海の底、森の奥

- EXOの二次創作とオリジナルのBL小説を中心としたブログです。R18表現あり。お気軽にどうぞ。

20160822

ボナペティ 1
潮の香りを吸うと思い出すのは故郷だった。
今、目を開いて見えた天井と、その記憶にある実家の天井との違いから、ギョンスは一瞬混乱した。
そして鼻から息を吸い込んで、再びもっと混乱した。
本当に、海のものとしか思えない匂いがした。
ベッドから起き上がると、つんつんと逆立った頭を、ささやかなキッチンの方へ振り向けた。
そこには大きな図体があった。
少しO脚気味の脚と、飛び出た耳を見て、ギョンスは昨夜のことが少しずつ脳裏に蘇ってきた。
上半身を屈み込ませるようにして、背を向けたその男は、一心に料理に耽っている。
ギョンスは茹だった鍋を見、貝の匂いか、と、ようやく得心がいった。
そしていつ、この男はそれを準備したんだろう、と訝しく思った。
掛け時計を見上げると、もう昼前になっていた。
束の間慌てるが、今日が休みだと気が付くと、ほうとひとり、溜め息をついた。
そのかすかな音を聞きつけ、男がギョンスを振り向いた。
「お、おはよ」
そう言って、唇の両端を上げ、信じられぬほど大きくて光る目を、まっすぐにギョンスに向けた。
「よく寝てたなあ」
手を洗い、拭くと、話し掛けながらギョンスへと近付いてきた。
微動だにせず、ギョンスは向かい合った男の顔をこれでもかと凝視した。
さっき徐々に鮮明になってきた夜のできごとから、相手の名前を引っ張り出そうと努力していた。
何か、ぴったりだなと思う名前だった。
そうだ、名前の意味まで聞いたのだ。
熟れきった果実。
「……チャニョルくん」
呟くように、ギョンスはチャニョルを見上げ、瞬きもせず、そう言って見つめ続けた。
いっとききょとんとした顔をして、すぐにぱっと破顔し、チャニョルはおかしそうに笑って言った。
そうだ、この声。
どこから響いてくるのか分からないような、深くて低くて幾重にも重なった声。
「そうだよ、ギョンス」
名前を呼び捨てられるのは、これが初めてなのだろうか。
ギョンスはまだよく分からなかった。
しかし慣れぬこの行為に、違和感や少しの嫌悪感も感じなかったのは、生まれて初めてではないかと、ギョンスはまだ、彼の顔を見ながら思った。



つづく




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20160823

ボナペティ 2
ベッドの上から足を下ろすと、ギョンスはぼこぼこ煮立つ鍋に目を向けた。
「あ、やべーやべー」
慌てたようすでチャニョルはキッチンへ戻って行く。
火を弱めると、ビニール袋から豆腐を取り出し、手の上で4つに切り分け、鍋の中にそっと落とした。
その上から蓋をすると、手を洗い、またこちらをくるりとチャニョルは振り向く。
「スンドゥブだよ。食べるだろ?」
キムチが多分少なめで、あさりが大量に入っているのだろう、と、ギョンスは匂いから見当をつけた。
海岸にいるような香りは依然、ギョンスの脳を占拠していた。
母や、父や、兄弟、友人。
彼らが海を背景にしてギョンスを見つめているようだった。
突然ホームシックに近い感情が、ギョンスの中に沸き起こった。
目の前にいるのが、ほとんどまったくの他人ということが、それに拍車をかけていた。
しかしそれは甘酸っぱいが本当の痛みを伴う何かではなく、ギョンスはごく冷静に、チャニョルに向かって、言葉を返した。
「食べる。好きだよ。………買い物、行ってきたの」
「ご飯も、もうすぐ炊けるから。あ、勝手に台所使って悪い。うん、そこのスーパー行ってきたよ。近くていいな」
「お買い徳?」
「うん、結構安かったよ。ギョンスいいとこ住んでんな」
お買い徳というのはスーパーの名前だった。
耳で聞くだけでは違いがないのでしかたないわけだ、とギョンスは思い、そしてまた、呼び捨てられたな、とも同時に思った。
「駅から結構あるから、家賃は安いんだよ」
なんでこんなにごく普通に会話をしてるんだろう、と、自分でも不思議になりながら、ギョンスは立ち上がった。
チャニョルはその大きな体をばらばらとあたりに振りまくように動かしながらこちらに来た。
「なるほどな。夜歩いてるとき確かに長く感じたかも」
ふたりでてくてく夜道を歩いているさまが、ギョンスの頭に突如浮かんだ。
生えている丈の高い雑草を指先に当て、夜露を感じたり、深夜だからと声を潜めて話すことで、何もかもがやたらとおかしく感じたりしたことも。
「顔、洗ってくる」
何年も付き合いのある友人に言うように、ギョンスは背後に声を掛けた。
「うん。もう炊けるから、めしにしよう」
かちゃかちゃと音を立て、見つけ出した食器類をチャニョルが準備するのが分かった。
トイレと洗面所と浴室が一室になっている部屋へとギョンスは入る。
鏡に映る自分の顔を見つめながら、蛇口をひねった。
ピーピーピー、と、炊飯器が完了を告げる。
ほぼ初対面の相手にこんな顔見せてたなんてな。
目やにとよだれと布団の跡の付いた、ぐしゃぐしゃの髪の毛の自分を見るのをやめ、ギョンスは勢いよく顔に水を浴びせ掛けた。



つづく



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20160824

ボナペティ 3
あさりとキムチと白米の匂いの漂う部屋へ戻ると、チャニョルが既に準備万端で食卓についていた。
湯気の立ち昇る、ギョンスの小さな、背の低いテーブルは、久しぶりに自分以外の人間の作った料理で溢れており、彼は傍目に分かる以上に感動を覚えた。
彼女に初めて手料理を作ってもらうというのはこんな感じなのかも。
ギョンスは未だ経験のない、そんな、よく男の思い描くシチュエーションについての考えが頭をよぎった。
特別そういうことをしてもらいたいなどと考えたことのないギョンスであったが、床の上の座布団に腰を下ろしながら、確かにとても幸せなことだろう、だから皆夢見るのだろう、と思った。
それは彼女であるないに関わらず、そうなのだと、賢明なギョンスは分かっていた。
「食べよーぜ」
つやつやした頬と光る目の中をギョンスに向け、チャニョルは言った。
「うん」
並べられた箸を取り、チャニョルがいただきます、というのを聞いて、ギョンスはスプーンを手に持ち、同じように呟いた。
「悪いな、作ってもらっちゃて」
白飯を口に入れたチャニョルは、目を大きく見開いて、ううん、と喉から否定の音を出した。
飲み下すと、ふたつのグラスに烏龍茶をなみなみと注ぎながら、
「泊めてもらったんだし、俺だって腹減るし」
と言った。
はい、とグラスをギョンスに寄せる。
再びありがとう、と答えて、スープを掬ってひとくち飲んだ。
「……うまい」
それを聞きつけ、チャニョルはぱっと顔を上げた。
「よかった」
口角がくいっと上がり、白くきちっと並んだ歯が見えた。
ギョンスはまた、昨夜のことが頭をよぎった。
ご飯を口に運びつつ、断片的に蘇ってくる、アルコールの絡んだ不安定な記憶の海から、差し向かいで食事をしている男のことを引き上げようと試みた。
昨日の夜、大学のサークルの飲み会があった。
ギョンスはそのサークルにきちんと参加しているわけではなかった。
ただ同じ授業を取る友人がその中におり、時折顔を出すうちすっかり仲間内のひとりのような雰囲気になっていた。
それは雑文、特に散文以上に詩をテーマの中心としたサークルで、メンバーは多少男の方が多かった。
その日女子はひとりもおらず、男どもは羽目を外してしこたま飲んだ。
ギョンスも明日バイトは休みだということで、いつもよりは多めに飲んだ。
おおかたべろべろに酔っ払い、そんなめんつのひとりが、誰かに電話を掛けているのにまだ正気を保っていたギョンスはなんとなく気付いていた。
いいから来いよ、そう言ってそいつが電話を切ってしばらくすると、テーブルにどすどすと歩いてくる背の高い男がギョンスの目に映った。
キャップを被っても、その下から白目がやたら見えたのを、ギョンスは豚肉や豆腐を口に頬張りながら思い出した。
テーブルの前に立つと、その男はにかっと笑った。
「おおー、来たなー」
へべれけになった電話を掛けたメンバーが、その男の腕を掴んで皆に向かった。
「みんなー、これ、パク・チャニョル。だち。近くにいるっつーから呼んだー」
チャニョルは白く、粒のそろった歯を見せて、帽子を取った。
そこにいる全員が、一瞬にして密かにその男の容姿に羨望と嫉妬を覚えた。
反発が生まれるぎりぎりの瞬間、チャニョルは言った。
「どうもーこんちは。パクです。すんません、突然」
他の人間が話しているのかと耳を疑うほどの低音が青年たちの上に降ってきた。
そしてその、人に対してフラットで、気取らない話し方も。
途端彼はメンバーの心に歓迎のムードを呼び起こした。
瞬きもせず、ギョンスはチャニョルがよってたかって椅子に座らされるのを見ていた。
こんなに生まれつき華やかな若い男を実際目にしたのは、初めてのように思った。
その気持ちは、今、自分の狭いアパートの中で向き合っていても、変わらなかった。
チャニョルは朝だろうと夜だろうと、自身から発光している未確認生物のようだ、とギョンスは思いながら、彼の作った美味しい朝食をたいらげようとしていた。



つづく



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20160825

ボナペティ 4
「ごちそうさま」
箸とスプーンを並べて置くと、ギョンスは手元から顔を上げて向かいに座る男を見た。
チャニョルは食べ終わっていた。
食器を重ねて片付けの準備をしながら、空になった卓の上のそれらを見つめ、
「うん、よかった、全部食べたな」
と言い、ギョンスの顔に視線を置き、頬のいちばん高いところを光らせた。
「ほんと、うまかったよ」
グラスに口を付けようとしながら、ギョンスはまた念押しするようにそう言った。
「ありがと。大したことないけどな。でも、嬉しいよ」
立ち上がろうとするところにギョンスが急いで声を掛ける。
「いいよ。俺やるから」
そんな言葉を意に介さず、チャニョルはぐいんと背を若木のように上に伸ばすと、可能な限り手に食器を持ち、キッチンへと歩いて行った。
「使わせてもらったんだし。気にしないで」
言うか言わないかのうちに蛇口がひねられた。
「それだけ、持って来てもらっていい?」
背越しに顔を振り向けてそう言うチャニョルをギョンスは見返し、残った食器を言われた通りシンクへ運んだ。
「さんきゅ」
隣に立つと、改めてでかいなと、ギョンスは横顔の顎のラインを見上げながら感嘆した。
少し髭が生えかけていた。
確か予備の髭剃りがあったはずだと、ギョンスは棚の中を頭に描いた。
かしゃ、かしゃ、と丁寧に洗い物をするチャニョルの手元に、ギョンスはなんとはなしにじっと見入った。
大きな手だった。
こんなに背が高いんだから、そうだよな、と心の中でひとりごちた。
さっき朝食を取りながら、チャニョルとの初対面と、その後何故うちにまで彼が来ることになったのかを思い出していた。
しかし、どうも、思った以上に飲んでいたのか、ところどころ穴が開くように記憶が飛んでいた。
よく二日酔いにならなかったなと、ギョンスは自分に感心した。ほとんど気持ち悪さも頭痛もなかった。
初めて出会った人間と話す高揚感が、アルコールに取って代わっただけだったのかもしれない、とギョンスは自分で分析した。
「なんだよ、どうしたの。割らないか心配?」
チャニョルが横目でちらちらギョンスを見下ろしながら、半分笑うように言った。
もうシンクに食器は残っていなかった。
水を止め、掛かっているタオルで手を拭きながら、チャニョルがギョンスに向き直ると、ギョンスは上目でその顔を見上げた。
チャニョルの目を、ギョンスは宇宙人のように、黒目も白目もでかいと思った。
何もかもでかいなと。
だがチャニョルの方も、ギョンスの白目を茹でた卵の白身のようだと感じていた。
こんなに生まれたてみたいに白い自然なものを、あまり見たことがないようだと考えた。
短い刹那、お互いの印象は出会ったときからまたもう少し先へ進んだ。
チャニョルの中で、ギョンスはとっつきにくそうに見えて、話すと面白く、眠っていると子供のようで、食べ方がきれいな、茹で卵の目の青年に。
ギョンスの中で、チャニョルはどこもかしこも長くて大きくて広がっている、社交的で歯並びのいい、料理のうまい、よく気のつく青年に。
口にこそ出さないが、お互いがお互いの好感を電流の流れるように感じ取るのことのできる稀有な出会いだった。
頭ひとつ分以上の背の差をもろともせず、ふたりはこうして、友達になった。



つづく



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20160826

ボナペティ 5
このあとの予定はと聞くと、チャニョルはなんもない、と黒目をギョンスに向けて言った。
ギョンスも今日は何もなかった。
それで、チャニョルが朝買って来たお菓子を広げ、ギョンスは昨晩のことを尋ねてみることにした。
もうすぐ夏休みになる時期だった。
だいぶ気温が高くなり、部屋の中はかなり暑く、息苦しくなっていた。さっきの熱く辛いスンドゥブもよく効いた。
ギョンスは窓を全開にしたのち、扇風機を最強にした。
「ごめん」
扇風機から顔を上げながら、ギョンスは謝った。
「エアコンもう少しつけたくないんだ。いいか?」
チャニョルは当然というようにあっけらかんと答えた。
「いいよ。俺これくらいならまだいける。アイスも買ったしな」
そう言って親指で背後の冷蔵庫を指した。
「悪いな。て言うか、払うよ、半分」
はっと気付き、ギョンスは財布をどこにやったっけ、とあたりを見回した。
「財布なら、机の上。寝るとき尻のポケット邪魔そうだったから」
ポテトチップスを口に入れながら、チャニョルは今度は人差し指でギョンスの書き物机を指した。
「あ、携帯もな」
俺は今日相当ぼーっとしてるなと、ギョンスは机に向かいながら思った。
「それに、いいよ、勝手に買ってきたんだし。さっきも言ったけど、そもそも泊めてもらったわけだし。まじで助かったよ。終電逃すとはなあ」
ばり、ばり、と咀嚼する合間に、チャニョルは財布を開けようとするギョンスを見上げて言った。
カーテンがふわりと大きくその身を広げた。
ふたりの間を抜けるように部屋に風が満ち満ちた。
ギョンスはチャニョルをほとんど真上から見下ろして、あ、やっぱり髭が生えてきてるなと、再び思いながら財布を置いた。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
そうして一瞬だけ携帯の中を確認した。特別誰からも連絡はなかった。
机の上にもとのようにそのふたつは置かれ、ギョンスはチャニョルの隣に腰を下ろした。
さっき洗われたグラスにはまた、先程の烏龍茶が満たされていた。
チャニョルはチョコのお菓子の封も開けた。
「これ結構うまいよ。前食ったけど」
「チャニョルくん」
ギョンスは差し出されたその小さいスナックのようなチョコのひとつを摘んで、声を掛けた。
「くんて」
あはは、とチャニョルは照れ臭そうに笑って言った。
「やめろよ。チャニョルでいいよ」
そう言われるかな、とギョンスは少し思っていた。それと同時に彼を自分がそう呼ぶのは、なんだかしっくりこない気もギョンスはしていた。
「そっか。じゃあ、チャニョル」
「はい」
またくすくす笑いを含んでチャニョルはお菓子に手を伸ばした。
「髭剃りたかったら、髭剃り使ってないのあるから」
目をぱちくりさせてぱりんと芋の揚げたものを齧ると、チャニョルはああ、と何を言われたかを認識し、答えた。
「ありがと」
言いながら手で顎に触れた。
「んー、ま、いっかな。誰に会うわけでもないし。あ、お前には会ってるけど」
精魂込めて誰かが作ったみたいな顔を向けられて、ギョンスはその言葉を受けた。
お前、という響きと、その言われた内容が、ギョンスをなぜか不思議なほど喜ばせた。
自分でもどうしてだろうと訝った。常なら喜ぶだろうかと、自問自答をそっとしてもみた。結局答えは判然としなかった。
よく分からない感情を持て余し、普段あまり食べないお菓子を、ギョンスはほぼ夢中で食べた。
久しぶりに食べるそのジャンクな味は、驚くほど美味しく感じた。
「終電、なくなったんだっけか」
「覚えてないか」
なくなった烏龍茶をグラスに足しながら、チャニョルは言った。
「いつの間にか俺お前の隣に座ってたんだよ。ごちゃごちゃ動いてるうちにそうなってて。そしたら好きな小説の話になってさ。気付いたら最終出てたんじゃん」
とぷぷぷぷ、というBGMとともに、チャニョルはすらすらと経緯を語った。
「げー!とか言ってたら、お前が、じゃ、うち来ればいーよ、って、にっこにこしながら言ったんだよ。お前笑うとあれな。なんか赤ん坊みたいな」
ギョンスはチャニョルが注ぎ足したグラスを持って口に付け、少し視線をずらして耳から頬が赤くなるのをなんとか誤魔化そうとした。
当たり前だが、そんなことは不可能だった。
「照れんなよ。褒めてんだよ。そう聞こえないか」
笑ってぽん、とチャニョルはギョンスの腕を叩いた。
ごくり、と喉をお茶が落ちると、心持ち睨むようにギョンスはチャニョルを横目で見た。
自分がされたときより少し強めに、ギョンスはチャニョルに同じようにした。
いてー、と笑うチャニョルを見て、ギョンスは今、得難い時間を過ごしていることを心の底で感じていた。



つづく



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20160829

ボナペティ 6
夜、朝、昼、夕と一緒に過ごしたそのときから、ふたりは仲のよい友人となった。
大学は違ったし、住むところも近いとは言い難かったが、それでも交流を持つのになんの支障もなかった。
サークルのチャニョルの友人は、チャニョルとは高校が同じとのことだった。
「あいつ酔っ払うとしょっちゅう電話してくるんだよ」
そう、チャニョルはしかたないなという、それでも多分に愛情のこもった声音と顔で、ギョンスに言った。
通う大学自体は近かったので、学校終わり、ギョンスのバイトのない日、もしくはある日でも、飲み屋や、ギョンスの部屋でよく飲んだ。
チャニョルは実家住まいだった。
姉貴がいるよ、と、チャニョルはどこかしら誇らしげに、そして少し恥ずかしげに告げた。
「すごい美人だよ。背も高い」
へえ、とギョンスは言った。そうだろうな、と思った。
「お前に似てるんだな」
真顔でギョンスはそう言った。
チャニョルはギョンスを見つめ、こういうふうに話すギョンスにはいつまでもどこか慣れないな、と感じた。それは悪い意味ではなかった。
「うん、似てる」
まんざらでもないという顔つきでチャニョルは応じた。
その言葉の意味するところは、ともすればナルシスティックに聞こえなくもない内容なのだが、チャニョルが微笑みながらそう答えるさまに、人の気持ちを逆なでさせる部分はなぜか、なかった。ギョンス自身、人を羨むという感覚の希薄なタイプであったため、なおさらだった。
だが人はこういうことを言う人間、それどころか見た目の突出した人間自体に反感を持ちがちだということを、ギョンスはよく理解していた。
だからギョンスは、チャニョルのその珍しさをいつも楽しんだ。
育ちのよさと生来の明るさと生真面目さと愛情深さが、面白いバランスで混在していた。
「会ってみたいな」
なんの気なしに、そう言った。
するとチャニョルはグラスを持った手を宙に浮かせて、一瞬考える顔をした。
「うん。うち来れば、会えるよ。来いよ」
そう言って、ごく、とマッコリを飲んだ。
焼いた肉は、もうなかった。
簡易コンロとフライパンでサムギョプサルもどきをたくさん食べた。
未だエアコンはつけていなかった。
窓を開け、扇風機を回しても、もう季節柄蒸し風呂のようになった部屋の中、ふたりは汗びっしょりで酒を飲んでいた。
チャニョルは決して不満を漏らさなかった。
むしろ楽しんでさえいるようだった。
もう、つけてもいいんだけど、とギョンスは思った。
だが嬉々としたようすで窓を開けたり扇風機の角度を変えたり氷を大量に買い込んできたりするチャニョルを見ていると、それを言い出しにくかった。
Tシャツの袖をまくって現れた二の腕の太さを見て、意外と筋肉あるんだな、などと考えながら、ギョンスは気になったことを聞いてみた。
「今、ちょっと嫌がらなかった?」
残ったキムチを摘みながらチャニョルを見た。
口を変なふうに引き締め、少し困った表情になったチャニョルは、しぶしぶといった態でそれに答えた。
「……いや、嫌とかじゃないんだよ。…でも、姉ちゃんとお前、仲良くなりそうだなって、なんか、思って」
こりゃーなかなかのシスコンだな、と呆れ、ギョンスは若干目を見開いた。
その顔を見たチャニョルは、慌てて手を振り、言葉を発した。
「いや、姉ちゃん取られて、というより、……お前と姉ちゃんがもしなんかなったり、とか、なったら、俺、……ひとりになっちゃうじゃん」
酒と気恥ずかしさから、見たこともないような大きな耳まで赤くして、笑って自分に向かうチャニョルに、顎に伝った汗をあらかじめ準備したタオルで拭きながら、ギョンスはさすがに吹き出した。
あーはっはっはっはっと大声で笑う彼に、チャニョルはますます顔を真っ赤に染めて、そんな笑うことないだろ、と言いつつ相手の膝に手を置き揺すった。
涙が出るほど、ギョンスは笑った。



つづく




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20160830

ボナペティ 7
授業中だった。
大きな教室での講義で、教師はスクリーンを用い、熱心に説明していた。
ギョンスはノートを取りながら、たまに話し掛けてくる友人に、短く受け答えをしていた。
薄暗い教室の中、ひとり体を屈めて足音を潜め、こちらに向かってくる男がいた。
バネになっている席を下ろし、ギョンスの左隣にその男は座った。
何も言わずに、ギョンスはただ腰を下ろした相手を見た。
それはサークルの、チャニョルを呼び出した友人だった。
そして逆隣に座る友人も、同じサークルの仲間であった。
正式なサークルメンバーでないのはギョンスだけだったが、3人ともそんなことはもうすっかりどうでもよくなっていた。
「よお」
口に笑いを浮かべ、その友人はふたりに小声で言った。
「お前らいるの見えたから、来ちゃった」
頷くだけで、ギョンスはやはり黙したままだった。奥の友人は、わざわざ来たのかよ、と軽く笑った。
授業はもうすぐ終わろうとしていた。
マイクを通して教師の声が高い天井まで響き渡ると同時に、今日最後の授業ということでの期待に満ちた雰囲気が、あたりを漂い始めていた。
しかも明日は土曜日で、すぐ夏休みが始まるのだった。
生徒たちは浮かれていた。
ギョンスも大学に入って初めての、夏休みだった。
いつもなら、金曜と土曜はバイトを入れていた。
しかし、どちらも空けて、ギョンスはチャニョルと約束していた。
このことを思うと、ギョンスは勝手に頬が緩んだ。
こんなふうに友達と遊ぶことに心が浮き立つ感覚は、もしかしたら小学生以来かもしれない、とギョンスはノートにペンを走らせながら考えた。
「なあ」
と、再びくだんの友人が、今度はギョンスだけにといった態で話し掛けてきた。
目顔で返事をすると、友人は言葉を続けた。
「チャニョルと遊んでんだって?」
少し驚いたが表情には出さず、こくりと頷くと、友人は言った。
「お前ら仲良くなるとはなあ。あいついい奴だから分かるけど。タイプ違うから面白いな」
おかしそうに肩をすくめる相手を見て、ギョンスは数回目を瞬いた。
チャイムが終了の時刻を告げる。
途端に溢れる喧騒と教師の更に大きくなった話し声で、あたりは騒然となった。
荷物を片付け席を立つ生徒たちの間をすり抜け、出席票を提出すると、3人は連れ立って暑い外へと足を踏み出した。
夕方に近いというのに、まったく日差しは衰えておらず、空調の効いた部屋から出た若者たちはいっせいに、あちー、死ぬーとくちぐちに言った。
黄色い太陽に目を細めたギョンスは、リュックサックを背負い直しながら、友人ふたりに向かって言った。
「じゃ、俺、このあと予定あるから」
「あれ、サークル来ねーの?」
もともとの友人である方の青年が、振り返ってそう尋ねた。
「うん、悪いけど」
もうひとりが笑って言った。
「チャニョルとか?」
そのからかうような態度は、かすかにギョンスの気に触るところがあった。
だがそれを務めて顔には出さないようにしながら、まあな、とギョンスは答えた。
「まじ、仲良くなったんだな」
相も変わらず彼は笑った。
「チャニョルって、あの飲みんときの?」
ふたりを交互に見ながら、友人は初耳だというようすで聞き返した。
「そ。こいつらすげー気が合ったみたいよ」
「あ、そーなん?言えよ、お前」
そんなふたりの会話を眺めて、なんだかギョンスは不思議な境地に陥った。
そうか、俺はチャニョルとのことを誰にも話していなかったんだな、そしてチャニョルは俺とのことをこいつとかに話してるんだな、と思い、なんとも知れぬむずむずとした感情が胸を襲った。
今日はチャニョルの家に初めて行くのだった。
そして泊めてもらうはずだった。
それを誰かに話されて、こんなふうに聞かれるのは、どうしてだか避けたいような気が、ギョンスはした。
尻のポケットで携帯が振動し始めた。
バイブの設定から電話だと出ずとも分かった。
手を挙げて別れを告げながら、ギョンスはチャニョルからの着信と表示された携帯を、そのまま耳へと持って行った。
はい、と歩きながら言うと、あの低いのに、しかし明瞭な声が、耳の中に直接流れ込んできた。先程までのもやもやした感情が、いっきに遠のいていくのを、ギョンスは快い風を頬に受けるように感じた。
「これから出る電車に乗るから」
チャニョルの声の調子が、明らかに今日を楽しみにしている気配に満ちていて、ギョンスはついさっき心中去来したもろもろを、申し訳なく思うほどだった。
「遅れんなよ」
こういう物言いも悪くないなと思えるのは、俺が成長したからか、それともチャニョルだからなのか。
どちらかと言うと後者かな、と結論付けながら、ギョンスは校門に向かって走り出した。



つづく



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20160831

ボナペティ 8
駅で待ち合わせたふたりは、そのままチャニョルの家へと向かう電車に乗り込んだ。
自分を認め、にかっと笑うチャニョルを見て、ギョンスはしみじみ気持ちが和んだ。
座席に座り、隣り合って電車に揺られながら、ふたりは他愛もない話をした。
話しつつ、ギョンスはチャニョルのよく動く目や口を見つめて、何故この男に、今までの友人に対してはなかったような感情を抱くのだろうと考えていた。
まずこの素直さだろうな、とギョンスは思った。
チャニョルは思ったことがほぼそのまま顔に出た。
人より小さな顔をして、人より大きな目、鼻、口、耳、手、ひいては全身を持つ彼は、そのすべてが多弁だった。
深く響く声で作る言葉以上に、ギョンスが発した何か、もしくはふたりの周りで起こった事象全部に対する無垢な反応が、リトマス試験紙のようにはっきりと、あちこちに現れた。
特に目の中の光の量で、ギョンスはチャニョルの感情がどういうふうに振れているかを、把握し始めていた。
今は、今日、自宅に招いて、姉や両親に会わせたり、部屋に入れたりすることに、興奮と不安がないまぜになっているのがよく分かった。
ギョンス自身は多少緊張はしていたが、心配などはまったくしていなかった。
チャニョルの家族は、魅力的な人の集まりに決まっていた。
時折語る家の話は、どれも幸福に満ちていた。
犬や猫、鳥、亀を飼っているということを、嬉しそうにギョンスに語った。
すべての世話をチャニョルがやっているとのことだった。
だから、俺、家出れないんだよ、と、少し恥ずかしげにチャニョルは言った。
きっと家を出たいと強く願ったことなどないのだろう、とギョンスは思った。
そしてそれが羨ましかった。
どんどん過ぎてゆく見慣れぬ街並みを、チャニョルの顔と一緒に目に映し、ギョンスはふいに孤独感と充実感が手を結んで自分の中を巡るのを感じた。
夕方というのは得てしてそういう気分になりやすいものだった。
まだまだ日の暮れる気配は薄いが、夜を迎える前のセンチメンタルな時間帯は、一年中有効にひとびとに作用する。
気の抜けるような、力が漲るような、アンビバレンツな不安定な何かが、体の中に沸き起こった。
「腹、減った?」
チャニョルがまじまじとギョンスを見て、尋ねた。
リュックサックの乗った体を省みて、ギョンスは確かに、と思いながら、
「うん、そうだな」
と答えた。
「今日、母さんが飯作ってくれるって」
ギョンスの前でチャニョルが自分の母親を、‘母さん’と言ったのは初めてだった。
その声の色に、ギョンスもチャニョル自身も、何かこれまでにないものを感じた。
突如再び、チャニョルが自分をギョンスに向けて開いたようだった。
ほのかに顔を染め、チャニョルは忙しなく体を動かし、鞄を漁った。
「だから、今はこれだけで我慢して」
取り出したのは、初めてギョンスの部屋に来たときチャニョルが買っていたのと同じ、チョコレートの菓子だった。
封を切り、中身をギョンスに差し出すと、チャニョルは自分の口にひとつ、それを入れた。
そして視線を外してもぐもぐと頬を動かした。
がたごとと音を立てる車内には、ふたり以外の客はまばらだった。
ギョンスは自分の目がカメラになったかのように、視界に映るすべてが脳に活写された。
菓子を受け取ると、その儚さを口の中で味わった。
「もうすぐ、乗り換えるぞ」
電車の速度が落とされる。
喉を優しく焦がすように、菓子は底へと落ちて行った。



つづく



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20160901

ボナペティ 9
かなり大きいと言える一軒家に、チャニョル一家は住んでいた。
おそらくそうだろうな、とギョンスは推測していたので驚かなかった。
大きいと同時に古そうでもあった。
「じいちゃんの代から住んでる」
とチャニョルは、ギョンスの思惑を読んだかのように、門扉を開けながら少しだけ微笑んで付け足しみたいに言った。
ゆくゆくはチャニョルがこの家を継ぐのだろう、と思うと、ギョンスは玄関に足を踏み入れながら、自分が場違いな人間なのではないかという懸念が、自身の中で頭をもたげるのを感じた。
「ただいまー」
響く声をあたりいっぱいに轟かせ、チャニョルは靴を脱ぎ、遠慮すんな、と後ろに立ったギョンスを促した。
もたもたとスニーカーを脱いでいると、キッチンと思しきところから、ひょこっと若い女性が顔を出した。
靴下になって家に上がると、近付いてきた彼女にぺこりと頭を下げ、ギョンスはじっとその顔を見た。
ギョンスより背が、高かった。
そして息を呑むほど、美しかった。
「こんにちは。すみません、ドと申します。今日、お邪魔します」
つっかえながらもそう言うと、照れたチャニョルの横で、興味津々という顔でギョンスとチャニョルを交互に見ていた彼女は、ギョンスだけに顔を向けた。
「あんた、紹介もしないで」そう言って横目で軽く睨みながら、肘でチャニョルを小突き、「こんにちは。はじめまして。チャニョルの姉です。ようこそ」とにこにこして歌を歌うかのように、ギョンスに言った。
「ブランたちは?」
チャニョルが後ろ頭をぼりぼり掻きながら、ぞんざいに姉に尋ねた。
「今ご飯食べてるよ。だから飛んで来ないの」
と彼女が答えている間に、大きな白い犬がしっぽを振りつつ走って来た。
かしんかしんと爪がフローリングをかく音があたりに満ち、チャニョルは満面の笑みをたたえてさっとしゃがみこんだ。
「よおーただいま!飯食ったのか?」
後頭部から顎の下を両手でわしゃわしゃと撫でくりまわしながら、チャニョルは犬に問い掛けた。
聞かずとも、ドッグフード特有の匂いがギョンスたちの鼻をついた。
「突進してっちゃ駄目だよ、ってママに言われて、先にご飯貰っちゃったんだもんねー」
笑ってチャニョルの姉は言うと、犬の空いた頭のてっぺんをぽんぽんと軽く叩いた。
へっへっへっへ、とまるで笑っているかのようにちらちらとギョンスを見上げる犬の顔を、ギョンスは何も言わずに見つめていた。
その子も、その子を可愛がるこの姉弟も、すごく可愛いな、と思っていた。
「さ、ほら、お腹空いたでしょ」
パク家の姉が、ふたりの青年に対し手を差し伸べるようにしながら語り掛けた。
「ご飯もうできてるから。こっち来て。ギョンスくん?だよね」
小首を傾げるようにしてそう問う彼女に、ギョンスはほのかに顔に血を昇らせながら、はい、と応じた。
また魅惑的な笑顔を広げ、姉は言った。
「チャニョルがね、しょっちゅう君の話をしてるよ。仲良くしてくれてありがとう」
「姉ちゃん」
語尾に被せるようにして、ばっと勢いよく立ち上がったチャニョルが、困ったようすで姉に食い付いた。
「何」
「もー」
「だってそうでしょ」
先程から首の下よりじりじりと熱を回していた体が、更に温度を上げているのをギョンスははっきり感じていた。
今や俺、真っ赤な顔を晒してるんじゃ、と、ふたりに向かい、口元に笑みをたたえて訝った。
圧倒的な華やかさを誇った姉と弟は、口喧嘩にもならない言い合いをしながら、足元に絡み付く犬とともに、ギョンスの背にふたりして手を回し、奥の部屋へと連れ立って行った。



つづく


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20160902

ボナペティ 10
テーブルの上はすごいことになっていた。
あらゆる家庭料理が所狭しと置かれているのに、ギョンスはほとんど呆気にとられて、数秒、見入った。
「作りすぎだよ」
チャニョルは優しく母を責めた。
「大学生の男の子ならたくさん食べるかと思って」
そう言いながら、見たこともないような綺麗な姉弟の母親が、最後のひと品をそこに加えた。
「さ、座って。食べましょう」
ギョンスににっこり微笑むと、その目尻の皺が子供たちとそっくりなことに、ギョンスは気付いた。
勧められた席に腰を埋め、周りを囲んだパク家の面々にきょろきょろと目を走らせる。
笑顔を絶やさず、ギョンスを興味津々で見つめている女性ふたりがそこにはいた。
父親はまだ仕事だということで、4人での食事が始まった。
あらゆる種類の自家製の漬物が、小皿に盛られているのをギョンスは見下ろし、料理上手なのは母親譲りなのだな、とギョンスは思った。
大きな洋風のスープの器には、サムゲタンが大量に盛られていた。
あちこちに置かれた山盛りのサンチュの上は、色とりどりの野菜が敷き詰められ、ごま油の香りが漂った。
どこまでも赤くトッポギは染められ、見るからに辛そうで、ギョンスは目に入ってくる色彩の情報量に圧倒された。
スプーンと箸を確認しようとすると、白く、つやつや光るご飯が、こんもりと盛り上がり、椀に入っていた。
「遠慮しないでね」
チャニョルの母は、姉同様、歌うようにギョンスに言った。
建前でもなんでもなく、本気でそう言っているのがギョンスには分かった。
そういう、家族だった。
箸を手に取ると、脚の間を柔らかくふわふわとした何かがすり抜けた。
びくりとして思わず下を覗くと、グレーの美しいグラデーションの毛並みの、長毛の猫がこちらを向いて、にゃあ、と言った。
隣に座ったチャニョルがギョンスのそのようすに気付き、
「あ、グリーズだよ」
と教えた。
「グリーズ」
顔を上げ、チャニョルと目を合わせる。
「うん。メス。グリーズ、ギョンスだよ」
座って脚を揃えていたグリーズは、もう一度にゃあ、と鳴き、腰を上げて、ふわふわのしっぽをぴんぴん!と立てながら、向こうへと行ってしまった。
テーブルに向き直ったギョンスは、
「美人だね」
と呟いた。
向かいに座ったチャニョルの姉が、ふふ、と頬を膨らませたまま、鼻から漏らした。
「姉さんに言ったんじゃないよ」
チャニョルが意地悪そうに間髪入れずそう告げた。
飲みくだした姉はチャニョルに、分かってるよ、と突っかかってから、ギョンスの方を向き、
「ありがとう、そうだよね、グリーズは綺麗な猫なの」
と微笑んだ。
彼女はチャニョルをもっと繊細に整え、鮮やかにしたような顔をしていた。
ギョンスはこんな人が実際いるんだな、とひどく感動し、戸惑ってしまいそうになる自分を必死に抑えた。
「猫、好き?」
続けてされた質問に、姉と母両方が、そのぱっちりとした大きな目を自分に向けているのをギョンスは感じ、先刻のように白い頬が薔薇色に染まっていくのを自分自身で見ているかのような心持ちになった。
「………猫も、犬も、鳥も好きです」
唇をほとんど動かさず、かすかに片側の端だけ上げて、ギョンスは答えた。
「…………亀も」
亀はまだ見てないな、と思いながら。
鳥籠は、さっきリビングの上に吊るされているのが目に入っていた。
黄色い小さなインコが中で寝ていた。
家族は揃って吹き出した。
ギョンスの誠実さをいっきにみんな、実感していた。
亀はどこにいるのだろう、とチャニョルに聞こうと横を向くと、思いがけず甘い顔をした友人がこちらを見ていた。
「……ヴェールは、ピアノの下だよ」
ヴェールっていうのか、と、ギョンスは再度リビングを見た。
ぴかぴかに光るアップライトピアノが鎮座しているのが目に映るが、亀の姿は見えるはずもなかった。
「もうしばらくすると、出て来るかも」
チャニョルの言葉を耳にすると、そっか、と言って、ギョンスは食事に取り掛かった。
「たくさん、食べてね」
念を押すように、笑みを含んだ声で、パク家の母がギョンスに言った。



つづく



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  • ミス・レモン
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