海の底、森の奥

- EXOの二次創作とオリジナルのBL小説を中心としたブログです。R18表現あり。お気軽にどうぞ。

20160724

砂糖壺に落ちる 1
夜の匂いを嗅ぐと、特に夜にばかり会っているわけでもないのに、なぜか彼を思い出す。
夏の夜はことさらだ。
木々の葉が水分を蓄え、むせるような命の芳香が鼻を抜けると、その首あたりから漂う香水を嗅いだときと同じ高揚が俺を包む。
会いたい、と思う。
真っ暗な夜に光るぱらぱらと散らばる星を見上げ、酔っ払いの楽しげな会話を遠くに聞きながら、今どこにいるのだろうと考える。
帰ったら、もういるだろうか?
今日ももしかしてほとんど朝に帰るのか。
国に帰ってしまったら、また会えなくなる。
俺はその日が来るのが怖くて辛くて頭に浮かぶたびとっさに頭を振って思考を止める。
まだ、その日ではない。
動きを止めて目を開けると、自分の子供っぽさを少し恥じ入る。
そういうところがいいのに。
きっと、彼は優しく俺を、そう甘やかす。
それを恋は盲目と言うんだよ、と返せば、セフン、難しい言葉知ってるんだね、と、重い瞼を上げて俺をじっと見るだろう。本気で感心しながら。
さすがセフンだね、と言ってゆるく笑えば、頬にはつんと、くぼみができる。
いつも、俺はその甘い穴に、口を付けたくなる。
何百万という人間が願うだろう、その行為。
どこでもできるわけではない。むしろなかなかできはしない。
だが俺には一応、その権利がある。
彼というのはイーシン兄さんで、イーシン兄さんは俺の恋人だ。


帰宅すると、案の定イーシン兄さんはおらず、ベッキョン兄さん、ジュンミョン兄さん、ミンソク兄さんがソファでお菓子を食べていた。
他のメンバーはまだ仕事で、帰れるのか怪しいという者もいると、ジュンミョン兄さんが持ち帰った差し入れであるらしいパイのかけらをぼろぼろ落としながら、教えてくれた。
「きたねーな」
ベッキョン兄さんは眉を寄せる。
「ほらほら、また零してる」
綺麗な指で落ちたところを指しながら、兄さんはリーダーの慌てる横から口を挟む。
ミンソク兄さんはそんなふたりを放って、仕事に関する書類をぱらりぱらりとめくる。
俺は、帰らないって、誰だ?と思いながら、ローテーブルの前に腰を下ろす。
「兄さんパイなんて食べてんだね」
ラズベリーパイを持って口を開けるミンソク兄さんに、夜なのに、と訝しんで俺は聞く。
齧る前に、兄さんは答えてくれる。
「なんか疲れてさ。たまにはな」
そう言ってかさかさかさと、琥珀色の薄い生地を口の中に入れていく。
「お前も食べんだろ?」
隣に座ったベッキョン兄さんが、ゲーム機片手に俺を見る。
「チョコの取っといてやったよ。感謝しろ」
テーブルの真ん中に陣取った大きな白い箱の中身は、綺麗に並んだパイの詰め合わせだ。さっきジュンミョン兄さんが零して、ミンソク兄さんが口に入れたのと同様ほどよく色づいたパイたちが、肩を寄せ合うように収まっている。
「同じ味ふたつはないの?」
パイの上からかすかに覗く中身で、味を見極めねばならないらしく、俺は箱の中をきょろきょろ見回しながら兄さん連中に尋ねた。
「ないみたいだな。全部違うっぽい」
「そっかー」
イーシン兄さんは何が好きだっけ。
「チョコ以外全部果物?」
俺は更に問い掛ける。
「たぶん」
食べ終えたジュンミョン兄さんがペットボトルの茶を汲んだグラスに口を付けつつ応じ、ベッキョン兄さんはゲームに集中し、ミンソク兄さんは唇に付いたパイ生地を指で取りながら書類から目を離さない。
これがチョコのだ。
俺はひとつ取り出すと、そのまま他のものにもまだ目を走らせた。
…果物で何が好きだか、思い出せない。
「ひとりいっこだぞ」
ベッキョン兄さんが目ざとく言う。
「分かってるよ」
思わず口を尖らせて俺は反発する。
改めて腰を下ろし、さく、と、早速パイを食べる。
一緒に食べたいけど。
濃いバターの香る生地の、軽い食感が俺の口を満たす。
そんな時間取れるか分かんないし。
さくさくさくさく。チョコは苦く、甘い。
ここにいるみんなに聞くのもなんか変に思われるだろうし。
口の中にパイを全部消しながら、ちゃんとこれから好きな果物くらいは押さえておかなきゃ駄目だ、と俺はこっそり、しかし激しく、悔しがった。



つづく


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20160725

砂糖壺に落ちる 2
仕事の最中なのに、集中しなきゃ、と思ったけど、どうしても差し入れの、チョコレートのかかった小さなケーキみたいな駄菓子を頬張ると、うちに帰りたい、と願ってしまう。
特別美味しいお菓子というわけではなかったけど、パリパリ割れるチョコのコーティングだけは素敵だった。
まずその食感がいいし、甘みも苦みも匂いもよかった。
チョコが大好きな俺の恋人も気に入るだろうか、と考える。
「レイー」
スタッフに呼ばれ、広げられた位置チェック表に目を通しながらも、心のどこかは家にある。
もぐもぐ中の薄っぺらな味のクリームを咀嚼しつつ、それでもこれを好きかもしれないし、と俺は再度思う。持って帰れるほど残っているかな?
指先で紙を指して自分の意見を伝えると、時計を見上げ、時間を確かめた。
10時かあ。
確認していないけれど、たぶんメッセージが携帯に入っている。
俺がそういうことに無精なのを分かっているから、返信がなくてセフンは怒ったりしない。
……ちょっと怒ってもいいよ、と思っちゃうくらい、セフンは怒ったりしない。
「じゃあもう一回4曲目の動き確認しまーす」
ステージのディレクターが大きな声で皆を集める。
口の中に、もうケーキはない。
唇を手の甲で拭って、俺はちらりと雑然としたテーブルに目を走らせる。
まだ、だいぶ残ってるみたいだな。
皆の中央に立ちながら、飲み込んだチョコレートが、俺の心臓を少し焦がすような気がした。


灯りは点いているけれど、おそらく誰も起きてないだろう、と予想しながら、俺はリビングのドアを開けた。
オレンジ色の小さな灯りがぼんやりと部屋の中を照らしている。
ふわりと匂いが漂ってくる。ケーキ屋さんにいるような。
鼻をひくつかせながら目を動かすと、ソファの上に、誰かいる。薄い布団を掛けられて、すう、すう、と寝息を立てて。
「セフン」
途端に俺は喜びと驚きとで全身が膨らんだみたいになる。
慌てて近寄り、荷物を放り、興奮で強くならないよう気を付けて、そっと肩を揺らす。
「セフン」
自分から出た声の、糖度の高さに赤くなる。
眠った顔の眉の線が、やっぱりすごくしっかりしていて、いいなあ、と笑みが出てしまう。
もう一度軽く揺らすと、ん、という声が漏れて、その響きに胸がきゅうと縮まる。
薄く開いた目で、俺の顔を映したセフンは、
「……あ、兄さん?あれ?あ、帰ったの?お帰り……」
言いながら体を起こす。きょろきょろ見回すようすを座って見上げて、俺は「ただいま、今、2時半」と告げる。
「ごめ……寝ちゃった……」
目を擦ってぼうっとした顔をこちらに向けると、夢ではないかと訝しんでいるようだ。
「……待ってたの?」
俺は自分の期待を思わず尋ねてしまう。
するとふにゃりとセフンは笑う。
「うん。ていうか寝てたけど」
この嬉しさがどれくらい伝わるだろう?
俺はいつも歯がゆくて切なくなる。
気持ち悪いくらい顔が緩んでいるだろうことが自分で分かる。
「ありがと、ごめんね、遅くて」
「しかたないよ」ふわーと大きなあくびをしてセフンは言う。「仕事だもん」
そしてソファからずり落ち、俺の横に体育座りになる。
「お腹空いてる?」
ごく近くで小首を傾げて甘い顔でそう問うセフンに、俺は胸が高鳴るのを抑えられない。
「…少し」
「なんか食べる?」
「……遅いし……どうしよう……」
ほんとは食べるよりもしたいことがあった。
くたくただし眠たいしお腹もちょっとは空いてたけど、それよりもなによりもしたいことがあった。
でもいつもと同じにそんなことは言えない。
「パイがあるんだよ」
にこにことセフンは言う。
そして俺たちの前のテーブルの上の、白い箱をかさかさと開く。
「ほら」
中身を見ると、高そうで美味しそうなてりてり光るパイが3つ、入っている。
「まだ、ギョンス兄さんとチャニョル兄さんも食べてないから。中身全部違うんだよ」
俺は持ち帰ったたいして美味しくもない駄菓子のことを思い出し、なんだか少し恥ずかしくなる。
「……兄さん」
「ん?」
「兄さんてさ、…果物何好きだっけ?」
なんでかほのかに、セフンは後ろめたそうだった。俺は不思議に思いながらそうだな、と考えてみる。
「……桃?かな?」
「桃?」
「うん。他にもたくさん好きなのあるけど」
セフンは箱の中に手を入れて、パイのパイ生地の隙間をじーっと見つめた。
「…あ、これ桃じゃない?」
ぱあっと笑みを零して嬉しそうにセフンは俺を見る。
確かに薄黄色の桃っぽい姿がパイとパイの間から覗いていた。
「そうだねえ、桃だね」
「よかった。どうする、今食べる?」
夜中にしかもこんなどっしりしたものを食べるのはいろいろと思うところがないではなかったけど、セフンとふたりきりでパイを食べるなんてなんだかとてもいいと思った。
「うん、食べる」
えくぼが浮かんでいるのを自分でも意識しながら、俺はセフンの顔を見る。
「分かった、お茶持ってくるね」
そう言ってセフンは立ち上がり、キッチンの方へ消える。
俺はパイを持って口に運んだ。
齧った果物のかけらは、…アプリコットの味だった。
戻ったセフンは機嫌よく聞く。
「どう?やっぱり桃?」
とぷとぷとぷ、とグラスを満たしながら、俺を見つめる。
「うん。おいしいよ」
そう答えて俺はふた口目を齧る。
ほんとはアプリコットだけど。
ほんとはパイでないものを口に入れたいけど。
でも俺はそんなこと言えない。いつもと同じに。



つづく



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20160726

砂糖壺に落ちる 3
寝起きから、イーシン兄さんがくれたチョコレートのお菓子を食べながら、俺は残りの数を数えていた。
1、2、3、4、5、6。
二個目の封をぴりぴりと開けながら、兄さんがどうしてかちょっとためらいつつこのお菓子をくれた夜のことを思い出す。
兄さんがパイを食べるのを、横で見ていた真夜中。
目尻を垂らし、えくぼをこしらえて口を動かすようすを見つめながら、触りたいな、と思っていた。
そのパイみたいに、俺を噛んで欲しいとも。
唇に付いた生地を、舌で取ってあげたいとも。
どれも思うだけで、口にはしなかった。
付き合ってて、ふたりきりで、深夜で。
何も邪魔するものはないのに、いつも一歩が、踏み出せない。
……ちゃんとキスさえ、していない。
思いが叶ったとき、手を繋いで、頬に軽く口を付けた。
兄さんが浮かべた優しいくぼみに、俺の唇を乗せた。
それだけは、せずにはいられなかった。
少しだけ、あと数センチずれれば、唇だったけど。
その距離が俺にはまだ、遠い。
兄さん連中が聞いたら笑うだろう。腹を抱えて。
恋人に手を出すのに本気で尻込んで、キスさえままならないなんて。
いくつなんだ、いったい。
自分でも呆れてしまう。
だけど兄さんを前にして、その顔を見下ろしてると、ほんとに触れてもいいのだろうかと、自問自答して体が固まる。
兄さんは嫌がったりしないだろうから、余計に。
我慢してるんじゃないかとか、本心では嫌なんじゃないかとか、そんなことばかりが頭を巡る。
もうひとつ、菓子を口に放り込む。
パリパリ、パリパリ、という食感を楽しみながら、今日も俺は、今日こそは、と心に決める。


なんとか作った時間で、俺は今夜、イーシン兄さんと夕食を共にする予定だった。
ドタキャンされないかどきどきしていたけれど、幸い兄さんは少し遅れただけで、待ち合わせの店に、帽子、眼鏡、マスクをして現れた。
メンバーが皆よく使う中華料理屋で、ここはたくさん個室があった。
ごくごく小さなそのうちのひとつに通してもらい、俺たちは丸テーブルに隣同士で腰を下ろした。
嬉しさで顔が綻ぶのが自分でも分かり、恥ずかしいくらいだった。
メニューを手に取りながら、兄さんは口を開いた。
「セフン、ごめんね、中華にしたの俺のためでしょ」
その顔は少し悲しげで俺はいっぺんに気分がへこむし、同時に焦る。
「ち、違うよ。俺が食べたかったから。個室も取れるし。だから気にしないで」
手を伸ばして肩に触れる。兄さんの肌のぬくみと表情で俺は暑いんだか寒いんだか分からない。
「そう?無理してない?」
なおも眉をひそめて兄さんは問うてくる。
「してないよ。好きだもん」
続く言葉は中華が、のはずだけれど、俺は言いながらほのかに赤面した。
なんとか兄さんの納得を得ると、俺たちは注文を始める。
エビチリ、ほうれん草と魚介の炒め物、ピータン、水餃子、小籠包、漢方のスウプ。
アルコールは控えた。明日も早くから仕事だし、体調管理のためにも。
今日あったことやメンバーの噂話などをしながら待っていると、料理はどんどん運ばれてきた。
湯気が俺たちを取り巻く中、膝を寄せ合って一生懸命それらを食べた。
狭い部屋でふたり、赤いテーブルの上の色とりどりの食べ物を前にして、俺たちは唇を光らせていた。
「お腹いっぱいになってきちゃった」
少なくなってきた皿の上を見下ろしつつ、俺はふーっと息を吐いた。
「大丈夫?もうやめる?」
「ううん、も少し食べる」
「このスウプ飲んだ?」
兄さんが頼んだ漢方たっぷりのこの店特製のスウプは、ぴりっと辛く、複雑な味がして、飲むと汗が噴き出してくる。
「体にいいよ。飲みなよ」
そう言って兄さんはレンゲで掬い、少し息を吹きかけたあと、俺に向かって差し出した。
俺はその一連の行動に胸がざわざわし始める。
こんなことはみんなでよくやることだけど。
おずおずとそのレンゲに口を付け、吸う。
目は、ずっと兄さんの顔を捉えながら。
滋味豊かな液体が口と喉を通っていく。
差し出されていた手のその首を、飲みやすいよう俺は掴んだ。
それに対して俺の目を見た兄さんと、俺は視線がぶつかった。
スウプは飲み干された。
体の中にぼっと火が灯ったようだった。
俺は握った細い手首を自分の方に引っ張った。
兄さんの体が俺に傾く。
少しだけ開いた唇の上に、俺はおそるおそる、自分のそれを重ね合わせた。
兄さんとの初めてのキスは、山椒と八角の匂いがした。
その柔らかさに、目を閉じた。


つづく



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20160727

砂糖壺に落ちる 4
エアコンが効きすぎていて、ちょっと寒いし、肩が凝ってきた。
車が朝の喧騒を切って走る中にいて、俺はリュックサックに突っ込んでいた薄いパーカーを引っ張り出し、肩に羽織った。
少しだけでも寝たい。
シートにもたれかかり、瞼を下ろす。
そう思うのに、目を閉じると今夜の約束を思い出して、なんだかそわそわしてしまい、ちっとも眠れなかった。
セフンがあの中華料理屋に一緒に行こう、とメッセージをくれたのには、ただ分かったって返信しただけだったけど、ほんとはそこじゃなくてもいいんだよって言いたかった。
俺に気を使ってそう言ってくれてるんだろう、って、思った。
嬉しいんだけど、淋しい。
セフンには好きなことをしてほしい。
気兼ねなんかしないで、わがままを言って、にこにこしていてほしい。
そう思うのに、言葉が難しいのもあって、うまく伝えられないでいた。
でも、それでも、ふたりで食事するのは嬉しい。
デートだ、と思うと、顔が勝手ににやけてしまう。
あんなにきれいな、かっこうのいい男の子が、俺の恋人だなんて。
俺はセフンに触れたいと思うたび、自分が彼を汚してしまうような気がして、なんだか末恐ろしくなって何もしない、ということを繰り返していた。
皆から愛され、大切にされるべき存在の、あの子に。
俺なんかが踏み込み、荒らし、跡を付けてもいいのだろうか?
ふと、やるせなさに沈み込み、俺は携帯で時刻を確認した。
まだ、半日は会えない。
………でも、半日経てば。
俺はすらりと高いその体が自分を待っている姿を再び閉じた目の裏に映し、やはり、笑顔になっていた。


予想、していなかった。
俺はレンゲを持ったまま、セフンから唇を当てられていた。唇の上に。
かっこ悪い、と途端に恥ずかしくなるが、拒否できるわけもない。
セフンはゆっくり目を閉じた。
閉じた瞼の上が、白くて、本当に無垢だった。
まつげ一本一本が、目に映る。
黒く、濃く、長い、そのそれぞれがいとしい。
品よく小さい、下唇の厚みが美しいセフンの唇は、想像の中でしたどんなキスのときより、柔らかく、儚かった。
短い、ほんの一瞬だった。
唇が、離された。
顔を少しだけ遠ざけると、セフンはおずおずと目を開け、叱られた子供みたいに俺を見た。
「……ごめん」
手首を優しく解放すると、視線を斜め下にしたセフンが、唇をきゅっと結ぶ。
「ごめんじゃないよ」
俺は目をきょろきょろと泳がせながらレンゲを置いて、セフンの両腕を掴んだ。
「…全然、ごめんじゃないよ」
そう言うと、セフンは顔を上げ、切なげな目元を俺に向けた。
告白のときを、思い出した。
その目は言葉よりも饒舌に、俺に心の内を語りかけてくる。
「セフン」
名を呼び、両手で彼の肉のない頬を覆った。目と目を間近で合わせ、囁く。
「すごく、嬉しい」
俺は微笑んだ。
どうしたら伝わる?
こんなひとことと、笑顔だけでは。
軽い絶望が俺を襲う。
それでも思いを込めてセフンを見つめると、彼は瞳の中の輝きを増し、今度は逆に俺の両腕を掴んだ。
そして再び、くちづけてきた。
俺はためらいなく、その訪問を受け入れる。
さっきは乗っているだけだった。
握った腕の手の力が強まると同時に、その唇が動いた。
俺の唇を食べるみたいに、隙間を徐々に、広げてくる。
ああ。
俺は目を開けていられない。
唇の間で、もっといきいきと動く何かを感じる。
濡れていて、広がった口の、歯と歯の間をつついてる。
舌だ。
そう思ったときには腰が溶けるようになっていた。
上背のあるセフンは、椅子に座ったままの体を俺を覆うように傾け、俺は頭を上向けた。
きき、と椅子の脚が鳴る。
ついに舌が俺の舌を見付け、下に潜ってから、取り込もうと試み始めた。
その、どこまでも甘い、圧倒的な感覚に、自分の舌を無意識に差し出した。
くるくる踊る口の中は、さっき飲んだスウプの味でいっぱいだ。
セフンとのキスが、初めてのそれが、俺が健康のためにと頼んだ漢方薬の味なんて。
やっぱり俺は恥ずかしくなる。
そうは思っても、スウプとキスですっかり熱を持った体は、セフンとの親密なダンスを、やめるはずがなかった。



つづく



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20160728

砂糖壺に落ちる 5
イーシン兄さんを好きなんだ、と自分で気付いたとき、あーあ、と思った。
なんてめんどくさいんだろう、と。
きれいな女の人が好きだけど、きれいな男の人だもんなあ、と、考えては、溜め息ばかりつくようになった。
俺は人が好きだし、人と接しているのが好きだ。
だけど気持ちを自覚してから、兄さんにはちょっとよそよそしくなってしまったかな、と思う。
自分の中だけでぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる、出口のない迷路にいるみたいに自分自身を分析した。
勘違いなんじゃないか?と何度も思っては、そっと合コン的なものに参加してみたりした。
それなりに収穫もあってほくほくと帰路につき、なーんだやっぱり違うんじゃん、俺、と安心しながらドアを開けると兄さんがいて、おかえりー、と微笑まれると、さっき感じてた動悸の単純に10倍くらいが俺を襲ったり、なんてことを繰り返した。
よくよく考えてみた。
どこが好きなんだろう?どうして?
忙しいスケジュールの合間、待ち時間、移動時間、ずっと考えた。
特に夜。
宵っ張りの俺は、散らかった部屋の窓の向こう、暗い空をベッドから見上げて、風から香る外気を吸い込みながら、兄さんのことを考えた。
顔から足まで脳みその中で精密に描き出し、目を閉じてじっくりと観察した。
確かに整った、魅力的な容姿だ。
俺たち韓国人と違う、大陸の人の顔をしている。あの幅の広いふたえとか。小鼻のかたちとか。
触れられたりするのが苦手だという首周りは、身長差から俺は常に見下ろすけれど、たいていそこは無防備に開放されていて、あのやめてやめてという反応を見たくさせる強い吸引力がある。
そう言えばみんなのそこへの攻撃を見たときから、なにか感じなくもなかったような気がする。
すごく、いい匂いがするし。
鼻をこすりつけたり、肌を味見したり、歯を軽く立ててみたりしたいな、という妄想が、いちばん最初だったかもしれない。
俺は蜜に群がる虫みたいだと、自分を思った。
そこに落ちたら戻れない、甘いものがたっぷり詰まったなにかを、兄さんは連想させた。
あの高い、儚げな、女性的な声の感じも。
普段は重力を感じていないみたいなとりとめのない動きなのに、踊ると突然体重が倍になったようなダンスになるのも。
罠だ。
俺は恐怖におののく。
逃げなきゃ、と。
でも。
部屋を出てばったり会ったり、朝起きて挨拶したり、仕事で頭を突き合わせたりすれば、優しくてストイックで繊細な、その人柄に触れ、自分の深夜味わった恐れなど、ふしゅるるると空気が抜かれてしまい、ますますただ惹かれ、目を合わせるのもためらいながら、そばにいたくて少し離れた、でもごく近くにいたりしたのだった。
そんな期間が長かった。
ずっとそのままで、いつか、気持ちが少しずつ冷めていくだろう、と俺は諦念とともに予想していた。


もう何百回目かの反芻を、また行いながら、俺は撮影前のメイクを施されていた。
中華料理屋でキスしたときの記憶は、ビデオテープなら擦り切れ始めてしまうんじゃないかというくらい、俺の中で巻き戻されては再生された。
兄さんが顔を仰け反らせて、息継ぎとともに濡れた声を漏らしたときは、頭の中でぷつんと何かが切れたようだった。
そこまで思い返すと、いつも体が反応しそうになって、目を開けて深呼吸する。
腕と脚を組んでアイシャドウを塗られていた俺が、突然ばちっと瞼を上げたものだから、メイクさんがびっくりしてわっ、と言った。
「あ、ごめんなさい」
照れながら慌てて謝ると、快く許してくれ作業の続きが始まる。
こんなところで駄目だ。
そう自分を戒めるのに、気付くとまた、映像はリピートされているのだった。



つづく



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20160729

砂糖壺に落ちる 6
いつ頃からだったろう。
夏……だったような気がする。そのときも。
セフンが俺に会うとこちらを見ず、半笑いしながら相槌ばかり打つようになった。
自分の首の後ろをさすりながら、目を合わせないセフンを見上げ、どうしたんだろう、と、3度目になると思い込みではないという哀しい確信を持ちながら考えた。
俺、何かしたかな?
なんか、みっともない?
臭い?
うっとうしい?
俺は次々とクエスチョンマークを頭に浮かべながら、解決しない問題を抱えて、ただでさえ落ち込みやすい性格に多少拍車がかかった。
……………俺のこと、嫌い?
面と向かって聞けるわけもなかった。
だけど、俺はセフンをよく見かけたし、すぐそこにいることが増えた。ような気がした。
それに俺が振り向いたりすると急いで顔を背けている。……ような気もした。
だから嫌われてるわけじゃない……のかな?と、だんだん気は楽になってきた。
嫌だったら近くにいないだろう。きっと。
それと同時に、セフンの横を向いた顔の輪郭や、伏せた目や、色の白さを際立たせるような頬の赤みを目に映すと、なんだか体の中が変な感じになるようになった。
こんなセフン、あんまり見たことない、と思った。
兄貴たちとくすくす笑って遊んでいるひょろひょろした可愛い弟が、なんだか借りてきた猫のようになって、おとなしく隣にいると、熱っぽいような、じっとしていられないような、おかしな感覚になって俺は困った。
そしてそばにいなくても、セフンのようすを目に浮かべ、物思いにふけり始めた。
ちょうどそのとき、俺は彼女がいたんだけど、彼女にいつもよりもっとぼーっとしてる、とさんざん叱られたりもした。
目の前にいる髪を逆立てんばかりの彼女を見下ろしながら、ああ、自分の目のすぐ上にある、あの鋭い顎の線を見上げたいな、と思っていた。そう思った自分に驚いた。
俺の耳にも独特の響きに聞こえるあの話し方や、いつでも自分のペースを崩さないその生き方や、人に対して平等に接するフラットな在り方。
あの子と一緒にいたいな、と強烈に、しかしじんわりと、欲した。
ああ、俺はセフンが好きなんだ。
そう、気付いた。
そのあとすぐに、彼女と別れた。
セフンと付き合おう、なんて思ったわけではなかったけれど。


前の仕事を終え、急いで撮影現場のメイクルームに入った。
小走りで来たため少し息を上げながら。
部屋を見回すと、もう終えた者とこれからの者でいつも通りめいめいの好きに過ごしていた。
俺は、まだ終わってなかったんだ、と思い安心すると、ジョンデがきっちりとメイクした濃い顔で俺に顔を上げた。
「あ、お疲れ、兄さん。今セフンだよ」
あ、ありがと、と言いながらも、俺はもちろんセフンがいないのにいちばんに気付いていた。
ドアの前で立っている俺に、メイクの女性が声を掛ける。
「こんにちはレイくん。座ってー。顔やるから」
「あ、はい」
と言った瞬間背後のドアが開いた。
驚いて振り向くと、すぐ後ろにセフンが立っていた。
目を見開いて、その唇に施された濃い口紅の色を見る。
「…兄さん」
その唇が俺を呼ぶ。
俺はごく、と唾を飲む。
それで、キスしたら。
瞬きの間にそんな想像をして、囁くように「お疲れ」と俺は言った。



つづく



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20160801

砂糖壺に落ちる 7
一度だけのキスを、ひとり頭の中だけで何度も味わうのはもういやだな。
当然ながら俺は、2回目を待ちわびた。
家でちょいちょい顔を合わせるとき、人目を忍んでぱってできればいいんだけど、まだそういうことがなんか、できない。
だいたい、ぱってするだけのキスじゃちょっと……、今はもう、ちょっと。
だってもう、あの味を知ってしまった。
いや、ほんとの兄さんの味じゃなかったけど。
スウプの味だったけど。
あのときよく、キスだけで我慢できたなと、我ながら感心してしまう。
さすがにあんなところでできはしないし、当たり前なんだけど、スウプとキスで俄然元気になった体を鎮めるのに、もともとの予定よりもずっと長く、あの店にいる羽目になった。
兄さんを見るとまた唇にも、それ以外にも、どこでもかしこでも口を付けて舌を這わせたくなったから、なるべく見ないようにした。
それに、反応してるのを見られたくなくて、体を縮こまらせて、反対を向いていた。
俺が具合でも悪くなったのかと兄さんはしきりに心配して、俺は繰り返し大丈夫、違うんだって言ったけど、ちょっと傷付けてしまったかもしれない。
今更俺は少し不安だ。
帰り道も、やっぱり我慢のきかない子供みたいに思われてるんじゃないかって、黙りがちになってしまった。
携帯でのやり取りは全然変わらないから、たぶん、きっと、大丈夫、とは思うんだけど……。
ああ、不安だ。
兄さんに会いたい。
会って今度はもっとちゃんと、いろいろ、したい。
なるたけゆっくり。
誤魔化しとか、取り繕ったりなんかもしないで。
俺は溜め息をつき、携帯を見つめる。指を動かす。
もう、記憶だけじゃてんで、足りない。


今日、次の日の昼まで部屋にひとりなんだけど、来れないかな?とイーシン兄さんに送ったら、遅くなっちゃうかもしれないけど、それでもよければ、行く、と、返信が来た。
俺は昼休憩のコーヒーショップで、携帯を握り締めて画面を食い入るように見た。
やった。
思わず口から出そうになったので、唇をくっと、引き結ぶ。
でも勝手に頰は、緩んでしまう。
そのようすを見たチャニョル兄さんが、はっ、と笑って俺に言う。
「なんだよ。なんかいい知らせ?」
オーダーしたコーヒーとパン類を待ちながら、俺たちはぼそぼそ話す。
「ん?んー、まあね」
「なんだよ、教えろよ」
「やだよ」
俺たちが軽く手で小突きあっている背後で、くすくす笑ったり、えー?ひゃあー、と言ったりする女の子たちの声がする。たくさんの視線も、背中に感じる。
「写真、撮られんぞセフン」
「別にいーよ」
「お、心が広いなあ」
ふふふ、と笑って、俺はまた携帯を見る。
返ってきた言葉と、時刻。
すぐ、返信くれたんだ。
写真なんかどうだっていい。
俺はもう今、今夜のためだけに生きていた。



つづく



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20160802

砂糖壺に落ちる 8
あの日、キス、されたとき、想像よりもセフンが、……うまくて、俺はほんとに腰が抜けたみたいになった。
やっぱり年下で、子供みたいな雰囲気の頃から知っているから、そういうことがどれくらい……できるのか、全然、分からなかった。
なんだか、ふわふわとした、独特なやり方だった。
唇や舌の、その粘膜らしさみたいなものが希薄な、キスだった。
ソフトな、マシュマロみたいなもので撫ぜられているようだった。
気持ちよくて、思わず変な声が出た。
それが本当に恥ずかしく、俺はぎゅっと目を閉じた。
するとまた、おもむろにセフンが離れた。
かすかに息を上げ、目を逸らして向こうを向いたセフンを、俺は火照った顔の中のまぶたを半分ほど上げて、見た。
唇を手の甲で拭いながら、ご飯、冷めちゃうね、と、セフンはまだこちらを見ないまま、言った。
細い脚を組んで、広い肩を内向きにして、顔は少しだけ反対を向いて、目は料理を見下ろしていた。
俺は、自分が何かおかしかったかと、思った。
声が、気持ち悪かったかな?
やっぱりスウプが、ムードなかった?
……俺、キス、下手だった?
こちらを向かない鋭角な顎を見ながら、俺はとにかく、具合が悪くなっちゃったんじゃないといい、と思って、それを尋ねた。
大丈夫だ、と言うけれど、結局ずうっと、家に着くまで、元気がないようなようすのままだった。
どきどきした。
おやすみを言い合って、部屋に戻ってから携帯を見ると、セフンからメッセージが来ていて、心底ほっとしたのを何よりも強く覚えている。
ああよかった、そう思って、でもそのあとは全然ふたりで会えなかった。
俺は撮影のときの、ボルドーに塗られたセフンの唇をよく、思い描いた。
アメリカンチェリーみたいな、それだった。
食べたいな、とひたすら、俺は思った。
仕事中にふっとそれが頭をよぎると、いけないいけないと顔をこすった。
考えるだけならいいけれど、考えたら必然的に、全身が連動してしまう。
公衆の面前でそんなことになってしまったら、変態だ。
ああ、あの甘い果実を、自分の口に押し込みたい。
そんなことを思うだけでも充分変態だって、ほんとは自分でも、よく分かってはいるんだけれど。


12時過ぎくらいには行けるだろうと思っていたのに、短い針が指しているのは4という数字だった。
急いではいたけれど、深夜の家の中、大きな音を立てるわけにもいかない。
周囲の安全を確認してから、そっとセフンの部屋のドアを開いた。
眠っているかと思ったのに、セフンはベッドの上に座って、雑誌を広げていた。
「ごめん」
ドアを慎重に閉めて、足音も立てないようにして、セフンに小走りで近寄った。
セフンは心から嬉しそうに、その目を半月みたいにした。
「お疲れ様」
さすがにちょっとは怒られるかと思ったのに、全然そんなことはなくて、むしろ全身から喜びが伝わってきて、俺は逆にいたたまれないくらいだった。
「携帯見た?」
一応、遅くなってしまうことは送っておいた。それにしたってという時間だけれど。
ためらいがちにベッドの端に腰を下ろすと、セフンは雑誌を横に放ってうん、と言った。
「ほんとに、ごめんね。お詫びじゃないんだけど、これ」
手に持っていたビニールでできた袋を、俺はセフンに差し出した。
くしゃ、という音を立ててセフンがその手に受け取ると、まじまじそれを見下ろして、そして俺の目を見上げて、言う。
「……マシュマロ?」
不思議そうにこちらを見るセフンの端正な顔を見返して、俺は勝手に顔に血が上ってくる。
「……昼間、買ったんだ」
あはは、と、意味のない笑いを漏らして、俺は答える。
コンビニで見掛けて、気付いたら買っていた。
「………チョコ味は、なくて」
俺を見ていたセフンが、ゆっくり、目の中の色を変えた。
ベッドの上に置かれた俺の手首を掴む。
ぐい、と俺を、ベッドへと引っ張り込む。
「セフ」
「兄さん」
そう言って、セフンは俺をぎゅうっと抱きしめた。
首の付け根あたりにセフンの鼻と口が当たる。息がかかる。
「あ」
くすぐったい、駄目だ。
思ったときには、そこに弾力を感じた。
びくりと体が跳ね、俺は声が絶えず出る。
全身が震え、気持ちがいいのか悪いのか、自分でも分からない。
はあ、と吐息が俺の首を温める。
「イーシン」
耳の中に唇がある。
びりびりと体中の毛が総立ちになり、俺は瞼を下ろしてセフンの背中に腕を回す。その薄い体。骨という骨。
指を這わせていると、俺の耳たぶに硬い何かが当たった。歯だ。
首筋を指でなぞられ、舌と歯で耳を侵食され始めると、俺はもう声の抑えが効かなかった。
「あ、セフン、あ」
ぼそぼそ、と耳の奥で音がした。
言葉なのか吐いた息なのか分からぬまま、俺は後ろに倒された。



つづく



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20160803

砂糖壺に落ちる 9
彼女と別れたって聞いたとき。
いつものようにそれとなく、イーシン兄さんの周りにいると、兄さんがジョンデ兄さんにそう言っているのを耳にした。
彼女がいるのは知っていた。
それについては気にしてなかった。
気にしてなかったと言うか、気にしてもしようがないと、考えないようにしていた。
もちろん、デートの帰りとかに、兄さんの香水でない香りが兄さんから漂ってくると、勝手に顔が暗くなるのが自分でも分かった。
そんな自分がすごくいやで、なるたけ意識を向けないように努力した。
だから、兄さんには彼女がいる、俺が兄さんを好きなだけ、という状況にそのうち慣れた。
そんな中、兄さんが、「うん、振られちゃったー。………あー、振った?のかな?」というのを聞いて、俺は知らぬうちに心が踊っているのに気付いた。
なに期待してんだ、俺、と、俺は自分に突っ込んだ。
と、ちらと兄さんがこちらを見た。
そしてにこ、と微笑んだ。
何か勘付かれたのかと思い、俺は慌てて下を向いた。
口の端が上がってきてしまうのを、なんとか堪えながら。
それからだんだん、兄さんとよく、目が合うようになった。
そうすると必ず兄さんは、頬にえくぼを浮かべてくれた。
ちょっと照れているみたいな、顔だった。
俺の思い込みかな、と思った。
と言うか、俺が気が付かないうちに兄さんを見ちゃってて、自動的に目が合っているのかと不安になった。
それで以前以上に気を付けていたけれど、それでも、視線と視線は絡んだ。
夜、眠る前、夜気を吸い込みながら兄さんのことを考えると、だんだんと大それた願いが頭をもたげた。
兄さんが、俺を好きならいいのに。
こんな願望は持ってはいけないと、思った。
まぶたの裏で兄さんと会いながら、自分の期待にストップをかけようとした。
ちょっと目が合って、ちょっと笑いかけてくれるからって、そんな、安直な。
自分の浅はかさに笑いが出た。
だけどすぐにまた、俺の兄さんは俺に微笑み、俺を受け入れてくれるようになる。
ジュンミョン兄さんが俺にそっと布団を掛けてくれるのを感じながら、俺は落ちた夢の中で、イーシン兄さんの首の匂いを嗅いでいた。


打ち合わせのため、メンバー全員が事務所会議室に集合していた。
長細いテーブルをぐるりと男どもが囲み、そこにスタッフ数人が混じっていた。
説明を聞きながら皆体を乗り出して資料を覗き込む中、俺の斜め前にいるイーシン兄さんの襟元の奥が、目に映った。
今日、珍しく、兄さんは首の詰まった服を着ていた。
雰囲気違うね、と、よく気のつくメンバーはもう兄さんにそう声を掛けていた。
ベッキョン兄さんとか。
えへへ、と笑う兄さんを目の端で捉えながら、俺は笑みが浮かばないよう唇を噛んだ。
ベッドの上で見下ろした、兄さんの桃色の顔。
顎。
首。
鎖骨。
胸。
俺はそこに唇と舌と手で触れた。
首から立ち上る甘やかな匂い。
絶え間なく聴こえる濡れた声。
後先考えず、強く口で吸っていた。
小さな跡が兄さんに残った。
ごめん、そう言うと、兄さんは優しく笑って、いいよ、と言った。
襟の中には赤い、ささやかな花が咲いている。
ほんの少し、それが見えただけで、俺はどうにかなってしまいそうだ。
顔を落として、早くなった鼓動をなんとか、鎮めようとした。



つづく



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20160804

砂糖壺に落ちる 10
セフンのことが好きだって自覚して、独り身に(なんて大げさかな)なってみると、いったい自分がどうしたいのか、どうしたらいいのか分からなくて、ちょっと困ってしまった。
だって今まで、男の人を好きになったことなんてなかった。
すらっとした色の白い人が好きではあったから、確かに好みなんだけど、ものすごく好みなんだけど、なんと言っても男だ。俺と同じ。
俺のことをそういうふうに好きになってくれるなんて、基本的には考えられない、と思った。
だからこれは叶わぬ恋で、俺はただ、セフンを好きでいるしかないんだ、と、諦観の姿勢を取っていた。
だけど、実際しょっちゅう近くにセフンはいるし、俺もセフンを見たくて目で追ってしまう。
そうすると目が合うこともあって、俺は嬉しさと恥ずかしさから顔がにやける。
みっともない顔してるだろうな、と頬が熱くなることもある。
そうするとセフンは顔を俯けるか向こうを向くか、とにかくかすかに居心地悪そうなようすを見せるから、俺は胸が痛んでしまう。
でも、こんなことがずっと、繰り返された。何度も何度も何度も。
少しだけ、不思議だな、とは感じた。
だいたい、セフンは昔、あんなふうじゃなかった。
みんなにやっているように、よく満面の笑みを浮かべて俺の体にのしかかってきたりした。
そんなことをされたのはもう、どれくらい前か分からないくらいだ。
俺は、俺に対しても、あの力の抜けた彼らしい笑顔を向けて欲しいな、と常に願った。
そしてできることなら触れて欲しい、とも。
今、そうされたら自分がどうなってしまうのか、怖くはあったけれど。
アイスクリームみたいに溶けちゃうんじゃないかと、思えた。
もしそうなってしまうなら、チョコレートアイスクリームがいい。
ひとすくいでも、セフンが舐めてくれるかもしれない。
馬鹿な妄想が頭を駆け巡ることも、だんだんと増えていった。


「そういう服も似合うねー」
ジョンデがそう言ってくれて、俺はありがと、と答えながら、思わず襟元を手で押さえた。
小さな襟の付いたシャツで、ボタンを一番上まで留めていた。
セフンが、……跡を、付けたから。
打ち合わせを終え、体を伸ばしたり、お喋りしたりしながら部屋を出て行くメンバーの中、俺はいちばん最後に残ったセフンに合わせて、ぐずぐずと足を遅らせた。
俺がセフンを横目で見ると、こちらに気付いたセフンがにこ、と一瞬微笑んで、また視線を逆に持っていった。唇の上に指先を置いて。
少しずつ、分かってきた。
セフンがかなりの照れ屋だってこと。
俺みたいに、感情がそのまま相手に出ちゃうんじゃなくて、……そういう、対象だと、なんだかとても引っ込み思案な感じになること。
愛しさが溢れて、俺はセフンに触れたくてたまらなくなる。
指の先だけで、セフンのお尻にちょん、と触った。
驚いたさまでぱ、とこっちを見ると、すぐまた、顔が下を向く。
俺の喉元の痣がうずく。
また同じようにされたいと、言っている。



つづく



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  • ミス・レモン
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