまたがった。
え、え、え、とセフンは声に出さずに呟いていた。
その重みが下半身にかかり、セフンの広い肩に置かれた両腕の間の顔は、今まででいちばん近くにあった。
まだ、セフンはこれがからかいであるということを信じていた。
ルハンは絶えず微笑みをたたえ、おかしそうにしていたし、こんなことが本気の何かであるはずがないと思った。
「どうなんだよ」
唇の前でからからと小さな音を立てながらルハンは言った。
ルハンの体からはデオドラントと香水と、いちごミルクの匂いがした。
その瞬間、セフンは言葉を発していた。
「………先輩と、したい」
なんて愚かな。
セフンは今思い出してもどうしてあんな物言いをしたのかと自分の正気を疑う。
いや、正気ではなかったのだ。
完全にどうかしていた。
今だって、そうだったが。
ふはは、と顔を崩してルハンは笑った。
ふわふわと髪の毛が揺れ、また、香りは漂った。
「まじかよ」
相変わらず声に笑いを含めてルハンは言った。
「お前、俺を抱きたいんだ」
ルハンの脚が触れそうなところに、もう既にぱんぱんに張ったセフンの股間があった。
よもやそこに彼の体が触れてしまうのではと、セフンは先頃からそれが気になってしかたがなかった。
それでもセフンは、こくりとルハンに頷いていた。
何が何やらわけがわからなくなりながらも、魔法にかけられたように、ルハンに正直に応じていた。
「そうか」
まだ目や口の端に笑みをにじませ、ルハンは言った。
「お前なら、試してみてやってもいいかな」
そして挑むようにセフンを見た。
俺は頭がおかしくなったのだろうか、とセフンが思ったそのとき、ルハンはセフンの尖ったところに手を置いた。


「あっ………噛むなよ………」
ふたりとも、肌全体を汗で湿らせていた。
後ろから突きながら、セフンはルハンの肩を噛んだ。
テーブルに覆い被さるようになったルハンは、シャツを着たまま、パンツと下着を下げ、セフンに犯されていた。
セフンも服を着た状態だった。
シャツが透けるほど、更に汗をかいていた。
ボタンを外され、ルハンは肩だけが露わだった。
自分が動くたびにルハンが髪を振り乱すのを見下ろし、何度も何度もセフンはその肩に歯型を付けた。
「いつっ………」
決してルハンは強く諌めたりはしなかった。
だからセフンは好きなだけそうしていた。
ぎゅうぎゅうに締め付けてくる中の快感を味わいながら、セフンはルハンのものも触った。
「あっ」
ルハンのそこは先から垂れるように濡れており、セフンの手はずるりと滑った。
彼の性器は細長く、美しいピンク色をしているのだった。
「お前……まじ、でかいよな………」
少し妬みを含んだような声色でよく、ルハンはセフンを迎えながらそう言った。
そうだろうか、とセフンは思った。
確かに、ルハンのよりはそうだったが。
しかしセフンはルハンのものが大好きだった。
本当に綺麗だ、と思っていた。
手で擦り上げるとルハンは鳴くような声をあげた。
鼻と口両方で呼吸をし、常以上に多分に息を混ぜた声は、色っぽいとしか言いようがなかった。
その声を聞き始めるとセフンは我慢がきかなくなった。
いったん中から棒を抜くと、ルハンをテーブルの上に仰向けにした。
そしてその上気し、汗の浮いた、苦悶するような表情を見下ろしながら、セフンは再びルハンを刺した。
「うあっ」
揺らすように腰を使いながら、セフンはルハンの出っ張りを手で可愛がる。
こんなに愛しいものはなかった。
親指を穴の中に入れ、指全体で液を泡立てるように撫ぜた。
くちゃくちゃと音は鳴り、唇を噛み我慢しながらもルハンはひう、ひう、と息を漏らした。
「あ、あ、あ、あ、も、う」
手を這わせた細い腰がどんどん熱くなっているのを、セフンは感じ取っていた。
「あ、いく、い、く」
テーブルの上のティッシュを引き抜き、セフンはルハンの先を覆った。
その上ルハンの口の中に指を入れ、声を消す。
ほとんど噛み付くようにルハンはセフンの指を迎え、体を反らせて射精した。
このさまを見るのがセフンは何より好きだった。
めくれた服から見える肌が桃色に照り、美しい性器はびくびくと自身を揺らす。
ティッシュをそこにくっつけたまま、よだれまみれになった指をセフンはそっと引き抜き、自分の動きを速めて行った。
体を重ね、唇の間に舌を押し込む。
まだほのかに、いちごミルクの味がした。
脱力したルハンは目を半開きにし、焦点を合わなくさせていた。
「あっ」
舌と同時に自分自身を引き抜き、急いでティッシュをまた取ると、そこにあてがい体を折ってセフンはいった。
幾度体を重ねても、達するときの恐怖すら感じる気持ちよさは目減りするということがなかった。


消臭剤を振り撒いた部室はその特有の匂いで満ちていた。
セフンとルハンは、ペットボトルのソーダをふたりで1本分け合った。
しゅわしゅわと喉を落ちていくその感触を、黙ってふたりは味わっていた。
蝉の声と部員たちの声は絶え間がない。
風はそよともせず、扇風機の頑張りのみで、なんとかここに座っていられた。
「………あっついなあ」
ルハンがぽそ、と言った。
「……そうですね」
残った、温くなり始めたソーダをごぶりとセフンは飲んだ。
「…………引退だなあ」
そうですね、と言おうとした。
だが喉に引っ掛かり、言葉は出てこなかった。
代わりにもう一度、最後のソーダを飲み干した。
「さみしい?」
お得意の笑顔でもって、ソファに隣り合って腰掛けたルハンが、セフンの肩に腕を回しその顔を覗き込んだ。
ぱちぱちと繰り返し目を瞬いて、セフンはルハンの瞳を受けた。
「………さみしいかー」
さみしいなんてもんじゃない。
セフンは反対を向き、空になったペットボトルに蓋をした。
彼はよく分かっていた。
いつだって、これが最後になるかもしれない、ということを。




おわり






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20160909

触れもせで(セフン、チャニョル、D.O.)
応接室にはずらりと年上の幹部連中が集まっていた。
そんなメンバーを目にするのは初めてで、俺は座った彼らの前で緊張を深めながら、手を組みまっすぐ立っていた。
中にひとりだけ、まったく異質なルックスを持つ男が混じっていた。
「セフン」
今日まで俺を連れ回していた兄貴分が、俺に向かって言った。
「お前、今日からこの兄貴に付け」
その掃き溜めに鶴のような光景を作り出し、俺に大きな違和感を抱かせていた張本人が、こちらをちらと見上げた。
視線が絡んだ。
「チャニョル、頼んだぞ」
見たことのない、目だった。
なんだこれは、と俺は思った。
紙の上に精緻に描き出したような、粘土で必死に捏ね上げたような、自然に出来上がったことがにわかには信じられぬような、目だった。
「おー」
響いた声にも驚いた。
顔立ちや雰囲気とはかけ離れたそれだった。
「セフン?だっけ」
ソファに座っていた彼は、のっそりと立ち上がった。
すると俺より背が高く、またもや俺は目を剥いた。
細長い体に細長い両手足が付き、その上に乗った顔は何かのボールのように小さく、中身はすべてくっきりと目に焼き付くようだった。
少しだけしかなかった距離をぐっと縮めて、チャニョル兄さんは笑って言った。
「よろしくな、セフン」
唇の片方だけを歪めるようにして彼は笑った。
直立した俺は、よく光るその目から目を離さず、開いた口から呟くように、お願いします、と答えていた。


チャニョル兄さんは俺より数個しか年が上ではなかったが、その振る舞いと賢さと度胸で皆に一目置かれていた。
年齢だけが彼の出世を阻んでいた。
年かさの者の中には明らかに気に入らないという態度を示す者もいた。
兄さんは小さく並んだ白い歯を見せ、心からおかしそうに笑って言った。
「年寄りの冷や水だよ。ほっとけ」
俺は気になっていた。
こういうことをそのままにしておくと、あとあと面倒なのではないかと密かに憂えた。
だが兄さんに反論したりはしなかった。
派閥争いのようなものは、常にどこにでも存在する。
いちいち本気で気にしていたらやっていられない、と兄さんが考えているのを知っていた。
「心配性だな、お前は」
また笑って兄さんは言う。
心中見透かされたようで、俺はやや俯いて、素直にすみません、と小さく答える。
「お前のいいとこだよ」
助手席に座った兄さんが足をダッシュボードに乗せて言う。
兄さんはまず後部座席に座らなかった。
必ず運転する俺の隣に陣取り、時折俺の邪魔をしながら、話し掛けたり音楽を変えたりして時間を潰した。
「駄目なとこでもあるけどな」
そう言って煙草を咥えた。
俺は準備していたライターの火を、片手はハンドルに乗せたまま、タイミングを狙って点けた。
橙色の灯火を受け、兄さんの顔が照るのを俺は横目に映す。
ふわあ、とたなびく煙が車に満ち、信号で停まると、俺たちは少し黙した。
ちっ、と舌打ちが鳴る。
なんだろうと思い横を向くと、兄さんは伸びをしながら唸るように言った。
「やべーな。やりてー。女のうち行くぞ」
行く先は下請け会社で、折衝の予定だった。
その俺の懸念を読み取り、兄さんは吐き捨てるように言う。
「待たせとけ。逆に効くだろ」
分厚い唇の隙間から煙を流す兄さんに、はい、と応じ、青になった信号を、俺は直進せず、道を曲がった。


兄さんの女はヤクザ者としては多い方ではなかった。
俺はすべて把握していたし、どの女も顔見知りだった。
仲良くなる女もいた。
どの女も大概自分がいちばんだと思っていた。
その浅はかさに俺は腹の中で笑った。
女を切るときも俺の出番だった。
愁嘆場を演じる女は見るに耐えないものだったが、兄さんの言いつけなのだからこれも仕事だ、と思い、俺は一晩かけてその女が暴れるのに付き合ったりということもあった。
兄さんの好みは、背の高いモデル体型の美人だった。
姉がいる、と聞いたことがある。
ギョンス兄さんに、こいつ、すげーシスコンなんだよ、とからかわれたときだった。
うるせー、黙れ、と言う兄さんは、本気で嫌そうな顔をし、手前にあったテーブルを蹴った。
しかしギョンス兄さんは黙らなかった。
今度姉さんが結婚するから、気が立ってんだよ、馬鹿だな、と畳み掛けた。
俺は兄さんがキレて暴れるのではと危ぶんだ。
だが兄さんは押し黙り、立ち上がるとそのまま部屋を出て行った。
「ほんとに馬鹿だな」
出て行ったドアを一瞥し、俺の作った酒を飲みながら、ギョンス兄さんは呆れたように言い放った。


そう、ギョンス兄さん。
チャニョル兄さんと同い年で、格も同等だった。
だがタイプがまるで違った。
どちらもそれぞれ恐れられてはいた。
ギョンス兄さんは何を考えているのかまったく読めない、そして見た目が少年のような、チャニョル兄さん以上にこの世界では特異な存在だった。
だが俺は、ギョンス兄さんが唇の片端を上げて相手を蔑むように見、笑ってこの世のこととは思えぬような指示を出したりするときに、チャニョル兄さんの影を見た。
それはギョンス兄さんがチャニョル兄さんに影響を受けたということではなく、実際は逆だった。
チャニョル兄さんが、ギョンス兄さんに似てしまっていたのだった。
そうとは言葉で言うはずもなかったが、兄さんはギョンス兄さんをこれ以上ないほど高く買っていた。
「お前、俺になんかあったらあいつに付け」
と、深酔いしたとき、肩に手を回し、淀んだ赤い目で俺を見据えてそう言った。
はいとはすぐには答えられない事柄だった。
「分かったな」
返事も待たずにそう言って、腕は取り除かれた。
俺はふたりが一緒にいるところを見るにつけ、その距離の取り方を興味深く観察した。
たとえ隣り合って座っても、絶対に馴れ馴れしくくっついたりをしなかった。
お互いがあまりお互いを見ず、揶揄するようなことを言い合った。
背後に立った俺からは、ふたりの肩の隙間の意味が、よく見えるような気がしていた。


結婚が決まったと聞いたのは、年の暮れも迫っていた頃だった。
兄さんは、寝ていた女たちの中からではなく、上司が紹介してきた女と会い、気が合ったから決めた、と俺に買い物でもしてきたかのような調子で話した。
「そうですか」
俺は答えた。
「おめでとうございます」
かすかに頭を下げ、そう言うと、兄さんは大きな声で笑い出した。
「めでたくねーよ、別に」
事務所のテーブルに足を掛け、煙草を取り出しながら言った。口角の片方だけ上げて。
「でも、ま、妥当だな」
火を点けた手を差し出すと、煙草の先は色が付いた。
俺は兄さんの伏せた目の白いまぶたと長いまつ毛、オレンジ色に光る頬を見つめていた。


大晦日。
突然の深夜の電話に叩き起こされた。
女と眠っていた俺は、携帯電話を差し出す彼女からそれを受け取り、話を聞いて急いで部屋を飛び出した。
寒空の下、なんとか着てきた服は薄く、コートを着ても凍えそうな夜だった。
俺は震えていた。
寒さのせいだけではなかった。
病院には組の者たちがかなりの数集まっていた。
兄貴分のひとりが俺に近寄った。
「兄さんは」
俺は話し掛けられる前に問うていた。
心臓が凍ってしまったようだった。
兄貴分は、暗い顔で、抑えた声音で、駄目だった、と呟いた。
「ギョンス兄さんは無事だ。今治療受けてる」
と言葉は続いた。
宙に浮くそれらを掴まえるようにしながら、俺はふらふらと兄貴分が目で指した病室の前に足を運んだ。
ドアの窓から、頭に包帯を巻いたギョンス兄さんが、ベッドに腰掛けているのが見えた。
顔のあちこちに赤い傷があり、片腕も包帯で固められていた。
近くの看護師が、せっせと彼の傷の手当てをしていた。
白目の多いその目をうつろにし、兄さんはあらぬところを見ていた。
背後に立った兄貴分が、俺の耳元で囁いた。
「………助手席に座ってたらしいんだよ、いつもみたいに。そこ狙われたんだな。派手にぶつけて、逃げたって話だ。……ただ、狙ったのが、外のもんか、………………内のもんかは、まだ、分かんねえ」
その声全体が伸び縮みするかのように俺の鼓膜を揺らしていた。
「………兄さんが今日、ギョンス兄さんと一緒だったの、お前、知ってたか?」
きんきんと耳障りな反響をしながら、その質問は俺を揺さぶった。
「………………いや………今日は1日ほっとけと言われて…………」
俺は誰かが勝手に話しているかの如く、無意識の内に囁くように、問い掛けに応じていた。
「………そうか。……参ったな、お前も………」
ぽん、と肩に手を置かれる。
はー、と大きなため息をつきながら、兄貴分は俺から離れて行った。
病室のドアに手を付き、俺はなんとか膝が崩れるのを防ぐ。
ガラスの向こうのギョンス兄さんの目は、誰かを見ている。
それが誰かを、俺は知っている。




おわり






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20160910

人たらしの獲物(チェン、ベッキョン)前編
あるときからジョンデのバイト先のコンビニに、後輩が入って来た。
後輩と言ってもそいつは同い年だった。
だからジョンデはまるで絵に描いたような笑顔を広げて、その男に向かって、敬語はいいよ、とすぐさま言った。
「そうですか?」
と制服を着ながら彼は上目で聞いた。
うん、と変わらず笑みを向けると、負けないようなぴかぴかの笑顔を見せて、
「じゃあ、俺のこともベッキョンて呼び捨てで。俺もジョンデって呼んでいい?」
と人懐っこさを全開にした。
ほんの少し、驚いた。
こんなふうに距離を縮めて来る相手は、ジョンデとしても初めてだった。
「う、ん」
「よろしく」
笑うと、垂れている細い目が更に垂れるんだな、とジョンデは同じ高さの視線を笑顔のままで受け止めた。


それから、ふたりは急速に仲良くなった。
と言うか、ふたりは基本仲良くないという人間がいないタイプの性格だった。
だから当然ふたりの間も良好だった。
ジョンデは自分が思うのもなんだけど、と思いながら、ベッキョンのように相手構わず笑顔で近寄っていき、気に入られるすべはすごいなと感心していた。
ああいうふうに、自分よりもっと本能に近いところでそうできるのは、生来のものだろうな、とかすかに羨ましく思った。
だが妬んだりするには、ベッキョンをジョンデは好き過ぎた。
一緒にいると否応なく楽しい気分になり、それもただ高揚するとかそういうことではなく、芯からリラックスし、自由に話せた。
友人を見回してみて、そういう心持ちになる相手はあまりいないようだとジョンデは思った。
彼女といるときに近い感覚かもしれない、とあるときふと思い当たった。
ジョンデは彼女と、高校2年生の時分から付き合っていた。
別々の大学に進学しても、ずっと変わらず交際し、彼女といるのがいちばん無理のない自分だと、ジョンデは日々感じていた。
それは育ててくれた両親や、一緒に育った兄弟以上かもしれなかった。
そのことを休憩中にベッキョンとおやつを食べながら彼に話すと、感に入ったように、
「それはきっといい彼女なんだなあ、大事にしなきゃだな」
と薄い唇の周りにお菓子のカスを付けて言った。
「お前は彼女は?」
と、そのカスを気にしながらジョンデが尋ねると、ベッキョンは眉を寄せてんー、と唸り、
「今はいない。こないだ別れた」
と唇の先で言った。
「あ、……ごめん」
もぐもぐとお菓子を食べ続けながら、ベッキョンは破顔した。
「いいって。謝ることじゃねーよ。それに別にへーきだから」
汚れていない掌だけで、ベッキョンはジョンデの背中を軽く叩いた。
するとその口の端に付いたカスがぽろりと落ちた。
「そっか」
ジョンデはひっきりなしに動くベッキョンの口元を見つめ、なぜだかちょっとがっかりしている自分がいるのを感じていた。


バイト以外でも、連絡先を交換したふたりは遊びに出かけるようになった。
それこそ彼女のいないベッキョンは、休みの日になると友人と遊ぶことはしょっちゅうで、その中のひとりがジョンデだった。
「悪いな、彼女いいの?」
とベッキョンは会うたび言った。
なら誘ってこなければいいのに、と思いながら、ベッキョンの気遣いが嬉しくなくはなく、緩く笑みを浮かべて大丈夫だよ、とジョンデは答えた。
ベッキョンの誘いはジョンデの心を浮き立たせた。
それは会えば必ず、ああ、楽しいなと思えることが分かっていたからだった。
そんなふうに思える人間がごくわずかしかこの世にはいないということを、ジョンデはまだ若かったが、だんだんと知り始めていた。
彼女はベッキョンについて、ひどく興味を持ったようだった。
それでしばしば、3人で会って飲んだ。
「ベッキョンくんて、人たらしだね」
面と向かって、彼女はベッキョンに言った。
そういう、彼女だった。
ベッキョンは笑った。
酔って、上機嫌で、あははは、と、よく通るハスキーな太い声で笑いながら、そう?と問うた。
「うん」
にこにこと彼女は笑いながらワインを干した。
「みんなきみにめろめろになるんだな」
その言葉は喧騒のただ中で不思議と響いた。
やだー、とおねえ言葉で返すベッキョンを、ジョンデと彼女は隣り合って見つめていた。


「お前の彼女、面白いな」
初めて会ったときから、ベッキョンはジョンデにそう感想を告げた。
今日は一緒に本屋に来ていた。
ジョンデは論文を書くための資料を、ベッキョンは漫画と雑誌を求めていた。
まったく違うところを探し回りながら時折顔を合わせ、そのまま2、3時間過ごし、そのあとお茶をしながら、ベッキョンはまた、彼女についてそう言った。
「なんだよ」
ジョンデは軽く笑った。
ストローの袋を指輪をはめた指でいじった。
指輪は彼女からのプレゼントだった。
彼女の趣味も、ジョンデは好きだった。
「いや、いいなー、と思って」
ストローを咥えたベッキョンは、窓の外を見ながらぽつりと言った。
「彼女、欲しいのか?」
ふにゃりと笑みを零してジョンデは問い掛けた。
珍しいな、と思いながら。
視線をガラスに預けたまま、ベッキョンは考えごとをするときに出る、眉間を寄せる癖を見せながら、グラスを置いて言った。
「どうだろうな。ちょっと前、懲りたしなあ」
「その歳で何言ってんだよ」
ストローの包みは小さな塊に変貌していた。
「相手によるかな」
硬く締まったその白いゴミを、ジョンデは指先でくるくると弄んだ。
「彼女の友達とか、紹介してもらおうか?」
ベッキョンがジョンデを横目で見た。
頬杖をつき、最初見たときジョンデの目を奪った、その美しい手指を晒した。
「うん、まじで欲しいなと思ったら、お願いするかも」
にやりと唇の端を上げ、ベッキョンは言った。
ジョンデは残りのアイスコーヒーを啜った。
ほとんどが氷の溶けた水だった。


デートで映画館にやって来て、並んで彼女と腰掛けると、ジョンデはベッキョンのその話を、何の気なしに持ち出した。
まだ予告も始まらず、ふたりの腿の上にはポップコーンが置かれ、人々が席に着こうと動くさまを目に映し、前を向いたままジョンデは半ば笑って言った。
「ほんとに?」
彼女は言った。
かなり不審げなその声音に、ジョンデはポップコーンを口に入れようとしながら彼女を向いた。
かし、と噛みながら、うん、と応じると、彼女は口を尖らせるようにして、ふーん、と言った。
「なんで?」
やっぱりバター味にすればよかったかも、と考えながらジョンデは問い返した。
「……そんな感じしないと言うか」
彼女は眼鏡の下の目をスクリーンの方に向けたままだった。
「そう?」
「うん」
「嘘ついたってこと?あいつが」
なんだろうな、この会話、と思いつつジョンデはポップコーンを食べる手を止めなかった。
対して彼女はポップコーンに手を付けなかった。
ジョンデを見ない状態で、
「嘘って言うか………」
と呟くように言った。
あたりの照明が落とされた。
そしてそのまま会話は途切れた。



つづく



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20160911

人たらしの獲物(チェン、ベッキョン) 後編
一緒に働き始めてからかなりの時間が経っていた。
ジョンデとベッキョンはもう親友と言ってもいいような頻度で会い、親密さを増していた。
ジョンデは実家住まいで、ベッキョンはひとり暮らしをしていた。
彼女も実家住まいだったため、ジョンデは彼女とは外で会うことが多かった。
しかしベッキョンはバイト先の近くのアパートに住んでおり、仲良くなるとともに、ベッキョンの部屋でふたりで飲み、そのまま泊まることもままあるようになっていた。
その日もバイト帰り、酒を仕入れてふたりはベッキョンの部屋に向かった。
部屋に着くと、早速飲みながら一緒にテレビを見たり、音楽を聴いたりしながら話をした。
ベッキョンの部屋は居心地がよかった。
雑然としていたが、ベッキョンの好きなものばかりなのがよく分かり、知らない映画やゲームや音楽をジョンデはここで初めて体験したりもした。
たまにベッキョンが簡単な料理を作った。
野菜を炒めたりとか、そういった程度のものだった。
それでもジョンデは、そういう行為をひどく嬉しく感じた。
自分でも、小さなキッチンを借りて食事を準備したりした。
ジョンデの方が、ベッキョンよりも腕がよかった。
わー、うまい、と言いながら、出された料理を平らげるベッキョンを見ていると、胸のあたりがいやに温かくなるものだ、とジョンデはよく、思っていた。
点けていたライブのDVDが終わると、ジョンデはあくびをして時計を見た。
終電までちょうどよいくらいだった。
「俺、帰るわ」
そう言って微笑み、荷物を取った。
立ち上がりかけながら、
「そう言えばさ」
ふふ、と声に笑いを混ぜて、ジョンデは言った。
「彼女が、お前ほんとは彼女なんて欲しくないんじゃないかって」
言い終えてベッキョンを見ると、何も言わず、ベッキョンはその場に立ち上がろうとしていた。
頭をジョンデに向けると、その顔は常とまったく違った。
笑みのひとかけらもない、怒っているわけでもない、ただ懇願するようなニュアンスの含まれた、不思議な表情でジョンデを見ていた。
ジョンデはたじろいだ。
「ど、した?」
後ずさりしそうになった。
ベッキョンはふたりの間の距離をいっきになくした。
数歩でジョンデのそばに来ると、手首を掴み、小さなまなこで、ジョンデの切れ長な目を捉えた。
その力の強さに唖然とし、ジョンデは言葉を失った。
薄い桃色の唇が動くのを、ストップモーションのようにジョンデは目で追った。
「そうだよ」
ベッキョンは手を引いた。
「別に、欲しくねーよ」
ジョンデの後ろ頭に、ジョンデが見るごとに感嘆するベッキョンの手が置かれ、目線の高さの同じふたりは、その間をほぼ、逸した。
目を見開いたまま、ジョンデはベッキョンの唇を受けていた。自分の、唇の上に。
ベッキョンもまぶたは開いており、ふたりは互いを見合っていた。
唇の上で、食むように相手のそれは動いた。
ジョンデは口を閉じ、頭を引こうとした。
だが首のところの手で押さえられ、口を開けたベッキョンに、唇全体を覆うようにキスされた。
舌が唇の隙間、歯の上を滑った。
ぎゅっと目を閉じ、ジョンデはベッキョンを押した。
離れ、よろけたベッキョンを見、口を開けてはあ、と息をついたジョンデは、目を泳がせてから、帰る、と呟いてドアへ走った。
ベッキョンは追いかけて来なかった。
終電が近付いていた。
ジョンデは走った。
ただ、がむしゃらに駅へと走った。


次の日もバイトだった。それも一緒の。
休もうかとジョンデは思った。
だがいつまでも逃げてはいられないだろう、と、体を引きずるようにしてコンビニに向かった。
ロッカーの前にベッキョンは立っていた。
ジョンデを見ると、よう、と、何事もなかったかのように声を掛けた。
携帯などでの連絡は、お互い何も取っていなかった。
1日そのことばかりを考えていたジョンデは、気の抜けたように腹の中から息を出した。
「よ」
と答えて、隣に立ってロッカーを開けると、ベッキョンの視線を感じた。
ばたん、と自分のロッカーを閉め、ベッキョンはジョンデを注視した。
おそるおそるベッキョンを向くと、ごく近距離で、その薄い顔の中身が見えた。
何か強い意志を感じる、表情だった。
「……なんだよ」
囁くようにジョンデは言った。
「言っとくけど」
ベッキョンの声はその強みを最大限に発揮し、聴く者の心を揺さぶった。
「あれ、冗談とかじゃないから」
わずかに顎を上げ、奥二重のまぶたの下から黒目で見下ろすようにし、ベッキョンは宣言した。
「………あれ………」
「うん。キス」
その直接的な言葉に、ジョンデは反射的に顔に血が登って行った。
ロッカーの扉に手を付き、ロッカーの扉を背にしたジョンデに、迫るように近付くベッキョンは、喉の奥で転がすように声を発した。
昨晩のことがジョンデの脳裏にまざまざと蘇るくらい、ふたりの距離は縮まった。
「……覚悟しとけよ」
そう言い放つと、ベッキョンはジョンデの唇をまた、奪った。
目をつむったジョンデは、しかしすぐに解放され、ぱちぱちと瞬きすると、ベッキョンはもうそこにはいなかった。
出口を見ると、ベッキョンが制服を整えて振り向いた。
「俺、狙ったやつ落とせなかったことないから」
そして片頬で笑った。
くるりと踵を返し、ベッキョンはすたすたと出て行った。
その背中を見送るジョンデは、立ったまま、指輪のはまった指で唇をこすった。
ひんやりと、冷たかった。




おわり



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20160917

蜜月旅行(レイ、ベッキョン)
背中に手を置くと、その表面は汗で滑るようだった。
イーシンは横になった自分の上に座って腰を振っている、ベッキョンの脚まで手を下ろした。
眠りにつきそうに見えるほど、うつろな目でベッキョンを見上げるイーシンは、視界に入る光景に心底恍惚となっていた。
何度交わっても、そうだった。
ベッキョンを抱くということは、イーシンにとって生まれてきた意味と等しいところがあった。
奥二重の、際の染まった目を自分に向け、尖った顎の力を抜いてきっちり並んだ白い歯や、薄桃色の舌を晒すベッキョン。
貫かれながら自分よりもやや小さい、しかし恐ろしく綺麗な性器(実際、イーシンはこんなに混じり気のない色と整ったかたちのそれを見たことがない、と思った)を、ぴんと上に向かせて、てらてらと照りかえらせているベッキョン。
漏らす吐息に時折混じる声は、あの、イーシンの大好きな少しかすれた、甘みの格段に上がったそれだった。
イーシンはバイトで鍛えた腹筋で、軽々と体を起こし、ベッキョンをその身に抱えるようにした。
その瞬間、奥の奥まで楔は穿たれ、ベッキョンは喉の底から「んああっ」と、目をつむって声を出した。
布団の上はぐしゃぐしゃだった。
電気代の節約で、イーシンの部屋はサウナ状態だった。
汗と精液がふたりのまわりに絶えず広がり続けていた。
薄目を開けたベッキョンのその表情の底知れなさに、イーシンは魔法にかけられたかのように無意識に口を近付けた。
ついばむように、そして舌を食べるように、キスをした。
汗と、さっき食べた、ラムレーズンアイスクリームの味がした。
そしてイーシンは、口同士を繋げながら、ベッキョンを後ろに倒した。


大学のとあるイベントで、イーシンとベッキョンは出会った。
イーシンは留学生で、少しベッキョンよりも年上だった。
だがそんなことを構うベッキョンではなかった。学年は同じであったし。
その夜開かれた飲み会で、ふたりはたくさん、話をした。
ベッキョンに多くの友人がいることに、イーシンは少なからず驚いた。
その場にいるすべての者と、顔見知りであるようだった。
けれどその日は、イーシンといちばん、ベッキョンは時間を過ごした。
「イーシンはハンサムだな、いいなあ」
とビールを飲みながら、ベッキョンはまじまじイーシンの顔をすぐそばで見つめ、感に絶えぬように幾度も言った。
そんなことを面と向かって、しかもなんのてらいもなく告げる人間とあまり会ったことがイーシンはなく、酒のせいだけでなく体に熱を回らせた。
全身赤くなったイーシンは、体育座りをして壁に寄り掛かり、ちびちび焼酎を舐めていた。
そんな彼に寄り添うようにベッキョンは壁に肩をもたせかけ、イーシンだけを見て男とは思えぬような指の先で落花生を食べていた。
会話しながら、イーシンは横目で彼をちらちらと見た。
自分の家族のことや専攻のこと、好きな音楽や漫画や映画のことを語り、イーシンのさまざまな、そしてすべてに関して聞いてくるベッキョンは、イーシンがこちらで初めて、なんの気負いもなく付き合いを持てる友人になりそうな予感がした。
その喜びは腹の底から湧いてくるようで、目尻を垂らし、えくぼを浮かべていつの間にかベッキョンをまっすぐ見ていた。
ベッキョンはそんなイーシンを見返して、自身も垂れた目をもっとそうした。
そして
「えくぼ、あるんだなあ」
と言って、海で拾う薄い色の貝のかけらのような爪の付いた、指をくっと、イーシンの頬のくぼみに置いた。
酔っていたため、驚きはしたが、特段何も、イーシンはしなかった。
黙って瞬きをしながら、ベッキョンをただ見ていた。
指を離したベッキョンは、にこにこしつつ小首を傾げて「な?」と、イーシンに言った。
そのとき、イーシンは落ちた。
経験のない、どこに終わりがあるのかも分からないそれに、イーシンはまっさかさまに、落ちていた。


初めてキスしたときのことを、イーシンは鮮明に覚えている。
キスしながら、これが現実であると、イーシンには信じられていなかった。
寒い日だった。
だがイーシンは暖房代を節約し、部屋で何も器具を用いず、厚着をして、布団を被って過ごしていた。
そんな中にベッキョンは来た。
ベッキョンはしょっちゅう、イーシンの小さなアパートを訪れた。
イーシンはそのたびに胸を激しく震わせていたが、言葉や態度では微塵もそんなそぶりを見せなかった。
「さみっ」
ベッキョンが両腕で体を抱えるようにして部屋に上がって来ると、暖房を点けたくなったが、光熱費代を考えるとそうもいかないと、イーシンは恋心より現実問題をいつものごとく優先させた。
布団はたくさん実家から持って来ていた。
こういう状態を見越しての対策だった。
ベッキョンはもう勝手に、自分の分として使っている布団を体に巻き付けた。
お湯を沸かそうとするイーシンの背後から、
「カップ麺買って来た」
とベッキョンの声が掛かった。
そうだろう、とイーシンは思った。
だからこそ茶のためなどでなく、薬缶を火にかけたのだった。
ベッキョンがやって来て、彼の買って来たカップ麺をふたりで食べて、他愛もない話をするのが、イーシンの幸福だった。
湯の蒸気と熱が部屋を巡る。
布団でもこもこになったふたりは小さなふたつの山のようで、何度繰り返してもお互いを見ると笑ってしまった。
カップ麺を食べ終えると、イーシンのバイトの時間までふたりは横になって喋ったり、ベッキョンの持ち込んだ漫画を読んだりして過ごした。
腹がくちたイーシンは、温かくなった体を丸め、眠りそうになっていた。
ベッキョンがいるとどうしてか心底安心した。
どきどきと鼓動は速まりながらも、体の芯では安堵していた。
もともと重いまぶたが、イーシンの目の中をすべて隠そうとした。
ふにゃふにゃと上まつげを下まつげに付けようとしているとき、唇の上に何か触った。
ふわ、と、左右時間差でまぶたを上げた。
そこにはベッキョンの目があった。
むしろそれしか、見えなかった。
きっちり開いた双眸は、イーシンのそれからひとときも離されなかった。
ごそ、という、布団と耳の擦れる音を立てながら、ベッキョンはイーシンに寄った。
少し彼が動いただけで、さっき感じた唇の上の何かを、イーシンはまた受けた。
ベッキョンの、唇だった。
目を見開いたまま、イーシンは黒目をうろうろ動かした。
俺は今、眠っているんだろうか、と思った。
ベッキョンは顔を横にし、さっきよりも範囲を広げて、イーシンにくちづけた。
イーシンの目に、つむったベッキョンのまぶたが映った。
その上の血管の流れすら、分かった。
ひとしきり唇を吸われ、離されると、イーシンは呆然として顔を戻したベッキョンを見た。
相手はちょっと困ったような顔をしていた。
いたずらの見つかった、悪ガキのような顔を。
ふたつの山はほとんどくっついて、布団の上に横たわっていた。
ベッキョンの手が伸びた。
イーシンはベッキョンの手が自分に近付くと、いつも金縛りにあったように動けなくなった。
胸の前に置いていた手を、取られた。
温かいベッキョンの手が、自分の少し温度の低い手を包み、どんどんしっとりしていくのを、イーシンは感じた。
「……やだった?」
かすれた声が、ベッキョンの唇から零れた。
初めて会ったときのように、心なしか小首を横に曲げていた。
ひっきりなしに瞬きしながら、イーシンは急いで首をふるふる横に振った。
顔を崩すように微笑まれ、イーシンもつられて少し笑った。
ベッキョンはイーシンの頬のへこみを、握り合った手の人差し指で、ちょん、とつついた。
「イーシン」
俺はやはり夢を見ているのかも、とイーシンは疑った。
「好きだよ」
なんて言うんだっけ、と、ベッキョンは続けた。
「ウォーアイニー?」
ああ。
目が、覚めて欲しくない。
イーシンは懇願した。
まだ、まだ。
頼む。
こんな甘い夢は、見たことがない。
願いは叶った。
それからずっと、夢は、終わらなかった。


「ひぃー、すごいよー体」
体重が減ったのではないかというほど、イーシンとベッキョンは体を濡らしていた。
イーシンは扇風機の角度を調節し、並んで座った裸の自分たちに生ぬるい風を直撃させた。
そばには沸かした茶が、薬缶に入ったまま置いてあった。
持つとかすかに残った氷が、からからと鳴った。
イーシンはふたつのグラスをたっぷり満たすと、ベッキョンにそのうちのひとつを渡した。
いっきにそれを飲み干すベッキョンを、イーシンは常のようにじっと見守る。
細く長い首がごくりごくりと鳴り、動くのが、イーシンは大好きだった。
ぷは、と口を開けると、ベッキョンは口角を手で拭いながらグラスを置いた。
「これ、洗濯しなきゃ駄目だな」
長い指を広げて布団のシーツを触るベッキョンがそう言うようすを、イーシンも茶を飲みながら眺め、喉だけでうん、と返事をした。
この部屋に、洗濯機はなかった。
あとでコインランドリー行かないとな、とイーシンが考えながらまた、杯を満たしていると、
「イーシン」
とベッキョンの声がした。
「ん?」
彼に顔を向けると、ベッキョンが心から楽しげな表情をしてイーシンを見ていた。
「コインランドリー行って、スーパーで食材買って、帰ってから鍋しよーぜ。激辛のやつ」
あははと笑い、ベッキョンは言う。
「そんでまた汗だくになんの。で、もっかいやってぐーぐー寝よー」
独特な口のかたちで笑うベッキョンを、イーシンは薬缶を持ったまま見つめた。
激辛なのはどうだろう、とイーシンは思うが、それでも、ベッキョンの言葉すべてを、細胞ひとつひとつに染み渡らせるようにイーシンは味わった。
「……じゃあ、まず、シャワー浴びよう」
小さな小さなシャワールームがこのイーシンの城にはあった。
「うん。行こーぜ!」
いつもだが、イーシンのその言葉は、一緒に入ろう、という意味では特別なかった。
そうするには狭すぎる部屋だったから。
だが何も言わず、イーシンはえくぼをこさえてベッキョンに手を引かれるままに立ち上がる。
体をぶつけるようにしながら笑って互いを洗い合う入浴も、イーシンにはすべてが夢の途中だった。




おわり




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  • ミス・レモン
ようこそお越しくださいました。
EXOのメンバーを登場人物にした二次創作BL小説や、オリジナルのBL小説、好き勝手なことを綴った雑記などを置くブログでございます。
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